青木宣親、球史に残るヒットメーカーの打撃の秘訣「左手の使い方を覚えてヒットが出始めた」
テレビ朝日のスポーツ番組『GET SPORTS』では、今季限りで現役を引退した元東京ヤクルトスワローズ・青木宣親と、北海道日本ハムファイターズ チーフ・ベースボール・オフィサー栗山英樹がスペシャル対談。
日米通算2730安打を放った青木の打撃術をテーマにトークを繰り広げた。テレ朝POSTでは、対談の模様を前後編で紹介する(前後編の前編)。
◆「芯を食えるかどうかで打撃は決まる」
【映像】青木宣親×栗山英樹 ~2730安打のバッティング教科書~
栗山:「僕はキャスター時代から青木さんにバッティングについて随所で聞かせてもらって、名言というか、野球界を支えてくれた言葉がいくつかあったんです。例えば『バント練習でバットを下に向けてもゴロは打てますよ』という言葉。あれってどういうことだったのか、教えてもらっていいですか?」
青木:「バント練習の時にフライが上がることがあるんですけど、バントはゴロじゃないとダメじゃないですか。確実に転がしたい。そう思って、どういう打球がいくのか実験みたいな感じでいろいろやってみたんですね。そしたら極端にバットのヘッドを下げてもゴロって転がるんですよ」
栗山:「バットを下げるとフライになりそうなイメージがありますけど」
青木:「そうなんです。でもよく考えれば、バットがどの方向にあっても、バットの下に当たればゴロは絶対転がるし、バットの上に当たればフライは上がるんです。それに気づいて、結局芯を食えるかどうかで打撃も決まるんだと。
じゃあ芯に入れるためにはどうしたらいいか。極端にバットのヘッドを下げるイメージでもゴロは転がりますし、当時僕は足が速かったので、やっぱり三遊間にゴロを転がせばヒットになる可能性が高い。それが大学時代から培われた原点ではあったんですけど、その原点すら1軍の舞台では使えなかったですね。
当時の自分のフォームをビデオのスローで見ても、バットでボールを切っているので、体の開きが速くなって、バットのヘッドが返ってしまう。落ち球系のボールにハーフスイングもできないんですよ。三振、三振で。そもそも当て勘で入ってきた人間がボールに当たらない時点でもう勝負になっていないですよね。何か変えなきゃと思って、バント練習を打撃に活かせられないかと思ったんです」
プロ2年目の2005年。4月終了時点での打率は2割3分と、青木はバットにボールを当てることすらままならず、武器である足を活かすこともできずにいた。
そんななか、バント練習中にあることを発見。それは、ボールを転がすにはバットの向き以上に、バットのどこに当てるかが大事だということ。
それに気づいてから、いかにしてバットの芯で捉えるかを考えるようになったという。
さらにそれから4年後の取材でも、栗山はもうひとつ、青木のバッティングの極意を聞いていた。
栗山:「(2010年のインタビューで)『ボールに対してバットを後ろから面で入れる』『フラットに振る』という表現をよくされていましたけど、あれは野球界的にすごくインパクトがありました。やっぱりそういうところから繋がっていくんですか?」
青木:「そうですね。どちらかといえば自分はあまりトップが深いタイプではなかったので、バットに対して手が真っ直ぐ張れないんですよ。ちょっと後ろ目からバットを振るぐらいで」
栗山:「張りができる?」
青木:「多少そうですね。そんなイメージが当時はありました。ちょっと後ろ目(キャッチャー側)からバットを振るような感じにすると、手が(キャッチャー方向へ)少し張れるというか」
2010年のインタビューで、青木はこんな言葉を残していた。
「ボールがまっすぐ来るのに対して、後ろから面で入れてあげるというか、そういう意識はあるんです。後ろから入れるということは、それだけフラットに振る。当たるポイントがいくつもあれば、ヒットを打つ確率も高くなる」
追求してきたのは、ボールの軌道に対して、バットを平行に入れる「フラットなスイング」。
かつては基本とされ、青木も一時採り入れていたダウンスイングは、ボールを捉えるポイントが点になってしまう。一方、フラットなスイングは、ボールをミートするポイントが増え、芯に当たる確率は格段にアップ。ヒット量産に繋がるという。
このスイングこそが、青木が引退するまで追求し、球史に残るヒットメーカーになった秘訣だった。
◆「左手の使い方を覚えてヒットが出始めた」
そして、フラットに振るためには、いくつか重要なポイントがあるという。
青木:「後ろからバットを持ってこようとしたほうが、左肘が内側を通ってくるので(良い)。左手の使い方を覚えてヒットが出始めたというのもあります」
