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監督に送った1通のメールから6年。俳優・宮田佳典、企画から参加した代表作の誕生に喜び「念願が叶って本当にうれしい」

救急看護師として約10年間勤務したという異色の経歴を持つ俳優・宮田佳典(みやた・よしのり)さん。

映画『あゝ、荒野 後編』(岸善幸監督)、映画『ドライブ・マイ・カー』(濱口竜介監督)、連続テレビ小説『まんぷく』(NHK)などに出演。第80回ベネチア国際映画祭で銀獅子賞(審査員大賞)をはじめ、多くの賞を受賞した濱口竜介監督の映画『悪は存在しない』が公開中。

企画から参加した映画『SUPER HAPPY FOREVER』(五十嵐耕平監督)が2024年8月28日(現地時間)、第81回ベネチア国際映画祭ベニス・デイズ部門にて日本映画初のオープニング上映作品となり話題に。この映画は、9月27日(金)より新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー公開される。

 

◆“いい人”じゃない役はうれしかった

高校時代からボクシングをはじめた宮田さんは、『あゝ、荒野 後編』(岸善幸監督)、『BLUE/ブルー』(吉田恵輔監督)、『ケイコ 目を澄ませて』(三宅唱監督)、『春に散る』(瀬々敬久監督)などボクシングが題材の出演作品も多い。

映画『ドライブ・マイ・カー』、『TOKYO VICE season2』(WOWOW)、『全裸監督 シーズン2』(Netflix)、『ボイスII 110緊急指令室』(日本テレビ系)など幅広いジャンルの作品に出演。

現在公開中の映画『悪は存在しない』の舞台は、自然豊かな高原に位置する長野県水挽町。その地で巧(大美賀均)は、小学生の娘・花(西川玲)と慎ましい生活を送っていたが、家の近くでグランピング場の設営計画が持ち上がる。それは芸能事務所が、政府からの補助金を得て計画したものだったが、町の水源に汚水を流そうとしていることがわかる…という展開。宮田さんは、芸能事務所が依頼した経営コンサルタント役を演じた。

濱口竜介監督は、『ドライブ・マイ・カー』でアカデミー国際長編映画賞、カンヌ国際映画祭脚本賞、『偶然と想像』でベルリン国際映画祭銀熊賞(審査員グランプリ)、この作品でベネチア国際映画祭・銀獅子賞(審査員大賞)を受賞するなど、国際的にも高く評価され注目を集めている。

「濱口監督とご一緒させていただいた『ドライブ・マイ・カー』の前に行っていた現場が『全裸監督 シーズン2』だったのですが、そのときはレギュラー助監督の役が数人いたので、現場で前に出ないと目立たないというか、何か爪痕を残さなければいけないという感覚で現場に臨んでしまっていて。

濱口監督はそのような芝居を求めていないと作品を見て思っていたのですが、『ドライブ・マイ・カー』の現場ではどうしても前に出てしまう感じになってしまって、もう少し控えるような演出をしていただいた記憶があります。

とくに僕の役は存在を残してしまうことで違う物語が生まれてしまうというか。作品のために生きないと、とあらためて気付きました」

――『悪は存在しない』の宮田さんは、強引で怪しげな経営コンサルタントでおもしろかったです。珍しくイヤなヤツだなと。

「そうなんです。今までずっといい人の役ばかりだったので、すごくうれしかったです(笑)」

――濱口監督は、現場ではどんな感じですか?

「濱口監督のメソッドだと思いますが、言葉遣い、語尾、間など、とても繊細でした。撮影前日に本読みがあったんですけど、読んでいるときにどんどん変わっていって。リハーサル含めてとても貴重な時間でした。

何回も読んで身体に落とし込んでいく。本番はそれを忘れて演じる。カメラ前に立ったときにはしっかりと役が自分のなかに落ちているというか、口とからだが勝手に動いていく感覚なんですよね。だからこそ、見ていただいた感じになったのだと思います。

それまで僕はセリフに対しても不安を持っていました。ワンシーンの出演はやっぱり緊張しますし、現場に迷惑をかけたくないというか、セリフが飛んだらどうしようみたいな。でも、あれだけ繰り返してやっているとそんな不安も感じなくなりました」

――濱口監督は、海外でも高い評価を受けていてこの作品もベネチアで賞を受賞しました。

「参加できて本当にラッキーだと思っています。『ドライブ・マイ・カー』の自分の芝居のこともあり、自分ではもうダメだろうなと思っていたときにお声がけいただいたので、本当にうれしかったです。

当初、石橋英子さんのライブ映像として撮影、顔は出るけれどセリフのところには音楽がかかると聞いていましたが、最終的に映画になって。本当にありがたかったです」

©2024 NOBO/MLD Films/Incline/High Endz

※映画『SUPER HAPPY FOREVER』
2024年9月27日(金)より新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー
配給:コピアポア・フィルム
監督:五十嵐耕平
出演:佐野弘樹 宮田佳典 山本奈衣瑠 ホアン・ヌ・クインほか

◆代表作が欲しいと思ってはじめた作品

2024年9月27日(金)には、俳優仲間の佐野弘樹さんとともに企画から立ち上げた映画『SUPER HAPPY FOREVER』が公開になる。この作品は、海辺の街を舞台に、青春期の終わりを迎えた人々の“奇跡のような幸福なひととき”を描いたもの。2023年、第71回サン・セバスチャン国際映画祭でプレミア上映された短編映画『水魚之交(すいぎょのまじわり)』を基に製作された。

伊豆のリゾートホテルにやって来た幼なじみの佐野(佐野弘樹)と宮田(宮田佳典)は、思い出の場所を巡りながら、かつて失くした赤い帽子を探しはじめる。そこは5年前、佐野が亡き妻・凪(山本奈衣瑠)と初めて出会い、恋に落ちた場所で…というストーリー。

