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毎熊克哉、ウィキペディアすら載っていない無名時代。改名後に新人賞受賞、吉永小百合の主演映画に抜てき「奇跡みたいな話」

映画監督を目指して上京し、専門学校の映画監督科を卒業後、俳優に転向した毎熊克哉さん。

20代の大半はアルバイトで生活費を稼ぎながらオーディションを受け、ときどき仲間と自主映画を製作。俳優の仕事は少なかったが、作品を生み出せる環境があったことで何とかメンタルを保っていたという。

2015年、小路紘史監督の長編デビュー作『ケンとカズ』にカトウシンスケさんとW主演し、第71回毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞、おおさかシネマフェスティバル2017新人男優賞、第31回高崎映画祭最優秀新進男優賞を受賞。“遅咲きの新人”として話題を集めることに。

 

◆出世作『ケンとカズ』は短編から長編映画へ

専門学校時代の同級生・小路紘史監督の長編デビュー作『ケンとカズ』は、2015年、第28回東京国際映画祭「日本映画スプラッシュ」部門の作品賞を受賞。2016年に劇場公開され、自主映画としては異例の3カ月以上のロングランを記録した。

※映画『ケンとカズ』
自動車修理工場を隠れみのに覚せい剤の密売で金を稼いでいたケン(カトウシンスケ)とカズ(毎熊克哉)。ケンは恋人が妊娠し、カズは認知症である母親を施設に入れるために金が必要だった。2人は密売ルートを増やすために敵対グループと手を組むが、元締めのヤクザに目をつけられ、しだいに追いつめられていく…。

『ケンとカズ』は2011年に短編映画として製作され、「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2011」で短編部門奨励賞を受賞している。

-短編を最初に拝見させていただきましたが、息詰まる熱気と緊迫感に圧倒されました。そして長編作品に-

「ありがとうございます。長編版を撮ったときには26歳になっていたので、結構焦りがありました。僕だけじゃなく、みんなもそうだったと思います」

-改名されたのは?-

「2015年ですね。僕が役者をやってみたいと言ったときにオヤジは否定的だったんですよ。20代の時期はケンカもしたし、あまり関係が良くなかった。そのオヤジが『也より哉のほうが画数がいい』って言ってるよと母親から聞いて、試しに変えてみただけです(笑)。僕は芸名とかは考えたことがなかったんですけど」

-すごいタイミングでしたね。改名とほぼ同時期にいろいろなことが-

「そうですね。『ケンとカズ』の長編が完成したときは、まだ前の名前で、劇場公開用に作ったエンドロールから今の名前になっているんです。名前を変えた直後に『ケンとカズ』が東京国際映画祭で作品賞を受賞しましたから、そういう何かがあるんでしょうね。字数とか」

-短編から長編になったときは、いろいろ議論を戦わせるようなことはあったのですか-

「意見は出し合っていました。カトウ(シンスケ)さんとはあの作品で出会ったんですけど、他のキャストは以前に共演していたり、同じバイト先の仲間だったので、戦うというより、ともに這い上がろうと懸けていた感じですかね。

お金がない状態で映画を撮る場合は、時間は短縮させるのが普通なんですけど、時間があるんだったら時間をかけようという話になって。だからリハーサルもたくさんやりましたし、撮影も予算に見合わない贅沢(ぜいたく)なスケジュールでした」

-皆さんの熱気が伝わってくる作品ですよね-

「そうですね。当時の自分たちがベストだと思えるものを、納得するまでみんなですり合わせた結果だと思います」

 

◆初めての授賞式、「タレント名鑑にもウィキペディアにも載ってないんですけど…」

毎熊さんにとって初めての授賞式は、スポニチグランプリ新人賞を受賞した第71回毎日映画コンクールだったという。

「最初に聞いたときは、『えーっ?嘘でしょう?』っていう感じでした(笑)。授賞式に出られるようなまともな衣装も持っていなかったので、いい機会だしと思って、スーツを作ることにしたんです」

-初めてそのスーツを着て出席された授賞式はいかがでした?-

「いやあ、もうグロッキーでしたね(笑)。有名な監督や俳優、業界の偉い人たちに囲まれて、自分だけ無名の30歳。吐き気がするほど緊張したんですけど、客観的に見ると、この状況おもろいなって思って(笑)。

あの場所で僕だけが『お前、誰?』っていう感じの存在で、そういう人間がステージに登場して何を言ったら客席を楽しませることができるというのは、すごく考えました。

自分にしか語れない言葉や立ち姿があるって思っていましたし、『ケンとカズ』を代表して登壇するっていう感覚もあったので、恥を晒(さら)すわけにもいかないなと。だからスピーチの内容は何回も書き直して、練習もしました。舞台の稽古みたいな感じで(笑)」

毎熊さんは、学生時代からの親友である小路紘史監督と短編の制作から始まった志の高い自主映画であること。約50日間の撮影で、みんなバイトができなくなって、財布がどんどんスカスカになっていったこと、仲間たちへの感謝を伝えた後、「タレント名鑑にもウィキペディアにも僕は載っていないんですけど、そんなよくわからない男に、こんな栄誉あるすばらしい賞を与えてくださって、本当にありがとうございます」と、しっかり会場の笑いも取る印象的なスピーチを披露。

