2022年11月、ブルガリアで開催された世界トランポリン。

そこで久しぶりに女王に返り咲いたのが、森ひかる（23歳）。女子個人で2019年以来３年ぶり2度目の金メダルを獲得した。

東京オリンピックでは金メダルを期待されながらまさかの予選落ちという挫折を経験した彼女は、いかにして輝きを取り戻したのか――。

テレビ朝日のスポーツ番組『GET SPORTS』では、元世界女王の再起までの道のりを追った。

◆「トランポリンを辞める予定でした」

連続した10回のジャンプを実施し、技の難度や着地する位置の正確さなどを競うトランポリン。

着地位置が大きくずれるなど演技が中断すると、その時点で終了。まさに一発勝負のスリリングな競技だ。

森の武器は、通称“トリフィス”。

3回宙返りにひねりを加えた、世界のトップ選手しかできない大技だ。しかも、このトリフィスを2回取り入れる高難度の構成で勝負している。

東京オリンピック出場をかけた2019年の世界トランポリンでは、武器であるトリフィスを2回成功させ、日本人初となる金メダルを獲得。一躍世界にその名を轟かせた。

そして迎えた東京オリンピック。日本中が世界女王の森に金メダルを期待していた。

しかし、予選でまさかの演技中断。決勝にすら進めず、大きな屈辱を味わう。

森：「メダルを期待されるという苦しさもあって、その中でも1カ月前から宙返りが怖くなってしまったり、ただのジャンプも跳べないということもあって…」

演技後、涙ながらに敗因を語った森。その後は現役引退も考え、トランポリンから離れる生活を送った。

森：「まず私はオリンピックでトランポリンを辞める予定でした。オリンピック終わります。跳ばなかったです。まったくです。夜中の3時とかに冷蔵庫を開けて、いろんなものを食べて、昼まで寝て、こたつで携帯をいじって…みたいな生活をずっと送っていました。それが暇になったので、バイトしてみようかなと思ってバイトをはじめました」

なんと、回転寿司店でアルバイトをしたこともあったという。それでも…。

森：「年下の子たちのほうが全然仕事もできるし、私はまだまだ成長できていない。トランポリンをやっていたほうが私は人としても成長できると思って、トランポリンを続けることを決めました」

◆「私は弱くなってしまった」

こうしてオリンピックから9か月後、現役続行を決意。2022年6月、気持ちを新たに世界トランポリンの選考会に臨んだ。

しかし、披露した演技には、従来の安定感がない。着地位置が大きく外れ、演技中断。8位に終わった。

10月に行われた全日本選手権でも、負の連鎖は止まらない。

1本目と3本目で大技トリフィスを成功させるも、またもや演技中断。決勝にも進めず、結果は23位。元世界女王はどん底まで落ちていた。

森：「私は弱くなってしまったなという残念な気持ちのほうが大きいですし、悔しいというよりかは悲しいというか、残念です」

現役続行を宣言したものの、最後まで自分を信じることができず、弱気になっていた。

思い返せば、4歳ではじめたトランポリン。めきめきと頭角をあらわし、小学校3年生でジュニアの日本一に。

森：「はじめたときはただ楽しいってだけでやっていました」

2013年、14歳で全日本選手権を史上最年少優勝。歴史的快挙を打ち立て、天才少女と称された。

その頃のモットーは「できると思ったらできる」。自分を信じ、強い気持ちで試合に臨んでいた。

森：「最近は自分に負けてしまっているなと思う」

過去を振り返り、そんな本音を漏らした森。ひたすら練習に打ち込むことで自信をつけ、かつての強い気持ちを取り戻そうとした。

◆「私はトランポリンが好き」

2022年11月。それまでの実績を考慮され、世界トランポリンの舞台に立った森。

テーマは「自分に勝つこと」。

正念場で、森はついに本来のパフォーマンスを発揮した。

2種類のトリフィスを見事成功させ、最後の着地まで安定した演技を披露。自分を信じ切り、3年ぶりに金メダルをつかみとった。

森：「自分はこれまでの間、所属先を見つけて、コーチを選んで、トレーナーさんを選んでやってきたし、ここまでしっかり練習をしてきた。そういう自分の自信、プラスみんなを信じるということ、私のためにみんながそこまでしてくれたという思いを持ってトランポリンを跳んだんですよ」

その後も、国内大会では圧倒的な強さで優勝。トレードマークの笑顔が戻ってきた。

森：「私はトランポリンが好きで、トランポリンが楽しくて、トランポリンを通してたくさんのことを学んでいくということはブラさずに、自分の力を出し切っていけるようにがんばっていきたいと思います」

森ひかるの第2章はまだまだ続く――。

※番組情報：『GET SPORTS』
毎週日曜 深夜1：25より放送中、テレビ朝日系（※一部地域を除く）