――佐野さんと2人で五十嵐監督にお仕事しましょうというメールを送ったのがきっかけだったそうですね。

「6年前、最初に会ったとき、五十嵐さんに僕ら2人が主演の作品を撮ってくださいとお願いしたんです。でも、五十嵐さんは、そのとき準備している企画がなくて(笑)。

『じゃあ2人でちょっと考えてきます』みたいな感じで2年ぐらいかかって長編2本書いたんです。その間もずっと話し合いを繰り返していました。たくさんの時間を共有するなかで、ある日五十嵐さんが書きますと言ってくれて、始まっていきましたね。

そのときにちょうどプロデューサーの大木真琴さんと江本優作さん、脚本家の久保寺晃一さんが入ってくれて、まずは短編を撮ろうということになって、完成したのが『水魚之交』でした。

それがいきなりサン・セバスチャン国際映画祭でプレミア上映されて! 映画祭に僕たちは行けなかったのですが、本当にうれしかったです」

ベネチア国際映画祭にて

――長編になるにあたって変更したことは?

「僕と佐野くんが幼なじみという設定は一緒です。そこに長編では凪という役が加わって、赤い帽子を探しに行くという物語になったので、結構変わりましたね」

――凪役の山本(奈衣瑠)さんは、宮田さんがオーディションで出会ったのがきっかけだったとか。

「そうなんです。山本さんが主演される作品のオーディションで相手役をさせていただきました。僕はその作品には関わらなかったですが、上映会に行ったときに、たまたま隣に山本さんとマネジャーさんが座られたんです。

ちょうど凪の人物像をみんなで話し合っていたときだったのですが、ふと山本さんを見たら服装がおしゃれで。きっと赤いキャップを被ったらすごく似合うんだろうなぁ〜って思ったんです。

何か凪っぽいというか、凪って呼びたくなるというか。それで皆に提案したら『とても良いね』ってなって、そのままキャスティングにつながりました。

佐野くんとも話したんですけど、企画、台本からずっと関わっていたので、撮影の初日、凪が衣装を着て歩く最初のシーンを見たときはすごく感動しましたね。『ああ、凪が歩いている』ってなって。2人ではしゃいでいました(笑)」

――キャラクターの設定も、それぞれおもしろいですよね。宮田さんはボクシングをやっていますが、ちょっと怪しげなセミナーみたいなのにハマっていて。

「そうなんですよね。だから佐野くんのことを心配していろいろ言ってもあまり真剣に受け止めてはもらえない。劇中の宮田が言っていることも共感する部分があると思うので、そこも見ている人はおもしろいんじゃないかと思います」

――今回、エンドロールに佐野さんと一緒に企画としてもお名前が出てらっしゃいますが、ご自身でご覧になっていかがでした?

「佐野くんとめちゃくちゃうれしいねって話していました。自分の名前が企画のところに載るというのは感慨深いなって」

――そもそもお二人が行動を起こさなかったらこの作品は誕生してなかったわけですからね。

「自分たちの代表作を作りたいと言って動きはじめた結果、そこに監督、脚本家、プロデューサー、出演者、スタッフの皆さん、本当にたくさんの方が参加してくれたおかげで完成できたと思います。言ってみることも必要だと思いましたし、今は何より携わってもらった方々への感謝の気持ちがすごくあります」

ベネチア国際映画祭にて

――間もなく劇場で公開されるわけですが、いかがですか?

「不思議な感覚です。最近、この映画の感想をずっと考えていたんですけど、なかなか言えなくて。自分が参加した他の作品の感想だったら結構具体的に言えると思うんですけど、なんでだろうなと。

今回とくに製作にガッツリ関わっているとかではないですけど、もしかしたらこの作品に関して僕は感想を求める立場にあるのかもしれません。全部のシーンが好きで思い入れもあるので、感想はゆっくり探します(笑)」

――念願通り新宿武蔵野館も公開劇場に入っていますね。

「はい。五十嵐さん、皆さんのおかげです。最初に五十嵐さんに出したメールに『僕らは新宿武蔵野館で上映したいと考えています』って書いていたので、それが叶って本当にうれしいです」

――今後はどのように?

「今は舞台とか、朗読劇の企画を考えたりしています。自分の人生なので、誰かに任せるというよりは、自分でも行動していくということを大事に進んでいきたいなと思っています。

オファーが来るのを待つより、作るマインドでいたほうが、人生も楽だし、楽しいんじゃないかなって(笑)。

あとは芝居の研究みたいなことをするのも好きです。今年から週2、3回くらい、午前中とかに朝練みたいな感じでやっていますが、そうすると感覚が研ぎ澄まされていくというか、瞬発力を求められる現場や演出に対してもいつもと変わらなく対応できるようになってきたと思います。

一流の人は、毎日撮影じゃないですか。だからどんどんうまくなっていく。僕は毎日何かをしなくてはうまくならないのではないかと思っていて。もちろん俳優は練習だけでないのが難しいところですが、そういう研究というか練習で勝手に忙しくしている感じです。

これが正しいかどうかはわかりませんし、不安だからしているだけかもしれませんが、それが現時点での答えのひとつですね。あと、恥ずかしいですが自分の自伝みたいなものを書いています(笑)」

演技に対する真摯な姿勢が気持ちいい。企画から参加した映画『SUPER HAPPY FOREVER』がベニス・デイズ部門での日本映画初のオープニング上映作品となり、初めての海外がベネチア国際映画祭となった宮田さん。貴重な経験を糧にさらなる活躍を楽しみにしている。(津島令子)

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