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俳優・毎熊克哉、“圧倒された”紀里谷和明監督との出会い「強烈なエネルギーの持ち主」「絶対かなわない」

2016年、映画『ケンとカズ』(小路紘史監督)で第71回毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞、おおさかシネマフェスティバル2017 新人男優賞、第31回高崎映画祭 最優秀新進男優賞を受賞した毎熊克哉さん。

圧倒的な存在感と迫真の演技、野性味溢れる色気で人気を集め多くのオファーが舞い込むようになり、2018年には連続テレビ小説『まんぷく』(NHK)、さらに12本の映画に出演。

『私の奴隷になりなさい 第2章 ご主人様と呼ばせてください』&『私の奴隷になりなさい 第3章 おまえ次第』(城定秀夫監督)、『いざなぎ暮れた。』(笠木望監督)など主演映画も多い。現在、映画『世界の終わりから』(紀里谷和明監督)が公開中。

 

◆エロティックな映画2本に主演。ハードな濡れ場シーンも…

『ケンとカズ』は多くの映画関係者の支持を集め、毎熊さんは仕事が倍増。毎日映画コンクールの授賞式で、当時東映の会長だった岡田裕介さんの目に留まり、吉永小百合さんの主演映画『北の桜守』(滝田洋二郎監督)に抜てきされたのをはじめ、多くの作品に出演することに。

「2017年は、去年まで5年間続いた『京都人の密かな愉しみ Blue 修行中』(NHK BSプレミアム)というシリーズがあったり、自分にとって大切な出会いがたくさんあった年でした」

-2017年以降は、かなり忙しくなったのでは?-

「そうでもないです。ただ、それまでに比べると、仕事の量や質も変わってきてプレッシャーに感じることもありましたが、いろんな良い出会いもあって、その一つ一つに向き合っていたら時間が過ぎていったという感じです」

-アルバイトはされていたのですか?-

「事務所のご厚意もあって、思い切って辞めました。仕事でスケジュールが埋まっていたわけではなかったので不安でしたが、『大丈夫だ』って言ってもらって。

バイトを辞めた代わりに、『空いた時間を役者としてどう使うのか?』を考えるきっかけになりました。頑張っているようでサボっていることもあったなと。でも、2017年は結構ギリギリの生活でしたけどね(笑)」

2018年には、『私の奴隷になりなさい 第2章 ご主人様と呼ばせてください』と『私の奴隷になりなさい 第3章 おまえ次第』という2本の映画に主演。官能と欲望の世界で何人もの女性を奴隷として調教する“ご主人様”目黒を演じた。

「濡れ場も多くて、修行みたいな感じでした(笑)。肉体的にも精神的にもエネルギーを奪われましたけど、役者として男として成長できる糧(かて)をたくさん頂きました」

-かなりハードなシーンもありましたが、撮影はスムーズにいきました?-

「僕は、初めての濡れ場というわけでもなかったんですけど、あの作品に関しては2本あって、両方とも相手役の方がそれまでそういうシーンをやったことがないし、裸になるのも初めてだということだったので、本当にいいシーンにしたいがために、共演者としてどう向き合うか?というのを考えた作品でした。

役者も人間だから、いくらお芝居であっても生理的に合ってないと距離感に表れてしまうことがあると思うんです。

役としての嫉妬、欲求、発情だったり…そういうものを生々しく表現したかったので、カメラが回っていないところでのコミュニケーションを大事にして頑張っていたような気がします」

-あの映画の場合は、普通のセックスシーンではないですものね-

「そうですね。性愛がテーマなので。濡れ場に関しては、城定さん(監督)が一流なので何のストレスもなく、撮影はものすごく早かったです。そういう信頼のもと、生々しさやエロさをどうやって表現するかを考えて、皆で相談しながらやっていました」

-女性たちを調教、コントロールしているはずが、女性たちに翻弄されることに-

「飲み込まれて終わるという感じがおもしろいですよね(笑)。ハードな作品ですが、出演することに迷いはなかったというか。原作をまず読んでみたら、すごくおもしろくて、単純に楽しそうと思ってやりました。

