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富田望生、変幻自在な注目の“カメレオン俳優”。初主演映画は阪神・淡路大震災が題材「今は役を通して神戸の人たちと生きている」

2015年、映画『ソロモンの偽証 前篇・事件/後篇・裁判』(成島出監督)の主要人物のひとり、浅井松子役でデビューして話題を集めた富田望生さん。

映画『チア☆ダン~女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話~』(河合勇人監督)、映画『SUNNY 強い気持ち・強い愛』(大根仁監督)、『だが、情熱はある』(日本テレビ系)、連続テレビ小説『ブギウギ』(NHK)に出演。映画『日日芸術』(伊勢朋矢監督)が2024年4月26日(金)まで新宿K’s cinemaにて公開され、その後全国順次公開。

2025年1月には、現在撮影中の主演映画『港に灯(ひ)がともる』(安達もじり監督)が公開予定。演じる役柄によって体型も容貌も変幻自在の若手実力派として注目を集めている。

 

◆“松子ちゃん”を譲りたくなかった

2021年にはドラマ版の『ソロモンの偽証』(WOWOW)に映画版と同じ浅井松子役で出演。同級生の転落死をめぐり、前代未聞の学校内裁判を描いて話題を集めた映画版の舞台は1990年代の公立中学校だったが、ドラマ版の舞台はSNSが普及する現代の私立高校に置き換えられている。富田さんは、映画版と同じ浅井松子役を演じた。

「正直に言うと、松子ちゃん役は誰にも譲りたくなかったので、『ありがとうございます!』って思いました。

宮部みゆき先生が生み出した松子ちゃんという子を体現するんだったら私のからだでやってほしい、私が魂を込めたいという思いがあったので、お話をいただいたときはものすごくうれしかったです。

(主演の)上白石萌歌ちゃんともその直前に共演していて、『今度ソロモンをやるんだけど、松子ちゃんはあなたじゃないと』って言ってくれて。すごく映画へのリスペクトが強いっておっしゃっていたから、『松子ちゃんであってほしい。そんなことが叶ったらいいね』みたいな話をしていたんですよね。

ドラマ版の方が成島(出)さんにも連絡を通してくださったみたいで、『松子はもう富田がやるべきだからどうぞ』って言ってくれて。クランクインの日も成島さんがメールをくださって、『自分を信じてやるんだよ』というお言葉をいただきました」

――6年ぶりに松子ちゃんを演じていかがでした?

「また新たな樹理ちゃんと向き合わなければいけないと思いましたし、同じ原作でありながら、映画のときに培(つちか)ったものというのは一旦置いておきました。家庭環境も家族の描かれ方も全然違っていたので。それぞれの作品、映画とドラマにおいて描きたい、残したい部分がちょっと違ったりもしたし、中学生と高校生というだけでまた全然違いましたね」

――松子ちゃんが樹理ちゃんに「あんたなんか私しか友だちがいないじゃない」と言われたときに「でも、私は樹理ちゃんがいればいい」というシーンは、富田さんの純真無垢な笑顔が印象的で松子ちゃんの人柄が良く表れていると思いました。本当に良い子ですよね。

「ありがとうございます。うれしいです。『ソロモン』がなければ、私は多分役者をやってないと思うので、松子ちゃんに出会えて本当に良かったです」

2023年、富田さんは『だが、情熱はある』に南海キャンディーズのしずちゃん役で出演。声色も容貌も雰囲気も変えて、しずちゃんの独特な感性と雰囲気を見事に体現した。

このドラマで富田さんは、第27回日刊スポーツ・ドラマグランプリ春ドラマ助演女優賞と第116回ザテレビジョンドラマアカデミー賞助演女優賞を受賞。「助演女優賞はもちろんですが、作品賞を受賞できたことが最高にうれしい」と話す姿にも性格の良さが表われている。

 

◆小夜ちゃん役は“運命”

富田さんは、2023年11月から2024年3月まで放送されていた連続テレビ小説『ブギウギ』に出演。ヒロインの福来スズ子(趣里)のモデルとなったのは、『東京ブギウギ』で知られ、戦後を明るく照らした歌手・笠置シヅ子さん。富田さんは、スズ子に弟子入りを志願する福島出身の小林小夜役で出演。お転婆でおっちょこちょいだが、愛されキャラを唯一無二の存在感でチャーミングに演じた。

