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上田慎一郎監督、『カメ止め』後の重圧で大スランプも。新作制作中に「吐きそう、気絶しそう」に

©テレビ朝日

20歳から25歳まで数々の失敗を繰り返し、マルチ商法に足を突っ込んで借金を背負ったり、ホームレスになったこともあったというが、25歳のときに一念発起して以降、精力的に自主映画製作に取り組んできた上田慎一郎監督。

国内外の映画祭で数多くの賞を受賞し、2017年に製作費わずか300万円で作った『カメラを止めるな!』が社会現象になるほどの大ヒットを記録。2019年8月には『カメ止め』の助監督・中泉裕矢監督とスチールカメラを担当した浅沼直也監督と共同監督を務めた映画『イソップの思うツボ』が公開され、今月18日には劇場長編第2弾となる映画『スペシャルアクターズ』が公開される。

©テレビ朝日

◆妻も映画監督で夫の「絶対的味方」

上田監督に初めて会ったのは、筆者が1次審査員を務めている2012年の「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2012」で短編映画『恋する小説家』が上映されたときだった。

それ以来、映画監督で妻のふくだみゆきさんとともに、多くの映画祭で賞の常連組となり、映画関係者のなかでは知られる存在になっていく。

「2012年に『恋する小説家』という作品で応募したのが最初ですね。その『恋する小説家』がいろんな映画祭で入選して、初めて自分の知らない人に映画を見てもらえる機会を得て、そこからどんどん撮るようになりました。多分1年に2本ぐらいのペースで作っていましたね。短編が多いですけど」

-奥様のふくだみゆき監督も様々な映画賞を受賞した短編映画『こんぷれっくす×コンプレックス』をはじめ、多くの作品がある優秀な映像作家ですね-

「そうですね。映画に集中していこうと思って、映画製作団体『PANPOKOPINA』を自分でつくったのと、妻に出会ったのは、ほとんど同時期なんです。そして、そこからいろいろなことがうまくいき始めるようになっていきましたね」

-ご夫婦ともに優秀な映像作家で映画祭の賞常連組でしたから、事務局でも毎回話題になっていました-

「お互いがお互いの作品にすごい関わっていますけどね。妻は『こんぷれっくす×コンプレックス』というアニメでグランプリを取りましたけど、僕がプロデューサーで編集もやっていますし。

SKIPの映画祭で賞をいただいたのは『恋する小説家』と『テイク8』だったんですけど、スタッフとして妻も入っていますし、『カメ止め』では衣装と宣伝デザインを妻がやっています」

-才能ある2人が一緒になってお互いに高め合っていくというのは、まさに理想の形ですね-

「絶対的な味方がいるということは、ものづくりをする上で大きいです。帰れるところがあると強い。忌憚(きたん)のない意見をもらえる人が近くにいるというのは大事ですね。

妻は『こういうシチュエーションで女はこんなことは言わないよ』とか、女性の視点でストレートに意見を言ってくれるので、リアリティーのある女性が描けるようになったと思います。それまではどうしても男が思い描く女性になっていたので」

-『カメ止め』は社会現象にまでなって映画賞総ナメ状態でした。ご自身ではいかがでした?-

「『カメ止め』は2018年の6月に公開したんですけど、2017年の11月に6日間先行上映をしたんですね。先行上映というか、ENBUゼミナールのシネマプロジェクト第7弾だったので、もともと6日間限定で上映するという企画で。

そこでほぼ全回満席で最終日も5分ぐらいでチケットがソールドアウトして。『これはなんかすごいことになるかもな』っていうのはありましたけどね。

そこから劇場公開が決まって、『さぬき映画祭』と『ゆうばり国際ファンタスティック映画祭』で上映したときもすごい話題になって、試写も4回しかなかったんですけど、最初は映像業界とかテレビ業界とかで、水面下で話題が沸騰していったという感じでしたね」

-37分間1カットのゾンビサバイバルシーンも話題になりました-

「あれは、最初みんなに『無理』とか『できるわけがない』って言われて、撮影スタッフにも止められたんですよね。でも、『無理だ』とか『やめろ』と言われると燃えるタイプなので(笑)」

-見事にやり通して「ジャパニーズドリーム」と言われるほど大ヒットを記録、ご自身の予想をはるかに越えたと思いますが-

「もちろん。忙しさのレベルが変わりました。もともとあまり趣味とかもなく、ひたすら映画を作って、あとはもうバイトをしてという感じだったので、自分としてはそんなにスタイルみたいなのは変わってないですけど、取り巻く状況がすごい変わりましたよね。

自主映画とかインディーズ映画だったらもっとフットワーク軽くガンガンできていたことが、規模が大きくなって、いろんなことを考えながら進まねばならないことが多くなってきたので。そういうところはやっぱり変化はありますけどね。あとは映画を見る時間が全然とれなくなっていますね、今は」

-制限はあったりします?-

「僕の場合は『カメ止め』がヒットしていろんなオファーをいただくことが多かったので、『オリジナルで作りたいものを作ってくれ』っていうオファーが多いんです。

ありがたいことに、他の原作もので、例えば『このキャストでこういう形で作ってくれ』とか言われて作るものもあると思うんですけれども、僕の場合はそういうオファーのされ方はあまりないので、そこは幸せなとこだろうなと思いますね」

©テレビ朝日

◆世間の「“カメ止め”上田監督」の重圧で大スランプに

※映画『スペシャルアクターズ』
緊張すると気絶してしまう売れない役者・和人が、数年ぶりに再会した弟から俳優兼事務所兼何でも屋の「スペシャルアクターズ」のメンバーに加わり、カルト集団から旅館を守ってほしいという依頼のために奮闘することに…。

