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特例で、200名以上の受刑者が一堂に集まる。大地康雄、旭川刑務所で敢行した試写会

©テレビ朝日

伊丹十三監督の映画『マルサの女』(1987年)で悪役から脱し、実力派俳優として広く認知されるようになった大地康雄さん。映画『砂の上のロビンソン』(89年)、映画『ミンボーの女』(92年)、ドラマ『刑事・鬼貫八郎』シリーズ(日本テレビ)など数々の映画、テレビに出演。

2005年には、企画・脚本・製作総指揮・主演の1人4役を務めた映画『恋するトマト』を公開。

2013年には映画『じんじん』の企画・主演をつとめ、第13回イマジンインディア国際映画祭マドリッド:最優秀俳優賞、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2013:ファンタランド大賞/人物賞(最高主演俳優賞)を受賞。これまでに1000ヵ所で上映、30万人を動員。現在、続編となる映画『じんじん~其の二~』の上映を全国で展開している。

©テレビ朝日

◆コッソリ忍び込んでいた劇場で

-映画の企画もすでに3本されていますが、振り返っていかがですか-

「最初は『恋するトマト』でしたけど、石垣島でも公開されましてね。その映画館は、昔私が裏側にバレないように入口を作って、コッソリ潜り込んでいた映画館だったんですよ。

まさかそこで将来自分が作った映画を上映することになるとは思ってもいませんでしたからね。舞台あいさつで『ここは、昔ただでお世話になった映画館です。すみません』って謝りましたけど、人生っていうのは先がわからなくて面白いなあって感じました(笑)」

-石垣島には熊本から小学校5年生のときに引っ越されたそうですね-

「引っ越して良かったです。熊本のときも貧乏だったんですけど、都会での貧乏というのは本当に悲惨ですから。犯罪に走ることもあるのですよ。熊本時代はもう本当に、そのままいったら、私は鑑別所に行っているぐらいのワルになっていたかもしれません。

ところが石垣島の自然の環境にいきますと、海に行ったら魚がいるわけですよ。農家の人にもらった小さい芋を砂浜に突っ込んで埋めておいて、暑い中、2時間ぐらい海に潜って魚を突いて上がってくると、それが焼き芋になってるんですよ。

それで新鮮な魚介類と芋を腹いっぱいいただいて。自然の恵みのありがたさですよね。そうすると、悪さをしようなんてことにはならないんです」

-企画・脚本・製作総指揮・主演の1人4役をされた映画『恋するトマト』を思わせますね-

「そうですね。農家の方々は『人間は自然に生かされている』ということがわかっていますから、大変謙虚な方が多いんです。

『恋するトマト』は食べ物を作るという人間にとって一番大切な仕事をしている人たちが、農家の長男というだけで結婚できないという理不尽な状況、寡黙で口下手だけど、『人間力』や『生きる力』にあふれた農家の方々の魅力を描きたかったんです」

-農作業のシーンは熟練の職人のようでした-

「プロの方が見てもおかしくないようにやりたかったのでね。脚本と役作りのために茨城の農家のお宅にずっと泊まり込んで、一緒に農作業をやらせていただいたんです。

トマトは世田谷のトマト作りの名人の方に2ヵ月間弟子入りして修業。稲刈りは田んぼを1枚分借り受けて猛特訓したんですけど、腰が痛くて苦労しました。でも、本職の農家の方に『もう本物の農家の男だよ、大地さん』とおっしゃっていただけてうれしかったです」

-今も野菜作りはされているんですか-

「できる範囲でやっています。もう12年になりますね。トマト、きゅうり、夏野菜、特に沖縄のゴーヤとか、もう間違いなくおいしいですよ」

※『恋するトマト』
農家の嫁不足という社会問題を背景に、お見合いを繰り返しては断られて農家の過酷な現実に絶望した45歳の正男(大地康雄)が美しいフィリピン人女性と出会い、再生していく姿を描く。

©テレビ朝日

◆旭川刑務所で試写会を敢行!

