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俳優・高橋和也、苦労した“男闘呼組の一也”からの脱却。カッコ良く見せる癖が抜けず「よく監督に怒られた」

1993年、ジャニーズ事務所を退所後、男闘呼組として最後に出演した舞台の演出家ロバート・アラン・アッカーマン氏に勧められ、アメリカに留学した高橋和也さん。

子どもができたことを機に、父親になるために帰国。アメリカで作った曲をはじめ、オリジナル曲でライブを行い、現在の事務所に所属。高橋一也から高橋和也に改名し、俳優、ミュージシャンとして新たな一歩を踏み出すことに。

 

◆カッコ良く見せる癖がなかなか抜けず…

ジャニーズ事務所に入った15歳のときから多くのドラマに出演してきた高橋さんだが、“男闘呼組の高橋一也”から俳優・高橋和也になった当初はかなり苦労したという。

「男闘呼組という看板がなくなった高橋和也は、何者でもない25歳のまだ引き出しの少ない若手の駆け出しの俳優ですからね。苦労しました。いろんな役を演じるんだけど、演じられなくてよく監督に怒られていました。

市川崑監督とかね。富岡忠文監督の『尻を撫でまわしつづけた男 痴漢日記』という名作があって、それの2作目に僕が出ることになったんですけど、富岡監督にも、まあよく怒られましたね(笑)。

男闘呼組の一也の癖というか、無意識にすぐポーズをとってしまう。それを全部剥がされるわけですよ。

『普通にいろ。そういう突っ張った格好はするな』って、普段着からダメ出しがくるから、自分としてはあまり気に入らない白茶けたジーンズやTシャツを着て行ったりすると、『それでいいんだよ』って(笑)。要するに飾るなということ。ポーズをとるんじゃないということをよく言われました」

-カッコ良く決めるということが、身に付いちゃっているわけですものね-

「そう。それを剥がされる作業があって、それでだんだん俳優として人物を演じるということが少しずつわかってきたんだけど、それには20年、30年かかりましたよね。

今はそういう意味では、脚本を読むと本当に素直にストンと役者として、俳優としてそこに入っていけるようになったから、あまり自分でああしたい、こうしたいというのではなく、むしろ現場で監督がしてくれる演出を素直にという感じですけど。

映画の仕事でもそうだけど、編集権も決定権も監督にあるわけで、俳優がいくらああしたい、こうしたいと言っても、それを監督が気に入らなければ、カットすることができるわけですしね。

だから、それよりも監督が何を求めているのかということのほうが大切で、それを自分が表現できるかということだと思うんですよ。そういうことがわかるようになって、だんだんシンプルになってきたという感じですね」

高橋さんは、25歳のときに映画『通天の角』(祭主恭嗣監督)に主演。悪徳問屋に騙され、失意のまま死んでしまった父親の仇を討つため、ひと芝居うつ主人公・岩下春男を演じた。

「あれは関西弁だったので、勝新太郎さんの『悪名』(田中徳三監督)を観て関西弁を勉強しちゃったばかりに、ちょっと時代の古い関西弁になっちゃって(笑)。『今の大阪の人はこんな関西弁はしゃべらない』って言われました。

そんな感じでいろんな勘違いがたくさんあってね(笑)。いろんなタイプの監督がいるから、アイデアをおもしろがってくれる監督もいれば、『そうじゃない』って言って自分がやりたいことを全部否定して、監督の世界に入ってこいという監督もいる。

監督によっていろんな作法があるから、自分のアイデアが通じないときに、本当に苦労するわけですよ。こうやりたいのに『それはダメ』と言われるから、監督の世界に合わせていくんだけど、自分が気に入ってない作品もいっぱいありました。

自分がやりたい芝居ができていないということが観ていてつらいんですよ。だから、何年も観られない作品がたくさんありました。

でも、それを20年後ぐらいに観たときに、『あれっ?こんなにおもしろい作品だったんだ』って思うこともあるんですよ。当時の自分にはわからなかったけど、『ああ、こういうことを描いていたんだ』って、監督が何を描こうとしたのかということが、20年後にわかったり…そういうこともたくさんありますね」

 

◆拳銃を振り回したり、ベッドシーンも

1995年、映画『KAMIKAZE TAXI』(原田眞人監督)に出演。この映画は、ペルーから出稼ぎで来日した日系人タクシー運転手(役所広司)と組に反旗を翻した若きチンピラ(高橋和也)の逃避行と反撃を描いたもの。高橋さんは、愛する恋人を殺されて激怒し、復讐を誓うチンピラ・達男を演じた。