普通に生活している人が性愛の世界にのめり込んでしまうというのは、日常のなかで十分可能性があるお話だと思うんですよね」

-第3章のラストシーンでは、毎熊さんが裸で縛られ、鞭で打たれて…驚きました-

「ハードですよね(笑)。あれだけご主人様を気取っていた男が、最後は縛られて涙を流しながら…というオチは、何か愚かだけど、愛らしくて好きです(笑)」

-そうですね。何か憎めないというか。でも、撮影は大変だったでしょうね-

「そうですね。2本を20日ちょっとくらいで同時に撮っていたので、大変ではありましたけど、楽しかったなっていうほうが強いですね」

 

◆朝ドラのキャラ作りで手ごたえを感じて

2018年、毎熊さんは連続テレビ小説『まんぷく』(NHK)に出演。ヒロイン・福子(安藤サクラ)の夫・萬平(長谷川博己)が開いた製塩会社の元従業員・森本元役を演じた。

「すごくいい経験だったのは、群衆のなかでほとんど描かれていないキャラクターを、どうやって作っていくか?という挑戦ができたこと。役に関するヒントが少ないなかで、感情移入できる印象的なキャラクターを考えるのは難しかったですが、結果的には、手ごたえを感じることができて良かったです」

-製塩会社で働いている人たちが複数いるなかで、キャラ立てはどのように?-

「当初はエキストラ的扱いのメンバーだったらしいんですね。瀬戸康史くんとか何人かは別ですけど、周りはその他大勢というくくりになっていたんですよ。

だけど、それじゃおもしろくないから役者を入れようよということになったらしいんですけど、全員の役の設定をストーリーに盛り込むのは無理がある。ストーリーは15分間で進行していかなければいけませんからね。

そこで『みんなでひとりひとり役のプレゼンをしてほしい』と製作陣から宿題を出されて、大会議室には大量の衣装や小道具が用意されていました。

『このなかから自分のキャラクターに合うものを選んでいいよ』と言われて、ヘアメイクの相談をすることもできました。生い立ちから何まで好き勝手に考えて、それを製作陣が受け入れてくれたことが大きかったんですよね」

-そうやって森本のキャラクターが誕生したわけですね-

「そうです。大きな変更だったのは、森本を広島出身の設定にしたこと。大阪言葉で書いてあったセリフを自分で全部広島弁に直しました。戦後という時代背景を考慮して広島にしたのが、のちのシーンに効くようになっていって。

森本はひがみっぽいセリフが多く、すぐにケンカをしてしまう役だったのですが、なぜそうなのか?という細かい裏設定をしっかりもったことで、情報の少ないキャラクターでもどっしり演じることができましたし、なにより、その裏設定を感じ取ってくれている視聴者がたくさんいるということを知って、それがすごくうれしかったです。

想像することは無駄じゃないし、描かれていないところを埋めていく大事さを『まんぷく』で実感しました。思い描いたイメージは伝わるものなんだなあって。あれはいい手ごたえでしたね」

 

◆真冬の海の中で取っ組み合い

2020年には、主演映画『いざなぎ暮れた。』(笠木望監督)が公開。これは東京から島根県松江市に弾丸旅行でやって来た崖っぷちの男(毎熊)と女(武田梨奈)のロードムービー。

もともとは2019年4月に開催された「第11回沖縄国際映画祭」で上映するために製作されたが、海外の映画祭でのノミネートや受賞で高い評価を受けたことで公開されることに。フロストバイト国際映画祭(2019)主演男優賞、第17回モナコ国際映画祭ベストアクター賞(最優秀男優賞)を受賞した。

「ユニークな作品でした(笑)。あれは短編を撮るってオファーされて。『どう考えても短編の分量じゃないけどなあ』って思いながら、無理くり3日間で撮ったんですけど、完成したらやっぱり長編になっていて。

沖縄国際映画祭で上映する地方発信の短編ということで撮ったんですけど、監督の思惑としては、長編にして映画祭に出しまくりたいというのがあったみたいです(笑)。

当時はそういうのを聞いてなくて、『これは不可能じゃない?』と感じながら、日の出前から日の入りまで撮影をしていました。1シーンでも撮りこぼしたら間に合わなくなるし、話も成立しなくなるので、とにかく走って全部撮りきったという感じです」

-冬なのに武田梨奈さんと海の中で取っ組み合いもありました-

「2月の一番寒いときに武田さんを海の中に放り投げて、僕も引っ張られ(笑)。とにかくもうずっと時間に追われていて、あのシーンも、あと10分遅かったら日が暮れて撮れなかったんですよ。だからもう失敗できない状況で。ほぼ全部一発。ほとんど1テイクでした」

