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「過去に戻りたいとは思わない」高橋和也、歩んできた“最高の人生”。29年ぶり男闘呼組再始動は「奇跡ですよ」

“男闘呼組の高橋一也”から“俳優・高橋和也”、そしてミュージシャンとして新たな人生をスタートさせた高橋和也さん。

映画『KAMIKAZE TAXI』(原田眞人監督)、映画『ハッシュ!』(橋口亮輔監督)、大河ドラマ『風林火山』(NHK)など多くの映画、ドラマで幅広い役柄を演じ、俳優としての認知度を高めていく。韓国の俳優イ・ビョンホンの吹き替えをはじめ、ナレーションなど声優としても活躍。

複数のバンドとライブを実施し、2022年、男闘呼組の活動を期間限定で29年ぶりに再始動。現在、映画『追想ジャーニー』(谷健二監督)が公開中。ソロで行っているバンドのレコーディング、ドラマや映画の撮影も続き勢いが止まらない。

 

◆イヤなやつを演じるときは徹底的に!ダークで醜い部分を持つ役が好き

2012年、映画『EDEN』(武正晴監督)のヒゲに女装メイク姿で衝撃を与えた高橋さんは、2014年、映画『そこのみにて光輝く』(呉美保監督)に出演。

この映画は、絶望の底で生きる目的を見失った達夫(綾野剛)と愛を諦めた千夏(池脇千鶴)が運命的に出会い、再生の光を求めて懸命にもがく様を描いたもの。高橋さんは、病気の家族を抱えて生活苦にあえぐ千夏の愛人・中島を演じた。

-『EDEN』の女装姿以上に衝撃的でした。今までで一番イヤな男だったかも-

「そう。あれもすごかったですね(笑)。でも、実はあれもすごいノッてやったんですよ。監督もプロデューサーもうまくてね。『和也さん、これは、(ロバート)デ・ニーロがやる役ですよ。和也さんしかいません』なんて言って口説いてくるの(笑)。

そう言われると、こっちも、『じゃあ、何かおもしろいアプローチやりたいね。パンチパーマでやろうか』なんて思ってさ、人生初のパンチパーマ。造園会社を経営しているイヤな感じの男で」

-愛人の千夏に対しては異常な執着をみせる暴力的な男で、裏ではアコギなことをしている町の有力者-

「そう。でも、やっていて楽しかったですよ。イヤなやつとかは、思いっきりやらないと、中途半端に怖がってやっていてもしょうがないからね。本当にイヤな人間になりきってやっていたほうが映画的にもやっぱりスリリングじゃないですか。

『うわーっ、コイツ本当にイヤなやつだ』って思われてさ、最後結果的にはあいつは罰せられるんだけど、『当然だ!』ってみんなが思うようなね。そう思ったでしょう?(笑)」

-思いました。そのあと同じ呉美保監督の『きみはいい子』では、めちゃめちゃいい教師役で、前作であんなにいたぶって苦しめていた池脇千鶴さんが奥さん役でしたね-

「そう。前作とは正反対の役で。だからおもしろいですよね(笑)」

-前にトークイベントの司会をしたときに呉監督が、結構悩みながら撮っているとおっしゃっていました-

「みんなそうだと思いますよ。監督は悩むと思う。映画はできてみないと本当にわからないから、作っている段階というのは、信じてやるしかないし、それでもやっぱり迷いは絶対にあると思う。最初から正解が決まっているわけじゃないからね」

-映画作りの過程を描いた『雨に叫べば』(内田英治監督)という作品もありましたね。1980年代の映画製作の舞台裏をユニークに描いたもので、高橋さんは現場に翻ろうされる製作プロデューサー役-

「あれもめちゃめちゃおもしろかった。楽しかったですね。いかがわしい人間が好きなんですよ。人間のダークな部分というか、いやらしい部分だとか、醜い部分だとか、そういうものを持っている役が好きなんですよね(笑)」

2019年には、東京新聞の望月衣塑子記者の同名ベストセラーを原案に、若き新聞記者とエリート官僚の対峙と葛藤をオリジナルストーリーで描き、数多くの映画賞を受賞した映画『新聞記者』(藤井道人監督)に出演。

高橋さんは、5年前に上からの指示でマスコミに出るとまずい文書を改ざんした責任を一人でとって外務省から内閣府に出向し、投身自殺してしまう内閣府の神崎役を演じた。

「脚本を読んだときに物議をかもす作品になるだろうなと。神崎役は実在した人物がモデルになっているので、演じる上で覚悟が必要でした。自分としては、表現は自由であるべきだと思っているし、問題作だからこそ、挑戦し甲斐があるなと思いました」

