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俳優・山西惇、車の中で号泣した最優秀男優賞受賞の知らせ。コロナ禍では思い詰め…「役者を辞めようと思ったこともあった」

京都大学卒業後、就職して2年目に劇団そとばこまちに再入団した山西惇(やまにし・あつし)さん。

4代目座長となった生瀬勝久さんと多くの舞台を製作し、2001年にともに退団。同年、『相棒pre season』(テレビ朝日系)の第2話に出演、翌年から連続ドラマとなり、「暇か?」のセリフでおなじみの角田課長役でブレイク。『Dr.コトー診療所』(フジテレビ系)、連続テレビ小説『まんぷく』(NHK)、舞台『日本人のへそ』(こまつ座)など多くの作品に出演。

“インテリ俳優”としても知られ、クイズ番組やバラエティ番組にも出演。2024年、第31回読売演劇大賞最優秀男優賞と芸術選奨文部科学大臣賞受賞。現在、舞台『江戸時代の思い出』の地方公演中。9月13日(金)に映画『シサム』(中尾浩之監督)が公開。11月にはリーディングアクト『一富士茄子牛焦げルギー』も控えている。

 

◆クイズに答えられないと悔しくて…

京大出身の“インテリ俳優”としても知られている山西さんは、『クイズプレゼンバラエティー Qさま!!』や『くりぃむクイズ ミラクル9』(ともにテレビ朝日系)など多くのクイズ番組やバラエティ番組にも出演している。

「クイズ番組やバラエティ番組は、『相棒』の番宣でレギュラー陣が出させてもらったのが最初じゃないかなと思います」

――京大の先輩で劇団そとばこまちの2代目座長だった辰巳琢郎さんが“インテリ俳優”の先駆け的存在でしたね。

「そうなんです。『連想ゲーム』(NHK)とか、いろいろな番組に出ていましたからね」

――クイズ番組やバラエティ番組に出演されているときはどんな感じですか?

「本当に真剣勝負ですからね。できないと毎回悔しくて、収録後眠れないんですよ。悔しくて、悔しくて。だから、それはドラマとかそういうのとは全然違う。ある意味素の自分ですからね。毎回悔やんでいますよ。『あそこに時間を戻したい』って(笑)」

――答えを外したときの表情が印象的で、真面目な方だなと思いました。

「何か答えられたときより、答えられなくて『おおーっ』ってなる空気のほうが大きいんですよ。答えられたときに『おおーっ』って言ってよって思うんですけどね(笑)」

――頭がいいのはわかっていて当たると思っているから、外したときの意外性が印象的なのかもしれないですね。

「でも、外したときのあの空気はたまらないです。やっぱりトラップが仕掛けてあるんですよ。組み合わせの順番とか、その問題のゲームの方法、早押しなのかとか…それによって違っていて。

番組としてもすべてが当たったらやっぱりおもしろくないから、ちょっと外したところがおもしろいんだろうって計算されちゃうんですよね。ハメられちゃうっていうかね(笑)。外したときの振る舞い方に人としての部分が出るなと思って、そこは気をつけるようにはしています」

――多分見ている人は、山西さんでも間違えるんだって、ホッとするというか、親しみを感じるのかもしれないですね。

「そう思ってもらえるといいんですけど。それでもめちゃめちゃ悔しがっています(笑)」

 

◆結果発表の日、運転中の車を停めて…

私生活では、2009年に19歳下の女性と結婚。一男三女のパパに。子どもたちに趣味の料理の腕前を発揮することも多いという。

「子どもたちはそろそろ思春期にかかってきて、全体的にちょっと憎らしくなってきていますけど(笑)。おもしろいなあと思いますね。とにかく自分の良いところも悪いところも全部受け継がれている感じがあるから、何か鏡を4枚見ている感じというか(笑)」

――お子さんたちは山西さんの出演作品はご覧になっていますか?

「たまにですね。『Dr.コトー診療所』(中江功監督)は見に行っていました。テレビ版のときにはまだ生まれてなかったですからね。映画までの16年間でいろいろ変わりました。それで一緒に見に行きました」

2024年、山西さんは『エンジェルス・イン・アメリカ』と『闇に咲く花』で、第31回読売演劇大賞最優秀男優賞と芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。読売演劇大賞では、2020年に『イーハトーボの劇列車』と『木の上の軍隊』で優秀男優賞も受賞している。

――今回の受賞は意識されていました?

「1年の間に『エンジェルス・イン・アメリカ』と『闇に咲く花』という2作品がありましたからね。前者はオーディションを受けて。やっぱりある程度大きな役じゃないと、賞の候補にもなかなかならないですからね。

自分ができる役の範囲としては、かなり大きい役を連続してふたつやらせていただいて、こういうチャンスは多分なかなか巡ってこないだろうなとは思っていましたので、上半期の候補に入ったと聞いたときに良かったなって思いました。

何かひとつ評価をいただけたので、そこはとてもうれしかったです。上半期で名前が上がっているっていう連絡が上半期の終わりくらいに来るじゃないですか。

そのタイミングでは下半期に『闇に咲く花』が決まっていて挑むところだったので、『ちょっと可能性があるんじゃないですかね』っていうのは事務所で話した記憶があります。下半期はこれも控えているから、期待して頑張りましょうって」

――受賞が決まったという連絡はどのように?

