テレ朝POST

次のエンタメを先回りするメディア
menu

女子ゴルフ・堀琴音、躍進の裏に“優勝請負人”の名キャディ。がんの手術2週間前にも帯同、足掛け9年でタッグ初優勝

3月、女子プロゴルフツアーがついに開幕。今シーズンさらなる飛躍を誓うのが、プロ10年目の堀琴音(27)だ。

昨シーズンは、年間のポイントランキングで初のトップ10入りを果たし、海外メジャーの全英女子オープンにも出場。2022年3月にはプロ2勝目をあげるなど、キャリアハイの成績を残した。

そんな彼女を隣で支え優勝に導いたのが、キャディを務める大溝雅教さん(57歳)。

テレビ朝日のスポーツ番組GET SPORTSでは、信頼しあう2人の固い“絆”に迫った。

◆親子ほど年の離れたコンビ

堀と大溝キャディが初めてコンビを組んだのは、今から9年前。堀がまだプロ1年目のときだった。

大溝:「たまたま縁があったからですよ。基本的には賞金ランキング順に強い人に営業しに行くけど、『やってください』と言われたから」

堀とは、たまたまの縁だったと語る大溝キャディ。実際、この2人が組んだのはゴルフ界でも驚きの出来事だった。

大溝キャディといえば、過去には片山晋呉や不動裕理、大山志保らトップ選手のキャディを経験。30勝以上も挙げている名参謀だ。

そんな彼に堀は臆することなくラブコールを送り、タッグが実現した。

堀:「新人の私を『この子誰?』状態だったと思うけれど、『いいよ』って言って担いでもらえました。母親と同じ年齢だし、大丈夫かなと思ったりしましたけど」

こうして2人で歩みはじめたプロ人生。しかし、堀はその後、苦難の道を辿ることになる。

2015年こそ正確なショットを武器に新人賞を獲得するも、それから7年間優勝できない日々が続いた。次第にスランプに陥り、シード権も喪失。ゴルフ人生のどん底に陥る。

堀:「周りの目が腫れ物を見る目に見えちゃうんです。(ゴルフを)辞めようかなと思いましたよ。辞めたほうが楽なんじゃないかなって」

そんなときも堀を見捨てず、寄り添ってくれていたのが大溝キャディだった。

大溝:「選手に頼まれたから(やっただけ)。俺たちの仕事ってそういうことです。いつも結果を出してほしいと思ってやっている」

◆がんの手術2週間前にも帯同

しかし、堀にさらなる追い打ちをかける出来事が起こる。心の拠り所だった大溝キャディにがんが見つかったのだ。

それでも彼は病をおし、手術の2週間前にもキャディを引き受けてくれたという。

堀:「がんが見つかった時はやっぱり不安だったと思うんですよね。ある仕事はすべてやる。すごいなぁと思いました」

手術後、堀は北海道の病院へ駆け付け、こんな言葉をかけた。

大溝:「『病気になって病院で寝ているのは大溝さんらしくないよ』って。嬉しいよ、そりゃ。結構昔から(堀のキャディ)やっているから」

必ずまた一緒にやれる――。そう信じて堀は戦い続けた。

その後スランプを克服し、ついに初優勝。その隣に大溝キャディの姿はなかったが、堀はことあるごとに「大溝さんと一緒に頑張りたい」という思いを口にしていた。

◆初優勝の裏に名アドバイス

そして、そのチャンスが巡ってくる。

2022年3月の「Tポイント×ENEOSゴルフトーナメント」。堀の隣には、誰よりも心強い大溝キャディの姿があった。

彼の助言もあり、堀は2日目に単独トップに。

ところが首位で迎えた最終日。優勝争いの緊張からか、スコアをなかなか伸ばせずにいた。

その傍らで、大溝キャディは堀を落ち着かせる言葉をかけ続けていた。

終盤、ライバルに追いつかれ、迎えた16番のパー5。残り270ヤードの第2打。ここで大溝キャディは堀にあるアドバイスを送る。

堀:「いつもならスプーンで打つところを、『いや、刻めば?』って言われて

なんと大溝キャディは第2打、あえてピンまでの距離を残すよう提案。そこには確固たる裏付けがあった。

堀:「優勝争いで緊張もしているから、全然アイアンの縦距離が合わなくなって。13番のパー5をウェッジで打って寄らなかったんですよ」

それは同じパー5の13番。堀は2打目で長いクラブを持ち、ピンの近くまで持ってきていた。

ところが、残り50ヤードの第3打。微妙な力加減がうまくいかず寄せることができない。結局チャンスホールのパー5でバーディーを奪えずにいた。

