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人気再燃の松坂大輔、古巣ソフトバンク戦で「怪物の恩返し」

プロレスが勧善懲悪のストーリーだった時代、「ベビーフェイス(主役)」の選手が突然「ヒール(悪役)」に転向して、観客を驚かせたものだ。全盛時を過ぎて、脇役に回るケース。ただし、その逆はあり得なかった(「黒のカリスマ」蝶野正洋は空前のヒール人気を呼んだが)。

プロ野球・中日の松坂大輔投手(37)は、昨年まで3年在籍したソフトバンクで“ヒール扱い”だった。米国から戻ると右肩の手術、違和感で、1軍登板はわずか1試合。「平成の怪物」はネット上で、4億円の年俸から「給料泥棒」とまで呼ばれ、昨季オフの退団時は「恩をあだで返した」とブーイングも浴びた。それが今年、新天地の中日で躍動。ベビーフェイスとしてよみがえり、大声援を受けている。だからスジ書きのない、野球の人生ドラマは面白い。

オールスター戦(7月13、14日)のファン投票・中間発表では4日、遂にセ・リーグ先発投手部門で巨人・菅野智之投手(28)を抜いてトップに立った(8万7014票で2位・菅野と2467票差)。

ここまで6試合に先発して2勝3敗、防御率は2.51。先月30日のオリックスとの交流戦では白星こそつかなかったが、6回を無失点、1安打に抑えた。全盛時のスピードはなく、制球が定まらない場面も目立つ。それでも走者を背負うと、代名詞のスライダー、メジャー流の動くボールでピンチ脱出。「枯れた投球術」というより、何度も修羅場を潜り抜けてきた集中力、威圧感を発揮している。

人気再燃は、成績のおかげだけじゃない。37歳になった怪物の執念が、共感を呼んだ。昨季オフにコーチをしながら再起の環境を提示したソフトバンクを飛び出し、現役にこだわった。西武時代の縁で救いの手を差し伸べた中日・森繁和監督(63)の下で、テスト入団。背番号99、年俸1500万円(+出来高払い)から出直した。フタを開ければ、投げられなかった昨年までがウソのように、登板間隔を開けながら先発を担い、ゲームを作っている。

開幕前にマスコミ、評論家も、こうなっては脱帽。本人は日本球界で12年ぶり勝利で「小さい子にも名前を覚えてもらえるように」と笑っていたが、チビッコファンも増加して、グッズの売れ行きはチーム屈指。球団経営にも大きく貢献して、松坂獲得は大成功だ。

「竜の松坂」の復活ストーリーは、さらに続く。体調に問題なければ、次の登板は今週末のソフトバンク戦(8~10日、ナゴヤドーム)が濃厚。退団時に「いろんな人に恩返しするためにも、再び1軍のマウンドに立つことを目標に」と述べたコメント通り、古巣相手に「怪物の恩返し」が実現するか。

王者ソフトバンクは先発陣を故障で欠きながら打線が奮起して、交流戦に入って負けなしの6連勝。強力打線を抑え込めば、松坂の日本球界復帰、投げられなかった日々も見守ってくれたソフトバンク・王貞治球団会長(78)にも認めてもらえるはずだ

古巣との因縁対決は、今季前半の最大の見せ場になる。中日はその翌週、交流戦の最後で西武と3連戦(15~17日、メットライフドーム)を控えており、松坂の登板間隔次第では所沢へ「凱旋」する可能性もある。

甲子園で春夏連覇を果たした「怪物伝説」の始まりから20年。そして夏の甲子園が今年、100回大会を迎える。主役の座に戻ってきた松坂が、どこまで新伝説を築くことができるか注目だ。