「マネジャーさんからLINEで来たんですけど、移動中だったんです。『(発表は)今日だな』って思いながら自分で車を運転しているときにLINEが来たから、これは鹿島さん(マネジャー)からだなって。これは『ダメでした』か『受賞しました』のどっちかだなって思って、まずは車を停めたんです。

獲れてなかったら『残念でした』っていうのだけが来て終わりだなって思ったんだけど、獲れていたとしたら、もうひとつ絶対に来るなと思ったわけですよ。『授賞式に関してですが、日付けと会場は~』みたいなLINEが来るだろうって。

でも、最初はひとつだけだったから、ちょっと待ったんです。怖くて見なかった。そうしたら、LINEがもう1回来たので『もう1回来た!これ獲ってるんじゃないか?』って思って。

それで見てみたら、『獲れました』という、めちゃめちゃシンプルなLINEが来ていて(笑)。マネジャーとしては、とにかく早く知らせてあげたいと思ったみたいです。そのあと『つきましては、何月何日授賞式で~』というのがもう1回来ていて。

それで『獲れていた!』って思って号泣しました。俺はこんなに最優秀男優賞が欲しかったんだということを実感して、自分でもどうかと思うくらい泣きました。あまり表立って褒められることがない仕事なので、本当にうれしかったですね」

山西さんから「最優秀男優賞がこんなに欲しかったんだということを実感しました。車の中で泣いています」というLINEを受け取ったマネジャーさんは、『今、山西さんが車の中で泣いている!』と思い、事務所にいたみんなともらい泣きをしたという。

――奥さまにはどのようにして伝えたのですか?

「一通り気持ちが静まってから電話したんだと思います。『ほらね。この人はおもしろいはずなのになあって、私はずっと思っていた』って言っていました(笑)」

――奥さまカッコいいですね。お子さんたちは何か言っていました?

「子どもたちは価値があんまりわかってないので、妻がどんなにすごいことなのか、コンコンと説明していました(笑)。パーティー形式での授賞式も4年ぶりだったんです」

――ここ数年は、コロナ禍もあって舞台や映画も中止や延期になったりしていたので、思いもひとしおだったでしょうね。

「そうですね。あちこちからいろんな声が聞こえるなかで、自分には必要だったけど、自分の仕事は不要不急だったのかとか、『意味あるのか?なくてもいい仕事なのか?』みたいなところまで、ちょっと思い詰めちゃった時期があって。役者を辞めようかと思ったこともありましたけど、妻と子どもたちが常に前向きに支えてくれて」

――コロナ禍の間はどのように過ごされていたのですか?

「川沿いに住んでいるので、家族で毎日決まった時間に散歩に行っていました。あとはキャッチボールをしたりして。子どもたちは喜んで、めちゃくちゃおおらかでしたね(笑)。一緒に泥団子を作ったりもしていました。

次に井上ひさしさんの『日本人のへそ』という芝居をやることになっていて、その中で東北本線の駅を110何個言うセリフがあったんですね。それをその間に覚えておこうと思ってやっていました。毎日覚えようって。それをインスタにあげればさぼらないなと思って、自分で『今日はここまで覚えました』ってあげていました」


※ナイロン100℃ 49th SESSION『江戸時代の思い出』
作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
出演:三宅弘城 みのすけ 犬山イヌコ 峯村リエ 大倉孝二 池田成志 坂井真紀 奥菜恵 山西惇ほか
・2024年8月10日(土)
12:30開演 J:COM北九州芸術劇場 中劇場
18:00開演 J:COM北九州芸術劇場 中劇場
・2024年8月11日(日)
12:30開演 J:COM北九州芸術劇場 中劇場

◆舞台に映画…楽しみがいっぱい

劇団ナイロン100℃の30周年記念作品であり、初の時代劇に出演している山西さん。本多劇場での東京公演を終えて、地方公演を行っているところ。『江戸時代の思い出』というのは、一体誰のどんな思い出なのか? 誰も予想していなかった展開に…というお話。山西さんは、考古学者のクヌギ役を演じている。

「還暦を過ぎてこういう芝居ができるというのは、本当に幸せだなと思っています。こんなに客席が湧く芝居はなかなかないよっていうぐらい本当に喜んでくださっているし、このナイロン100℃という劇団が30年かけて培ってきたその原点に帰るような芝居なので、みんながとにかく楽しそうで。そこに混ぜてもらって僕もすごい楽しくやっています」

――ものすごくおもしろかったです。パンフレットに最初のうちは何がどうなるかがまったくわからない状態だったと書いてありました。

「そうなんです。どうなっていくのかなって。主宰のKERAさんは、稽古をしながら台本を書かれるスタイルなので、先々とかまったくわからないし、自分がどういう役をやるのかも最後までわからないんですよね。『最後の最後に俺出てきちゃった』みたいなのがあったりするので(笑)」

――いつ頃固まるものなのですか、形になるのは?