-『KAMIKAZE TAXI』はインパクトがありましたね-

「あれは自分が監督にこういうふうにやりたい、ああいうふうにやりたいってアイデアを出すと、『やってみて、やってみて』って、全アイデアを喜んで拾い上げてくれたから、本当に自分がやりたい放題好きにやらせてもらったという感じでした。自分でも大好きだし、今でもやっぱりすばらしい作品だと思います」

-男闘呼組の高橋一也から俳優・高橋和也として認知された作品でもありますね-

「そうですね。当時のジャニーズには、やっちゃいけないことがあって。拳銃を持ったりすること、それから女の人とベッドシーンを演じること。この映画では、当時ジャニーズ事務所でタブーだったことを全部さらけ出したというか(笑)。

だから自分としては、それがすごく痛快だったし、やりたかったことを全部あの作品の中に出せた。でも、それが今の事務所の社長との最初の作品で、それ以降あれほど自由にやらせてもらえる作品に出会えなかった。

1本目があの作品だったので、逆に苦労しましたよ、その後はね。求められることが毎回さまざまで、普通の人だったり、営業マンだったり、医学部の学生だったり…という感じで、自分とかけ離れたものを演じさせられていたので」

1997年、高橋さんは映画『マルタイの女』(伊丹十三監督)に出演。これは殺人事件の現場を目撃してしまった女優(宮本信子)が、身辺警護の刑事に守られながら困難を乗り越えて裁判で証言台に立つまでの姿を描いたもの。高橋さんは、弁護士夫婦殺人事件の犯人を演じた。

-『マルタイの女』では、またちょっとクセのある役でしたね-

「あれもちょっと狂気を感じさせる役だから、自分としてはすごく乗ってやれたかな。冒頭から弁護士一家の家を襲っちゃうわけで、ああいう世界観はわりと自分は得意だなと思いました(笑)。むしろ、大学生とか、普通の人の役のほうが難しかったですね」

-犯人とか、クセがある役のほうがおもしろいでしょうね。普段はやらないことだから-

「そうですね。でも、よくケガをしました。要するに立ち回りの基礎なんか何も知らずに感覚だけでやってきちゃったから、とくに時代劇をやるようになって、素足でしょう? 素足に草履(ぞうり)を履いて着物姿で刀を持ってぶつかり合うわけじゃないですか。よく血だらけになったり、捻挫(ねんざ)をしたり…傷だらけになっていました。

でも、体を使って一生懸命やるしかなかったですからね。宿舎に帰ってくると、もう体中が痛くて翌日起き上がれないみたいなことがしょっちゅうありました」

-立ち回りをしていて当たっちゃうこともあるそうですね。『マルタイの女』のときも当たってしまったとか-

「そう。伊集院(光)さんに殴られるシーンで実際に当たっちゃったんだけど、それが田んぼのシーンだったので、NGを出してもう一度やるのがイヤだったから、殴られようがなんだろうがとにかく続けるしかないって(笑)。一発でOKだったんですけどね」

-当たってしまったときはかなり痛かったですか?-

「それより僕が襲う弁護士の役をやられていた仲谷昇さんという名優の方が、バットを持って僕を追いかけるというシーンがあって、僕はそれを手で払いのけるんだけど、そっちのほうが痛かった。思い切りバットを手で受けてしまったからめちゃめちゃ痛くてね。腕が折れたかと思いましたよ。

でも、仲谷さんも必死で演じているから、気づいていないというか、当たったことすら覚えてないという感じなんでしょうね。だから、撮影では本当に怖い思いや痛い思いをたくさんしました。馬に蹴られたこともあるし、ケガはよくしましたね」

-撮影のときは興奮してアドレナリンが出ているから気がつかないのでしょうね-

「そうそう。だから、そうやって本当に体を張ってやる仕事なんだなあって痛感しました」

 

◆ヒゲを生やして女装メイクで撮影

2001年、高橋さんは、映画『ハッシュ!』(橋口亮輔監督)に出演。この映画は、一組のゲイカップル(田辺誠一&高橋和也)と孤独な女性(片岡礼子)が、新しい家族の形をめぐって繰り広げる騒動を描いたもの。

高橋さんは、ペットショップで働く長谷直也を演じた。夜の街で出会った男たちと奔放なゲイライフを送っていたが、勝裕(田辺誠一)と出会い、一夜をともにしたことから付き合うことに。

