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古村比呂、がん発覚から10年。後遺症、再発、再々発…それでも「今、普通に過ごせるのが一番の幸せ」

連続テレビ小説『チョッちゃん』(NHK)のヒロインとして知られ、数多くのテレビ、映画、舞台、CMに出演してきた古村比呂さん。

離婚後、シングルマザーとなり、3人の子どもたちを育てながら仕事で多忙な日々を送る中、子宮頸がんが発覚。2012年3月に手術を受け、3カ月後には仕事に復帰するが、2013年、手術の後遺症のリンパ浮腫を発症。そして術後5年目となる2017年にがんの再発と再々発が明らかに…。

 

◆手術の後遺症でリンパ浮腫を発症

古村さんは、広汎子宮全摘出術を受けるにあたり、主治医から10項目あまりの合併症(後遺症)について説明を受けていたという。

「排尿障害とかリンパ浮腫などいろいろ説明されたのですが、そのときは、がんのことで頭がいっぱいだったので、あまり深くは考えられなかったんですよね。でも、リンパ浮腫になって足がむくんでしまったら仕事に影響が出てしまうので、予防をしっかりやって発症しないように気をつけなければと思っていました」

リンパ浮腫の予防と軽減のためにやらなければならないセルフケアは、「ドレナージマッサージでリンパの流れをよくする」「足を組まない、正座も避ける」「熱すぎるシャワー、長時間の入浴、サウナの禁止」など13項目もあったという。

古村さんが再び異変に気づいたのは、手術から1年後の2013年3月。テレビ番組のロケでジャマイカを訪れていたときだったという。

「左脚がちょっと赤く浮腫(むく)んでいたような感じだったので、セルフマッサージをいつも以上に念入りにし脚を高くして寝て、日中は加圧ストッキングを穿いていたのですが、明らかに左右の脚の太さが違っていました。帰国してからも悪くなるばかりだったので、主治医に診てもらったところ、『続発性リンパ浮腫』と診断されました」

-リンパ浮腫の手術もされたのですね-

「はい。4回手術しました。『完治は難しい』と言われ、『これ以上悪くならないようにケアをしていきましょう』って。結局、私は自分に合う治療法と出会うまで、(発症から)約2年が経っていました。

そのときに、『ほかの人たちはどうなんだろう?同じリンパ浮腫を発症している人と情報交流したい』と思って、2015年、リンパ浮腫情報交流サイト『シエスタ』を立ち上げて、『シエスタの会』という交流会も開催することにしたんです」

 

◆がん再発の一区切りとなる5年目に再発

リンパ浮腫に悩まされ治療を続けながら、がんの定期検査を続けていた古村さんだったが、手術から5年目の2017年3月13日に再発の疑いがあると告げられたという。

「その日は5年前に手術を受けた日だったんです。体調管理にも気をつけていたし、早期発見、早期治療だったから大丈夫だと思っていました。がん再発の一区切りは5年とされているので、これでもう大丈夫だと思っていたんです。

手術でがんをすべて取り切ったはずだと思っていたので、再発は受け入れがたいものでした。先生に尋ねたら、検査に引っかからない小さながん細胞が残っていて、それが5年の月日をかけて成長してしまったのだろうと言われました。

それから数日後、治療方針を決めるために長男と一緒に病院に行って、治療は放射線治療をメインにして、効果を高めるために抗がん剤も少量投与するということになりました。

3月29日から通院で治療がはじまりました。抗がん剤を投与した日と翌日は何ともなかったのですが、2日後から熱が出てものすごく吐き気がひどくてトイレで吐き続けていました。何とかベッドに戻るともう起き上がれないんです。その日も放射線治療に行かなくちゃいけなかったのですが、結局行くことができませんでした。

あまりに苦しくて、『抗がん剤はもうやめたいです』って先生に言ったのですが、『頑張りましょう』と先生に励まされて何とか治療を完走することができました」

抗がん剤治療の効果があらわれるのは約3カ月後。治療を終えた古村さんは仕事を再開し、念願のドラマ出演を果たす。

「再発がわかる前に『トットちゃん!』(テレビ朝日系)の出演依頼をいただいていたんですね。『チョッちゃん』で黒柳徹子さんのお母さまを演じましたけど、今度は徹子さんのおばあさまの役だったので、どうしてもやりたいと思って。

