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俳優・玄理、目標だった3カ国を拠点にした活動。日本と海外の違いに苦労も「私の居場所はここだけじゃないって思える」

2014年、主演映画『水の声を聞く』(山本政志監督)で第29回高崎映画祭最優秀新進女優賞を受賞して注目を集め、多くの映画、ドラマに出演している玄理(ヒョンリ)さん。

日本語、韓国語、英語を話すトリリンガルとしても知られている。2017年から5年間、J-WAVEのパーソナリティとして毎週日曜日3時間の生放送をこなすなど幅広い分野で活躍。『アトムの童(こ)』(TBS系)、『弁護士ソドム』(テレビ東京系)、『院内警察』(フジテレビ系)、『Eye Love You』(TBS系)など連続ドラマにも多数出演。

2024年7月26日(金)には声優に初挑戦したアニメーション映画『めくらやなぎと眠る女』(ピエール・フォルデス監督)が渋谷ユーロスペースほか全国で公開される。

 

◆日本、韓国、アメリカに拠点

日本だけでなく、海外の作品にも多く出演している玄理さん。現在、日本、韓国、アメリカの3カ国のエージェントと契約して活動している。日本との違いと海外の作品への想いを聞いた。

――韓国やアメリカのドラマは本数が多いですね。

「そうですね。全16話や24話など日本に比べると多いです。日本の場合は、結構早い段階でオファーが来て、撮影のスケジュールが来年とか年末とか決まると、その通りに進んでいくことが多い印象です。

韓国もわりと早くお話が来るんですけど、その通りに始まるかわからないというのがあって。人気の脚本家さんの作品だと、有名な俳優さんでも1年とか2年待ったという話をよく聞きます。

アメリカにも契約している事務所があるんですけど、アメリカの場合はかなりの大作でもオーディションを受けてすぐ3カ月後から撮影ですとか、たとえば6月頃にオーディションの連絡が来て、年末に南アフリカで撮影ですということもあります。国ごとに仕事が決まってから撮影までのタイミングが違うので、そういう調整の難しさというのはあるかもしれないです」

――今3カ国に拠点を置いているそうですが、スケジュール調整が大変では?

「日本と韓国とアメリカ、それぞれに拠点を置いて仕事をしていきたいというのは、20代のときから目標にしていたことでした。

これは他の仕事にも通じるかもしれないですけど、たとえば自分の居場所がここだけとなったときに、追い詰められてしまう人って私も含めて結構いるんじゃないかなと思って。でも、『私の居場所、ここだけじゃない』って思えることの精神的な余裕や心強さってあると思うんですよね。

アメリカが3、4年前で、韓国は2年ほど前から拠点ができたのですが、私は今のスタイルにしたいと思って20代から模索していたところがあったので、やっと形になったという感じはあります」

2021年に劇場公開され、第71回ベルリン国際映画祭で審査員グランプリ(銀熊賞)を受賞した濱口竜介監督初の短編オムニバス『偶然と想像「魔法(よりもっと不確か)」』に出演。

――濱口監督は、海外でも数多くの賞を受賞されて注目されていますね。

「濱口監督は出会いから印象的でした。最初は『天国はまだ遠い』という短編を撮るというのでオファーをいただいたのですが、面識がなかったので、たしか下北沢の餃子屋さんでご飯を食べたんです。

そのときに会話の中で『どういう人が好きですか?』って聞かれたので、自分なりに一生懸命考えて答えた後、『濱口さんはどうですか?』って聞いたら『僕は優しい人が好きですね』っておっしゃったんです。何かそれにすごい感銘を受けました。

私は仕事をしながら業界の中でも仲良くしていた友だちもいたし、多くのすばらしい監督にも会ったけど、やっぱり常に見られていたし、常に選ばれる仕事なので、ずっと緊張感があったんです。

でも、自分にないものというか、あるいは自分が忘れかけていたものを、こんなにスーッと言葉にしてくれる人がいるんだと思って。それから私は他の人に同じ質問をされると、『優しい人が好きです』って言うようにしています。

監督作としては2作品、脚本を書かれた『スパイの妻』(NHK)を入れると3作品ご一緒させていただいていますが、仕事以外のときは別に会ったりはしません。

でも、お互いが賞を獲ったり、何かお祝い事があると、すごく早いスピードでメールをくださったりするんです。濱口さんは最近賞をたくさん獲られているので、私も邪魔にならない程度に『おめでとうございます』というお祝いメールを送ったりしています」

――濱口監督の現場はどんな感じですか?