栗山:「後ろの肘の使い方はどうすればいいですか?」
青木:「バットはインサイドから出さないと、バットのヘッドが立たないんですよ。バットのヘッドが立たないと打てないじゃないですか。バットのヘッドが寝てしまうと、体も開いていくので、どんどん打てなくなる。そうならないためには、やっぱり手が肩のラインにあるトップの状態で、左肘からスイングに入ることですね。そうしたらバットも立った状態でインサイドから出るので」
栗山:「ということは、左肘の位置が決まればある程度(バットが)内側から出せるし、理想的な形になっていく」
青木:「そうですね。バット(のヘッド)が返ってゴロになることも減りますし、前へ前へフォローが出やすくなります。アウトサイドから出そうとするとヘッドが返るので絶対に切ってしまうんですよ。インサイドから出すから前にフォローが出るんです」
栗山:「なるほど。青木さんのタイプとしては、どういう風に肘が入っていくイメージですか?」
青木:「自分の場合は、人よりも左肘がちょっと柔らかいので、どちらかというと手のほうからいくようなイメージですかね」
栗山:「それで自分の理想的な形にしていく。やっぱりそれは自分で見つけていくしかないですよね」
青木:「そうですね。その辺の感覚はやっぱり人それぞれなので」
フラットなスイングをするには、左肘を脇腹につけるような状態でインパクトを迎え、そこから大きく前へ振り抜く。内側からバットを出し、ヘッドを立てることが重要。
そしてここからは青木流。肘が人より柔らかく、内へ入りすぎてしまう青木は、肘を入れようとする感覚ではなく、左の手の平で押し込むような意識だという。
◆フラットに振るためのバットの握り方
くわえて、スイングをフラットにするためにもうひとつ、青木ならではの大事なポイントがあった。
栗山:「バットの握りっていろいろあるじゃないですか。どんな感じなんですか?」
青木:「自分は左手がちょっと特徴ありますね。人差し指と親指の間ぐらいで押すようなイメージですね。普通は中指と薬指と小指で握るんですけど、その握り方だと変な力が入って、バットを振る時に左の肘が出そうになるんです。左肘が入りすぎて下から出るような感じになっちゃうので、やっぱりヘッドを立たせたいと思って、この握り方になりました」
栗山:「ちょっと抑えられるイメージですかね」
青木:「そうですね。ちょっとヘッドが下がるなと思えば、右手と左手の間を開ける時も。ちょっと開けたらヘッドって立つんですよ。剣道と一緒ですね」
青木は、バッドを握る左手も独特。親指と人差し指でバットを握り、残り3本の指は緩め。
こうすることで、内側からバットを出し「ヘッドを立てる」感覚が持て、フラットなスイングがしやすくなるという。
◆「体の仕組みをわかると全然変わってきます」
そして再び話は、誰もが参考にできる、左肘を理想的に使うためのポイントについて。
青木:「自分流じゃなくて、誰にでも当てはまるようなことを言いますけど、肘の位置を良い位置にするには、肩の位置が下にないとダメなんです。肩甲骨を下に下げないと」
栗山:「なるほどね。肩甲骨が上がっちゃダメなんだ」
青木:「例えば肩を上げると、肘って絶対近くにいかないですよね」
栗山:「離れます」
青木:「絶対離れるんですよ。肩を下げると肘の位置は下にいって(バッドは)内側から出るんです。これ、実はみんなわかっていないことで」
栗山:「確かに肩を上げたら肘は離れますね」
青木:「そうなんです。ピッチャーもそうなんですけど、肩甲骨が上がると肘は上がらないんです。よく『肘を上げろ』って言いますよね。あれは肩甲骨が下がっているから肘が上がるんです。これをわかっているだけでも随分違います。結構多いんですよ」
栗山:「でもあんまり言わないですよね、青木さん」
青木:「現役だったのでやっぱり言わなかったです(笑)。今はもう引退したので、全然いいんですけどね。肩甲骨を下にしないと肘が内側から出ないというのはわかりましたよね?」
栗山:「はい、わかりました」
青木:「そういうふうに体の仕組みがわかると全然変わってきます。よく後輩たちも『青木さん、手の位置どこですか?』とかいろいろ聞くじゃないですか。そういうことを話してやると理解しやすいですね」
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青木×栗山対談、後編のテーマは「超一流選手になるために後輩たちに伝えていること」。
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※番組情報:『GET SPORTS』
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