ドラマ『unknown』、ジャンルレスな魅力。主人公の“人生を懸けたキス”に胸打たれ、驚きの設定も普遍的な話に昇華
<ドラマ『unknown』第1話レビュー 文:横川良明>
一般的にドラマには何かしらのジャンルがある。だが、こんなにもいろんなジャンルの要素を備えながら、どのジャンルにも属さないドラマも珍しい。
4月18日(火)よりスタートした『unknown』は、ラブストーリーであり、サスペンスであり、コメディであり、それらのどの型にもはまりきらない不思議なドラマだ。
既存のカテゴリーなどまるで意味をなさないように、ジャンルの垣根を飛び越えていく。その軽やかな放物線が描くのは、まだ誰も知らない、新しいドラマの形だ。
◆言葉で気持ちを伝えるこころと、行動で気持ちを示す虎松
とにかく場面ごとに印象ががらりと変わる。
真っ赤なバラの花園を、雨の中、駆け抜けていく誰かのシルエット。その不穏なオープニングはサスペンスそのもの。
かと思えば、闇原こころ(高畑充希)と朝田虎松(田中圭)の出会いへと舵が切られ、一気にラブストーリー色が濃厚に。
と言いながらも、合間合間にクセの強いキャラクターが顔を出し、ここぞとばかりに笑いをかっさらっていく。
おかげで観ている方は気持ちの切り替えに忙しい。でも、不思議と雑多な感じはしない。それは、一つひとつの要素がちゃんと高いレベルで成立しているからだろう。
ラブストーリー、サスペンス、コメディ。『unknown』を構成するこの3大要素について初回は語ってみたい。
まずは、ラブストーリーの魅力について。
これはもう高畑充希と田中圭の空気感にすべてがつまっている。桜並木のキスや夜道のおんぶなどラブストーリーには欠かせない画の美しさにも胸が高鳴るけど、何よりも2人が寄り添いながら話している雰囲気があまりにもナチュラルでニヨニヨしちゃう。
特に可愛かったのが、「彼女かよ」「違うの?」のシーン。こころの「違うの?」のぶちこみ方が間合いも、そのあとのちょっと照れたように笑って目線を外すところも、完全にプロの犯行。恋愛偏差値が高すぎて、ハーバード大学を首席で卒業できるレベル。
それに言葉では答えず、手を握りしめることで返事をしているところが、虎松の不器用なキャラクターを表していて一気に虎松のことが好きになる。
しかも、シナリオの構成的に言うと、このシーンはちゃんと終盤のキスシーンの対になっているんですよね。
火に包まれたうめぼし堂から持ち前の怪力で虎松を救い出したこころ。
「私ね、吸血鬼なんだ。それでも、好きでいてくれる?」
声を震わせて、こころは秘密を打ち明ける。そこには「違うの?」のときのようなあざとさも恋愛偏差値もない。計算も駆け引きもない、こころの人生を懸けた告白だった。
それに、虎松は言葉では答えない。大切なものをもう決して手放さないと誓うようなキスが、虎松の返事だった。前半の「違うの?」があったからこそ、この後半の無言のキスが余計に際立っていたと思う。
プロポーズの前の沈黙も、いつもとちょっと違うぎこちなさが、目線や短い「ん?」の一言で巧みに表現されていて、こんなにもリアルな空気感をつくり出せるのは演技派の高畑充希と田中圭だからこそ。
これからも2人にはいろんなキュンで視聴者をドギマギさせてほしい。
◆虎松は殺人事件の犯人? それとも生き残り?