-そのあとも、おおさかシネマフェスティバルの授賞式もありましたが、あまり緊張することもなく?-

「緊張はしましたけど、柔らかい空気感の授賞式だったので助かりました。毎日映画コンクールはかなりビシッとしていたので」

-スポーツ紙などには、「遅咲きの新人」と書かれていましたが、それを見ていかがでした?-

「僕で“遅咲き”でいいのかなって思いました。周りには、もっと年上の先輩もいますし。早くもないけど、遅すぎでもないかなと」

 

◆吉永小百合さんの主演映画『北の桜守』に出演することに

毎熊さんは、毎日映画コンクールの授賞式の会場で、当時東映会長だった岡田裕介さんの目に留まり、自身が製作総指揮を務める吉永小百合さんの出演120本目の大作『北の桜守』(滝田洋二郎監督)に抜てきされた。

毎熊さんが演じたのは、終戦時に樺太から引き揚げてきた主人公・江蓮てつ(吉永小百合)とその息子を救う闇米商・菅原信治(佐藤浩市)の助手・岩木役。

-毎日映画コンクールのときに岡田会長の目に留まって『北の桜守』に出演することに-

「スピーチを頑張って良かったなあって思いました(笑)。奇跡みたいな話ですよね。吉永小百合さん主演の映画に、しかもあのキャスト陣のなかに入れてもらえるなんて」

-その当時事務所には?-

「『北の桜守』の撮影が2017年で、今の事務所に所属することになったのも同年です。あの年は奇跡の連続でめまぐるしかったです。

所属事務所との出会い、授賞式、お仕事の話、自分にとって大きな出来事が同時期に一気に押し寄せてきて、環境は好転しているけど、心のなかは忙しかった」

-『北の桜守』の撮影現場はいかがでした?-

「怖かったですね(笑)。そもそも自主映画を除いて場数が圧倒的に少ないので。現場の空気感も違うし、そのなかでの立ち居振る舞い方もわからなかったですし…。

でも、浮き足立たないようにしようというのはずっと意識していました。怖いというのは、怖い人がいるとかいうことじゃなくて、単純に『自分は大丈夫かな?』っていう不安なので(笑)。だから、余計なことは考えずに役に集中していました」

-NGを出すことはあったのですか-

「銃で尻を撃たれるシーンがなかなかうまくいかなくて。あの日は監督にすごく怒られました。しかもそれが北海道ロケ最終日。それまではNGや怒られることもなく、このまますんなり終わっていくのかと思っていたのですが、最後に新人らしくしっかり怒られて、ちょっとうれしかったのを覚えています。

キャストもスタッフも超ベテランのなか、一番新人の僕が何事もなくこなせるとは思ってなかったんですよね。集中して現場に挑んでいたけど、『もっと集中しろ!』と言われました。あれは滝田さんからのプレゼントだと、勝手に受け取っています(笑)」

-すごいことですよね。岡田会長に「昭和の俳優のような目力がある。昔の東映映画に出ていた俳優のような“怖さ”が出せる俳優になってくれたら」と、すぐにプロデュース作品にキャスティングされたわけですから-

「感謝しかないです。自主映画や小劇場の現場しか知らなかったので、大きな経験になりました。演じることに変わりはないですが、環境が違うと一言しゃべるだけでも足が竦(すく)みそうになります。

あの作品でいうと、吉永さんとふたりで東北のほうに舞台あいさつで、2泊3日で行ったことがあったんです。『吉永さんとふたりで何をしゃべればいいんだろう?』って、ずっと緊張していました。吉永さんは言葉に重みや責任を持っていらっしゃるので、その横で適当なことは言えないなと思うと、ますます」

-吉永さんとふたりで舞台あいさつというのは、すごいことですね-

「すごいことです(笑)。吉永さんは優しくて謙虚な方ですけど、周りはものすごく気を使うし、周りの人たちの緊張もこちらに移ってきたりして。『そんなに気を使わなくてもいいのにね』って笑顔でおっしゃっていたのが印象に残っています。

あれからつねに緊張する環境に放り込まれて、時間をかけて、少しずつ緊張との向き合い方がわかってきたような気もします」

毎熊さんは、圧倒的な存在感と迫真の演技、野性味溢れる色気で人気を集め多くのオファーが舞い込むように。『私の奴隷になりなさい 第2章 ご主人様と呼ばせてください』&『私の奴隷になりなさい 第3章 おまえ次第』(城定秀夫監督)、『いざなぎ暮れた。』(笠木望監督)など主演映画も多い。

次回後編ではその撮影エピソード、連続テレビ小説『まんぷく』(NHK)の撮影裏話、2023年4月7日(金)に公開される映画『世界の終わりから』(紀里谷和明監督)も紹介。(津島令子)

ヘアメイク:板谷博美

©2023 KIRIYA PICTURES

※映画『世界の終わりから』
2023年4月7日(金)より新宿バルト9ほか全国公開
配給:ナカチカ
監督:紀里谷和明
出演:伊東蒼 毎熊克哉 朝比奈彩 冨永愛 高橋克典 北村一輝 夏木マリ
事故で両親を亡くし、生きる希望を失いかけている女子高生が、突然、世界を救う使命を託され、奔走する姿を描く。高校生のハナ(伊東蒼)は、事故で親を亡くし、学校でも居場所を見つけられないばかりか、いじめにも遭い生きる希望を見出せずにいた。ある日突然、政府の特別機関と名乗る男(毎熊克哉)が現れ、自分の見た夢を教えてほしいと頼まれるが…。

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