-今、大地さんが企画された3本目の映画『じんじん~其の二~』がいろいろなところで上映されていますね-

「『恋するトマト』で全国をあちこち回ったんですけど、北海道が多かったんですよ。で、最後に旭川で上映して、やっとこれで東京に帰れるってなったときに、最後の交流会で、自分の故郷の剣淵に寄ってくれとしつこく言う人がいて、そこは有機農業と絵本で町おこしをしているところだって。絵本って聞いた途端、もう帰ろうかと思ったんですけど、あまりにもその方がしつこいので、連れて行かれたのが映画にも登場する絵本の館。

10数人の子どもたちが読み聞かせの体験をしてまして、女性の職員の方がウンチの話をしていたんですよ。そしたらクライマックスに話が進むにしたがって、子どもたちが身を乗り出して詰め寄っていって、最後のオチがついた途端、床にひっくり返って大爆笑しているんですよ、全員が。それを見てもうビックリしちゃって。絵本の力ってすごい。こんなに子どもを喜ばせられるのかって。

で、もうひとつ感激したのは、農家のお父さんが、作業の合間に動物の親子の物語の読み聞かせをしているんですよ。作業服を着てね。それで最後のお別れのところになるとみんな泣いてるんですよ。だからもうその光景が目に焼き付きましてね。俺もいろんな演技をしてきたけれど、こんなに子どもを喜ばせるようなことはしてなかったなあって(笑)」

-子どもたちの豊かな感性が伝わってきます-

「そうなんです。色々な話を聞きました。0歳から読み聞かせをしているけど、2歳になったら、自分の考えたこと、感じたことを言葉にできるようになったとか、語彙力が増えて、引っ込み思案だった子が、友だちができるようになった。今では先生と対等に話ができるようになったとかね。

お母さんたちも読み聞かせをしているなかで、何か色がついていた大人の心から純粋な心に戻って、大事なことに気がつかされて生き直すことができているんだって。子どもが喜ぶ姿だったり、物語にとけこんでいく様子を見ていると、またさらに子どもが愛おしくなって、親子の絆が深まっていく。街全体がそうなっていくわけですから、優しい町になっていくんですよ」

-昔ながらの大人みんなで子どもを育てているという感じですね-

「そうです。人と人とが深く結びついていてね。剣淵という町に惚れ込んで、こんな町が日本にあったんだっていう感じで、ひとつのユートピアですよ。

これは全国に紹介したいなって思って、今まで仕事を一緒にやっていただいた『刑事・鬼貫八郎』シリーズの脚本家・坂上かつえさんに相談したら、『私は人情ものが大好き』とおっしゃったので、剣淵にご案内して。で、色々実際に昔話の成り立ちから絵本の町ができたエピソード、私が見て体験したことを全部ご紹介して『じんじん』が誕生したんです」

-『じんじん』は旭川刑務所でも試写をされたとか-

「はい。最初に札幌の少年院でやったんですけど好評で、色々と感動のアンケートもいただいて…。やっぱり親の愛について考えさらせれたと、ここを出所したら、もう一度親とちゃんと向き合ってみたいというようなアンケートをもらったりしてね。それで旭川刑務所でという話になって、絵本原画と題字をやって下さったあべ弘士さんと私が呼ばれて行ったんですよ。

2年ぐらい前の話ですが、懲役15年、20年という受刑者の方も多かったですし、暴力団の抗争もあったので、一堂に集めるのはまずいから、各部屋で見せるという話になったんですよ。だけど、映画はやっぱり大きい画面で見ると臨場感がまた違いますから…と再三お願いして、特例で200名ちょっとの全員で見てもらったんです。

主人公の銀三郎と似たような状況の方がいらっしゃるんですよね。アンケートにもきれいな字で『息子の前に胸を張って父親だと名乗れるように、頑張りたいと思いました』とか、色々書いていました。再犯を繰り返してしまう人もいますが、この作品を見たことで踏みとどまるきっかけになれば良いなあって思いましたね」

©テレビ朝日

◆「絵本の里」剣淵から「名水の里」秦野へ

-続編は秦野市(神奈川県)が舞台ですが-

「当時の市長さんをはじめ、関係者の方々が前作を見て下さって、『秦野でやって欲しい』と呼ばれてやらせていただきました。だから、出会いから出会いへと広がっていくという感じですね」