-実際演じてみていかがでした?-

「映画『新聞記者』というフィクションの中での登場人物ということで、新しい人物を創造しているという感じでした」

-完成した作品をご覧になっていかがでした?-

「僕は完成披露試写会で観たのですが超満員で、観客の皆さんが息を詰める感じで観ていたのがすごい印象的でした。終わった瞬間、お客さんたちに囲まれて『すごく良かった』って言われました。

あの映画は、はじめ数館での上映予定だったのですが、どんどん拡大していってものすごい観客動員数になり、日本アカデミー賞の最優秀作品賞をいただき、作品として評価を受けましたからね。そんなことは滅多に起こることじゃないから、いろんな意味で壁を破った作品でしたよね。

勇気をもらった映画会社の人はたくさんいるんじゃないかな。表現にはタブーはないし、描きたいものは信念を持って、たとえアウェイであっても作ると。そういう意味でも非常に印象に残る作品です」

©『追想ジャーニー』製作委員会

※映画『追想ジャーニー』
池袋シネマ・ロサにて公開中
配給:セブンフィルム
監督:谷健二
出演:藤原大祐 高橋和也 佐津川愛美 真凛 髙石あかり 岡本莉音 伊礼姫奈 外山誠二

◆過去に戻ってやり直したいことはない

公開中の映画『追想ジャーニー』では、18歳の主人公・文也(藤原大祐)の30年後を演じた。この映画は、文也が突然現れた30年後の自身とともにより良い人生を歩むための道を模索する様を描いたもの。

高橋さん演じる48歳の文也は、人生のターニングポイントに戻り、後悔の思いを取り戻そうとする。

「わりと最近はダメ男系の役が多いですね。『追想ジャーニー』もダメ中年男(笑)」

-最初にお話が来たときはどうでした?-

「おもしろいと思いました。僕が子どもの頃、5分後の世界とか、5分前の世界とかを描いた漫画がよくあったんだけど、そういう空想的なおもしろさがあると思って。

若い頃の自分に会って、人生を間違えないようにさせようとするところが、とてもおもしろかったというか。脚本を読んだときに、これはおもしろくなるなあって思った」

-人生の分岐点に戻ってやり直せたらいいかもと考えてしまいましたが、高橋さんは戻ってやり直したいと思ったことは?-

「いや、戻りたいとは思わないですね。結果的には最良の選択をしてきたと思えるので、やり直したいところはないです。最高の人生を歩ませてもらっていると思うから」

-いろんなことがあっても着実に結果を残して歩んできていますものね-

「そう。この『追想ジャーニー』の主人公のキャラクターというのは、僕とは違って、すごい後悔を引きずっているし、もう一度人生をやり直したいと思っている男じゃないですか。

だから、この役をやりたかったのかもしれないですね。僕の中にはそういう思いがないから、この男が『どうしてこんなに自分の人生を悔やんでいるんだろう?』って。そこがもしかしたら演じたかったのかもしれない」

-48歳の文也は、後悔の連続ですからね-

「そう。ずっと後悔している(笑)。でも、結局『お前の人生はそれでいいんだよ』って、人生の肯定じゃないですか。お母さんに最後、『あんたそのままでいきな』って、あれを言われてすごい救いになるという。あのお母さん、最高ですよ(笑)。

お母さんのDNAを受け継いでいたらまた違ったかもしれないけど、お父さんのDNAが濃かったのかもしれない(笑)。結構ウジウジしていますからね。僕にはあの男のそういう気持ちがわからなかったから、そこがポイントだったのかなあ。

それで、わりとギラギラしている役が多かったから、ジャージにTシャツでだらしない格好をして、そのまま撮影するなんて、ちょっと最初は抵抗あったんだけど、やっていくうちに文也という人間の心情がわかってきたというか。

撮影期間が3日間で短かったものですから、一気に集中してやれました。演じながら文也の心情をつかんでいったという感じですね」

©『追想ジャーニー』製作委員会

-完成した映画をご覧になっていかがでした?-

「すごいおもしろかった。いい作品になっていたし、俳優さんがみんなとても良かった。僕は自分が出ていないシーンが何シーンかあるから、みんながどんな芝居をしているのか知らなかった部分もあったけど、若い女優さんもおもしろかったし、みんなそれぞれ魅力的で良かったです」

-上映時間が66分、わりと短めでしたね-

「そう、だから、ドラマとしてのストーリーはあるんだけど、要するに実験ドキュメンタリー風にもとらえることができて。俳優の演技力で結構無理な設定でも演劇を観せることで、お客さんに演じるというものを観せるおもしろさというのかな?

