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ワールドワイドに活躍するトリリンガル女優・玄理。新人賞を受賞した主演映画で注目「大きな階段を上らせてくれた」

2014年、主演映画『水の声を聞く』(山本政志監督)で第29回高崎映画祭最優秀新進女優賞を受賞し、注目を集めた玄理さん。

連続テレビ小説『まんぷく』(NHK)、『ミストレス~女たちの秘密~』(NHK)、『君と世界が終わる日に』(日本テレビ系)、『TOKYO VICE Season2』(WOWOW)、映画『偶然と想像「魔法(よりもっと不確か)」』(濱口竜介監督)などに出演。

2024年7月26日(金)より声優に初挑戦したアニメーション映画『めくらやなぎと眠る女』(ピエール・フォルデス監督)が渋谷ユーロスペースほか全国で公開される玄理さんにインタビュー。

 

◆家では日本語と韓国語を混ぜて会話

玄理さんは、韓国人の両親の長女として日本で生まれ、5歳くらいまでは日本と韓国を行ったり来たりする生活だったという。

「日本で幼稚園の年長さんに途中から入ったとき、転入生が珍しかったのか、みんな集まって来て囲まれて『ヒョンリちゃんて可愛い名前だね』とか、『お家はどこなの?』って親切に聞いてくれている記憶があるんですけど、何を言われているかはわかるのにまったく返事ができなかったことがあります。それまで家族としかいなかったから、日本語と韓国語を混ぜて使っていて、話せるちゃんとした言語がなかったんです。

その反動か、中学受験もありましたし、幼稚園と小学校のときはずっと本ばかり読んでいるような子で図書室にいるのが好きでした」

――ご自宅では韓国語がメインだったのですか?

「そんなこともないです。幼稚園のあとからは韓国にいたおばあちゃんや親戚と話すときには韓国語でしたけど、基本的に家の中では日本語をしゃべっていました。5歳のときなのでちゃんとしゃべることができていたのかどうかはわからないですけど」

――玄理さんは、日本語、韓国語、英語の3カ国語ができるトリリンガルとして知られていますが、英語はどのようにして習得されたのですか?

「中2のときにイギリスのオックスフォードにサマースクールで行ったのがきっかけで、そこからホームステイをしたりして、あとはほぼ独学です。でも、使わないと忘れてしまうので、英語と韓国語には毎日触れるようにして勉強しています」

――女優になろうと思ったのは、いつ頃だったのですか?

「掘り返せば本当に掘り返すだけいろいろ出てくるんですけど、それこそ小学校のときは図書館中の本を読むぐらい本が好きで、空想するのが好きだったんです。頭の中でキャラクターが遊ぶのが好きだったのかなという気もします。スカウトしていただいたのが芸能界に興味を持ったきっかけです」

――大学在学中に韓国・延世大学に留学、演技学校にも通われたのですか?

「はい。日本で単位を取れるだけ取って早めに韓国に行ったので、2年ぐらいは行っていたと思います。延世大学に留学する前後で演技学校を紹介してもらっていて、そこで演技を習いはじめたのがきっかけで、『女優をやりたい、お芝居が楽しい』と思うようになりました」

※玄理プロフィル
1986年12月18日生まれ。2014年、映画『水の声を聞く』に主演。2017年、ソウル国際ドラマアワードでアジアスタープライズを受賞。『アトムの童(こ)』(TBS系)、『弁護士ソドム』(テレビ東京系)、『Eye Love You』(TBS系)などに出演。2020年、韓国映画『路上 カオサン・タンゴ』(キム・ボンサム監督)に主演。2017年~2022年までJ-WAVE『ACROSS THE SKY』のナビゲーターをつとめる。現在は、日本と韓国とロサンゼルスの3カ所を拠点に海外の作品にも積極的に参加。『TOKYO VICE Season2』(WOWOW)が放送中。2024年7月26日(金)に声優に初挑戦したアニメーション映画『めくらやなぎと眠る女』の公開が控えている。

 

◆主演映画でベルリン国際映画祭へ

2014年、玄理さんは映画『水の声を聞く』に主演。玄理さんが演じた主人公は、友だちの美奈(趣里)に誘われ、東京・新宿のコリアンタウンで、ひと稼ぎしようと巫女をはじめる在日韓国人のミンジョン。軽い気持ちではじめたことだったが、彼女の元に救いを求めて訪れる人が後を絶たず、やがて宗教団体「真教・神の水」の教祖に…という展開。

この映画で玄理さんは、第29回高崎映画祭最優秀新進女優賞を受賞。2015年ベルリン国際映画祭フォーラム部門に正式出品された。

――出演されることになったのは、オーディションですか?