「作品の作り方も独特で、台本を覚えて行っちゃいけないんです。現場で集まってから台本を出演者みんなで“いっせいのせ”で、1行目から最後のページまで覚えていくんです。

一人ひとり全員がそのページを覚え終わるまではずっとそのページをやって、覚えたらみんなで一緒に次のページに行って…というやり方。ものすごい結果を出しているじゃないですか。海外でもいろいろな賞を受賞されて。

人格もすばらしい上に、そうやって自分独自で演技とは何か、芝居とは何かというのを追及していらして。過去にワークショップを開いたりしながら、一般の希望者の方を集めたワークショップで『ハッピーアワー』という作品を作ったり」

――上映時間317分、5時間を超える作品でした。第68回ロカルノ国際映画祭で主演4人が最優秀女優賞を受賞されましたね。

「独自のやり方で真摯に作品だったり芝居と向き合っている方なので、尊敬していますし、気負いがないところがいいです。飄々としているんです。『俺ってすごい』みたいなところが本当にないんです。そこがすごいと思います。『いつ呼ばれても走って駆けつけます!』みたいな、そういう信頼とか心強さがあります」

 

◆亡き父と話しているような気持ちに

2024年1月には2本の連続ドラマ『院内警察』(フジテレビ系)と『Eye Love You』(TBS系)に出演。『院内警察』は、日本有数の大病院内に設置された「院内交番」を舞台に、元警視庁捜査一課の敏腕刑事・武良井治(桐谷健太)と天才外科医・榊原俊介(瀬戸康史)の“正義”がぶつかり合う様を描いたドラマ。

玄理さんは、外科医・上條萌子役を演じた。医師としてかなり優秀だが、同期に天才外科医・榊原がいるため、自分が主治医の患者でも難易度の高い手術はすべて彼に回されてしまう。

そんなときに特別室に暴言で炎上中の国会議員の岩井幸吉(ベンガル)が入院してくる。マスコミや世間の目をごまかすための入院だと思われていた岩井のからだの異変にただひとり上條が気づく。病院サイドは手術の執刀医を榊原にさせようとするが、岩井は病気を発見してくれた上條を執刀医に指名する。

「ゴッドハンドの榊原ではなく自分を選んで命を預けてくれたというのはうれしいですよね。横暴で傲慢な国会議員だと思われていた岩井が実は人間味あふれる優しい一面もあるということもわかって」

――撮影中に涙が止まらなかったと聞きました。

「撮影のちょっと前の時期に私の父が亡くなったので、重なってしまって…。私が演じた上條は、家が貧しいのに自分が医学部に行きたいと言ったために父親が無理をして働いて死んでしまった。自分のせいで死なせてしまったという思いを抱えて生きてきた人なので、岩井幸吉(ベンガル)の『自分を責めちゃいかん』というセリフが心にしみて涙が止まらなくなってしまって。

ベンガルさんとのシーンを撮っているときに、父と話しているような気持ちになるときが何回かありました。いい現場でしたね。そういう意味でも俳優っていい仕事だなって思いました」

同じく1月から放送されたドラマ『Eye Love You』は、目が合った相手の心の声が聞こえる“テレパス”をもつ主人公・侑里(二階堂ふみ)と年下の韓国人男性テオ(チェ・ジョンヒョプ)の恋模様を描いたもの。玄理さんが演じた韓国人投資家ミン・ハナは、侑里と同じく目が合うと相手の心の声が聞こえてしまう能力をもっていて、過去の経験から自分の能力を呪っている。

「前に出させていただいた『アトムの童(こ)』(TBS系)の監督が呼んでくださったのですが、『アトムの童』から1年ぐらいしか空いてないので、また会えてうれしかったです。『何か年1で会えそうですね』みたいな話をしながら(笑)。

韓国語ができるスタッフさんも3、4人くらい入っていらっしゃいましたし、在日のバックグラウンドがある方、韓国から日本に来て仕事をしているスタッフさんも2人ぐらいいました。あと、ジョンヒョプさんのマネジャーさんと通訳さんという感じでした」

――ジョンヒョプさんは韓国語でお話ができるので玄理さんがいてうれしかったでしょうね。

「日本語が多少話せるとは言っても、彼にとって日本語は外国語なので、そういう意味では話す相手もそうだし、周りで何を言っているかよくわからないというのはストレスになっていたりするかもしれませんね。

私も留学したときに『何を言っているんだろう?』というのが、最初の段階で結構あったので、そのストレスとか気持ち、心細さみたいなものを思い出しました。でも、ジョンヒョプさんは、本当にストイックというか、悩みながら一生懸命やっていたように見えたので偉いなあと思いました」

©2022 Cinema Defacto Miyu Productions Doghouse Films 9402-9238 Quebec inc. (micro_scope Productions l’unite centrale) An Original Pictures Studio Ma Arte France Cinema Auvergne-Rhone-Alpes Cinema

※『めくらやなぎと眠る女』
2024年7月26日(金)より渋谷ユーロスペースほか全国ロードショー
配給:ユーロスペース、インターフィルム、ニューディアー、レプロエンタテインメント
監督:ピエール・フォルデス
日本語版演出:深田晃司
声の出演:磯村勇斗 玄理 塚本晋也 古舘寛治 木竜麻生 内田慈 平田満 柄本明

玄理さんが声優に初挑戦したアニメーション映画『めくらやなぎと眠る女』が、7月26日(金)から公開される。これは、村上春樹さんの6つの短編『かえるくん、東京を救う』『バースデイ・ガール』『かいつぶり』『ねじまき鳥と火曜日の女たち』『UFOが釧路に降りる』『めくらやなぎと、眠る女』を翻案し、初めてアニメ化した作品。

