中村優一、20代で一度は芸能界を引退。辞めたからこそ向き合えた“俳優業”への思い「まだ燃え尽きていない」
『仮面ライダー響鬼』の桐矢京介役&『仮面ライダー電王』の桜井侑斗(仮面ライダーゼロノス)役で注目を集め、多くのテレビ、映画に出演することになった中村優一さん。
映画『シャカリキ!』(大野伸介監督)ではロードレースに挑む自転車部のエース、映画『風が強く吹いている』(大森寿美男監督)では箱根駅伝を目指す大学生など、肉体的にハードな役柄に挑戦することに。
◆ロードレーサー役やマラソンランナー役で次々と合宿で猛特訓!
2008年に公開された映画『シャカリキ!』は、自転車ロードレースに青春を懸ける高校生たちの姿を描く人気コミックを実写映画化したもの。中村さんは、自転車部の主将でエースの鳩村大輔を演じた。
「『シャカリキ!』は『仮面ライダー電王』が終わってすぐに撮影した作品だったと思います」
-かなり練習しました?-
「あれはものすごく練習しました。ロードレースの自転車は、ペダルを固定しなきゃいけないんですけど、最初はそれに慣れなくて。止まるときに固定したものが外れないと足が地面につかないんです。だから結構地面に倒れました(笑)。
館山に1週間ぐらい合宿に行って、みんなで練習しました。本当に40キロくらいスピードを出してやっていたので、足がパンパンになって。毎日筋肉痛で、若くて良かったなって思いました(笑)。
この年齢になったら筋肉痛のレベルが違うと思うので、もう怖いです。次の日じゃなくて、2日後、3日後に来ると思うので(笑)」
2009年には、箱根駅伝を目指す大学生たちを描いた映画『風が強く吹いている』に出演。中村さんは、漫画オタクで端整な顔立ちをしていることから「王子」というあだ名がついた柏崎茜を演じた。
-自転車ロードレースをやった後、『風が強く吹いている』では長距離ランナーに-
「はい。その年はすごかったんですよ。あれも軽井沢に合宿に行きましたからね。メンバーの中では一番走るのが苦手で、漫画が大好きという設定だったので、その設定に救われました(笑)」
-中村さんは、中学生時代に陸上部ですから楽勝だったのでは?-
「それが違っていて。僕が陸上部でやっていたのは、短距離のほうだったんですよ。でも、あの作品では長距離だったので、長距離の練習をみんなでやりました。結構な人数でやっていたんですけれども、やっぱり体力がある人たちはめちゃめちゃ走れていて。
僕は中間くらいだったんですけど、個人個人の差が練習の中でもハッキリ出ていましたね。だから、一番走れない王子という役で良かったなあって思いながら、その当時は練習していました」
-次から次へと肉体を駆使する役柄が続きましたね-
「たしかにそうですね。今考えると結構大変だったなあって思うんですけど、やっぱり若かったですからね(笑)。何も考えていなかったです、正直」
◆持病の腰痛が悪化、休業することに
テレビ、映画への出演が続いていた中村さんだったが、持病の腰痛の悪化がきっかけで、2010年に芸能活動を一時休止することに。
-2010年に腰痛が悪化して休業されるわけですが、『風が強く吹いている』の撮影中もかなり痛みはあったのですか-
「はい。『風が強く吹いている』で一番思い出に残っていることは、鍼を打ってもらいながら撮影をしていたことです。
もともと腰は悪いというか、腰痛はずっとあったんですけど、『風が強く吹いている』のときはかなり悪い状況になっていました。
鍼を刺すのが本当に痛くて。現場にメンテナンスをしてくださるトレーナーの方がずっとつきっきりでいてくださっていたので、その日の撮影が終わると、夜鍼を打ってもらってというメンテナンスは毎日やっていただいていました」
-そのときには休業することも念頭にあったのですか-
「そうですね。このまま腰に痛みがありながらやり続けるのも、やっぱり激しく動く作品だったりしたら迷惑をかけてしまうし…と思ってはいました」
-いろいろ作品が続いているなかで、休業というのは大きな決断だったと思いますが-