「オーディションではなかったです。山本監督とはワークショップをやっていらした関係で知り合いました。『水の声を聞く』が決まって、ほかの出演者の方たちと一緒にワークショップを受けていたのですが、会ったときに『おもしろい』って思ってくれたみたいです」

――主演と聞いたときはいかがでした?

「すごくうれしかったです。あとで監督に聞いたのですが、ワークショップに来ている他の俳優さんたちを見たときに、何か信じるものが欲しい人たちに見えたと。何か信じられるもの、『こうだよ』と言ってくれる人が欲しい人たちに見えたらしいんです。

それで、新興宗教の話になって、私のバックグラウンド込みで在日の女の子という設定にしてくださって。常に大人数でワイワイしていて、出来上がる過程もすごくユニークだったので、抜擢されましたという気分よりは、映画が出来上がっていく過程がわかって、楽しいなあという感じが大きかったかもしれないです。

『これに合わせてやってください』というのではなく、どんどん変わっていったんですね。こういう話を作りたいという原型はあったと思うんですけど、私だったり趣里ちゃんだったり、ワークショップに来ている人たちを見て、監督の中でどんどん変わっていった部分があって。

今いろんな作品に出てらっしゃいますけど、萩原利久くんもまだ2本目の映画だったんですよね。だから、会議室みたいなところで結構長い期間リハーサルをしました。

ベルリン、香港、清州(チョンジュ)など映画祭にもいっぱい呼んでいただいたので、本当にみんな仲が良くて。映画祭を回っている間に監督とみんなで餃子を食べに行ったんですけど、テーブルのお醤油を取ってもらうときに、つい『ちょっとお父さん、醤油取って』って言っちゃったこともありました(笑)。山本監督には娘さんがいらしたりするので、そういう後にも先にもない関係性だったなって思います」

――玄理さんが演じたミンジョンは、軽くひと稼ぎしようと思って巫女をはじめたことで人生が大きく変わってしまいます。そして韓国に行って自分のルーツを知ったことで、金儲けではなく、真剣に人助けをしようと思いはじめ教団幹部と意見の相違が生じていきました。

「そうですね。私は早いうちから一人でイギリスに行ったりしていて、本当にいろんな国の人たちがクラスにいて、別に人それぞれでいいじゃない、あなたも私も大して変わらないという感覚があった。いわゆる私たちより上の世代の人たちが葛藤する自分のアイデンティティが宙ぶらりんだとか、そういうことを良くも悪くもあまり考えたことがなかった。

だから撮影のときも自分のルーツを聞いて彼女が泣くみたいなこともあまりよくわからなかった。でも、これは私の話だと思って皆さん見てくれたみたいで、『あの場面が良かった』ってすごく言ってくださるんですけど、きっとこういうことなんだろうなと、シーンに引き寄せられる感覚で当時やっていたことはすごくよく覚えています」

――変わっていく様がすごく自然でリアルでした。

「ありがとうございます。無意識の部分で何かつながったものがあったのかもしれないですね。あれはちょっと不思議な感覚でした。新人賞もいただきましたし、本当に大きい階段を上らせてくれた作品です。今振り返ると、あらためてありがたい作品だなという感じがします。

当時は、韓国の巫女さんという職業について知識がゼロだったので、儀式のシーンも本当に習ったんです。新大久保にいらっしゃる韓国の巫女さんに教えていただいて一生懸命練習しました。

それで面食らうのが、山本監督のすごいところでもあるのですが、鈴とか剣とか儀式に使う本物の道具を使いながら練習するんですけど、本番のときには『これでいいよ。ニセ者なんだから』って言って、小学校の子どもが使うような鈴を渡されるんですよ。『ちゃんと練習したのにこれでやるの?』みたいな(笑)。

でも、それってスクリーンで見るとあまりわからないんですよね。劇中よく振っている棒も、ご飯に埃がかからないようにするものなんです。どこから持ってきたのかわからないんですけど(笑)。予算がないからではなくて、ニセ者だからこれでいいんだということみたいで。救いを求めている人は、多分こんなものにでも騙されてしまうということかもしれません。

あのあと、しばらくしてから韓国でも映画やドラマに巫女さんがいっぱい出てくるようになったので、今あの映画を見ると韓国ドラマとか映画好きの人からすれば、自然に『韓国に巫女さんいるよね』って思うかもしれないですね。当時と今だと私が見ても違うだろうし、お客さまも違う受け止め方をされるんじゃないかなって思います」

 

◆5年間、毎週日曜日に3時間生放送

玄理さんは、2017年10月から2022年12月まで毎週日曜日、J-WAVEで『ACROSS THE SKY』のパーソナリティをつとめた。

「5年間続けたのですが、毎週日曜日生放送で3時間。放送自体は9時から12時なんですけど、7時半ぐらいにスタジオに入って進行の打ち合わせをして。ここはこういう意味だからとか、ここでこういう話をして…という打ち合わせが必要なんです。番組が3時間なので進行台本が本一冊分くらいあるんですけど、それをやって朝ごはんを食べて9時から生放送が始まるという感じで。

