前田旺志郎、“死ぬまでに一度は言いたいセリフ”をもらったドラマのワンシーン。「本当にうれしくて」
兄・航基さんと結成したまえだまえだだけでなく、俳優として映画、ドラマに出演し、注目を集めた前田旺志郎さん。
高校入学と同時に上京し、本格的に芸能活動をはじめることに。高校卒業後、大学に進学し、2023年3月に卒業。『女神の教室~リーガル青春白書~』(フジテレビ系)、『Dr.チョコレート』(日本テレビ系)、映画『わたしの幸せな結婚』(塚原あゆ子監督)など多くの人気ドラマ、映画に出演。
10月からは舞台『My Boy Jack』が、そして7月29日(土)に主演短編映画『二十才の夜』(平田雄己監督)の公開も控えている。
◆“飲み会”デビューがコロナ禍で…
念願叶って大学に入学した旺志郎さん。20歳になったら“飲み会”にデビューできると楽しみにしていたというが、2年生になる頃、コロナ禍になり…。
「1年目は普通に学生生活ができたのですが、ちょうど2年目に入るというくらいのときにコロナ禍になりました。2年生、3年生はほとんどがオンライン授業だったので、もっとキャンパスに通いたかったという思いはあります」
-2年目だと、20歳になってお酒が飲めるというときですね-
「そうなんです。だから、僕はゼミやサークルの飲み会にずっと行けていなくて、本当に4年生の最後、卒業式の間際くらいしか参加できなかったので、それはちょっと心残りという感じです」
-お仕事はどのように?-
「オンライン授業だったので、自粛期間が明けた後は、学校と並行してお仕事をけっこうさせてもらっていました」
-ゼミの研究発表などはできたのですか?-
「それはできました。僕が入っていたゼミの教授が他大学にもやられているゼミがあって、一緒に何かプロジェクトを作りましょうということになって。
地方創生も兼ねた演劇を兵庫県の豊岡という、芸術に力を入れている街でやろうということになったんです。東京から見た豊岡という街の魅力を、演劇を通して地元民に伝えるというものでした。
豊岡のいろんな地域の人に取材をして、住んでいる人には意外と知られていない地元の魅力を、ゼミのメンバーと一緒に演劇作品にして。ゼミ全体を通してのプロジェクトとして2年連続でやったんです。1回目は僕は演者兼演出助手みたいな感じで参加して、2年目は演出と脚本にもちょっと携(たずさ)わってやりました」
-手応えはいかがでした?-
「楽しかったです。他大生との普段のコミュニケーションとかも、やっぱり僕にはない、ボキャブラリーと独特の空気感を皆さん持っていて、すごくおもしろかったです。
世界の見え方とかもやっぱり全然違うので、脚本一つとっても読み方とか、どういう芝居がやりたいのかみたいなことがすごく論理的だったり、逆に変なおもしろがり方をしたりとか、そういう個性がすごくあって。みんな本当に全員違っていたので、やっていてすごくおもしろかったです」
◆人生の選択肢はずっと残していたい
大学時代も多くの映画やドラマに出演してきた旺志郎さんだが、俳優として一生生きて行こうと決めているわけではないという。
「まだ現在進行形で、完全には決めてないです。今はすごく楽しいし、この仕事をずっと続けたいと思っています。でも、もし楽しくなくなったときとか、めちゃめちゃつらくなったときとか、仕事だからやっているだけということになってしまうときが来るかもしれない。
それでも、しがみつくという選択肢を取るかもしれないですけど、せっかく大学にも行って、芸能界以外のいろんな人と出会って広がった視野を狭(せば)めたくないと思っています。常に選択肢の中の一つに俳優業というものがあって、今はこっちに進んでいるという、この広い見方を一生していたいんです。
それが、最終的に死ぬまで俳優業であったとしても、今、この瞬間に『この仕事を一生やっていきます』って決めてしまうのはやめようと思っています」
-これまでコンスタントにお仕事をされていますね-
「ありがとうございます」
-明るくてムードメーカーなんだけど、実は抱えているものがあるという難役も結構されていますね-
「そういう役をいただける機会は多いです。でも、健康的で明るい役というのは、それはそれで突き抜けていて楽しいですけど、複雑な事情を抱えている役というのもやっていておもしろいです。もちろんその状況を自分の中に作ることの大変さはありますが。
僕は結構普段から笑っていることが多いんですけど、笑顔っていろいろありますよね。笑顔だから心の中も笑っているというわけではなくて、つらいから笑っているときもあれば、怒っていて笑っているときもあったり。そういう意味では、笑顔ってすごいステキな表現で、それが繊細に見せられたらいいなあと思いますね」
2022年は、映画『グッバイ・クルエル・ワールド』(大森立嗣監督)で悪役にも挑戦した。この映画は、互いに素性も知らない5人組の強盗組織がヤクザの資金洗浄現場を襲い、1億円近い大金の強奪に成功するが、奪われたヤクザや金に群がるクセ者たちに追われることになる様を描いたもの。旺志郎さんは、強盗団のボス(三浦友和)の手下を演じた。
-悪役というのは珍しいのでは?-
「はい。猟奇殺人犯とか、サイコパス的な役とかにはすごく興味があるんですけど、これまでそこまでの超悪役を演じたことはないです。自分の持って生まれたものとかけ離れた部分がある役にはすごく興味があります。
あと刑事役もやってみたいですね。本格的な刑事役はまだやったことがないんです。警察手帳を出して『警察だ!』みたいな役もやってみたいです」
-俳優業というのはいろんな役を演じられるからいいですね-
「はい。でも、何にでもなれる職業だから、普段から何にでもなれなきゃいけないという気もします。『自分は役者だ』ってなりすぎると逆に一本槍になっちゃうので、プライベートにもいろんな幅があったほうがいいのかなと思っていて。
役者同士だけではなくて、学生時代の友だちとかもそうですし、全然別なところで出会った人とか、いろんな人と話していきたいなと思っています」
-そういう意味でも大学に行ったことは、別の世界を体験できて良かったですね-
「そうですね。ここから余計そうだと思います。今までは大学生という一つの枠組みだったのが、そこから解き放たれてそれぞれの職業に分かれていくので、そこでまた久々に会ってそういう話をしてみたいなと思います」
※短編映画『二十才の夜』
2023年7月29日(土)~8月4日(金)
池袋シネマ・ロサにてレイトショー!
