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柿澤勇人、俳優人生のターニングポイントは三谷幸喜との出会い。理想と現実のギャップで悩んでいた時期に「僕はツイてます(笑)」

2007年、劇団四季のオーディションを受け、倍率100倍以上の難関を突破して四季の研究生となった柿澤勇人さん。

同年、『ジーザス・クライスト=スーパースター』でデビューし、2008年には『人間になりたがった猫』で初主演。2009年に退団後は、栗山民也さん、蜷川幸雄さん、三谷幸喜さんなど名だたる演出家に起用され、俳優としての地位を確立。さらに連続テレビ小説『エール』(NHK)、『真犯人フラグ』(日本テレビ系)、大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK)、『不適切にもほどがある!』(TBS系)など話題作への出演が続く。

2024年5月7日(火)からタイトルロールを務める舞台『ハムレット』(演出・吉田鋼太郎)の公演が始まる。

 

◆理想と現実のギャップに限界を…

2019年、柿澤さんは、三谷幸喜さん作・演出の舞台『愛と哀しみのシャーロック・ホームズ』に主演。三谷さんとの出会いは大きなターニングポイントになったという。

「三谷さんとの出会いは、2018年。僕が出演していたミュージカル『メリー・ポピンズ』を見たあと、『一緒に芝居をしましょう』と声をかけてくださったんです。夢かと思いました。

ちょうど、思い描いていた自分と現実の自分とのギャップに限界を感じていたときだったんです。三谷さんは、『メリー・ポピンズ』で、僕がハッピーに歌って踊る煙突掃除人のバートを演じていたのを見て、『僕のシャーロック・ホームズがいた!』と思ってくれたみたいです。

その後、『メリー・ポピンズが、もし違う作品だったらインスピレーションがわかなかった』とも仰っていたので、本当にタイミングが良かったんでしょうね、ツイていました(笑)」

――それで舞台『愛と哀しみのシャーロック・ホームズ』に?

「はい。シャーロック・ホームズの台本は、最初に受け取ったのは1幕だけだったんです。稽古の途中で2幕も出来上がってきたんですけど、かなり膨大な台詞量になっていて(笑)。

推理が好きで、説明が好きで、それを人に上から言うのが好きなキャラクターだったから、マシンガンのようにしゃべり続けなくちゃいけないんですよ。『うわーっ、これ大丈夫かな?』って思いながら稽古していましたね。

しかもずっと動き回ってセリフを言っていなくちゃいけなくて。本番が始まっちゃえば楽しかったんですけどね(笑)」

――三谷さんの舞台に主演というと、プレッシャーもあったのでは?

「意外となかったんです。三谷さんがいてくれるし、信頼し合えていて、別に自分が背負ってとか、自分が頑張らなきゃとかいう気負いみたいなものもなかったです。

いろいろ悩んでもがいていた時期だったので、三谷さんに誘っていただいたおかげで本当に救われましたね。僕の俳優人生の大きなターニングポイントになりました。

実は、昨年今年と2年連続で年越し、年明けを三谷さんのお宅で迎えているんですよ。酔っぱらった勢いでお邪魔して(笑)。

今回は『オデッサ』の舞台稽古中だったのですが、芝居のことで何かという話もとくにはないし、それは全部稽古場で完結しています。お正月にお宅に行ったときには楽しく、おいしくお食事して、お酒を飲んでという感じでした。お世話になりっぱなしです」

 

◆三谷幸喜と鎌倉へ

2022年、柿澤さんは三谷さんが脚本を担当した大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK)に出演。源頼朝と北条政子の次男で、征夷大将軍の座に12歳で就き、28歳という若さで暗殺された源実朝(第三代鎌倉殿)を演じた。

――実朝役をと聞いたときはいかがでした?