「腰痛はもちろん一番大きな理由だったんですけど、俳優という仕事をしていく中で、演じるということがあまりよくわかっていなかったんですよね。
運良くオーディションに受かって事務所が決まったり、仕事をいただいたりしていましたけど、演技をちゃんと学ぶ期間もなかったですし、演じるということがあまりよくわかっていなかったというか。
なぜなら、あまり人として悩んだことがなかったので、人の気持ちがわからなかったというのが一番大きかったと思います。なので、どうやって演技をしたらいいのかわからなかったというのが、自分の中でずっと引っかかっていた部分なんですよね。
俳優というのは、人を演じるわけじゃないですか。このまま俳優をやらせていただいていても、自分が人を演じることの限界が見えていたんですよね」
-まだ若かったのに冷静でしたね-
「そうですね。でも、みんなは高校を卒業したときに進路について考えるわけじゃないですか。就職か、進学かとか。
やりたいことがあって、そのために大学に行くとか、みんな考えるわけですけど、僕は高校生のときに事務所に入ることができて、仕事をさせていただいていたので、進路について考えるということがなかったんです。
みんなは学校に行ったり、社会経験というか、今後どうするかみたいなことがあるなかで、僕はずっと1日1日精いっぱい過ごしていくだけでしかなかったので、自分の人生について考える時間もその当時はなくて。
それで家に帰ったら、次の日の撮影シーンのセリフを覚えたら寝るということしかできていなかったので、ちゃんとあらためて自分の人生を考えたり、人としてレベルアップしなければ、そんなに簡単に俳優業はできないと思ったんですよね。それで、休業して、一回芸能界を引退するということになりました」
◆俳優を休業、そして芸能界を引退…それから変化が
芸能活動を休止した中村さんは、2012年に引退を発表。芸能界とはまったく違う仕事をしていたという。
「水道の配管工事の仕事などをしていたんですけど、結局映画とか、ドラマとかを観ていて、やっぱり自分は演じることが好きなのかなって」
-芸能界から離れて初めて気がついたこともあるかもしれないですね-
「そうですね。でも、どちらかというと、自分がちゃんと演じられているかわからない状況が悔しい気持ちはずっとありましたね。それで、その期間でたくさん作品を観ました。俳優の仕事をやっている当時は、あまり観たくなかったんですよ。
少しでも現実逃避じゃないですけど、お芝居から離れたいという思いもあって。すごくお仕事をいただけていたので、休みのときは映画とかドラマはあまり観たくないと思うところもありました。一回辞めてから、やっと俳優業と向き合うことができたという感じがしましたね」
-どんな作品をご覧になっていたのですか?-
「それまではどちらかというと、話題になっているものしか知らなかったんですよね。それがその期間で単館系の映画館に通うようになって、テレビなどではあまり取り上げられないような単館系の映画の楽しさを知りました」
-とくに印象に残っている作品は?-
「リアルタイムでは観てなくてDVDで観たんですけど、内田けんじ監督の『運命じゃない人』。あの映画は、本当にストーリーで勝負したという感じがすごく伝わってきて。予算とか有名な出演者ということではなくて、ちゃんと監督が内容で勝負するという作品に出会えたことが、すごくうれしくて。そこからハマるようになりました」
-それで俳優をもう一度と思うように?-
「そうですね。まだ燃え尽きていないというか。やりたい気持ちがあったのも間違いないですけど、その気持ちだけではやっぱり復帰はなかなか難しくて」
-2013年にお仲間の方たちと表現活動をはじめたというのは?-
「そのときには全然お芝居とかではなくて、単に自分を表現したいものが見つかればいいなあという感じでした。まだ俳優として復帰するかどうかもわかっていなくて。活動は全然してなかったんですけど、ブログだけやっていた時期で。表現を何かしたいなという思いをそのブログに書いただけだったんです。