-幅広い役柄を演じてこられて、『ハッシュ!』も話題になりました-

「橋口さんもすごく厳しい演出家だから、しんどかったなあ(笑)。本当にしんどかったです」

-女性が観ていても高橋さんが演じた直也の心情がすごくよくわかりました-

「あれは女の子の役だからね。まあ、自分の中にもいろんな要素があって、多分そういうところも秘めている。だれもが大なり小なりあると思うんだけど、演出によって、そういうものを引っ張り出されたというか…。

それが自分にとってはすごく見せたくないものを見せているような気分になっていたし、大スクリーンでみんなに観られるのは恥ずかしいなあって思ったり…。

自分の女性的な部分だとか、そういうものを人前にさらけ出すというのは、やっぱり怖いですよ。普段絶対に見せたくないものだからさ。いろんな感情があるわけじゃないですか。それをみんなの前で見せるというのは、すごい抵抗があった。

ただ、それを観た人たちが『すごい良かったよ』って言ってくれたのが、ちょっと衝撃というか。『えっ?こんなにこの映画がウケているんだ』というのが、不思議な感じがしましたよね」

-高橋さん、田辺誠一さん、片岡礼子さん、それぞれのキャラが立っていて、この3人ならこういうこともあるだろうなという説得力がありました-

「あの作品はなぜか手元にないんだよなあ。めったに自分が出た作品を観直したりはしないですけど、ときどきフッと『こんなところにあったんだ。観てみよう』って、何気なく観てみるということはありますね」

2012年には、ニューハーフやゲイの登場人物たちが織り成す人間ドラマをマイノリティに対する温かな眼差しで描いた映画『EDEN』(武正晴監督)に出演。高橋さんは、ショーパブ「エデン」で働くエルメス役。突然亡くなった仲間の遺体をトラックに載せて、遺体の引き取りを拒否された実家にみんなで送り届けるという無謀な計画を実行する。

-エルメスの鼻の下から口の周りに濃いヒゲを生やしての女装メイクが強烈でした-

「そうでしょう? 『EDEN』は楽しかったなあ(笑)。あれはスケジュールの都合で、どうしても蜷川幸雄さんの舞台と並行して撮影しなくちゃいけなかったんですよ。

蜷川幸雄さんに稽古中に、『お前の芝居気に入らねぇんだよな。お前ヒゲとか生やせないの?』って言われたから『生やしますよ』って言ってヒゲを生やしたんですよ。その地方公演が控えていて、その合間に撮った作品だからヒゲが剃れなかったわけ。

本当はヒゲを剃ってやりたかったんだけど、『蜷川さんの舞台の地方公演がまだ残っているからヒゲは剃れないんです』って言ったら、『じゃあ、ヒゲの女装メイクにしましょう』ということになって。

前に海外のLGBTのお祭りの映像を観たら、めちゃくちゃカッコいいんですよ。ヒゲを生やしているんだけど、ビシッとメイクをして、強烈なわけ。それを観てカッコいいなあって思って。『じゃあ、ヒゲが生えているのにめちゃめちゃ女というのをやろう』って。あの作品は、本当にものすごく楽しかったなあ」

-皆さんいい味を出していましたね。そして最後にホロッときて-

「そう。あれは原田芳雄さんが生前にやりたかった企画なんですよね。そういう芳雄さんの思いがあってスタートしたんです。結果的に全然違う作品になりましたけど、実現して良かった。すごく楽しい撮影だったしね(笑)」

女装メイクにドレス姿で歌って踊る姿は圧巻だった。さまざまな役柄に挑戦し、『そこのみにて光輝く』(呉美保監督)、『きみはいい子』(呉美保監督)、『新聞記者』(藤井道人監督)、『雨に叫べば』(内田英治監督)など多くの作品に出演。

次回はその撮影エピソード、現在公開中の映画『追想ジャーニー』(谷健二監督)も紹介。(津島令子)

ヘアメイク:鎌田順子(JUNO)

©『追想ジャーニー』製作委員会

※映画『追想ジャーニー』
池袋シネマ・ロサにて公開中
配給:セブンフィルム
監督:谷健二
出演:藤原大祐 高橋和也 佐津川愛美 真凛 髙石あかり 岡本莉音 伊礼姫奈 外山誠二

母親とケンカし、居眠りをしてしまった高校生の文也(藤原大祐)は、気がつくと舞台の上にいて、目の前には見知らぬ男(高橋和也)が。男は、自分は30年後の文也だと話す。文也が今いる舞台は、さまざまな思い出を追想し、そのとき選択した内容を変えられる場所。よりよい人生を送るために、自分の未来を変えることができるのだが…。

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