俳優・山中崇史、必死にしがみついた『相棒』芹沢刑事役。現実的じゃない“3人行動”でアピール「それが僕の生き残る道でした」
1995年、劇団扉座に入り、その年に初舞台となる『曲がり角の悲劇』(演出:マキノノゾミ)で準主役を演じた山中崇史さん。
劇団扉座の看板俳優として多くの舞台に出演。1997年にはTOKYO FMでラジオのパーソナリティーとしても活躍。2002年、『相棒 season1』(テレビ朝日系)の第1話にスナイパー役で出演。2003年、『相棒 season2』の第4話から捜査一課の芹沢刑事役としてレギュラー出演することに。
『花咲舞が黙ってない』(日本テレビ系)、映画『太陽とボレロ』(水谷豊監督)など出演作多数。2024年6月6日(木)から16日(日)まで座・高円寺1で劇団扉座第77回公演『ハロウィンの夜に咲いた桜の樹の下で』(作・演出・横内謙介)に主演する。
◆主演舞台がきっかけでラジオのパーソナリティーに
1997年、山中さんは舞台『ドラキュラ白書』に主演。この舞台がきっかけでラジオのパーソナリティーとしても活躍することに。
――初舞台の後もいい役が続いたのですか?
「そうですね。多分、横内(謙介)さんがそれを見ておもしろがってくれたんだと思うんですよね。その間にどれぐらい作品が入ったのか覚えてないですけど、横内さんが『ドラキュラ白書』という作品を新作で書きまして、ザ・スズナリでやったのですが、それは僕が主演でした」
――若くして看板俳優に?
「そういうふうになっていかなきゃなって思いましたね。もうその頃は完全に鼻がヘシ折られていたので、ある程度僕もちょっとまともにはなってきていましたけど、お客さんを呼べる役者というか、主演を張れるような役者にならなきゃいけないと思っていました。その先はもっと映像のお仕事とか、そういうふうにやっていきたいとも思っていましたし」
1997年、『内藤忠と山中崇志のミリオンナイツ』(TOKYO FM)、1998年、『小田靜枝と山中崇志のミリオンナイツ』(TOKYO FM)のパーソナリティーに(※山中崇志は本名)。
「『ドラキュラ白書』をやったとき、今はもう辞めてしまった劇団員の方が、東京FMの坂上みきさんの番組に『ザ・スズナリで“ドラキュラ白書”というお芝居をやっています。おもしろいからぜひ見に来てください』ってファックスを送ったんですって。
僕らはそんなことは全然知らなかったんですけど、坂上さんが見に来てくださって。ちょうど東京FMで番組が変わる頃だったみたいで、月曜日から木曜日まで夜9時から11時半ぐらいまでの生放送。月曜日から木曜日まで男2人と女の子のタレントさんの3人で番組を作ろうと思っているってなって。
ひとりはプロのDJだけど、もうひとりは俳優、とくに劇団とかの出身の俳優を使いたいと番組のプロデューサーとディレクターが思っていたらしくて、いつも演劇の舞台を見ている坂上さんに相談したんですって。
そうしたら、坂上さんが『ザ・スズナリで劇団扉座のお芝居を見たよ。そこで主演をやっていた山中というのがドラキュラの役で、ラップを舞台上でやっていて。そのラップはすごく下手でひどかったけどおもしろかったから見に行ってごらん』って言ってくれたみたいで(笑)。
でも、とっくに芝居は終わっていたので、東京FMのその番組からオーディションというか、会いに来てくれと劇団に連絡があって。劇団の先輩の田中さんと一緒に行ったんです。そうしたら、そのディレクターが田中さんの同級生で盛り上がっていたんだけど、実はしゃべり手を探していると。
それで、ちょっとテストでマイクの前で何かしゃべってみてくれないかっていきなり言われたんです。ブースって狭くてね。マイクとミキシングルームとの間に窓があって、みんなが僕のことを見ているんですよ。いやだなあと思って(笑)。
でも、そのブースには(外が見える)窓があって皇居が見えたんです。僕は皇居をそういうところから見るのは初めてだったから、すごく興味深くて。
『誰かに向かって何かしゃべってください。このマイクの向こう側にはたくさんのリスナーがいて、そのリスナーが君の話を聞いていると思ってしゃべってみて』って言われて。
僕らはお客さんを相手に芝居をするから、対象が欲しかった。窓の外から実際に見える家とかマンションに住んでいる人たちを対象にしてしゃべったほうが、僕はしゃべりやすかったんですよ。
それで窓の外を見ながら『私は山中崇史と言いまして…』という感じでしゃべっていたの。そうしたら、『コイツおもしろい。コイツは本当に誰かに話したいと思って話している。そういうのがいい』って思ってくれたみたいで僕がやることになったんです」
――いきなりレギュラーパーソナリティーというのはすごいですね。
「ビックリしました。何をやったらいいかなんて全然わからないし、なかなかうまくできなかったですよね。夢中になってしゃべっていてもダメ。『あと10秒でまとめて』とか突然言われてもできない。そんな感じでグチャグチャでしたね(笑)」
◆「お前は絶対に騙される」と言われ…
舞台に加え、ラジオのパーソナリティーとしても活動していた山中さんだったが、テレビや映画など映像の仕事もしたいと思っていたという。