自分にその思いがあっても、やっぱりすぐに復帰というのはできないなかで、今の事務所の方と本当にご縁で『復帰しなよ』と言ってくださったのが一番大きかったです」
◆燃え尽きていなかった俳優業への思い
2015年、中村さんは、映画『スーパーヒーロー大戦GP 仮面ライダー3号』(柴﨑貴行監督)で俳優業に復帰。
2017年には映画『スレイブメン』(井口昇監督)に主演することに。この映画は、冴えない男が悲劇のダークヒーロー「スレイブメン」となって一人の少女の人生を変えるために戦う姿を描いたもの。中村さんは、主人公の自主映画の監督・しまだやすゆきを演じた。
「今の事務所が開いてくださった井口監督のワークショップに参加したことがきっかけでした。それまで演技のワークショップに通ったことがなかったので、初めて参加したのが井口監督のワークショップでした。
普通のお芝居ももちろんありましたけど、銃の撃ち方とか、ゾンビになったりだとか、おもしろいこともさせていただきました(笑)。
ワークショップに参加しているときはまだ復帰前だったので、本当に俳優として活動を再開することができるのか不安な時期でもありましたけど、ワークショップに参加していたメンバーと一緒に井口監督の作品に出られることになってうれしかったです」
自主映画の監督という設定のため、カメラも本物。劇中で撮影している映像も実際に使用されている。『スレイブメン』と同じ2017年には、佐々部清監督の『八重子のハミング』にも出演。
この映画は、実話をもとに、4度のがん手術を受けた夫・誠吾(升毅)と、若年性アルツハイマー病を発症した妻・八重子(高橋洋子)の絆を描いたもの。中村さんは、主人公夫婦の長女・千鶴子(文音)の夫・英二役で出演。
「撮影は、『八重子のハミング』のほうが先で、クランクアップして3日後くらいに『スレイブメン』の撮影が始まってという感じでした」
-中村さんは、母親の病状に戸惑い苦悩する妻を支え続ける優しい夫役でした-
「婿の役どころで。それこそ休業しているときに佐々部監督の映画もたくさん観ていたので、夢のような現場でした。山口弁の方言もありましたし、佐々部監督の現場だと思うと、ずっと緊張して終わったという感じでした(笑)。
僕の仕事のスケジュールの都合で1日しか撮影日がなかったんです。それが残念で悔しかったです」
-とくに印象に残っていることはありますか-
「方言の指導はすごく印象に残っています。佐々部監督も山口県出身なので、直々に教えていただいたりしていました。
そのときに升毅さんが義理の父親役ということで共演させていただいたんですけど、僕が幼い頃からテレビで観ていた方なので、升さんとの出会いも僕にとって貴重なことでした。
そのあと佐々部監督の『大綱引の恋』という映画でまた升さんと共演させていただいて、プライベートでもご飯を食べさせていただいたり、可愛がっていただいています。佐々部監督と出会えたことは、僕にとって本当に大きかったです」
中村さんは、2020年3月に急逝した佐々部監督の遺作となった映画『大綱引の恋』に出演。ロケ地の鹿児島で監督やスタッフ、キャストのみんなと濃厚な日々を過ごしたという。
次回は『大綱引の恋』の撮影エピソード、佐々部清監督への思い、公開中の映画『妖獣奇譚 ニンジャVSシャーク』(坂本浩一監督)の撮影エピソード&裏話なども紹介(津島令子)
ヘアメイク:菅原美和子
※映画『妖獣奇譚 ニンジャVSシャーク』
ヒューマントラストシネマ渋谷、池袋シネマ・ロサ、新宿シネマカリテ他全国公開中
配給:エクストリーム
監督:坂本浩一
出演:平野宏周 西銘駿 長野じゅりあ 宮原華音 桝田幸希 島津健太郎 中村優一
国産鮫映画最新作。江戸時代。人里離れた沖津村の浜に村人の惨殺された死体が。邪教集団紅魔衆の首領が、不老不死の力を得るため忍術でサメを操り、村で採れる真珠を強制的に村人から巻き上げていたのだ。この状況に業を煮やした村長は、村外れの寺にいる用心棒の潮崎小太郎に助太刀を依頼する。忍者対鮫の究極バトルが…。