小野花梨、天才子役から“いま最も仕事をしてみたい女優“に。18年俳優を続けられたのは「いつか恩返しがしたい」
2006年、『嫌われ松子の一生』(TBS系)でデビューし、子役時代に映画『南極料理人』(沖田修一監督)、『鈴木先生』(テレビ東京系)に出演した小野花梨さん。
2021年には連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』(NHK)に出演。同年、映画『プリテンダーズ』(熊坂出監督)で長編映画初主演を果たし、映画『ハケンアニメ!』(吉野耕平監督)で第46回日本アカデミー賞・新人俳優賞を受賞。映画監督をはじめ、多くの関係者から「いまもっとも仕事をしてみたい女優」と注目を集めている。
現在、ドラマ『グレイトギフト』(テレビ朝日系)が放送中。2024年3月1日(金)に映画『52ヘルツのクジラたち』(成島出監督)が公開される小野花梨さんにインタビュー。
◆『おかあさんといっしょ』がきっかけで劇団へ
東京で生まれ育った小野さんは、小さい頃は引っ込み思案で、人前に立つことは苦手だったが、『おかあさんといっしょ』(NHK Eテレ)がきっかけで劇団に入ることになったという。
「『おかあさんといっしょ』の最後に天井からいっぱい風船が落ちてくる演出があって、その風船が欲しかったんです。『おかあさんといっしょ』に出るためには劇団に入ったほうがいいんじゃないかということで、5歳のときに両親が『劇団ひまわり』に入れてくれました。だから、人前で何かしたかったわけではなくて、風船が欲しかっただけなんです(笑)。
『劇団ひまわり』には、レッスンがたくさんあって、外部のオーディションに行くためのオーディションみたいなものが劇団内部で行われていたので、そのオーディションを受けていました。
今はどうなっているのかわからないのですが、当時は劇団のスタッフさんたちにゴーサインを出していただかないと、外部のオーディションを受けられないというシステムでした。
でも、私は人前に立つこととか、注目されることがすごくイヤな子だったので泣いて、そのオーディションすら上手にできない日々でした」
――それでも辞めずに続けられたのはなぜですか?
「たくさんの大人の人たちにすごく面倒を見ていただいて、ここまでやらせていただいているので、その人たちにいつか恩返しがしたいということに尽きる気がします。
私は本当によくしてもらったんですよね。おもしろい大人の方たちにいっぱい可愛がっていただいて。だから、このお仕事が楽しいとかよりも、あの人にまた会いたいとか、良くしてもらった恩返しがしたいとか、そういう思いでここまで何とかやらせていただいているかなと思います」
――8歳で『嫌われ松子の一生』(TBS系)でデビューされましたが、オーディションに受かったときはいかがでした?
「小学2年生くらいだったので、実はあまり覚えてないんですよね。でも、(主演の)内山理名さんがマクドナルドのハッピーセットのおもちゃをくださって、それがすごくうれしかったという記憶は鮮明にあります」
――2008年に放送された『ゴンゾウ 伝説の刑事』(テレビ朝日系)も印象的でした。池脇千鶴さんの子ども時代を演じていらっしゃいましたが、まだ10歳だったのですね。
「はい。『ゴンゾウ』は、よく再放送されているので、『見たよ』と言っていただけることが多い作品です」
――小学生のときに仕事を始めたわけですが、ご自身ではいかがでした?
「仕事だとは思ってなかったです。『こうやって言って』って言われたことをわけもわからず言っていたという感じだったと思うんですけど、学校ではできないことをたくさん経験させていただいて、すごく楽しかったです」
2009年、小野さんは映画『南極料理人』に出演。これは約1年半家族と離れ、南極で隊員たちの毎日の食事を作ることになった主人公・西村(堺雅人)の悪戦苦闘の日々を描いたもの。小野さんは西村の娘・友花を演じた。
――堺雅人さんと母親役の西田尚美さんを相手に堂々と演じてらしてすごいなあと思いました。
「ありがとうございます。劇中では、堺さんのお尻を蹴らせていただいたりしました(笑)。あれもすごく楽しかったです。
堺さんもそうですし、西田さんにもすごくよくしていただいて。『南極料理人』のキャストの方々には、ときどきお会いする機会があって、去年も映画で高良健吾さんとご一緒させていただきました」
――『Gメン』(瑠東東一郎監督)ですね。久しぶりに会われていかがでした?