製作配給:オフィス桐生
監督:平田雄己
出演:前田旺志郎 遠藤健慎 福永拓海 綾乃彩
◆念願のセリフを溜めに溜めて言ったら
2023年7月29日(土)には、旺志郎さんが主演した短編映画『二十才の夜』が公開される。この作品は、設立20周年を迎えたオフィス桐生が開催した20にちなみ、20づくしのシナリオコンペの受賞作4本を映画化した「20祭」の1本。
旺志郎さん演じる青嶋は、高校時代に同じバスケ部だった齊藤(福永拓海)の葬式に参列した帰り道、同級生の佐々木(遠藤健慎)とともに母校の体育館に忍び込み1on1のバスケをし、死の直前の齊藤の話をすることに。
-短編4作品が一緒に公開されるわけですが、出演されていかがでした?-
「すごく楽しかったです。大人に憧れていた19歳と大人になってしまった20歳とでは、やっぱり全然感覚が違うと思うんです。
今まで憧れていたものになってしまって、逆にここから先はどんどん子どもに憧れていくという、その境い目じゃないですか。大人と子どもの境い目だからこそ感じる“もがき”とか葛藤みたいなものが、僕自身もすごくあったんです。そういう意味では、共感とはまた違う経験ですけど、この時期独特の妬(ねた)みとか焦りみたいなのが出ていたらいいなと思います」
-久々に会った友だち同士でも微妙な温度差があって-
「はい。あの二人もそれぞれお互いにいろんな思いがあるという感じですよね。多分高校まではすごく仲が良かったと思うんです。だけど、一人は大学生になって、僕は浪人している。別々の道を歩みはじめて、多分お互いが相手に何か嫉妬している部分もあるけど、それを表に出したくないから、相手を下に見ようという部分もあったりとか。
もう高校当時の関係ではいられてないんだろうなという二人だと思うんです。でも、仲が良かったし、そこを失うのも…というような思いもあって」
-いつまでも子どものままではいられない、そのせめぎ合いですよね-
「そうですね。その相手に対する感情もやっぱり変わってくるというか。小中高までは一緒にバカをやってきて、一緒に遊んできている友だちが一番楽しいと思っていたけど、片方は大学に行っていて、もう一人は家に引きこもって外に出られていないってなったときに、どっちも高校までの感じで付き合うということは多分できなくなってしまうんだろうなって。
そういう環境とか立場が変わってしまったことによって、関係性も変わってしまうというのは、この時期ならではだなあというのはすごく思いました」
-ここのところ、心に何かを秘めている役柄が多いですね。『女神の教室~リーガル青春白書~』と『Dr.チョコレート』も印象的でした-
「そうですね。秘めがちです(笑)。『女神の教室~リーガル青春白書~』では、ロースクールの学生ではありますけど、弁護士のセリフをしゃべるというのは夢だったので、うれしかったです。『Dr.チョコレート』でも医療ものを初めてやったんですけど、憧れってやっぱりありますよね」
-『Dr.チョコレート』では、普段は売れないお笑いコンビの一人ですが、実は放射線技師でハッカーになれるほどのプログラミング能力の持ち主という設定でしたね-
「はい。メンバーがみんなそれぞれ特殊能力があって、ものすごく優秀という設定でした。3話で僕が手術室から出て『手術は無事成功しました。○○様無事です』というセリフがあったんですけど、あれは、僕の『死ぬまでに一度は言いたいセリフランキング』の3位には入るセリフでした(笑)。
だからあのシーンは本当にうれしくて、リハーサルのときに溜めに溜めて言ったんです。『どうだったんですか?』って聞かれて『○○様は……無事です』って言ったら監督から『ちょっと長いな』って言われて、『やっぱりそうですよね』って(笑)。自覚はあったんですけど、でも、うれしくて、思いっきり溜めて言っちゃいました」
見ているほうも幸せな気持ちになるチャーミングな笑顔が印象的。将来的には自分でも映画が撮れたらいいなと目を輝かせる。まだ22歳。可能性は無限大に広がっている。(津島令子)
ヘアメイク:佐藤健行(HAPP’S)
スタイリスト:小宮山芽以