巨人・戸郷翔征はなぜ不調に陥ったのか 桑田真澄が指摘した“ズレ”「時間で言うと0.1秒くらいなんです」
1月26日。WBC日本代表メンバーが発表された。しかしそこには、前回大会で決勝マウンドを任された選手の名前はなかった。
「出たかったなっていう思いはもちろんあります。お金を払ってもできない経験ですし、こういう大会がくると今まで選ばれていたので、やっぱり悔しい気持ちです」
巨人・戸郷翔征。昨シーズンは2度も二軍に降格。WBCどころか一軍で投げる自信すら失いかけていた。
再起への糸口はどこにあるのか。テレビ朝日のスポーツ番組『GET SPORTS』では、エース復活を懸けた姿を追った。
◆「負のスパイラル」の始まり
1月、宮崎県延岡市。戸郷は母校・聖心ウルスラ学園のグラウンドで自主トレを行っていた。その周りでは韓国語が飛び交う。ともに汗をかいていたのは、韓国のプロ野球選手たちだ。
「イ・スンヨプさんに『自主トレしたい子たちがいる』と言われて、そこからですかね。2年前に始まってもう3回目か」(戸郷)
日本でも活躍したイ・スンヨプの相談を受け、25歳にして国籍を超えたチームを率いているのだ。
そんな戸郷が初めて脚光を浴びたのは、高校時代。
高校日本代表の練習試合で、藤原恭大、根尾昴、吉田輝星ら甲子園を沸かせたメンバーが集結するなか、対戦相手として宮崎県選抜チームにいたのが高校3年生の戸郷だった。
プロ注目の好打者たちを次々と抑え込み、その評価は急上昇。2018年、ドラフト6位で巨人に入団すると、1年目から勝ち星を積み、2024年には史上89人目となるノーヒットノーランも達成。名実ともに巨人のエースへと上り詰めた。
それでも満足することのなかった戸郷は、2025年のオフ、さらなる進化を求めて大胆な改革に着手する。
ブルペンでの投球を見ると、足を後ろに引く動作を省き、常にセットポジションで投球していた。プロ入り後、ここまでフォームを変えたのは初めてのことだった。
「コントロールなどすべての再現性が高くなりました。セットで投げることは単純に動作が少なくなるので」(戸郷)
セットポジションにした狙いは、コントロールをより良くすること。しかし、これが負のスパイラルの始まりだった。
迎えた2025年シーズン。開幕投手としてマウンドに上った戸郷だったが、驚きはそのフォーム。オフに取り組んでいたセットポジションから、従来のフォームに戻っていたのだ。
すると、開幕戦は5回4失点。3戦目には自己ワースト10失点を喫し、二軍落ちとなった。わずか数カ月で何があったのか。
「真っすぐがすごくばらつきやすくなった。フォームのズレや体への影響が大きかったので、一旦戻しました。ここまで悪くなったのは初めてでしたし」(戸郷)
実は、セットポジションにしたことで、コントロールが悪化。開幕直前に元のフォームに戻そうとしたが、かつての投球ができなくなっていたという。
その後、一軍に戻っても不振が続き、プロ入り初、2度目の二軍降格を味わうことに。終わってみれば、8勝9敗、防御率は4.14。 巨人のエースにとして過去最悪のシーズンとなってしまった。
◆桑田真澄が指摘した「体の開き」
なぜここまでの不調に陥ってしまったのか。戸郷は原因についてこう語る。
「2回目、二軍に落ちた時に桑田さんといろいろな話をして、『またイチからやり直そうよ』と。そこで気づきましたね。単純に体が開きやすくなっていたんです」
原因に挙げたのは「体の開きの早さ」。二軍監督として戸郷を見ていた桑田真澄氏に当時の状況について話を聞いた。
「左足が着いた時に、どうしても上体が開いてしまう。左足が着いた時は上体が開いたらダメなんですよ。上半身と下半身が一緒に動くと開いてしまうんです」(桑田氏)
桑田氏曰く、映像では分からないほどの差でもプロの世界では致命傷になりかねないという。
「時間で言うと0.1秒くらいなんです。0.1秒、0.2秒早く見えるだけでバッターはピタッとタイミングを合わせてくる。『翔征今年スピードが出ない』『もっと腕を振れ』なんて言われると、人間『腕を振れ』と言うと体と頭を振るんです。スピードは出るけど、今度は早くバッターにボールが見えてしまう。やっぱりボールを隠すということなんです。体を開くタイミングを少し遅くすることが大事」(桑田氏)
不調の原因は「体の開き」が早くなっていたこと。実は、ある試合がそのきっかけになっていた。
「ドジャース戦ですね。単純に開きが早くなって力を入れ出した。力を入れて体を振って、本当に今までにしたことのないようなことをしていました」(戸郷)
開幕前の3月に行われたドジャース戦。戸郷はオフに取り組んでいたセットポジションを諦め、元のフォームに戻し始めていたところだった。
すると、最速154キロを誇るストレートは、140キロ前半まで低下。力ない速球は簡単に打ち込まれてしまった。球速を上げようと、どんどん上半身に力が入る。この試合から体の開きが早くなり、改善できないままシーズンが終わってしまった。
「体を振って、自分の力・力感だけで投げていたので、打者に対してタイミングのズレを感じさせることもできませんでした」(戸郷)
◆復活への鍵は「股関節」
2026年1月、戸郷は体の開きを修正するためのトレーニングに取り組んでいた。
練習を覗いてみると、グラウンドではひたすらジャンプを繰り返す姿が。いったいどんな狙いがあるのか。
「股関節をいいタイミングで(使うようにしています)。サイドジャンプは股関節の押し方(の練習)。いいところで押すと強く押せますし、多少ズレるといい押し方ができない」(戸郷)
戸郷が意識していたのは、股関節の使い方。キャッチボールを見ていても、常に股関節を気にしていた。
「右足の押し方を今やっています。難しいですね。ちょっとでもズレると膝が出すぎちゃうし、後ろにいきすぎてもダメだし、(右足で押す)いいところがあるんですよ」(戸郷)
投球動作で重要なのは、軸足から踏み出す足への体重移動。その体重移動で肝になるのが軸足の股関節の使い方だという。
股関節の動かし方が安定すれば、体重移動で力を生み出せるため、上半身に無駄な力が入らない。つまり、体の開きを抑えられる。
「股関節は上と下をつなげる中間のところですし、そこで下がうまく使えないと上がうまく使えない。柔軟性ももちろん、パワーもタイミングも大事なので、本当にすべてが合わさらないといい球がいかないなとすごく感じます。それをひとつでも近づけるために反復練習というのはすごく大事」(戸郷)
戸郷の股関節への意識は、他のトレーニングでも。細かく股関節の動きを確認し、ひたすら股関節と向き合う毎日を過ごしていた。
そしていよいよキャンプイン。最大の挫折を経験し、巨人のエースとして、真価が試される8年目が始まった。
「悪かった年の次の年はすごく重要ですし、そこに向かっていく気持ちは、今までの気持ちとはまったく違う気持ちです。何にも怖がらずにやっていきたいと思います」(戸郷)
※番組情報:『GET SPORTS』
毎週日曜 深夜1:55より放送中、テレビ朝日系(※一部地域を除く)