-都心からわずか1時間あまりのところに水がきれいで自然もたくさんある場所があったなんてと驚きました-

「私も知らなかったんですよね。一回だけドラマで行ったことがあるんですけど、そのときには山に入って、木を切っておしまいだったですから。

きれいな街で、ゴミひとつ落ちてないんですよね。理由を聞きましたら、あるとき、川のほとりで麦わら帽子をかぶって、一生懸命ゴミ掃除をしているおじさんがいたんですって。あまりにも熱心に毎日毎日やっているから誰かなと思ってのぞいたら、今はもう変わっちゃいましたけど、古谷前市長だったそうなんです。それで市民の人たちが感銘して、『市長だけにやらせるわけにいかねえべよ』って言って、広がっていって。

秦野では『秦野たばこ祭』というお祭りがあって、去年も34万人くらい来たんですけど、ゴミが落ちてないんですよ。主催者もお店もそういう伝統が、もうできあがっていますから、全部ゴミをきれいにまとめて。部活が終わった子どもたちも、ゴミを拾いに来るんですよね。だから祭りが終わった後も、きれいなんです」

-それはすごいですね-

「そうですね。おとながまず率先してやっているんですよ。秦野はね。今回秦野は森の話だったんですけど、あるとき、山を歩いていましたら、10名くらいの高齢者の方が、もう汗びっしょりで森の手入れをしているんですよね。

それで、『これは遊びでやってるんです。自分たちが小さいときはこの森が遊び場で、川遊び、昆虫採集、秘密基地やツリーハウスを作ったり、山菜もとって食べたし、色々遊ばせてもらった。それを荒廃したまま子どもたちに渡すわけにはいかない。だから手入れしてやったら、子どもたちが入ってきて、楽しそうに遊んでいる。その喜ぶ姿を見るのが、何よりうれしい。だからこれは遊びだ』って言うんですよ。

カッコいいなあと思いましたね。別に誰に評価されるわけでもないし、見返りがあるわけでもない。人が見てないところでコツコツコツコツやってらっしゃる」

-子どもは親の背中を見て育つと言いますけど、大人のそういう姿を見ると子どもたちの意識も変わりますよね-

「そうです。それに40ぐらいの団体が、森の再生運動をやっているんですよ。ボランティアで。それで、落葉広葉樹を植えてるんですよ。というのは、針葉樹林は根が浅いから流されてしまうけど、落葉広葉樹は根を深く張るので、土砂崩れを防ぐっていうんですよ。

で、山の水をたっぷり貯える、それが川になって栄養たっぷりの水になって、駿河湾に流れる。で、そこでプランクトンが成長して、そこで育った魚介類を人間が食べる。これは神様が作ってくれた循環なんだと。これを守らなきゃいけないと、信じてやってるんですよ。そういう取り組みをしていることを知ってもらうことも大切だと思いましてね」

-今回は悩める若者も登場します-

「ある日本青少年研究所のアンケートを読んで、ちょっとショックを受けましてね。『自分はダメな人間だと思うときがある』と思う若者が、2012年4月の調査報告だと日本は83.7%って圧倒的に多いんですよ。

電子機器の発達で生身の交流が少なくなっているじゃないですか。悩んでいても相談できる人がいないんですよ。友だちもいないし、大人も昔みたいに相談できる人がいない。

銀三郎は自分が挫折している男ですから、寄り添えるんですよね。相手の話に耳を傾けられるキャラなんですよ。だから、今回は若者を少しでも応援できる話にしようじゃないかということでやったんです。学生の皆さんからは『この映画を見て自分もあきらめずに頑張っていこうと思いました』とか『この映画で何か少し先が見えた気がします』というような意見を多くもらいました」

-苦労して作った甲斐がありましたね-

「そう。どんな苦労があってもね、これで報われるんです。このために作っているようなものですから(笑)」

60歳を過ぎた頃から、何か自分ができることで恩返しができるような後半生を歩んでも良いのではないかと考えるようになったという大地さん。優しそうな笑顔に、大道芸を通じて人を笑わせながら自分も楽しく「今」を生きている主人公・銀三郎の姿が重なる。(津島令子)

©2017『じんじん~其の二~』製作委員会

※『じんじん~其の二~』
大地康雄が企画し、主人公の大道芸人・立石銀三郎を演じる人情喜劇シリーズ第2弾!
監督:山田大樹 出演:大地康雄、福士誠治、鶴田真由他。
この作品を「自分たちで上映してみたい」「上映会を通して人とのつながり、地域を元気にしたい」方を募集中。
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