「1イニング3球で終わっていい」西武“ビッグチェーン打線”を生んだ西口監督の言葉 常識破りの意識改革で驚きの変化
今シーズンのセ・パ交流戦で、球団史上初の優勝を成し遂げた埼玉西武ライオンズ。
昨年まで3年連続Bクラスと低迷していたが、現在はパ・リーグで熾烈な首位争いを繰り広げている。
その要因となっているのが、打ち出したら止まらない強力打線――通称「ビッグチェーン打線」だ。
テレビ朝日のスポーツ番組『GET SPORTS』では、好調の西武を支える「ビッグチェーン打線」の謎に迫った。
◆「チャンスを作って得点できるようになった」
シーズンが折り返しを迎えた7月、チームを指揮する西口文也監督を直撃し、まずは前半戦の戦いを振り返ってもらった。
西口:「去年じゃ考えられないような成長といいますか。一人ひとりが自分のやるべきことをしっかり考えた上で打席に入ってくれて、こういう結果に繋がっているんじゃないかと思います」
前評判を覆し、ここまでパ・リーグの台風の目となっている西武。その最大の要因についてこう分析する。
西口:「失点よりも1点、2点多く得点をして勝ち切る。昨年といちばん違う点は、チャンスを作って得点できるようになった」
昨年までとの違いは、「つながる打線」。
西武は近年、打線の低迷に苦しんでいた。2024年・2025年ともに打率、平均得点はリーグ最下位。それと比例するように順位もBクラスに沈んでいた。
しかし今シーズン、その数字は劇的な変化を見せている。チーム打率は昨年の2割3分2厘から2割4分8厘に上昇し、平均得点も2.9点から3.7点と1点近く上がった(2026年6月終了時点)。
それを象徴する試合が5月6日のソフトバンク戦だ。
2回に6番・平沢大河がヒットで出塁すると、古賀悠斗、石井一成、滝澤夏央、西川愛也と連打が続き、渡部聖弥が満塁ホームラン。6打数連続安打となった。
これだけでは終わらない。続くネビン、岸潤一郎にもヒットが飛び出して打者一巡。再び打席に立った平沢が球団タイ記録となる9打数連続安打を記録し、一挙8得点を奪ってみせた。
◆ストレート攻略へ向けた肉体改造
まさに巨大なチェーンのようにつながる打線。今シーズン、なぜここまで変わったのだろうか。
1つめの理由は、「課題克服」だ。仁志敏久打撃コーチは、昨年からの変化を次のように振り返る。
仁志:「昨年の秋からチームで打球速度を上げたり、真っすぐをしっかり打ち返すことを目標にしてきました。その結果が出ていると思います」
西口監督もまた、「強く振っていくことを意識してきたなかで、結果が出てきている」と手ごたえを口にしている。
シーズン前に掲げたテーマは、「ストレートをしっかりと打ち返すこと」。それを目標に、キャンプでは打ち続け、さらには身体づくりにも着手した。
仁志:「フィジカルから強くしていこうということで、バッティング前に体の使い方や、力の入れ方など、バッティングに影響がある内容のものをやりました」
フィジカル強化とともにおこなったのが、体の可動域や体幹を意識したトレーニング。シーズンが始まってからも継続し、課題だったストレートを強く打ち返せるようになった。
実際、データにも変化は顕著に表れている。ストレートに対する打率は、昨年の2割4分1厘から2割6分6厘に向上し、150キロ以上のボールに対する打率も1割7分8厘から2割0分4厘へ上昇した(7月17日時点)。
◆「3球で終わっていい」が持つ真意
2つめの理由は、「意識改革」。それを促したのが、西口監督のこんな言葉だった。
仁志:「監督からたまに『1イニング3球で終わっていいから』と(言われます)」
1イニング3球で終わっていい――いったいどういう意味なのか。
西口:「自分が狙った球を仕留めにいった結果、3球で終わるなら仕方がない。甘い球を見逃して難しい球を打って凡打になるくらいなら、積極的に打ってくれていいよという(意味)」
この言葉の効果を、仁志コーチは次のように分析する。
仁志:「迷わないように、というところですかね。結果的に狙ったボールを一発で仕留められるようになっています」
狙い球を絞り、思い切って振る。“迷いをなくす”という意識の変化により、ファーストストライク(ストライクゾーンに最初に来たボール)の打率が上がっているのだ。
◆厚みを増した下位打線と「7番・渡部」の恐怖
そして3つめの理由は、「レギュラー争い」だ。
仁志:「新加入の選手もいて、調子がいいからと言って出られるわけではないメンバーになっている」
西口:「チーム内でライバルが増えることで、『やらなければいけない』という思いはより一層、昨年より強くなっている」
今シーズンの西武は、これまでにはないほど積極的に野手の補強をおこなってきた。それによって生まれたチーム内での激しい争いは、選手たちに大きな影響を及ぼした。