ドラマの撮影でオフィスを使うシーンがある場合は、土日しか貸してもらえないところ(会社)がすごく多いんですよね。そうすると、どうしても生放送をやって、終わったらすぐにドラマの撮影に行くということになるので結構大変でした」

――5年間という長い期間をやりきると達成感もあるでしょうし、自信にもなりますよね。

「そうですね。やりきったという感じがすごくありました。それと、お芝居だと脚本家さんが書いたセリフを言うのですが、ラジオでは自分の考えを自分の言葉で発するというのがどうしても怖くて。緊張もするし、次から次に話さなきゃいけないというのが未知の領域なんですよね。

でも、人間の耳は情報を処理する能力に限界があるという話を聞いて、1個の話が終わったらちょっと間をあけてゆっくりしゃべるようにしていました。しかも日曜の朝なので、ゆっくり話したほうがいいとか、勉強になったことはいっぱいありましたね。そのおかげで舞台挨拶とかも緊張しなくなりました(笑)。

あと、初めてお会いするゲストの方の場合、その方のある意味本質だったり、今日ここで言いたいことを言って帰っていただく必要がある。それを引き出す必要があるので、初対面の人と人見知りしている場合じゃないっていうのがあって、人見知りもしなくなりました。初対面の人と話すのが苦じゃなくなりましたし、得たものがいっぱいあります」

――水中のゴミの収集とか、いろいろな活動もされていたのですね。

「はい。スキューバダイビングの資格を取りに行ったときに『水中クリーンナップ』という、水中のゴミ拾い活動もできると聞いたのがきっかけでした。

そのとき、番組自体が社会問題に目を向けはじめていた時期でもあったので、『夏だし、ずっとスタジオでやっているのではなく、みんなでスキューバダイビングをしに行こうよ。ただ潜るだけだともったいないよね』って。みんなで楽しみながらゴミを拾っていました。

本当に仲が良かったんですよ。とくにコロナ前後は会える人も限られていたので、そのラジオのチームでご飯に行ったり、そういう風にどこかに行くにしても一緒に行こうって企画にしちゃったりして、自分でもコーナーの案を出して。打ち合わせに参加して企画を考えたり、お手紙をいただくテーマを考えたり…結構能動的に参加させていただいていました。

誰でも基本的にそうだと思うんですけど、やっぱり自分の興味のあるものじゃないと心からは楽しめないじゃないですか。そういうのをよくわかってくださっていて、私がこれだったら興味を持つんじゃないかとか、何に興味があるかとか、アンテナを張って汲み取ってくださっていたなと思います。そのディレクターさんとは今も仲が良くて、ご飯に行ったりしています」

J-WAVEのパーソナリティをはじめた翌年には、連続テレビ小説『まんぷく』に出演。『ミストレス~女たちの秘密~』、『君と世界が終わる日に』、2PMのジュノさん主演映画『薔薇とチューリップ』(野口照夫監督)など話題作出演が続く。

次回はその撮影エピソードなども紹介。(津島令子)

ヘアメイク:石川奈緒記
スタイリスト:KOSEI MATSUDA

©2022 Cinema Defacto Miyu Productions – Doghouse Films 9402-9238 Quebec inc. (micro_scope Productions l’unit centrale) An Original Pictures Studio Ma Arte France Cinema Auvergne-Rhone-Alpes Cinema

※映画『めくらやなぎと眠る女』
2024年7月26日(金)より渋谷ユーロスペースほか全国ロードショー
配給:ユーロスペース、インターフィルム、ニューディアー、レプロエンタテインメント
監督:ピエール・フォルデス
日本語版演出:深田晃司
声の出演:磯村勇斗 玄理 塚本晋也 古舘寛治 木竜麻生 内田慈 平田満 柄本明

6つの短編、『かえるくん、東京を救う』、『バースデイ・ガール』、『かいつぶり』、『ねじまき鳥と火曜日の女たち』、『UFOが釧路に降りる』、『めくらやなぎと、眠る女』を翻案した村上春樹原作初のアニメ化。2011年、東日本大震災直後の東京。置き手紙を残して姿を消した妻・キョウコ(声:玄理)、妻の突然の失踪に呆然としながら北海道に向かうことになる小村(声:磯村勇斗)。同じ頃のある晩、小村の同僚の片桐(声:塚本晋也)が家に帰ると、そこには2メートルもの巨大な“かえるくん”(声:古舘寛治)が彼を待ち受けていた…。