「僕は正直、実朝に関してほとんど知らなかったんです。悲しい人生だったということも作品に携わりはじめて知りました。鶴岡八幡宮にはしょっちゅう遊びに行ったりもしていましたが、まさか、あそこで暗殺されて首を切られていたとは思いませんでした。

まったくと言っていいほど知らなかったので、実朝について書かれた歴史の資料を読んだら、めちゃくちゃいいやつで、なのに本当にかわいそうな人生を送った人だということがわかって。

三谷さんが実朝に思い入れがあるということで、一緒に鎌倉にも行きました。僕が車を運転して三谷さんを乗せて一緒に海に行って、実朝の終焉の地である鎌倉の鶴岡八幡宮にも行って、ご祈祷を受けて。

それで、実朝が殺された階段に一緒に立って。ここでこういうことがあって…というのを全部教えていただいた時間は、とても贅沢な時間でしたね。鎌倉で実朝の人生を体感するというか、追体験と言うのでしょうか?そのあとで撮影に挑むことができたのも本当に良かったです」

――演じてみていかがでしたか。

「もちろんしんどい役ではあるけれど、それが非常に心地良いというか。それがたまに役者の快感でもあるのですが、追い詰められて、追い詰めていくのがすごく楽しかったですね。どんどんどんどん痩せていくのも役と重なっていると錯覚して…という瞬間が何度も訪れました」

2024年3月3日(日)、三谷幸喜さんが3年半ぶりに書き下ろし演出した舞台『オデッサ』の大千穐楽を迎えた。この舞台の登場人物は、柿澤さん、宮澤エマさん、迫田孝也さんの3人。

柿澤さんが演じたのは、アメリカで起きたある殺人事件の重要参考人として取り調べを受ける日本人旅行者(迫田)の通訳を担当することになった留学中の日本人青年。膨大な量の英語と鹿児島弁のセリフに挑んだ。

――舞台『オデッサ』はいかがでした?

「最初に台本をいただいたときは、『よくこんな設定を思いつくよなあ』って思いました(笑)。慣れない英語と鹿児島弁のセリフも大変でしたね。本当にきつかったです。英語も鹿児島弁もしゃべれないですからね! それでまたセリフも稽古場でどんどん変更されるんですよ(笑)。

ネイティブな鹿児島弁に少しでも近づけるようにと鹿児島に行ってみたり、迫田さんとエマさんにセリフをスマホに吹き込んでもらって毎日聞き続けていました。必死でしたね。

でも、三谷さんの現場がすごいのは、追い詰められてもまったく雰囲気が悪くならないんです。結果、やっぱりみんな楽しくなって終わる。幸せな時間が流れていましたね」

柿澤さんは今年、第31回読売演劇大賞優秀男優賞を受賞。2024年5月7日(火)からはタイトルロールを務める舞台『ハムレット』(演出・吉田鋼太郎)の公演が控えている。

次回は『ハムレット』について、連続テレビ小説『エール』(NHK)、『真犯人フラグ』(日本テレビ系)、映画『すくってごらん』(真壁幸紀監督)の撮影エピソードも紹介。(津島令子)

ヘアメイク:大和田一美
スタイリスト:ゴウダアツコ

※彩の国さいたま芸術劇場開館30周年記念
彩の国シェイクスピア・シリーズ2nd Vol.1
『ハムレット』
演出・上演台本:吉田鋼太郎
出演:柿澤勇人 北香那 白洲迅 渡部豪太 豊田裕大 正名僕蔵 高橋ひとみ 吉田鋼太郎 ほか

故・蜷川幸雄からシェイクスピア・シリーズのバトンを引き継いだ吉田鋼太郎が、ついに新たなシリーズを始動。記念すべき第一作に選んだのは、シェイクスピア悲劇の決定版『ハムレット』。父であるデンマーク国王が急死し、叔父・クローディアス(吉田鋼太郎)が母・ガートルード(高橋ひとみ)と結婚。クローディアス新国王になったことを受け、苦悩するハムレット(柿澤勇人)。父の亡霊と対面したハムレットは、クローディアスが父を毒殺したのだと知り、復讐を企てる…。

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