内田篤人、臨時コーチとして感じた“なでしこジャパン”の成長「全然立ち位置が違う」課題だった守備に変化の兆し
2024年12月、なでしこジャパンの監督にニルス・ニールセン氏が就任した。日本女子では初めてとなる外国人監督だ。
新体制で迎えた初陣は、今年2月の「シービリーブスカップ」。世界ランク1位のアメリカ相手に13年ぶりの勝利を収め、同大会初優勝という最高のスタートを切った。
実はこの快挙の裏には、ニールセン監督がすすめる“新スタイル”への挑戦があった。
テレビ朝日のスポーツ番組『GET SPORTS』では、臨時コーチを務めた内田篤人氏や司令塔・長谷川唯の証言を通じて、なでしこジャパンの改革に迫った。
◆パリ五輪で突きつけられた課題
2024年のパリ五輪。3大会ぶりのメダルを目指していたなでしこジャパンは、アメリカに敗れ、ベスト8で姿を消した。
帰国直後、司令塔の長谷川唯は“守備の課題”を口にしていた。
「前からプレスをかけて、裏もやられないというところを目指すべきだと思います」
「前からのプレス」は、森保ジャパンでも実践している戦術。守備の際、ボールを持つ相手選手に前(相手陣地)からプレッシャーをかけにいき、その攻撃の芽を摘む。それこそが、なでしこジャパンが目指す新たなスタイルだ。
実際に、パリ五輪の試合を元日本代表の内田篤人氏に見てもらうと…。
内田:「やっぱりボールにプレッシャーをかけにいけていないですよね。今のサッカーはどこの位置にあってもボールを奪いにいくのがモダン。前(の選手)は『いけ』と言われればいけると思います。後ろ(の選手)がちょっと怖がってではないですけど、まずは守備から入ろうという形だったんじゃないかな」
内田氏は前からプレスにいくメリットについて、「手数少なく、一気にゴール前やシュートまで持っていける」と語る。前からプレスをかけてボールを奪えた場合、そのまますぐに攻撃に転じることができるという。
しかし一方で、大きなリスクも。
内田:「後ろがしっかりディフェンスラインを構築して、前に押し出せる状況がないと。前と後ろで別々の動きだったり、意思疎通ができていなかったら、簡単に攻められてしまう」
選手同士の意思疎通――。それは、長谷川も感じていた。
長谷川:「前線からしたら自分のマークがフリーになるからプレスにいけないとか、ディフェンスからしたら相手が裏に蹴れるからディフェンスラインを上げられないとか、お互いがいきづらい時がたくさんある」
前からプレスをかけるには、前後の選手同士の連携が必要不可欠。もし連携できていない状態でプレスをかけてしまうと、ディフェンスラインの裏を狙われ、そこから大きなピンチを招くリスクがある。
パリ五輪の敗戦から2か月。なでしこジャパンは前からプレスにいく練習を繰り返しおこなっていた。そこには、臨時コーチとして指導する内田氏の姿も。
内田:「急にパって集まって『前からいきましょう』って言ったら、実は全然良くできなくて…。その中でも、チームがこうしようって決めたら、難しいという意見はありながらも同じ方向を向いていくなでしこのタフさを僕は見ていました」
守備と攻撃の選手同士、それぞれの選手が声を掛け合い、何度も連携を確認していた。
◆新スタイルの手応え、そしてアメリカ撃破
そして今年2月。その成果を試す大会「シービリーブスカップ」がやってきた。
試合前にはニールセン監督から、「勇気を持って主導権を握ってほしい。相手が来るのを待たなくていい。コントロールしよう」という声掛けが。
長谷川は「(監督は)すごく自信を持たせてくれて。『アグレッシブに』っていうところはすごく強調されていました」と振り返る。
2戦目のコロンビア戦では、前からのプレスをきっかけにボールを奪い、すぐに攻撃へと切り替え、ゴールを決めた。取り組んできた“前からのプレス”が得点に繋がった理想的な形だった。結果は4対1と快勝。
内田氏もその進化に目を見張る。
内田:「(パリ五輪のときと)全然立ち位置が違いますし、FWも前屈みですからね。『出たらいくよ』っていう意識は、やっぱり相手ディフェンダーやボール保持者にとっては嫌ですよね」
そして迎えたアメリカとの優勝決定戦。日本にとってはパリ五輪で敗れた因縁の相手だ。
この試合でも前からプレスをかけてボールを奪うと、日本のスローインから長谷川のスルーパス。開始わずか2分で日本が先制した。
その後同点に追いつかれるも、後半にフリーキックでこぼれ球を押し込み、再びリードを奪う。最終的に、アメリカを相手に13年ぶりの勝利を収めた。
長谷川:「今回の収穫としては、怖がらずに前から人数をかけて、しっかりプレスをかけていけた。この挑戦によって、全員が自信を持って『前からプレスにいけるんだ』っていう感覚をつかめたので、そういう成功体験が出来たのはチームとしてすごくプラスだったと思います」
パリ五輪での課題を糧に、世界の頂点を目指す彼女たちの挑戦は続く――。
※番組情報:『GET SPORTS』
毎週日曜 深夜1:55より放送中、テレビ朝日系(※一部地域を除く)