次はサスペンスとしての醍醐味について。
物語の縦糸となりそうなのは、5年前に発生した連続殺人事件。遺体は、まるで吸血鬼に襲われたように血が抜かれていた。はたして犯人は誰で、なぜこんなことをするのかというのが最大の謎となる。
さらに第1話では火災事件が発生。火の元となったのは駄菓子屋・うめぼし堂だが、店主の今福梅(木野花)のもとを火事の直前に誰かが訪ねていた。
さらに、野次馬の中にも謎の人影が。一体誰が何の目的で梅ばあを襲ったのか。この火災事件の首謀者と、連続殺人事件の犯人は同一人物なのか、という謎も浮上。犯人考察が大いに盛り上がりそうだ。
そして、現状で最も謎に包まれているのが虎松。どうやらこの虎松も秘密を抱えているらしい。
燃えさかるうめぼし堂に取り残された虎松が命の危機を前に思い出したのは、ある部屋で何人かの人たちが血まみれになって倒れている光景。フォトフレームには、4人の家族写真。「12日」と「18日」のところにべったりと血がついたカレンダー。そして包丁を握りしめ突っ立っている人物。
これは虎松の記憶なのか。だとしたら虎松がこの惨殺事件の犯人なのか。あるいは生き残りなのか。
「彼は私を愛してくれるだろうか。たとえ私の正体が吸血鬼だったとしても」とこころはモノローグで語っていたけれど、この問いはきっとこころにもそのまま返ってくるのだろう。
虎松の秘密を知ったとき、それでもこころは虎松を愛することができるか。このあたりが本作の大きな見どころになってくるのではないかなと思う。
◆これはもう完全に“吉田鋼太郎劇場”
最後に、コメディについて。
ここはもう吉田鋼太郎劇場開幕と言っていいだろう。そもそもこの『unknown』は、社会現象を巻き起こしたドラマ『おっさんずラブ』のチームが再結集して制作されたもの。吉田鋼太郎は、田中圭とともに『おっさんずラブ』の顔として作品人気を支えた立役者のひとりだ。
『おっさんずラブ』でもやたらとデカい声とアドリブでインパクトを放ったが、そのアクの強さは『unknown』でも健在。
とりあえず棺桶から起きてきて颯爽と黒いマントを翻しても違和感がないのがすごすぎる。吉田鋼太郎の産着が黒マントだったと言われても「でしょうね」と頷くレベルです。
そして声がデカい。娘の恋愛話にいちいち口を挟むのも面倒くさいけど、その声量がデカすぎて鼓膜と心臓の両方に悪い。この吉田鋼太郎がアパートに住んでたら確実に隣人から壁をどつかれまくってると思う。
娘のスマホに彼氏から電話がかかってきたのにヤキモキして、大黒摩季を熱唱するところとか、もう吉田鋼太郎の正しい使い方すぎる。吉田鋼太郎が猛獣なら、この制作チームは有能な猛獣使い。ノリノリの吉田鋼太郎を見ているだけで笑いが生まれるという確変に第1話からすでに入っている。
さらにここに世々塚幸雄役の小手伸也も加わって、吉田鋼太郎劇場の合間に小手伸也劇場も幕が上がったりしてるから、これはもうフリーザとコルド大王が一緒に地球に攻め込んできたレベル。とことん自由に暴れ回って、視聴者を思い切り笑わせてほしい。
◆彼女は吸血鬼…でも現実離れしていない普遍的な話
主人公は吸血鬼、という設定を最初に聞いたときは、良くも悪くもB級テイストな仕上がりになるのかなと思っていたけれど、「ポテト血ップス」など遊び心溢れる演出は散りばめつつも、全体的には意外と地に足のついた世界観になっていたのが、いい意味で驚いた。
吸血鬼といってもニンニクや日差しがちょっと苦手なだけで、それ以外はほとんど人間と同じ。むしろ人とちょっと違うというこころの悩みは、それぞれ観る人のコンプレックスに十分置き換えられるような普遍的なトーンで描かれていた。
おかげで、現実離れした作品は苦手という人も楽しめる、門戸の広いドラマになっている。
ここからこのジャンルレスなドラマがどこへ突き進んでいくかは、まだ誰も知らない。でも、行き着く先が天国でも地獄でも、思い切り楽しませてもらえそうだ。(文:横川良明)
※番組情報:『unknown』
【毎週火曜】よる9:00~9:54、テレビ朝日系24局
※『unknown』最新回は、TVerにて無料配信中!(期間限定)
※動画配信プラットフォーム「TELASA(テラサ)」では過去回も含めて配信中!