「『大きくなったね』って言われました(笑)。そういう再会は、やっぱりうれしいですね」
※小野花梨プロフィル
7月6日生まれ。東京都出身。8歳のときに『嫌われ松子の一生』(TBS系)でデビュー。『親バカ青春白書』(日本テレビ系)、連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』(NHK)、『罠の戦争』(フジテレビ系)、『初恋、ざらり』(テレビ東京系)、映画『SUNNY 強い気持ち・強い愛』(大根仁監督)、映画『ほどけそうな、息』(小澤雅人監督)に出演。ドラマ『グレイトギフト』(テレビ朝日系)が放送中。2024年3月1日(金)に映画『52ヘルツのクジラたち』、5月17日(金)には映画『ミッシング』(吉田恵輔監督)の公開が控えている。
◆ドラマ『鈴木先生』が転機に
2011年には『鈴木先生』(テレビ東京系)に出演。このドラマは、独自の教育理論を駆使して理想のクラスを作りあげようとしている中学教師・鈴木先生(長谷川博己)の奮闘の日々を描いたもの。小野さんは、性に対して奔放な中学生・河辺彩香役を演じた。
「『鈴木先生』は、大変でしたけど転機となった作品です。スタッフの方々が甘やかさないでいてくれたんですよね。ダメなことはダメだ、必要なことは必要だということを子役としてじゃなくて、ひとりの俳優として、ちゃんと私たちを見てくれていて。
だから、私が今持っている、『役者はこうであるべきなんだろう』みたいなものは、『鈴木先生』の現場で教えていただいたものだと思います」
――同世代の方たちがたくんいらっしゃいましたが、撮影はどんな感じでした?
「本物の学校にはあまり行かずに、ずっと撮影していたので、本当の学校のようでした。
ただ、私は最年少で、一番上のお兄さんお姉さんは四つ上で、今でこそ四つってそんなに差は感じないですけど、当時私はまだ小学6年生だったので、四つってすごく大きな差があって。
だから今思うと、皆さんがいろんなことを教えてくれて、子守りをしながら撮影してくれていたなと思います」
子役時代から度胸と演技力が高く評価されていた小野さんだが、2020年代に入ってからの勢いは目を見張るものがある。2020年には、『親バカ青春白書』(日本テレビ系)に出演。
このドラマは、妻・幸子(新垣結衣)に先立たれた小説家・“ガタロー”こと小比賀太郎(ムロツヨシ)が、娘・さくら(永野芽郁)のことが好きすぎるあまり同じ大学に入学し、同級生としてキャンパスライフを送る、という驚きの日々を描いたもの。
小野さんはさくらが大学に入ってできた仲良し5人組のひとり・衛藤美咲役。福岡出身の元ヤンキーでお金に執着心が強く、バイト三昧の日々を送っている。
――小野さんが演じた衛藤美咲のバックボーンもしっかり描かれていて。なぜあんなにお金に執着するのかということもよくわかりました。
「そうですね。ヤンキーだったのですが、『このままじゃいけない』と一念発起して、必死に勉強とアルバイトをして奨学金を頼りに福岡から上京。自分で一生懸命這い上がって頑張ろうと思っているんですよね。
笑いだけじゃないというか、いろいろな思い、要素がすごくたくさん詰まっていて、私の大好きな作品のひとつになりました」
――ムロさんとのシーンは、アドリブも結構あったのですか。
「それが、実は意外と台本通りやられているんですよ。だから本当に巧みだなと驚きました。既存の台本に書かれているものをいかにアドリブっぽく見せるかといいますか、その技術がすごくて。
台本に書いてあることなのに、今思いついて言ったようにこっちも錯覚しますし、そう思ってご覧になっていた視聴者の方もいらっしゃったと思います」
――ムロさんは本当にすごいですね。テンポも良くて緩急自在でおもしろかったです。小野さんも見事に適応されていて。
「本当ですか。ありがとうございます。撮影も本当に楽しかったです」
――福岡でヤンキーだったときに付き合っていて、しつこく復縁を迫る元カレ(一ノ瀬ワタル)を撃退した飛び蹴りも話題になりました。
「本当に多くの方に見ていただいて、たくさんお褒めの言葉をいただきましたし、こうやってインタビューしていただいたり、そういうきっかけのひとつにもなった作品だったのではないかなと思います」
――ムロさんに迫るシーンもありましたね。
「ありました(笑)。本番が終わって前室に入ったら、(永野)芽郁ちゃんと(今田)美桜ちゃん、(中川)大志くん、(戸塚)純貴くんが携帯を手に持って騒いでいて、私がムロさんに迫っているところを録画していて、『おかえり』って笑いながら迎え入れてくれました(笑)」
――ドラマと同じように皆さん本当に仲が良かったのですね。
「はい。みんな本当にステキな方たちで、とても楽しくやらせていただきました」
◆朝ドラの“きぬちゃん”として
2021年、小野さんは、昭和から平成、令和へと三世代のヒロイン(上白石萌音・深津絵里・川栄李奈)の人生を描いた連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』(NHK)に出演。初代のヒロイン・安子(上白石萌音)の幼なじみでしっかり者の“きぬちゃん”を演じた。
――朝ドラのオーディションはいかがでした?
