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女優・宮澤美保、夫とゼロからはじめた自主映画。40代で初ヌードにも挑戦「夫が監督じゃなかったらできなかった」

映画『神様のカルテ2』で深川栄洋監督と出会い、2016年に結婚した宮澤美保さん。

自ら主演映画の脚本を手がけ、バイクの連載記事の担当歴もあり、書道師範の資格も取得。「宮沢光華」の雅号も持ち、幅広い分野で才能を発揮。

2022年には、夫婦二人三脚で監督、主演を務めた映画『光復(こうふく)』と映画『42-50 火光(かぎろい)』を自主制作。40代で初ヌードに挑み、剃髪までして流転のヒロインを演じきった。

©2022 スタンダードフィルム

◆デビュー27年目に芸名を愛称の「ホーチャンミ」に変えてみたら

2017年、宮澤さんは、芸名を愛称の「ホーチャンミ」に改名。2021年に元の芸名「宮澤美保」に戻すまでこの芸名で活動することに。

「舞台の仲間に『ホーチャンミ』って呼ばれていたんです。『ミホちゃん』をちょっと逆にして『ホーチャンミ』なんですけど、ずっと前から知っている人にはそう呼ばれていて。

美保というのは、あまりあだ名を作りにくい二文字なので、それがすごく新鮮でうれしかったんですよね。初めてのあだ名というか愛称だったし、ずっとそう言ってもらっていたので、そういう愛称にしたほうが愛着を持って見てもらえるかなあなんていうふうに、フッと思っちゃったときがあって(笑)」

-名前だけ見ていると、どこの国の人だからわからない感じですが-

「そうなんです。私の一番の失敗は、それをカタカナにしてしまったところなんですけど。何かベトナムっぽいというか…。カタカナにしなければもっとマシだったのかもしれないと思って(笑)」

-マネジャーさんに何か言われませんでした?-

「最初は驚いていましたけど、思うようにやってみたらいいと言ってくれました。でも結局、元に戻すことになったので、すごく迷惑をかけました(笑)」

-『やすらぎの刻~道』(テレビ朝日系)に出演されたときもその芸名で-

「はい。ホーチャンミでした。そのときもプロデューサーさんに、『何でホーチャンミにしちゃったの?もったいない。宮澤美保のほうがいいのに』って言われました。

とにかく不評だったんですけど、あのドラマはすごく登場人物が多くて、バーッと名前が出てくるなかで、ホーチャンミという名前は目立つので、そっちのほうがいいなあって思ったんです。でも、誰にも受け入れてもらえなかったです(笑)」

©2022 スタンダードフィルム

※映画『光復(こうふく)』
深川栄洋return to mYselF プロジェクトsideB
2023年6月2日(金)~9日(金)、広島 横川シネマ
2023年7月1日(土)~2日(日)、山口 YCAM山口情報芸術センターにて公開
配給:スタンダードフィルム
監督:深川栄洋
出演:宮澤美保 永栄正顕 クランシー京子 関初次郎 池田シン

◆40代で初ヌードに剃髪「作りものに見えるのがイヤだった」

映画『60歳のラブレター』や『神様のカルテ』、『和田家の男たち』(テレビ朝日系)をはじめ、数多くの映画やテレビドラマを手掛けている深川栄洋監督が監督、宮澤さんが主演で映画を自主制作することに。

2022年、「return to mYselF プロジェクト」と銘打ち、sideAの『42-50 火光』とsideBの『光復』の2作が公開。宮澤さんは主演だけでなく、スタッフとして制作にも携わっている。

「二人でわりと仕事の話はすごくよくしていたんですね。その時々作品と向き合って、とにかく忙しくしていたんですけど、そばで見ていても『この人が自分で作りたいものは何なんだろうなあ?』って思うときがあって。

実は、彼は自主映画出身で、学生時代に自分の作りたいものを作ったところから始まっているんです。それを私も知らなかったし、多分一緒に仕事をしている人たちもみんな知らないんだろうなあと思って。

二人でいろいろ話をするなかで、ゼロからはじめて100%自分の考えを表現する彼のオリジナルの映画を観てみたいと思ったし、彼は彼でそういう作品を撮りたいと考えていたみたいなんです。

私もやったらいいのにと思っていたので、もっとチャレンジしてみたらおもしろいのになあって。私も私で、待っていてもチャンスは来ないから、梶原阿貴ちゃんと一緒に脚本を書いて映画化を実現させた『苺の破片(イチゴノカケラ)』のように自分で動くしかないのかなと思っていた時期でもありました。

彼と私のやりたいことが一致していたので、『自分たちで自分たちの作りたい映画を作ろう』ということになったんです」

-実際にやろうということになるまではどのくらいかかったのですか?-

「2016年に結婚して2018年くらいからですかね」

-監督のスケジュールが、映画やドラマでかなり先まで決まっていたと思いますが-

「埋まっていましたね。ただ、たまたまポカッて空いたときがあったので、そのときに書いていて。やっぱり自主映画だとすごく早く進むんですよね(笑)。思い立ったときにすぐはじめられるというか」