「劇場に入る1週間前ぐらいですかね。KERAさんとは何本かやらせていただいていますけど、大体いつもそんな感じです」

――それであんなに楽しい作品ができるというのがすごいですね。

「これがもうマジックですよね。芝居のトーンが見つかるまではかなり苦労しましたけど。『今回、どこに行けばいいんだよ?』って(笑)。その結末がわからないから、どうにでもできるって、すげえ難しいんだなって思いました」

――でも役者さんたちの顔ぶれを見て、この方たちだからできるんだなって思いました。

「それはありますね。今回は客演の皆さんもKERAさん作品の経験者ばかりでしたからね」

――私が拝見させていただいたときもカーテンコールがすごかったですが、連日そうでしょうね。

「そうですね。毎回すごく喜んでいただいています。次の日の公演もあるから、明日に疲れを残さないようにしなきゃなって、そのことばかり考えていましたね。とにかく何かケアしようとは思っているんじゃないですか。喉とか何か切れても嫌だし、足をちょっとひねってもすごくブルーになっちゃうから、何も起こらないようにしようって(笑)。

この年になってくると万全な体調ってことはあり得ないって思っているので。どこかしら痛かったりしますからね。プロ野球のピッチャーが、よく『調子が悪いなりに試合を組み立てました』って言うじゃないですか。それだなと思って」

©映画「シサム」製作委員会

※映画『シサム』
2024年9月13日(金)公開
配給:NAKACHIKA PICTURES
監督:中尾浩之
出演:寛一郎 三浦貴大 和田正人 山西惇 緒形直人ほか

山西さんは、9月13日(金)に公開される映画『シサム』に出演。この映画は、蝦夷地と呼ばれた現在の北海道を領有した松前藩が、アイヌとの交易を行っていた史実を基に、アイヌと和人との対立の歴史を描いた歴史スペクタクル映画。

江戸時代前期。松前藩士の息子である孝二郎(寛一郎)と兄の栄之助(三浦貴大)は、アイヌとの交易で得た品を他藩に売る仕事をしている。ある日、栄之助が使用人・善助(和田正人)に殺されてしまう。孝二郎は、復讐のため善助を追って蝦夷地へ向かう…という展開。山西さんは、孝二郎の復讐の旅の船頭・伊助役で出演している。

「僕は和人の役で良かったです。アイヌの言葉は難しくて全然わからないですよね。アイヌの役の人はずっとアイヌ語のセリフを練習していました。関連性のない言葉だから、覚えるしかない。丸暗記するしかないですからね。大変だったと思います」

――撮影は順調でした?

「僕は殺された兄のために蝦夷地に向かう孝二郎の復讐の旅の道先案内人なんですけど、どえらい原野でした。すごいところに行くなあって思いました。それこそ『熊に気をつけてください』っていうロケでした」

――完成した作品をご覧になっていかがでした?

「スケールがすごいなって思いました。それとあらためて、こんなところを歩いていたんだって。ドローンの映像で見ると、『こんなすごいところだったんだ、こりゃあすげえ』って。最後の戦闘シーンもかなり迫力がありましたよね。すごいなあ、いい映画だなって思いました」


※リーディングアクト『一富士茄子牛焦げルギー』
2024年11月7日(木)~10日(日)大阪・松下IMPホール
2024年11月12日(火)豊橋・穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール
2024年11月19日(火)~21日(木)東京・ヒューリックホール東京
演出:河原雅彦
出演:岡﨑彪太郎 羽野晶紀 山西惇

――今後はどのように?

「まだやったことがないことをやってみたいなとは思います。いろいろやっていると思われていますが、やってみると、これはまだやってなかったっていうのが結構あるんですよ。海外の演出家の方でグランドミュージカルというのもやったことがないですしね。

朗読劇はコロナ禍の2020年にKERAさんの『プラン変更』を本多劇場から配信したり、『12人のおかしな大阪人』をリモートでやったことはありますけど、どちらも無観客でしたので、11月にやるリーディングアクト『一富士茄子牛焦げルギー』も楽しみなんですよね。

京都出身ですけど、このところ関西弁で芝居をする機会も少なかったので、まずはそれがうれしい。それに30年来の旧友・羽野晶紀さんとの久々の共演、新進気鋭の岡﨑彪太郎さんとの初共演、演出は酸いも甘いも噛み分ける河原雅彦さんですから楽しみでしかないです。ウチの子どもたちにも絶対見てほしいと思っています」

これからもやったことがないことにチャレンジしていきたいと話す山西さん。妻にキーボードを教えてもらって練習しているという坂本龍一さんの『Aqua』もぜひマスターして聴かせてほしい。(津島令子)

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