いしだ壱成、小学校1年生のときにテレビで知った父・石田純一。16歳で“初対面”、会った瞬間は「あー。芸能人だ」
1990年代に『ひとつ屋根の下』(フジテレビ系)、『未成年』(TBS系)、『聖者の行進』(TBS系)など多くの人気ドラマに出演し、注目を集めたいしだ壱成さん。
武田真治さんとともに中性的な男性が女性的なファッションを身につける“フェミ男”ブームのアイコンとしてもカリスマ的人気を博し一世を風靡(ふうび)した。
しかし、女性問題、金銭トラブルなどさまざまなトラブルが報じられ、芸能活動休止、謹慎処分に。
2010年、中国に渡り、中国制作の歴史大河ドラマ『恕の人~孔子伝~(原題:孔子)』に出演。帰国後、舞台で活動を再開し、映画『朝日のあたる家』(太田隆文監督)、『アルジャーノンに花束を』(TBS系)などに出演。
2023年7月7日(金)には、父・石田純一さんと初共演した主演映画『散歩屋ケンちゃん』(寺井広樹監督)が公開されるいしだ壱成さんにインタビュー。
◆2歳のときに両親が離婚
東京で生まれ育った壱成さんは、学生結婚した石田純一さんが20歳のときに誕生するが、2歳のときに両親が離婚したため、当時の記憶はまったくないという。
「僕は2歳だったので、ほとんど父の記憶がなくて。小学校1年生のときに父がたまたまテレビのクイズ番組に出ていて、それを見た母が『この人お父さんだよ』って言って。母も反射的にという感じだったんでしょうけど、『ああ、そうなんだ』という感じで父のことを知りました。
でも、母親に恋人がいたり、再婚したりだとかで父親代わりの人はいましたので、そんなに実際のお父さんに思い入れがあったりということはあまりなかったです」
-石田純一さんのお父さまも壱成さんの父親代わりをされていたとか-
「はい。石田武というNHKのアナウンサーをやっていた人なんですけど、あと母方の祖父もいましたので、とくに寂しい思いをしたということはなかったです」
-子どもの頃、将来は何になりたいと思っていました?-
「幼稚園くらいまでは漫画家になりたかったんですけど、小学校2年生のときかな? 初めてデヴィッド・ボウイのビデオを観て。母親が音楽好きで、ピアノを教えたりもしていたので、ジャニス・ジョプリンだとか、ジミ・ヘンドリックス、ボブ・マーリーというのは常にスピーカーから流れていたんです。
それで母が観ていたデヴィッド・ボウイのライブのビデオにすごい感化されまして、学校の将来何になりたいかというアンケートに『ロックスターになりたい』って書いて怒られた記憶があります(笑)」
-それで音楽を始められたのですか-
「はい。当時、母が昼間はAV機器の会社で働きながら、夜は銀座のホテルでピアノを弾くような仕事もしていてピアノを教えていたので、最初はピアノから始めました。ピアノは家にあったので」
-芸術的な素養は色々あったのですね-
「何かちょっと目覚めかけてはいましたね。音楽とか映画とか…演技というのはまったく頭になかったですけど」
-初めてお父さま・石田純一さんに会ったのは?-
「16歳のときです。13歳から16歳までの3年間は、ずっとオーストラリアに海外留学をしていました。英語の勉強をしながら友だちもできて慣れてきた頃に、一旦日本に帰ってくることになって。バイトというかお金を貯め直して、今度はロンドンとかニューヨークに行きたいなあと言いつつ日本に帰国したんです。
そのときにたまたま父の姉、僕からすると伯母の石田桃子というピアニストがいるんですけど、伯母が母とずっとつながっていて。僕が日本に帰ってきたことを話したら、たまたま叔母のコンサートに父がゲスト出演するので、ずっと壱成も会ってないし、会いに来ないかといわれたのがきっかけで会いました」
-初めて石田さんに会ったときはどうでした?-
「『あー。芸能人だ』という印象しかなかったです(笑)。もちろん再会していろいろ話をしていくうちに父子の関係は芽生えていくんですけど、会った瞬間は全然そういう意識はなくて、『テレビの中の人だ』という感じでした。
その日はあいさつだけだったんですけれども、次の日にさっそくご飯に行くことになって。でも、行ったところで会話もなかなかなくてですね(笑)。
自然と『将来どうするの?』という会話になったときに『バンドマンとかやろうと思っています』って言ったら『演技には興味がないの?』って言われて。
『演技に興味なくはないですけど、ちょっとできる気がしないし。でも、どちらかというと劇作家、寺山修司とか三島由紀夫は中学生のときに好きで読んでいました』って言ったら、『それもいいんだけど、劇団は食べていけるようになるまでが大変だから』って。自分の経験もありながらということだったと思うんですけど、それでドラマとかには興味ないのかなという話になりました」
※いしだ壱成プロフィル