2011年、東日本大震災直後の東京。置き手紙を残して姿を消した妻・キョウコ(声:玄理)、妻の突然の失踪に呆然としながら北海道に向かうことになる小村(声:磯村勇斗)。同じ頃のある晩、小村の同僚の片桐(声:塚本晋也)が家に帰ると、そこには2メートルもの巨大な“かえるくん”(声:古舘寛治)が彼を待ち受けていた…。

「最初にお話いただいたときに英語オリジナル版も一緒に送っていただいたので、とりあえず見てみたらすごくおもしろくて。タッチもフランスの監督だからなのか違いますよね。居心地がいいというか。

それこそ韓国ドラマみたいな緩急があるわけじゃないけど、ずっと雲みたいに物語が漂っていて、でもちゃんと進んでいるみたいな感じで。ずっとここにいたいなって思うような、終わってほしくないなって見ながら思いましたし、終わった後もずっとこの作品の中にいたいなっていうような感覚があったので、『絶対やります!』みたいな感じで、今年3月、4月で声を録りました」

――監督が声の出演をする日本の俳優にもこだわりをもっていたそうですね。

「ピエール監督が、この作品はライブアクションと言って、カナダの俳優さんが動いた声とか目の動きとかを全部動画にしてアニメに起こしているから、声は声優さんではなく、俳優さんでというこだわりがあったみたいです」

――声の収録はどのように?

「ブースにマイクもありつつ、ドラマや映画の撮影で使うようなガンマイクを持った技師さんが追いかけてくださっていました。

ただ、私の役はわりと座って話している場面が多かったので、あまり激しく動くことはありませんでした。広い部屋全体がスタジオになっていました。

一室の両脇の壁に椅子がついていて、そこに俳優さんたちが座ったり、監督が床に座ってストレッチをしたり、通訳さんやプロデューサーさん、配給の会社の方がいたり…常に10何人いるという感じでした」

――日本語版の演出は深田晃司監督なのですね。

「そうなんです。深田監督はお仕事をしてみたい監督のお一人だったので、それも大きかったです。もちろん原作が村上春樹さんというのもありますけど、深田監督というのはすごく大きかったですね。

私は村上春樹さんの原作は好きなものが多くて。韓国の演技学校に行っているとき、最初はモノローグの授業から始まるので、『ノルウェイの森』を自分で全部韓国語に直して、モノローグにして、ひたすら練習していましたね。

エッセイもよく読んでいましたし、映画化された作品も全部見ていたのでうれしかったです。それこそ『ドライブ・マイ・カー』は濱口竜介監督ですし、『バーニング 劇場版』はイ・チャンドン監督、『ノルウェイの森』がトラン・アン・ユン監督、そこにこの作品が初のアニメ映画ということで加わると考えると、それだけでうれしいです」

――玄理さんの声の雰囲気がいつもと全然違いましたね。

「本当ですか。ありがとうございます。うれしい。不安だったんです。というのは、このオリジナル版が好きすぎた分、頑張りたいという思いが強くて(笑)。

私の録音が日本版収録の初日だったんですね。ほぼ80%くらいのシーンを録るということだったので、家で練習していたんです。

オリジナル版を見ると、私より声が太いし、(キーが)低かったので、どうしたらいいかなと思って。いきなりキーを低くするのも作りっぽくなると思って考えた結果、からだを弛緩(しかん)させてしゃべったら一番近かった。

それで、初日に椅子に足を上げた状態でなるべくからだをリラックスさせて録っていたんですね。だから、ピエール監督は最初、私のことを態度の悪い女優だと思った可能性はあるんですけど(笑)。

でも、からだを弛緩させてしゃべる声が、一番この体格とテンションと年齢で出るキョウコさんの声に近いかなと思ってやったら、『もうちょっと普段っぽい感じでしゃべって』って言われて。

『私が準備してきたのは、もう終わったみたいだ』って思いました(笑)。出来上がった作品を見たら、私が作っていた声と自分の普段の声のちょうど中間のようなニュアンスが生まれていたので、いいディレクションをいただいたんじゃないかなと思いました」

――村上春樹さんの6つの短編をアニメ映画にというのは、すごい試みですね。

「そうですね。早稲田大学で英語吹替版を流しての村上春樹さんのトークイベントがあったのですが、ご本人ですら『昔書いた作品だから、どこまでが自分の書いたものなのかわからないんだよね』って笑っておっしゃっていました(笑)。村上春樹さんのことが大好きな方でも違った楽しみ方ができるんじゃないかなって思います」

――まもなく公開になりますね。今後の俳優活動はどのように?

「もう撮り終わっていたり、今撮っていてまだ発表になっていない作品が結構あるんですけど、ここ最近日本と韓国とアメリカを行き来しながら仕事ができるこの状況がすごくいいなあと思っています。世界中のいろいろな才能があるステキな方たちと仕事をしていけたらと思っています」

今年から習いはじめたというボクシングを活かしたアクションシーンも見てみたい。ワールドワイドに活躍する玄理さんの今後の活躍も楽しみ。(津島令子)

ヘアメイク:石川奈緒記
スタイリスト:KOSEI MATSUDA

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