「結局僕は、ラジオを27歳から29歳ぐらいまでやるんですけれど、それで横内さんもちょっと認めてくれたというか。多分、もうちょっとコイツを伸ばしたいと思ってくれていたんだと思うんですね。それで、ラジオが決まってやりはじめてから、横内さんに映像のお仕事もやっていきたいと思っていると相談したんです。
映像のお仕事は、扉座の六角(精児)先輩がもうやってらしたし、そういう話を見たり聞いたりしていたので、『僕も同じようになりたいから、どこか芸能事務所に入りたいと思っている』って言ったんです。
そうしたら、『待て、待て、待て。お前は絶対に騙される』って言われたの(笑)。『芸能事務所って本当に星の数ほどあるんだ。で、実はつい先日も騙された役者がいて大変だったんだよ。お前なんかすぐホイホイついていっちゃうし、信じちゃうからダメ。待て。俺が見つけてやるから』って言ってくれて。
『そこまで言ってくれるんだったら、お願いします』って言ったんですけど、28になっても何もなく、29になっても何もない。だから『本当に僕は所属できるのかな?』なんて思っていたら、30歳のとき横内さんに『お前に事務所を紹介する』って言われて、事務所を紹介してくれたんです。
その事務所の社長が横内さんと仲が良かったので、『引き受けます』と言ってくださって、入ることになったんです。で、チーフマネジャーと一緒に『山中です。よろしくお願いします』って最初に行ったのが、テレ朝の『相棒』のプロデューサーのところだったんです。
それで、最初にいただいたのが『相棒』。2時間ドラマでもやっていましたけど、テレビシリーズ化されて、season1の第1話のスナイパーの役。短い役でしたけれど、それでという形になったんですよね。
そんなふうに事務所を紹介していただいて、プロデューサーにご挨拶に行って、そこからいただいたお仕事というのは初めてでした。だけど、その後別にまた声がかかるわけでもないし、『相棒』という作品に関しては、これで終わるだろうって思っていたんです。
そうしたら、2年目にseason2が始まるってなったときに、また呼んでいただけたんですね。それが今に繋がっているんです」
◆『相棒』の芹沢刑事誕生!
山中さんは、『相棒 season2』の第4話から捜査一課の刑事・芹沢慶二役で出演することに。伊丹刑事(川原和久)と三浦刑事(大谷亮介)の後輩で、特命係につい情報提供をしてしまうおっちょこちょいな芹沢刑事をチャーミングに体現し、注目を集めることに。
「『相棒』は劇団出身の俳優さんが多いんですよね。扉座の先輩の六角精児さん、川原和久さん、山西惇さん、寺脇康文さん、大谷亮介さん。
僕も芹沢役でちょこっと出させてもらえるようになって、これはもうしがみつかなきゃダメだと思って。seasonいくつまで続くかなんて思ってなかったけれど、そのseasonの中でちょこっとでもいいから出させてもらおうと思っていました。
刑事は通常は2人で、現実的には3人で動くということはあまりないらしいんです。でも、僕的にはもうここにしがみついていかなきゃと思って、大谷さんと川原さんにしがみついていたんですよ。だから僕のことが本当に鬱陶しかったと思います(笑)。
『相棒なんだからさ、刑事って普通は2人。3人で動き回ることなんかないんだよ』ってよく言っていましたけど、僕もそんなこと言ってられないから、『いやいやいや、ついていきます!』みたいな感じでいたら、おもしろがってくれる人がいたんですよ。『3人でいるっておもしろいかも』みたいな感じになって(笑)」
――「捜一トリオ」とか「トリオ・ザ・捜一」と称される人気キャラになって。
「うれしいですよね。3人でいるときに何かおもしろいことをやらなきゃっていつも思っていました。それが僕の生き残る道でした」
――初めてのレギュラードラマが20年以上続いているというのは、やっぱり持っていますよね。
「そうですね。最初の頃、僕らは撮影が終わった後、新宿とか大泉学園とかで飲んで、『いつまで続くと思う?』って、大谷さんと川原さんと六角さんとよく話していたんですよ。『season5だったらキリがいいから5までは続いてほしいなあ』って。で、『7まで来たな、10ぐらいまでいくかも』なんて言っていたら、あれよあれよという感じで。本当にラッキーだなって思っています」
芹沢刑事はseason12で三浦刑事が依願退職した後は伊丹刑事の相棒役となり、season19で篠原ゆき子さん演じる出雲麗音刑事が捜査一課に配属されてからは、先輩としての役目も担うことに。
次回は水谷豊さん、扉座の先輩でもある六角精児さんとのエピソード、2024年6月6日(木)に初日を迎える主演舞台『ハロウィンの夜に咲いた桜の樹の下で』も紹介。(津島令子)
※劇団扉座第77回公演『ハロウィンの夜に咲いた桜の樹の下で』
2024年6月6日(木)~16日(日)、座・高円寺1
作・演出:横内謙介
出演:山中崇史 岡森諦 鈴木利典 新原武 野田翔太 砂田桃子 藤田直美 久我音寧(轟組2024)
客演:長谷川純
異常気象によってチョー季節外れの桜が咲いてしまった晩秋、ハロウィンの翌朝、ひとりの中年男が泥酔から目覚めて愕然とするところから芝居は始まります。部屋に散乱する見覚えのない数々の物品、次々と訪ねてくる見知らぬ人たち。しかし何一つ、男は覚えていません。その狂い咲きの夜、自分がいったい何をしたのか?