1974年12月7日生まれ。東京都出身。1992年、『悲しいほどお天気』(フジテレビ系)で芸能界デビュー。1993年、『ひとつ屋根の下』で注目を集め、『未成年』、『聖者の行進』、『ピーチな関係』(日本テレビ系)など主演ドラマも多数。1994年、『WARNING』で歌手デビュー。映画『泪壺』(瀬々敬久監督)、映画『NIGHT☆KINGナイトキング』(藤原健一監督)、『RE:BORNリボーン』(下村勇二監督)、音楽舞台劇『奇跡のシンガー2023』など多くの映画、舞台に出演。主演映画『散歩屋ケンちゃん』の公開が2023年7月7日(金)に控えている。
◆“石田純一の隠し子”と報じられ
1992年、壱成さんは、『悲しいほどお天気』で俳優デビュー。石田純一さんの個人事務所に所属することになるが、壱成さんのことが週刊誌に「隠し子」と大きく報道されることに。
「父は別に隠していたわけではなく、マスコミに公表していなかっただけなんですけどね(笑)。父と再会してからわりとすぐに父のドラマとか映画の撮影現場に行くようになって、いろんなプロデューサーさんに会わせてもらったりしていましたから。そうするうちにドラマの出演が決まったという感じでした。
演技なんて全然やったこともないし、育ったのが屋久島という島なんですけど、島にいたときには家にテレビもなかったので、ドラマがどういうものなのかもあまりわからなかったんです。もちろん観たことはあるんですけど、それに出るなんてまさかという気持ちでした」
-ドラマに出ることにした理由は?-
「すごく不埒(ふらち)な理由というか(笑)。バンドをやっていて、ちょうどシンセサイザーを新しく買ったときだったんです。そのローンが残っていたのでそれか払えるのかなって思って(笑)。でも、1本出て、2本出て…とやっているうちに、わりとバーッと次々に決まっていって」
-最初からお芝居は問題なくできました?-
「最初はやっぱり難しかったです。とくに誰かに怒られたり、言われたりということはなかったんですけど、自分的に全然できてないなあというのはよくわかりました。『ちょっと台本読んでみて』って言われて読んだときに全然できてなくて、『向いてないのかな?』なんて思ったりもしました」
-壱成さんは、それまでの俳優さんたちとは別の独特の雰囲気がありましたが、ご自分で意識されていました?-
「そうですね。ある程度は自分のオリジナリティーみたいなものは出したいとは思っていました。流行(はや)りものとかそういうものに関しては。
ちょうどその頃からクラブにも行くようになっていて。クラブというとナンパするところというイメージがありますが、当時は全然そういうことがなくて。
スタイリストさんだとかモデルさんとかおしゃれな人たちが出入りするところみたいな感じで、知り合いができればそれはそれで仕事につながるし…という感じだったんです。ちょうどドラマが一緒だった武田真治くんと一緒に行ってからでしたね」
-武田真治さんと“フェミ男”ブーム、すごかったですね-
「そんなようなところにつながる流れですね。自分が着た服が注目を集めてすぐに売り切れになったりしていたので、怖い感じがしました」
1993年、野島伸司さん脚本のドラマ『ひとつ屋根の下』で注目を集めて広く知られるようになった壱成さんは、「TBS野島伸司三部作」の『未成年』に主演することに。
このドラマは、同年代の5人の若者(いしだ壱成、香取慎吾、反町隆史、河相我聞、北山雅樹)を中心に、いじめ、性描写、暴力、未成年の犯罪などを生々しく描いたもの。壱成さんは、優秀な兄(谷原章介)に劣等感を抱いている高校3年生の主人公・ヒロを演じた。
-どんどん役柄が大きくなって注目を集めるようになって、ご自身ではいかがでした-
「道を歩いていて『キャーッ』って言われたり、アイドルみたいなポジションになって行ったんですけど、しばらくは全然慣れなくて。自分のイメージというか、そういう状況に追いつかなかった部分がありました」
-野島さんのシリーズは結構シビアな内容なので精神的にもきつかったのでは?-
「そうですね。重たいときもありました。今テレビでは再放送も難しいくらいの内容なので。先日もプロデューサーと話していたんですけど、『どうですかね?再放送できますかね?』って聞いたら『いやあ、難しい』という話になって。それだけシビアな内容の作品なんですよね。
『人間・失格~たとえばぼくが死んだら~』、『高校教師』に続く『未成年』ということでしたので、それなりに覚悟はしていたんですけど」
-壱成さん、香取慎吾さん、反町隆史さん、河合我聞さん、北山雅樹さん、5人が本当に良いバランスでしたね-
「それはやっぱりプロデューサーの伊藤(一尋)さんですね。いいキャスティングをしてくださって。みんなそれぞれのちのちにいい活躍をされていくような方々ですけど、当時はみんな友だち感覚で仲が良くて。
ケンカもしていましたけど、ケンカするくらい仲がいいみたいな感じで(笑)。やっぱりみんなすごかったですね。今もみんな色々活躍されていますし。僕たちにとって青春でしたね」