舞台仕立てになっているじゃないですか。そこがトリックというか、物語としては、文也の過去の自分の分岐点を振り返っていくということなんだけど、それをあえて映画的にリアリズムで攻めないところ、演劇として開き直って見せるということが成功していると思うんですよね。

映画でなかなかああいう手法ってないなあって。大胆だから、ディテールにこだわっちゃったり、そういうところを飛ばして演劇として、舞台として見せるみたいな開き直り方が、すごくうまくいっていると思うんですよね。そこが新しいと思う。いろんな方にぜひ観ていただきたいです」

-吹き替えやナレーションもされていて、イ・ビョンホンといえば高橋さんという感じです-

「声の仕事も好きですよ。あれはまたおもしろい世界ですよね」

-ある意味職人芸ですね。最初からスムーズにできました?-

「あれも最初は、演出家に指導されながらでしたね。吹き替えは初めてだったので。でも、やってみたらすごい楽しくなって、1年間イ・ビョンホンばかりやっていました。どの作品もすごく魅力的だったので、演じるのが楽しかった」

 

◆奇跡の男闘呼組再始動!

俳優、ミュージシャンとして多忙な日々を送っている高橋さんだが、現在は山梨と東京の2拠点生活を送っているという。

「スタジオじゃないんだけど、音が出せるでしょう? 東京の家だと隣近所のこともあって、なかなか好きに音を出したりできないからね。山梨の家は山の中だから大きな音を出しても、そんなに周りに迷惑にはならない。あとはコロナの影響が大きいです。

うちは家族が多いから、自分がコロナに罹ると撮影にすごく迷惑をかけるので、この2、3年は山梨と仕事場との往復が多いですね。

-お子さんが6人いらっしゃるんですね。昔、高橋さんのお父さんのお店「マローネ」でよくみんな集まって飲んでいたのが21、2年前。当時は4人のお子さんでしたが、ちゃんとお父さんしているなあって思いました-

「そうですか(笑)。それが2人増えて6人だからね」

-6人のお子さんたちを育て上げたというのはすごいですね-

「信じられないですよ。よくやったなあって思う(笑)。だって怖いことですよ、こんな不安定な仕事で。でも、そんなに心配しなかったですね。それよりも夢中になって仕事をやっていたから、結果的にそれが良かったのかなって思う。あまりそんなことを考えなかったからね。

僕はお金のこととかもあまり考えないし、知らないんですよ。自分がいくらギャラをもらうのかなんてことは後から知ればいいわけで、あまりそういうことを考えると、『芸が汚れる』とかいうじゃない?(笑)『人として芸がちっちゃくなる』とかね。だからそういうことを考えないでいきたいなあって」

2022年7月に『音楽の日』(TBS系)で男闘呼組の再始動を発表してから話題沸騰。10月15日と16日には、2023年8月まで期間限定で活動を再開した男闘呼組のライブを行ったが、チケットは争奪戦で即完売。興奮のるつぼに…。

「あれから29年ですからね。みんなそれぞれ別の人生を歩んできたわけだし、27年間、4人そろって会うことはなかったから、本当に絶対あり得ないと思っていた。奇跡ですよ」

2年前に初めて4人で会ってセッションをしたとき、男闘呼組再始動に向けて4人の気持ちは固まったそうだが、実現するまでに2年かかった。待ちわびていたファンは大熱狂。当時の男闘呼組を知らない若い世代からも「イケオジ」のカッコいいバンドとして注目を集めている。

「自分たちが一番ビックリしていますよ。ライブは最高で、燃え尽きた(笑)。でも、めちゃくちゃ楽しい。29年間、それぞれが歩んできた道があって、その期間があったから、こんなに今楽しいんだろうなあ。あの時間があったからこそ、今がこんなにうれしいんだと思う」

-皆さんがものすごくいい顔をしていて、見つめ合っている姿にジーンと来ました-

「若い頃には、まだ僕らが若すぎて持ち得なかったメンバーに対する優しさだとか、相手に対する思いやりだとか、そういうのがやっぱり50過ぎて出てきたんでしょうね。12月にもライブをやるので楽しみですよ」

-今後はどのように?-

「子どもたちが小さいときは、とにかく育てなくちゃいけないから何でも仕事をやって来たけど、みんな大きくなったしね。これからは人生楽しくやっていきたいという思いが強いかな。苦労したり、いろいろ悩んだり、散々してきたからね(笑)。これからは人生を楽しんで、仕事を楽しんでいきたい。

僕は本当にラッキーだと思う。いろんなことがあったけど、必ず何かが終わるときに新しい人に出会えたり、自分を導いてくれる人、救ってくれる人に出会えているので。ジャニー(喜多川)さんや今の事務所の社長とスタッフ、いろいろ助けてくれた方々には本当に感謝しています。あの方たちがいなかったら今の僕はいないので感謝しかないです」

つらいことや困難なことも多々あったと思うが、若いときから愚痴や弱音を吐かないステキな人。10代の頃から漂わせていた色気に大人の渋さも加わり、カッコいい大人に。これからも俳優として、ミュージシャンとして輝き続けてくれることを期待している。(津島令子)

ヘアメイク:鎌田順子(JUNO)

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