©2022 スタンダードフィルム

最初に手掛けたのは、実際に起きた事件から着想を得た映画『光復』。

42歳の主人公・圭子は親の介護をするために15年前に東京から長野の実家に帰ってきた。生活保護を受けながら父を看取り、認知症で意思の疎通が取れなくなった母の世話に追われるだけの日々のなか、高校時代の恋人と再会。圭子にとって唯一の救いとなるが、母親を殺害した容疑をかけられ、さらに悲劇が…という怒涛の展開。

「私の地元の長野で撮ろうと決めたんですけど、まずどうやってお金を集めたらいいのかがわからなくて、クラウドファンディングをやってみたり、それと同時に長野県民の方を対象にしたオーディションをはじめてという感じでした」

-長野を舞台にしたのは、東京だと監督や宮澤さんとそれまで仕事をされてきたスタッフの方がノーギャラでも手伝ってくれる。そのような状況じゃないところで作りたいということだったとか-

「そうですね。何かそれまでと同じことになっちゃったら、意味がないかなと思って。でも、結局はそういうスタッフの方にもポイントで手伝ってもらっているし、その人たちの助けがないとできなかった作品ではあるんですけど、なるべく自分たちで済ませようと。100%自分たちで作ったと言えるようなピュアなものを作りたかったんです」

-その分宮澤さんの負担もかなり大きかったと思います。主演だけでなく裏方、スタッフもされて-

「大変でしたけど、あのときは本当におもしろかったです。役柄は悲惨ですけど、それよりも日々役者に翌日のスケジュールを連絡したり、翌日の撮影で使う消え物を用意したり…そういうことを夜打ち合わせをしてから寝ないといけないから、本当に睡眠時間も少なくて。

でも、そういうスタッフの仕事もなりふり構わずやっているほうが、やつれもするし、役柄的にも役作りの一つになっていたりしていました。寝癖がついたままやっていたので(笑)」

-ヒロインは本当に、ここまでひどい目に遭う人がいるのかというくらいすさまじいことに-

「そうですよね。あれは完全に監督の好みです(笑)。普段はそういう部分を見せていないですが、わりとそういう映画が好きで、よく観て感銘を受けていたそうです。そのギャップも私はおもしろいなと思いました」

-20代半ばから15年間、両親の介護に明け暮れてきて、高校時代好きだった人と再会、ようやく救いがと思ったら、そのことによって思わぬ不幸が。演じていていかがでした?-

「スタッフをやっていると、ずっと長い期間、そのことを考えていますけど、役者って本当に一部分だけだなと思うんです。本当に目の前にあるやらなきゃいけないシーンをやっていくというだけなので、そんなにすごく大変だったという感じではなかったです。

その役のことは理解できるし、自分が置かれている状況とは違うものではあるけど、想像ができる範囲だったし、本当に世の中にはこういう人がきっといっぱいいると思える感じだったので」

©2022 スタンダードフィルム

-認知症が悪化し、もう自分一人の手には負えないような状態になっているのに、なぜ助けを求めなかったのか-

「私たちの世代は、親の面倒を見るのが当たり前とか、道徳的にそういうふうに育てられているから、責任感も強いし、捨てられないんでしょうね、きっと。

やりはじめちゃったら他に預けるとか、そういうことを考えず、自分ひとりで背負って親の介護をしている圭子のような人もいっぱいいるんじゃないかなと思います」

-母親が亡くなった後の嘆き方を見ていると、彼女にとって母親がいなかったら生きてこられなかったかもしれないと思わせます-

「そうですね。多分圭子は母親と共依存で、そういう存在なんだと思います」

-母親が亡くなった後、彼女に降りかかる数々の悲劇。ひどすぎて衝撃的でした-

「暴力行為を受けたあげく、交通事故にまで遭って、目も見えなくなって…。そこからが映画っぽいというか、おもしろいところですね。想像以上のことが起きてしまう」

-残酷すぎますよね。宮澤さんにとって初めてのヌードでベットシーンもありました。それを実生活では夫でもある監督が撮る。それができるご夫婦というのはすごいなと思いました-

「そうですね。でも、監督じゃなかったらできなかったかなとも思います。信頼があったからできたというのはあります。反対に妻だからということで躊躇するようだったらイヤだなと思ったんですけど、それはまったくなかったので良かったです(笑)」

-宮澤さんは、初ヌードだけでなく、髪の毛も剃って-

「はい。お金がないからヘアメイクはいないし、CGとか作りものではできないなということは決まっていました(笑)。それにやっぱり嘘に見えてしまうのはイヤだなと思って。だから、頭を剃るのもツルツルにしてしまうと、作りものかなって思われちゃう気がして、1ミリくらいの長さでちょっと伸びかけているみたいな感じにしました」