そんな姿を見て、大溝キャディは16番の2打目であえて距離を残し、3打目に得意のピッチングでフルショットすることを考えた。

名参謀の言葉を受けた堀は、2打目でその要望通りピンまで120ヤードの位置に刻む。

そして、勝負の3打目、フルショットでピンまでおよそ2m。大溝キャディのプランが見事に的中する。ここでバーディーを取り、一気に優勝を手繰り寄せた。

堀:「ここでバーディーを取れば優勝できる、ここしかないという場面だった。(大溝さんは)私を見て『あそこに刻める』と踏んだと思う。私にはあの発想はなかったので、すごいなと思いました」

これで単独トップに立った堀は、2人で戦いはじめて実に9年、大溝キャディとのタッグで初優勝をはたした。そしてこの勝利は大溝キャディにとって、がんの手術後初となる1勝でもあった。

これまで多くを語らなかった大溝キャディだったが、優勝会見では「涙が出そうなくらい嬉しい。娘のような感じだね」と喜びを語った。

堀:「私のキャリアのなかで一番担いでくれているキャディなので、やっぱり最低でも1回は優勝したい気持ちがありました。一緒にいい結果にしようねという感じになれるので、いいパートナーだなって思います

◆さらなる飛躍を期すためのラストピース

そんな順風満帆な1年を送った堀だが、本人はまだ結果に満足していない。

堀:「去年は、私のゴルフ人生の中で一応キャリアハイでした。収穫も多かったんですけど、収穫が多かったぶん、悔しかったことも多かったです」

キャリアハイの成績を残しながらも口にした悔しさ。その理由は何なのか。

堀:「優勝できそうでできなかったときも、やっぱりパターが入らなかったので。ショットが良ければ良いほどバーディーチャンスが多いので、目立っちゃうんですよね」

堀が課題に挙げたのがパッティング。

昨シーズン、堀はパーオン率、フェアウェイキープ率といったショットの成績が飛躍的に向上。その結果、バーディーチャンスにつけることが格段に増えていた。

ところが、肝心のパット率が悪化し、決めきれないことが多かった。

堀:「やっぱりパッティング9割、ショット1割ぐらい、パッティングは大事だと思います。イーブンパー72でもパッティングは36、ほぼ半分がパッティングなので。しかも、勝つ勝たないの瀬戸際も最後のパッティングなので、やっぱりパターは大事」

「パッティングが9割」というほど、危機感をもっていた。

先月のオフの練習では、1日のうち多くの時間をパッティングに費やしていた。パターのシャフトにはなんと“ボールケース”。これはいったい…。

堀:「チープな練習ですけど、自分の中ではすごく意味のある練習法ですね」

堀が実践する練習は至って簡単。ボールケースをシャフトに装着する。ただそれだけ。この練習の意図を尋ねると、次のように答えた。

堀:「上から見たときにパターが横にブレないように、まっすぐ動かす練習。(パターの動かし方で)箱の見え方が違うんです。パターを開いて打ったら、箱の側面が見えてしまう。箱の側面は基本的に見えないようにしないといけない。縦の面しか見えないような動きをするのがポイントだと思います」

箱の側面が見えないように、まっすぐ引いてまっすぐ打つ。この動きを何度も反復練習することで、無意識のうちに正しい振り方が再現できるようになるという。

徐々に手ごたえを掴みはじめている堀は、3月17日(金)から連覇のかかる「Tポイント×ENEOSゴルフトーナメント」に参戦。相性の良いコースで、再び大溝キャディとタッグを組む。

がんを乗り越え、優勝を分かち合った思い出の地で、どんなときも自分を支え、誰よりも信頼できる相棒とともに。

堀:「大溝さんは2連覇したことがあるかもしれないですけど、同じ人で同じように2連覇できたら本当に嬉しいなと思います。まだまだ担いでもらって、まだまだ優勝請負人になっていただきたいです」

※放送情報:「Tポイント×ENEOSゴルフトーナメント」

<地上波>
3月19日(日)午後1:55~3:20

<BS朝日>
3月17日(金)午後1:00~3:56
3月18日(土)午後1:00~3:54
3月19日(日)午後1:00~1:55、午後3:17~4:20(最大延長18:54)

番組情報:『GET SPORTS
毎週日曜 深夜1:25より放送中、テレビ朝日系(※一部地域を除く)