-毎熊さんが豪快にすべって転ぶシーンもありましたね-

「あれは本当にすべって転んでしまったんです(笑)。あの現場に移動したら雨が降ってきて『撮れないぞ』ってなったんですけど、撮れなかったらおしまい。

そうしたら、ギリギリ一瞬雨がやんで、今しかない!ということで全速力で走っていったら、道路が濡れているので革靴が滑って転んでしまって。

そのテイクはNGになって、転ばないのを撮り直しているんですけど、あそこでコケるというのがシーンの流れに合っているなと思って、あとで『あれを使ったらおもしろいんじゃないですかね』って言ったら、使われることになったんです。

もう一回、意図的にやれと言われてもあの転び方はできないし、神がかってるじゃない
ですか(笑)」

-かなりすごい転び方でしたが、大丈夫でした?-

「それが肋骨にヒビが入っていたんですよ。まだ朝ドラの撮影が残っていて、我慢しながらやっていたんですけど、1カ月くらい経っても全然治らなかったので病院に行ったらヒビが入っているって言われて(笑)。だから革靴で雨のなかを走るときはすごく気をつけています」

2020年、『妖怪シェアハウス』(テレビ朝日系)に酒呑童子役で出演。2022年には『妖怪シェアハウス-帰ってきたん怪-』(テレビ朝日系)が放送され、映画『妖怪シェアハウス-白馬の王子様じゃないん怪-』(豊島圭介監督)も公開された。

-酒呑童子はとてもユニークなキャラでしたね-

「コロナで2カ月の外出禁止があって、やる予定だった作品がなくなったり…世の中が不安に包まれていた。そういうときに、いただいたお仕事だったんです。

人間じゃない役をやったことがなかったし、そのちょっと前にはラブコメの『恋はつづくよどこまでも』(TBS系)でお医者さんをやっていたので、この振り幅はおもしろいなって思ったんですよね(笑)。

優しいお医者さんの役をやった後に、牙を付けて『ウォーッ』ってやるその振り幅が(笑)。世の中が不安だからこそ、楽しい作品に携われるのはいいなと思って、何の迷いもなくやることにしました」

-ハジケっぷりもおもしろかったですし、皆さんの息もピッタリで-

「そうですね。あの座組はとても良い雰囲気でした。タイプもそれぞれ違うのに、相性が良かったのか、自然と生まれるグルーヴ(高揚感)というのが結構あって、楽しかったです」

2021年、映画『孤狼の血 LEVEL2』(白石和彌監督)に出演。この映画は、広島の架空都市を舞台に警察とヤクザの攻防戦を過激に描いて話題を集めた『孤狼の血』の続編。

「別の作品で、白石監督とご一緒して、『孤狼の血、出たかったんですよね』って言ったら、『そうなんだ』って、2で呼んでくれたのでうれしかったです。白石監督は、そういうところが篤い方なので。僕は広島出身なので、広島弁で演じられたのも楽しかったですね」

©2023 KIRIYA PICTURES

※映画『世界の終わりから』公開中
配給:ナカチカ
監督:紀里谷和明
出演:伊東蒼 毎熊克哉 朝比奈彩 冨永愛 高橋克典 北村一輝 夏木マリ

◆新作映画ではミステリアスで頼りになる男に

現在、映画『世界の終わりから』(紀里谷和明監督)が公開中。この映画は、事故で両親を失い、自らも生きる希望を失いかけている女子高生のハナ(伊東蒼)が、突然世界を救う使命を託されたことに困惑しながら、孤独と絶望に満ちた世界で必死に生きる姿を描いたもの。毎熊さんは、政府の特別機関に所属し、ハナを支える江崎役を演じている。

「なぜ僕がキャスティング候補にあがったのかは知らないんですけど、紀里谷さんが『ケンとカズ』を観てくださったのが大きかったようで、まずは一回話そうと、ホテルのシガーバーみたいなところで初めてお会いして。