-主人公が手探りしながらも前に進もうとしている感じがとてもよく出ていてすごい作品だと思いました。これが自主映画なんだという驚きも-

「そうですね。自主映画なのに、1年もかけて撮っているし(笑)。順次いろいろなところで公開されていて、まだこれからのところもありますが、7月に東京でイベント上映の予定があって、それでひと段落となりそうです」

-もっといろいろな形で広がっていって欲しい作品だと思いました-

「ありがとうございます。興行に関しては、公開してからも勉強の連続で。映画を作るところは二人とも仕事だし、やりたいという気持ちだけで乗り切れるけど、皆さんに観てもらうまでの宣伝の仕事というのが大変なんだなあって痛感しました。

本当にやってみなきゃわからなかったです。正直、もうちょっと反応があるかなと思っていた部分もあるし…難しかったですね。

ただ、この活動がずっと続いていけば、また原点に戻って『光復』から観てくれる人がこの先も絶対にいると思うから、そういう意味でまだ続ける価値があると思っています」

©2022 スタンダードフィルム

※映画『42-50 火光(かぎろい)』
深川栄洋return to mYselF プロジェクトsideA
2023年6月2日(金)~9日(金)、広島 横川シネマ
2023年6月17日(土)~23日(金)、大分 日田シネマテーク・リベルテ
2023年7月1日(土)~2日(日)、山口 YCAM山口情報芸術センター
製作・配給 スタンダードフィルム
配給協力 ポレポレ東中野
監督:深川栄洋
出演:宮澤美保 桂憲一 白川和子 加賀まりこ 柄本明

◆実生活がベースの2作目は自宅が撮影現場に

『光復』の後、宮澤さんと深川監督は、結婚後3年間に起きた実際の出来事をベースに2作目となる『42-50 火光』を自主制作。

不妊治療をはじめることにした結婚2年目の夫婦、子役時代は売れていた俳優・佳奈(宮澤)と脚本家・祐司(桂憲一)。不妊治療の現実、佳奈の父親の難病発症、同居する祐司の母親との関係…ミドル世代の夫婦が抱える家族間の問題によるストレスや葛藤をユーモアを交えて描いたもの。監督と宮澤さんが実際に住んでいる自宅で撮影したという。

-ベースになっているのは、実際の二人の生活ということですが、不妊治療も?-

「はい、しました。そこもせっかく体験したことだから、どこかで出したいというのがあって。きっと同じ道を通った人もいっぱいいると思うんです。

成功した人も失敗した人もいっぱいいると思うんですけど、成功例の作品はあっても、なかなか失敗例の作品はなかったりするじゃないですか。それをさりげなく組み込めたらおもしろいんじゃないかと思って。

お金もかかることだし、精神的にもつらいこともあるので、せっかくだからそれを出しちゃおうって(笑)。実際に通った先生に監修をお願いしました。

相手役の桂憲一さんは、20年くらい前に私が一回だけ舞台をご一緒させていただいたことがあって、そのときのイメージがちょっと監督に通じるところがあるなあと思っていたので、15年ぶりくらいに突然メールをして。

私のイメージと変わっちゃっていたら、どうしようと思ったんですけど、イメージ通りで(笑)。私も本当に演技なのか素なのかわからなくなるくらいでした」

-加賀まりこさんがおっしゃったことがきっかけでできた映画だそうですね-

「はい。そうです。劇中で加賀さんが祐司に『何があっても、あなたは妻の味方でいなきゃだめよ』というセリフがあるんですけど、本当にそう言われたみたいで。

それがあって、私たちは成立しているというか、今があるというか。あの言葉を加賀さんが言ってくれなかったら、こんなふうにはなっていないと思います(笑)」

-お二人で力のある2作品を完成させて今後はどのように?-

「今後もこのスタイルで続けたいと思っていて、今3作目を書いています。彼がですけど(笑)。3作目も準備していますけど、『光復』と『42-50 火光』ももっといろいろな方に観ていただきたいので、それは続けていこうと思っています。

今はネット配信とか、いろいろありますけど、ネット配信にするのはいやだなと思っていて。劇場や上映会でもいいので、逃げられない状況で観てほしいなあって(笑)。

DVDとかネット配信だと、途中で止めたり早送りしたりできるじゃないですか。そうじゃなく、みんな同じ時間を共有して観てほしいなと。とくに『光復』は、すごい映画体験になると思うので、今後も上映が決まっているのもありますし、問い合わせがあれば対応していくという感じです。本当にお声がかかればという感じなので(笑)」

主演だけでなくスタッフとしても奔走して作り上げた2作品。深川監督と宮澤さんは映画を作る上でも最強のパートナー。映画作りに対する熱い思いが伝わってくる。3作目にも期待が高まる。(津島令子)