仁志:「このチームの良いところは、下位打線でも弱いバッターがいるわけではないところ。下位打線だから尻すぼみになるというわけでもない」
打順別の打率を見てみても、7番が昨シーズンの2割3分2厘から2割8分3厘、8番が1割9分5厘から2割3分6厘、9番が2割0分4厘から2割3分7厘と、いずれも上昇(7月17日時点)。下位打線の打率が向上しているのがわかる。
なかでも象徴的なのが、7番の渡部聖弥だ。
西口:「本当は3番や5番、クリーンアップをずっと打ってほしいバッターではあるんですけどね。下位打線にいることによって一発もありますし、勝負強いバッターですから」
昨季、主にクリーンアップを務め、二桁本塁打を達成するなど、長打力が持ち味の渡部。プロ2年目の今季は7番での打率が3割を超え、打点はチームトップ(7月17日時点)。渡部が下位打線にいることが、西武打線の強みとなっている。
さらに4つめの理由が「1番打者」。
下位打線がチャンスを作った場面で回ってくるのが、1番に座る新外国人のカナリオだ。驚異的なスイングスピードが魅力の元メジャーリーガーで、5月から1番に起用されている。
仁志:「これは監督の発想ですね。1番から強めというかパワー系でいきたいという発想だと思います。起爆剤として力もあるので」
西口:「やっぱり1番バッターにあれだけスイングをかけられると、投手としては嫌なものなので。いきなり振られるとドキッとしますからね」
◆2人の若手の覚醒
そして5つめの理由は、「若手の成長」。
仁志:「長谷川や滝澤が安定して成績を残してくれていることが、打線全体に波及している」
西口:「滝澤選手と長谷川選手がまさかこんなに打ってくれるとは。チームが上にいる要因のひとつだと思います」
2人が絶賛するのは、ともに育成出身の若手、長谷川信哉と滝澤夏央だ。
プロ6年目の長谷川は、すでに昨年を上回る9本の本塁打数をマークし、2割台前半だった打率も2割8分6厘まで上昇。球団24年ぶり2試合連続サヨナラ打を放つなど、交流戦では首位打者に輝き、育成出身初となるMVPを獲得した。
西口:「もともと本当に能力が高い選手でしたが、交流戦に関して言えば、チャンスに強かったし、粘りも出てきました。打席の中でしっかり考えて入れるようになったと見ていました」
仁志:「今は成長過程で、これからもっと良くなると思う。このまま頑張ればWBCでも選ばれるような選手になれると思います」
一方、プロ5年目の滝澤は、パ・リーグ最小の164cmながら、3割の打率をマークし、出塁率も4割に迫るなど絶好調(7月17日時点)。守備でも高い身体能力で躍動し、オールスターにも選出された。
滝澤:「出塁してチャンスメイクして次のバッターにつなぐという意識は常に持っています。冷静に頭の中でしっかり整理して打席に立つことを心掛けています」
滝澤の持ち味について、仁志コーチは「追い込まれてからただでは終わらない。10球ぐらい粘るのはよくあること。これはもう本当に滝澤の強さ」と語る。
そんな“滝澤の粘り”が表れたのが、6月11日の広島戦だ。1点ビハインドの4回、2球で追い込まれながらも、ファウルで粘り、8球を投げさせた末に四球を選んだ。この粘りがきっかけとなり、チームは逆転勝利を収めた。
実はこの粘りの裏には、滝澤独自の取り組みがある。
仁志:「本人が考えてやっているんですけど、バッティング練習に入る前に、ファウルを打つところから始めるんです」
実際に打撃練習をのぞいてみると、確かにわざとファウルを打っていた。
滝澤:「打つポイントを近くしたり、前で捉えたり、いろんなポイントで打つ練習をしています。いろんなポイントで打てる感覚がつかめると思うので」
この練習により、追い込まれてから粘るだけではなく、ミート力も向上した。
◆7年ぶりの頂点目指して突き進む
西武ライオンズ「ビッグチェーン打線」の躍進には、確かな理由があった。意識改革、レギュラー争い、若手の成長――これらがチェーンのようにつながる打線を生み出していたのだ。
勝負の後半戦に向け、どんな戦いを見せてくれるのか。
仁志:「追われる立場になって、その辛さ・しんどさに耐えられるかが重要になってくる。そういう戦いの中で選手たちは成長していくと思うので、それも楽しみに見ていきたいです」
西口:「今シーズンに対するファンの期待は大きいと思います。一戦一戦を大事に戦いながら、上を目指していくチームだと思うので、しっかりと戦っていくことが大事だと思います」
7年ぶりのリーグ制覇へ――。全員の思いが強固な鎖となり、優勝に向かって突き進む。
※番組情報:『GET SPORTS』
毎週日曜 深夜1:55より放送中、テレビ朝日系(※一部地域を除く)