でも、撮影に迷惑をかけてはいけないので主治医に相談したところ、『できると思います』と言われたのでやらせていただくことにしました。あと『トットちゃん!』で私は徹子さんのおばあさま役だったので、動きがゆっくりでいられたのが、出演できた大きな要因でもあったと思います。

今だから言えますけど、正直からだはつらかったです。撮影初日のシーンで、私が階段を数段下りて、子どもの徹子さんを迎えに行くシーンがありました。その数段の階段を下駄を履いて下りるのが怖くて仕方なかったです。お腹(なか)に力が入らなくて、踏ん張れないのです。

でも、おばあさま役でしたから、手すりにつかまり、慎重に階段を下りるのが役として成立していましたから助かりました。もちろんおばあさま役は、再発する前から決まっていた役でした。『もしおばあさまの役でなかったら』と考えると、運命的な巡り合わせでした」

『トットちゃん!』の撮影が終わった古村さんは、放映開始の1週間前にブログで再発を公表した。放映の直前や直後だと、ドラマを見る人がドラマに集中できないかもしれないと思い、1週間前に公表することにしたという。

※『手放す瞬間(とき) 子宮頸がん、リンパ浮腫と共に歩んだ私の10年』
著者:古村比呂
発行:KADOKAWA
2012年に子宮頸がんが発覚、5年目に再発、そして再々発。その間リンパ腫にも悩まされた。がんとともに生きてきた10年の日々を綴る。

◆「寛解」を告げられ喜んだのもつかの間、わずか3カ月で再々発

放射線治療と抗がん剤治療を終えてから3カ月後、CT検査と採血検査を受けた古村さんは、主治医から「寛解」(病気が完全に治った状態ではないが、症状や検査異常が消失した状態)を告げられる。ところが、それからわずか3カ月後、再々発が発覚する。

「2度目の抗がん剤治療も通院で受けることになり、3週間に1度、午前7時半に病院に行って採血と診察を受けた後、抗がん剤を3種類投与するので毎回6~7時間かかりました。終わるのは午後6時くらいだったので、長男が迎えに来てくれていました」

-一度目の抗がん剤の副作用がかなりひどかったようですが、このときは?-

「髪の毛、まつ毛、鼻毛など、からだ中の毛が抜けました。抗がん剤の治療が進むにつれて、高血圧の症状や鼻血が止まらなかったり、手足の痺れも出てきたり…ダメージはありました」

その後、抗がん剤は3種類から1種類に減らされるが、脱毛以外の症状は変わらず、からだはかなりきつい状態だったという。

「抗がん剤治療をはじめて約1年が経つ頃、副作用がつらくて、『抗がん剤をしばらくお休みしたいんですが』と言ったら、CT検査の結果で判断しようということになって。CT検査の結果、がん細胞が見えなくなっていたので、抗がん剤治療をお休みして経過観察ということになりました。

この頃に、家族で『徹子の部屋』(テレビ朝日系)への出演がありました。私は、思い切って『脱ウィッグ』で出演しようと決めました。

これも偶然ですが、この頃は抗がん剤治療後の私の髪は、ベリーショートといえるまで生えてきていました。抗がん剤治療で、脱毛の副作用は不安になる一因として否めません。『治療後、こんな風に生えてくるのよ』と、同じがんサバイバーの方の参考になればいいなと思い、新たに生えてきた髪で『徹子の部屋』に出演させていただきました」

-2012年からの10年間、がんとリンパ浮腫で大変な日々でしたね-

「そうですね。本を出すというお話をいただいたとき、私は10年だということを意識していなかったですけど、書き進んでいくと『10年という月日の濃さ』を感じ、完成したときに10年を手放したいなって思いました。

がんは誰でも起こりうる可能性があるので、『患者力』を高めていきたいという思いがあります。再発とかで不安な方にも読んでいただきたいなと。

自分ががんについて知っていることで、実際にがんになったときにスタートラインが違うというのはすごい感じるんです。今のがんの状況、どういう治療法があるのか。とくに婦人科のがん治療は細かいんです。

『がんです』と突然言われると、先生にすべてお任せしたくなる気持ちもよくわかるんです。私がそうでした。でも、どういう治療方法があるのか知っているだけでも、スタートが違う。スタートに大きく影響するというのを知ってほしいと思います」