――「オレを弟子にしてくんちぇ」という登場シーンから印象的で、とても楽しく拝見させていただきました。

「ありがとうございます。『ブギウギ』の制作が発表されたときから参加したいと思っていたので、すごく楽しかったです。

NHK大阪に4カ月くらい通って、そのうち2カ月間はほぼ大阪にいました。朝ドラは2回目でしたけど、最初の『なつぞら』は撮影日数もそれほど多くなく、朝ドラという現場にあまり長くいた感覚がなくて、楽しく(広瀬)すずの友だちとしていられて良かったなという感覚だったんです。

『ブギウギ』の小夜ちゃんは、スズ子さんの人生を一緒に歩んでいくという子だったので、朝ドラの現場ってこうなんだって、初めて知った部分も多くて。これだけ長い期間やっていたらこういう家族になるよなあって、その温かさの中に自分も混ぜてもらってすごくうれしかったです。

撮影がない日もお昼を食べにNHK大阪に行ってスタッフさんたちと一緒にご飯を食べて、しばらく撮影を見学して眠くなったら『ロビーでちょっと寝てきます』とか言ってお昼寝して帰ったりするくらい本当にいい家族に入れていただきました」

――小夜ちゃんは、富田さんと同じ福島出身という設定でした。

「そうなんです。地元の子で、方言も自分が使っていた言葉なので、方言指導の先生もいらっしゃらなくて。『言いたいように言い換えていただいても構いません』という感じだったので、方言のストレスは何もなかったです」

――福島出身の小夜ちゃんの役を富田さんが演じられて皆さん喜ばれたでしょうね。

「はい。毎朝見ている方も多いので、本当に地元の方が喜んでくれて、小夜ちゃん役は運命だなって思いました。まず福島の出身の女の子が出てくる、それを演じているのが福島出身の子だということに喜びを感じてくれて。

私も朝ドラで福島出身の女の子役、そして自分の地元の言葉でしゃべれるって、こんなうれしいことはないなって思いました。デビューしたときの自分のことをあらためて思い出したりもしていました」

――小夜ちゃんは終戦後、米兵・サムと闇市で出会い、スズ子の元を去ることになります。本当にいい子なので、もし騙されていたらどうしようって心配になりました。

「ありがとうございます。今も『小夜ちゃん』ってよく言われます。お会いする方々に『小夜ちゃんは、本当に幸せなんだよね?』って聞かれるから、『サムと結婚してアメリカで幸せに暮らしています』って言ったら、『ああ、うれしいわ。この子には幸せになってもらわなきゃ』って(笑)。うれしいです」


※映画『日日芸術』
2024年4月26日(金)まで新宿K’s cinemaにて公開、その後全国順次公開
配給:Planetafilm
監督:伊勢朋矢
出演:富田望生 齋藤陽道 パスカルズ 伊勢佳世 万里紗 窪瀬環

◆アートをめぐる冒険

2024年4月26日(金)まで新宿K’s cinemaで公開されていた映画『日日芸術』は、富田さんがセロハンテープでつくられた奇妙なメガネをかけた店主と出会ったことがきっかけで、メガネに導かれるように、独創的な作品をつくるアーティストたちと出会う様を描いたロードムービー。ロビーにはカメラマンとしても活動している富田さんが撮影した写真も展示されている。

「もともとは、去年BSプレミアムで放送された『富田望生の日日是芸術(ニチニチコレアート)』という番組で、そのときはまだ映画になるということは聞いてなくて」

――撮っているときはどういう感じでした?

「ドラマという部分と、ドキュメンタリーという部分があるのですが、ここはドラマパートです、ここはドキュメンタリーパートですという感じではなくて、ドラマとして生きているんだけど、そのなかでなんとなく絶妙な流れでドキュメンタリーに入っていく…みたいな瞬間を伊勢さん(監督)が見逃さずに追いかけてくれていました。

役者としての自分もそうだし、もともと本質として持っている部分を収めたいという温かさみたいなものに導かれて連れて行かれるがままに旅をしたという感じの作品です」

――見ている側もすごく不思議な世界にさまよいこんだみたいな感じがあって、どこまでが台本なのかなって思いました。

「そうなんです。劇中でも出ていますが、一応台本はいただいているんです。何かそれも不思議な感覚で、1ページ目をめくると、ト書きに『富田望生が歩いている』って書いてあって、これはドラマなんだなって。