「朝ドラのオーディションというのは、本当に独特で。どんなに有名な人も、初めてのオーディションという人も、同じように並んでお芝居をするのですが、朝ドラならではの独特な雰囲気があるので緊張します」
――きぬちゃん役に決まったときは?
「続々と台本が上がってくるんですけど、最初はどんな子かもわからないですし、ヒロインの親友という風にしか聞いてなかったので、台本を見て、とてもチャーミングでかわいい子だなと思いました」
――きぬちゃんは、しっかりしていてとてもいい子でしたね。
「そうですね、しっかりしているし、ませていて(笑)。でも、等身大のチャーミングさもあって、すごくかわいい子だったなと思います」
――きぬちゃん役だけでなく、その孫役でも出演されました。ご自身ではどうでした?
「もちろん知らなかったので、『えーっ!なんのこっちゃ?』と思いました(笑)。
きぬちゃんの撮影が終わって、オールアップのときに『全編終了です』って、大々的に送り出していただいたんですけど、また現場に行くから、ちょっと気まずい感じで、『何度もすみません。また来ちゃいました』みたいな感じでした(笑)。
でも、スタッフさんもあまり変わらないので、ホームに帰ってこられたといいますか、温かい雰囲気で、すごくうれしかったです」
――視聴者にもうれしいサプライズでした。
「ああいう出かたって、三世代を描くお話のカムカムならではで、カムカムでしかできない登場の仕方だったと思うので、そのレア感もすごくうれしかったです。カムカムに出られたから、こういう帰り方ができたんだなと」
――「きぬちゃん」と声をかけられることが多くなったのでは?
「そうですね。とくに地方ロケなどに行くと、『きぬちゃんだ』って言っていただけることが増えました(笑)」
同年、小野さんは、映画『プリテンダーズ』で長編映画初主演。SNSを武器に社会を変えようと奮闘するが、思いもよらない事態を引き起こしてしまう主人公の高校生・花田花梨を繊細にかつ大胆に演じた。
小野さんは、多彩な演技と存在感で注目を集め、『恋なんて、本気でやってどうするの?』、映画『ハケンアニメ!』など次々に話題作に出演することに。次回はその撮影エピソードも紹介。(津島令子)
ヘアメイク:森下奈央子
スタイリスト:髙橋美咲(Sadalsuud)
※ドラマ『グレイトギフト』
テレビ朝日系で毎週木曜日夜9:00から放送中
出演:反町隆史 波瑠 明日海りお 小野花梨 /坂東彌十郎/ 津田健次郎 倉科カナ 筒井道隆 尾上松也 佐々木蔵之介
完全犯罪を可能にする殺人球菌“ギフト”をめぐる、ノンストップのサバイバル医療ミステリー。大学病院で、ひとりの患者が不審な死を遂げ、うだつの上がらない病理医・藤巻達臣(反町隆史)が未知の殺人球菌“ギフト”を発見。この球菌が体内に侵入すると、まもなく患者は死亡するが、球菌は完全消滅し、死因は急性心不全としか診断できなくなる。それは“完全犯罪の殺人”を可能にする恐ろしい球菌だった。この発見によって、藤巻は、院内の熾烈な権力争いをはじめ、さまざまなトラブルに巻き込まれ、人生が激変してしまう…。