◆“もらったら一番迷惑なもの”をプレゼント
1998年、壱成さんは、『未成年』に続いて野島伸司さんが脚本を手掛けた『聖者の行進』に主演。このドラマは、知的障がいをもつ若者たちへの虐待を通して、人間のエゴや弱さ、優しさなどを描いたもの。
放送当時、弱者への暴力シーン、性的虐待シーンなど過激な場面が物議を醸(かも)した。壱成さんは、生まれながらに知的障がいがあるが、誰よりも純粋で優しい心を持った主人公・町田永遠(とわ)を演じた。
-若いときに代表作があって注目されると、それをなかなか超えられないというのもあるのでは?-
「それはあります。もちろん超えていかないといけないし、そういう役をどんどんやっていきたいんですけど、なかなか難しいですね。役は巡り合わせなので。
舞台ではいろいろとやらせていただいて、かなりいろんな経験もさせてもらったんですけど、映像に関しては、これからかなあと思っています」
-代表作がないというのも困りますけど、すごすぎるというのも難しいですね-
「そうですね。皆さん、そのイメージですからね(笑)。ちょうど僕と同世代くらいの方は『未成年』とか『聖者の行進』を観ていた方が多くて。『永遠(とわ)だ』とか『ヒロだ』みたいなイメージで今でも見てくださって(笑)。うれしい反面、役者としてもっともっとそれを上回る作品がなあって」
-『未成年』とか、『聖者の行進』は、壱成さん以外は考えられないほど合っていました。純粋無垢な感じが印象的で-
「でも、野島さんが一番手厳しくて、『未成年』は最終話まで全然役がつかめてなかったって言われました。『最終回で良くなった。お前どうしたんだ?』って(笑)」
-『聖者の行進』もすごかったですね-
「段田安則さんとデビット伊東さんもすごかったですよね。役柄ではひどい仕打ちをしていましたけど、めちゃくちゃ優しいんですよ、デビットさんも段田さんも。めちゃくちゃ優しいんですけど憎たらしい役ということで。
段田さんは、それまではわりといい旦那さんとか良い人のイメージだったんですけど、あれから結構クセのある役もやられるようになって。それもすばらしいと思うんですけど」
-『聖者の行進』の撮影の休憩時間などはどんな感じでした?-
「わりと普通でしたよ。カットがかかるとデビットさんが差し入れを持って来てくれたりして。みんなデビットさんの周りに集まっていましたね(笑)。現場は和気藹々(あいあい)でした。
みんな仲良くて、大宮周辺でロケがたまたま早く終わった日があったので、『みんなでディズニーランドに行こう』ってなって。みんなで行ったら、ちょっと騒ぎになりましたけど(笑)。
みんなとても良くしてくれて、オフの日に水沢アキさんにザ・ローリング・ストーンズのコンサートに連れて行ってもらったこともありました。『チケットがあるから行こうよ。私が車で送って行ってあげる』って。ふたりでコンサートを観てご飯を食べて帰ってきました(笑)。シリアスな内容のドラマだからでしょうね。あれだけのことをやるから申し訳ないみたいなのもあったみたいで」
-みんなひどい目にあわされていましたものね、大人に-
「ひどかったですよね。僕たちが企てたひそかな仕返しというかイタズラは、ちょうどデビットさんの誕生日があったんです。緑山でロケをしていたので、近くのデパートに行って、『もらったら一番迷惑するものを買って行こう』って、みんなでお金を出し合って40万円くらいする日本人形を買って。『デビットさん誕生日おめでとう』って(笑)。
デビットさんが『何?すごいデカいじゃん』って開けたら日本人形で、『どこに置けっていうんだよ』って言っていましたけど、持って帰ってくれました(笑)。優しいんですよ」
-そういうことができるのは仲が良いからですね-
「そうです。そういう仲だからできることで、そうじゃなかったから大変なことになってしまいますからね(笑)」
話題作に主演して注目を集めた壱成さんは、『ひとつ屋根の下2』(フジテレビ系)、『ピーチな関係』(日本テレビ系)、映画『アートフル・ドヂャース』(保田卓夫監督)、舞台『毛皮のマリー』など立て続けに出演。若手トップ俳優となった壱成さんだが、さまざまなトラブルに巻き込まれることに…。
次回はトラブルの数々、中国での活躍なども紹介。(津島令子)
※映画『散歩屋ケンちゃん』
2023年7月7日(金)より池袋シネマ・ロサほか全国順次公開
配給:たきびファクトリー
監督:寺井広樹
出演:いしだ壱成 石田純一 ビッグ錠 佐伯日菜子 友川カズキ
いしだ壱成&石田純一父子が初共演。定職に就かず、クリーニング屋、写真屋、ガチャ屋など「何でも屋」として働くケンちゃん(いしだ壱成)は、ひょんなことから「散歩屋」をはじめることに。「散歩屋」とはお年寄り、引きこもりの方など支援が必要な人やワンちゃんと一緒に歩く職業。様々な事情を抱えるクセのある客と出会う中でケンちゃんは生き別れた父(石田純一)への思いを募らせることに…。