でも、メガネをかけてアートの旅に行くという不思議さが混ざり合って表現されていて、ほぼ順撮りでしたし、すごくおもしろい旅でした」

――富田さんがものすごく自然にアーティストさんたちと接してらして、皆さんが自分の作品を見せたいと持ってきてくださっていたと聞きました。

「そうなんです。『見せたい』と言ってくれたから、『見たいから見せて』って言ったら、いろんな作品を出してくれました。その間も、伊勢さんは区切って撮影するのではなく、アーティストの方自身が何を見せたくて、何を伝えたいかということをずっとおさえ続けて、そこからこの作品として、どう拾っていくかということを考えて編集してくださって。

なので、私はただただ旅に出かけていて、あとは伊勢さんの感性でいいところを切り取っていい作品にしてくださいという感じでした。予定稿通りじゃないんですよね」

――カメラマンもされている富田さんの感性の豊かさも大きいでしょうね。

「どうでしょう? カメラも『撮りますよ』と言って撮るのは苦手なんです。コソコソッと、『これいいな』って思うものを残したいという感じです。

それも多分伊勢さんとの相性もあったのかなって思います。伊勢さんも多分『この瞬間をおさえておくべきだな』って、見たい、残したいという感覚で撮ってくださっていたから、私も『見たい、行きたい、感じたい』って思うままに動いていました。私も伊勢さんも、多分スタッフさんもそういう感覚でいてくださったから、こういう作品になったのだと思います」

 

◆初主演映画は阪神・淡路大震災が題材

唯一無二の存在感と演技力で多くの作品に出演している富田さんは、阪神・淡路大震災から30年となる2025年1月に公開予定の初主演映画『港に灯(ひ)がともる』の撮影中。阪神・淡路大震災から1カ月後に生まれ、震災に向き合うことを避けてきた主人公・金子灯(かねこ・あかり)役を演じている。

「撮影前から神戸に入っていて、撮影が始まって1カ月くらいになります。12年分を生きるのですが、それを1カ月半くらいでやるということに関して、今12年間の重力をすごく感じている気がして。

ぐったりするときももちろんあるんですけど、現場の空気感としては、私がその役として生きている瞬間をとにかく残したいんだという思いで監督を含め皆さんやってくださっていて。15分間カメラが回っているときとかもあって、すごいんですよ。

どこを切り取るかはさておき、その役の彼女の感情の流れのなかで、苦しくなったり落ち着いたりということを、ちゃんと自分のペースでやっているところをおさえたいという気持ちで皆さんいてくださって。

だから、私も今、神戸で生きていますけど、スタッフの皆さんも本当に神戸で生きている。神戸の人たちと一緒に生きている。神戸の皆さんにものすごく協力していただいて撮影しています。こんなにみんなが思いと愛情を向け合っている作品ってすごいなあって。

『これは作品なのだろうか?』って思うときもあるくらいです。ふと、これって作品として残すもので、残るものという感覚になったときに、ハッと我に帰るくらい、彼女の人生をみんなが一緒に生きてくれているという時間を今過ごしているところです。

私が演じる灯は、阪神大震災のときにはまだ生まれてなくて、そのあとに生まれたという人ですが、そういう方々が神戸でたくさん生きているはずで、そういう子たちの震災と自分をどう結びつけていいのかという思いと、日々、灯を通して葛藤しています。

自分の近い人たちはみんなその思いを抱えていることへの戸惑いとか、すれ違いとか、そして、そのすれ違った先で出会うことがあったり…。本当にいい時間を過ごさせてもらっているので、最後まで神戸で生き抜きたいなって思っています」

この日の富田さんは、午前中の新幹線で神戸から東京に来て、映画『日日芸術』の舞台挨拶と取材をこなし、日帰りで神戸へ戻るという強行軍。連日撮影が続く多忙な日々が続いているが、明るい笑顔がとてもチャーミング。

演じる役柄によってまったく違う変幻自在の“カメレオン俳優”として今後の活躍も楽しみだ。(津島令子)

ヘアメイク:片桐直樹
スタイリスト:伊達環

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