-今月18日(金)にはいよいよ監督最新作『スペシャルアクターズ』が公開になります。『カメ止め』ファンも納得の面白い作品ですね-

「ありがとうございます。やっぱり『カメ止め』があるからフラットな状況ではないと思うんですけれども。『カメ止め』は、インディーズ映画であるとか、出演者が無名俳優たちであるとか、300万円で作られたとか、そういうところも含めて話題沸騰したと思うので」

-あの『カメ止め』の上田監督の新作ということで、期待もハードルも高くなっていると思うんですが、プレッシャーはかなりあったでしょうね-

「そうですね。どうしたら、ビックリさせられるようなものが作れるかなって色々考えながら作りましたけど、すごいプレッシャーで、1回大スランプに陥って、書けなくなったりして…。吐きそうになったり、気絶しそうになったりして本当に大変でした。

クランクインの2カ月ぐらい前に、そこまであった企画を全部ゼロ(白紙)に戻して、新たに作り直したので大変でしたね」

-それで作ってしまったところがすごいですが、撮影で印象に残っていることは?-

「『カメ止め』のときには撮影が8日間でしたけど、今回は撮休を含めて19日間あったんです。それだけの日数があれば、インディーズとか自主映画の感覚からしたら、すごいあるなあと思ったんですけど、やっぱり関わる人数が増えれば増えるほど、規模が大きくなればなるほど、現場の撮影スピードというのは落ちざるを得ないんですよね。

これはすごいメジャー大作みたいな規模ではなくて、メジャーとインディーズの中間ぐらいの規模感だと思うんですけれども、やっぱり商業映画の洗礼みたいなものは受けました。それで、最初はちょっとギクシャクしましたけどね」

-具体的にいうと?-

「いっぱいあるんですけど、現場で段取りをして、『ここはこういう風に動きます。ここでこのセリフをしゃべります』ってなったとするじゃないですか。その後テストをして、テストがオーケーだったら本番ってなるんですけど、スタッフもいっぱいいるので、各キャスト、各部署が確認をして本番になりますよね。

自主映画とか、インディーズ映画の場合は、テストを飛ばして本番にいったりすることもあるし、打ち合わせで決めていたことを現場で突然変えるみたいなことも多々あるんですけど、やっぱり人数も多いので、いきなり変えるということに、現場がそこまで耐えられなくなるときがあって…。

でも、それは事前に『ここはいきなり本番で行きたいんだ』っていうことを打ち合わせで言っておけば良いわけですけどね」

-『カメ止め』と規模が違いますからね-

「そうですね。もともとは10人いないようなスタッフのなかでやっていたので、変えるときにそんなに広く伝達しなくても伝わっていたんですけど、いっぱいいるスタッフ全員に伝えなければいけないことはすごく大変ですし、いきなり現場で柔軟に変えていくということが、インディーズ映画とか自主映画に比べると、だいぶ難易度はあがりますよね。

あと、『もう一回』って言うときの負荷が、自主映画とか、インディーズ映画に比べてだいぶ強くなります。つまり、『OK』か、『もう一回』かは監督が決めるじゃないですか。撮影時間がすごく押していたとしても、『ダメだ』と思ったら、『もう一回』って言わなきゃいけない。

それがすごい時間が押していて、僕が『もう一回』って言ったら、100人とかのキャスト、スタッフがもう一回やるわけですけど、その圧に負けないで『もう一回』って言えるかどうかというのは、これから商業映画をやっていくにあたっての課題ですね。

今回はまだ無名の俳優たちですけど、それが大御所の俳優たちになったとしたらさらに大変でしょうし、スタッフの数も増えるわけですからね。その『今のでオッケーやろ?』っていう圧に負けずに、『もう一回』って言っていくことは、すごく監督として大事なんだろうなって思いました」

-『スペシャルアクターズ』は思い通りに「もう一回」いけました?-

「はい。僕もそれは妥協せずにやっていますし、みんなにもそれは言いました。『遠慮せずに、今の自分の演技が納得できなかったら、もう一回やりたいと言ってくれ』と」

『スペシャルアクターズ』は奥様のふくだみゆきさんが監督補と宣伝デザインを担当。上田監督とは4歳のときからの幼なじみでマネジャーでもある鈴木伸宏さんが音楽を担当している。

「スタッフがほとんど初めての人だったので、自分のことをよく知っている絶対的な味方が現場にいてくれるということは心強かったです。僕のことを知らない人には言えないようなことも言える人が現場にいるかいないかでは全然違うなあって思いました」

-監督の短編映画のDVD『上田慎一郎ショートムービーコレクション』も発売されましたね-

「感想もツイッターにチョコチョコ上がったりしていますし、自分の作品がほぼ全作入っているようなものなので、そういったものを出していただけたということはすごいありがたいですね」

-今後はどのように?-

「まずは『スペシャルアクターズ』ですけど、試写会でもありがたいことに好評いただいていますし、早くたくさんの人に見て欲しいなという気持ちでいっぱいなのと、たくさんの人に届くように、どういう風に届けていくべきかということを日々考えています」

自ら宣伝プロデューサーもつとめ、PRで全国を飛び回っている上田監督。公開日が近づくなか、忙しい日々がまだまだ続く。(津島令子)

(C) 松竹ブロードキャスティング

※映画『スペシャルアクターズ』
10月18日(金)より丸の内ピカデリーほか全国ロードショー
緊張すると気絶してしまう売れない俳優が、演じることを使った何でも屋“スペシャルアクターズ”に所属し、メンバーとともにカルト集団に立ち向かっていく…。
監督・脚本・編集・宣伝プロデューサー:上田慎一郎
出演:大澤数人 河野宏紀 富士たくや 北浦愛 上田耀介ほか
配給:松竹

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