©銀泥/一迅社©2022「パティシエさんとお嬢さん」製作委員会

※映画『パティシエさんとお嬢さん』
2022年5月6日(金)公開
配給:トリプルアップ
監督:古厩智之
出演:崎山つばさ 岡本夏美 増田俊樹 横田龍儀 越智ゆらの 古村比呂 村井良大

コロナ禍の中、経過観察を続けながら女優業だけでなく、がんやリンパ浮腫とともに生きる女性たちのために「HIRAKU 人にやさしいプロジェクト」を立ち上げて代表理事をつとめ、YouTubeで「がんを学ぼう・HIRAKUチャンネル」も配信している。

2022年5月6日(金)には、映画『パティシエさんとお嬢さん』(古厩智之監督)が公開される。この映画は、毎週金曜日にスイーツを買いに来る名前も知らない女性客・芙美子(岡本夏美)とパティシエさん・丈士(崎山つばさ)のラブストーリー。お互いに惹かれ合いながらも恋愛に奥手な丈士は、彼女に名前を聞くこともできない。古村さんは芙美子の母親役で出演。

「撮影は去年の夏で、古厩監督とは4年ぶりの再会でした。古厩組は、穏やかに淡々と撮影が進みます。4年前と変わらない現場に『無事、帰って来られた』と、うれしさと込み上げるものがありました。

ですが、その余韻もつかの間、撮影は真夏日『陽差しが強すぎる』と、陽差し待ちで長いお昼休憩や、冬の場面を撮影するとき(ドラマ版)は、体中に冷えピタと冷感スプレーを吹きかけて撮影しました。俳優は、やっぱり体力勝負だと痛感しました」

-劇中、おいしそうなケーキがたくさん出てきます-

「本当においしそうですよね。私が演じたお母さんはお店には関係していないので、一つも食べられなかったんですけど、食べたかったなあ(笑)」

-古村さん演じるお母さんは、基本的には元気なんですけどちょっと大変なことになってしまいます-

「そうですね。ギックリ腰になっちゃって。実際にギックリ腰になったことは何度もあるんです。最初は、22、3歳のときで舞台でした。

本番中にひょいと動いたときに、『なんか変だなあ、つるなあ。冷えたのかな?』って思いながら舞台を終えて、あったまれば治ると思ってお風呂に入ったんですけど、下着も穿けないような状態になっちゃって。鍼の治療院を教えていただいて、毎日鍼を打ってなんとか動けるようにしてもらって、コルセットをして舞台をやりました。

そのときに『これがギックリ腰なんだ』って初めて知ったのですが、それから癖になっちゃって、突然きますからね。そういう意味では今回の役どころはバッチリでした。あの撮影のときも腰が痛かったので、良かったって思いました(笑)。だいたい夏の終わり頃になるんですよね。

リンパ浮腫に関しても、前よりも自分のむくみがわかるので、前ほどナーバスにはならないですし、弾性ストッキングでケアをしていけばひどくはならない。もし、もっとひどくなったときにはどうしたらいいかというのもわかってきたので、前よりはスムーズに対処ができるようになりました」

-いろいろなことがありましたが、今一番伝えたいことは?-

「がんは十人十色といいますけれども、一つの経験談として参考にしてほしいと思っています。再発、再々発もしましたけど、それでも今、いろいろなことをやれています。悲観しないというのは難しいですけど、それでも日々の生活を楽しんでいますから、少しでも参考になればと思っています」

コロナ禍を考慮し、細心の注意をしながら「シエスタの会」(リンパ浮腫情報交流サイト)、「HIRAKU 人にやさしいプロジェクト」、YouTube「がんを学ぼう・HIRAKUチャンネル」の配信も精力的に行っている古村さん。

かつて死ぬことを考えたときに思いとどまらせてくれた三男、苦しい治療に行きたくないと言ったときに無理強いせず「そんな日もあるさ」と言って気持ちをやわらげてくれた次男、治療法の相談や送迎もしてくれた長男…頼りになる3人の息子さんたちの存在は強い味方。

今、一番ホッとするのは、朝陽を浴びるときだそう。「普通に過ごせて寝て起きて…というのが一番の幸せです」と話す笑顔が印象的。(津島令子)