紀里谷さんは、日常ではあまり出会わない強烈なエネルギーの持ち主で、ちょっと圧倒されたというか。『この人に絶対かなわないじゃん』みたいな感じで、ドキドキしました。

いろんな話をしたんですけど、まだキャラクターについて悩んでいるとか、脚本についてどう思うかという話をして、最終的に紀里谷さんは『僕は作品のために共闘してくれる仲間を探している』って言ったんです。

それで、『そういうことなら僕は適任だと思います』って答えたんですけど、実はそれを答えるまでにすごく悩みました。それでも、だいたい5秒くらいだったと思うんですけど、『これは、自分が何を言うかによって、ことが決まるのだろうか』って思って。

曖昧(あいまい)なことを言ったら、きっとこの人はそれに気づくし、かと言って、心にないことを言っても、それにも気づくだろう。覚悟を決める必要がある…。

『この人が対等にやり合ってきた一流の俳優たちに比べて自分は足りてないんじゃないか?』とか、いろんな不安がかけめぐりました。正直言って、スキルや経験に大きな自信はない。

でも、こういう人に出会えたこと自体がチャンスだし、作品に対してこれだけのエネルギーを放ちながら『一緒に闘ってほしい』と言っているのに、立ち向かわないのはどうなの?って思って。自分だって映画に情熱を持って闘ってきた、その自信はありました。

『自分は適任だ』って言うからには、絶対に最後まで闘い抜こうと腹に決めて答えたことを覚えています。全部5秒くらいの話なので、マンガみたいですけどね(笑)」

-毎熊さんが演じた江崎はとても謎めいたキャラでしたね-

「そうですね。どのキャラクターもきっと同じように悩みはあったと思うんですけど、僕が紀里谷さんから言われたのは、やっぱりこのキャラクターは一番難しいと。なのでクランクインするまでの時間は二人で会ったり、電話で話したりしてキャラクター像を一緒に考えました」

-ハナに危険が迫ると必ず現れる頼りになる存在で-

「組織の人間で、自分の私情とか、プライベートすらわからない、謎めいた怖さもあるキャラクターの“人間味”をどう表現するかが課題でした。しかも、あまりセリフは変えずに業務的に何かを説明したり、立ち振る舞ったりしながら。

撮影前、紀里谷さんに江崎の心の独白を書いてメールしたら『ありがとう助かる』』と返ってきて、次の脚本に少し反映されていました。かと思えば次の稿では少し変更されていたり。僕の役だけに限らず、紀里谷さんはほんとにたくさんの試行錯誤を繰り返しながら脚本を執筆されていましたね。

撮影現場では打ち合わせをする時間がないので、弁当を食べている隙間とかに『このシーンのことなんですけど』みたいな感じで相談させてもらうこともあったのですが、嫌な顔もせず真剣に向き合ってくれました」

-謎めいた人物ですが、ところどころ人間らしい感情が垣間見えて-

「どれぐらいそれを見せるかというのが難しかったです。何があっても任務を全うするというのはあったので、その按配が」

-完成した映画をご覧になっていかがでした?-

「イメージしていたものより圧倒的におもしろかったです。やっぱり活字で読んでもわからないことはあって、とくにこの作品は、ものすごい速さで情報が入ってきて心を動かされます。そのテンポ感は、現場ではわかっていなかったです」

-SNSのことなど、今の時代の状況も盛り込まれていますね-

「そうですね。切実に込められていると思います。2時間を超える作品ですが、気づいたら映画は終わっていて、いろんな感情に胸を支配されるはずです」

-出演作が続いていますが、今後はどのように?-

「ジャンルも役も問わずいろんなことをやっていきたいですけど、『どういう挑戦をするか』ということをしっかり考えて進んでいきたいなと。まだやれていないことや、できないこともたくさんありますし。時間はあっという間に過ぎてしまいますからね。

選んだことの積み重ねが未来に繋がっていくと思うので、信頼できる周りの人にも相談しながら、少しずつハードルを上げて飛び越えていきたいなと思います。肩の力を抜いて、たまに休みながら」

スクリーンでは野性味溢れる男の色気を放っている毎熊さんだが、インタビューに応じる姿は穏やかでシャイな笑顔が印象的。そのギャップも魅力。毎熊さんにとって、俳優としての人生が大きく変わった2017年は、プライベートでも結婚という大きな変化が。公私ともに充実し、さらなる挑戦を続ける毎熊さんから目が放せない。(津島令子)

ヘアメイク:板谷博美

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