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21世紀は「創造性の民主化時代」 ジャズピアニストで数学者、中島さち子が“STEAM教育”で描く未来

テレビ朝日が“withコロナ時代”に取り組む未来をここからプロジェクト

『報道ステーション』では同プロジェクトのもと、「未来への入り口」というコンセプトで、多岐にわたる分野で時代の最先端を走る“人”を特集する企画「未来を人から」を展開している。

第8回に登場したのは、ジャズピアニストで数学者、STEAM教育者とさまざまな顔を持つ中島さち子氏。

1996年、高校2年生で国際数学オリンピックに出場し、日本人女性として初となる金メダル、翌年には銀メダルを獲得。東京大学に進学後は在学中に数学書も出版など数学者として活躍するも、卒業後はジャズピアニストとして活動。

現在は音楽活動と数学者としての活動に加え、“STEAM教育”を行い、幅広いフィールドでの活躍から2025年の大阪・関西万博プロデューサーにも選出された。子どもたちの未来を描く力を伸ばし続ける彼女が考える、創造性の未来とは――。

 

◆社会に生きる誰もが“つくる側”になることが求められる時代

「歩きを“STEAM”するということで、1日楽しく歩いて、いろんなことを学んで、考えていきたいと思います」。こう語る中島氏が向かった先は、群馬県中之条町(なかのじょうまち)。

彼女のいう「STEAM」とは、科学(Science)、テクノロジー(Technology)、工学(Engineering)、芸術(Art)、 数学(Mathematics)の頭文字をとった略称。科学技術や芸術、数学などの領域を横断的に学び創造していく、世界中で広まりつつある教育法だ。

この日のフィールドワークでは、学生たちと地元の温泉街や山中を楽しみながら歩いたのだが、この体験が“STEAM教育”にどう関係するのだろうか。

1週間後の授業でフィールドワークで気づいたことを問いかけると、生徒のひとりが「月曜日から土曜日は1万歩前後、(フィールドワークをした)4日は2万4000歩で中強度が86分でした」と答えた。

この生徒たちは常に歩数計を持ち歩き、記録を取っている。「曜日」や「天気」など、条件によって歩数がどう変わるのか、仮説を立てて検証していたのだ。

さらに中島氏は「みんなで力を合わせて、どうやったら歩数計をつくれるかを考えたいと思います」といい、生徒たちは歩数計がどのような仕組みで機能しているのか、プログラミングを通じて学んだ。

ただ機械の仕組みを学ぶだけではない。この授業には、もっと高い視点の狙いがある。

「企画に参加するだけじゃなく、考える側になったり、つくる側になったりする。これから先、どんな職業に就いたとしても楽しくなるし、そういう力が誰にでも求められています」

健康のため、どうすれば歩きたくなるのかと自ら主体的に「問い」をつくり、考え、かたちにしていく。これが“STEAM教育”の一端なのだ。生徒たちも普段とは違う充実感を得ているようで、このようなコメントを残している。

「今回は協力して試行錯誤しながら進めていったので、いつもより頭を使うことが多かったなと思います」

「普通の授業は決まったことをやることが多いので、この授業では、いろいろ体験できて楽しいなと思います」

今後AIの普及が進むなかで、創造性が必要とされる時代が到来する。社会に生きる誰もが、ただ消費するのではなく“つくる側”になることが求められるというのだ。

「ただ“歩くのは大事だから歩きましょう”と言っても面白くないですよね。まずは自分で実際に歩いて、何が楽しかったか。何がイマイチか。自分ならもっとこうすると考えて。それができると、他の人の目線になったときに、自分は楽しかったが、おじいちゃんおばあちゃんだと大変じゃないかとか、子どもだとどうかとか、つくる側の視点になってくる。

“STEAM”って言葉だけ聞いていると不安になるんだけど、“具体”の体験をしてもらう。それを“面白い”と感じることで、誰かが未来をつくってくれるんじゃなくて、自分たちも少しはそこに関与できるという感覚を、子どもも大人も持てたらいいなと思っています」

誰かが切り拓いた知の道を辿り学んできたこれまでの教育とは違う。“STEAM教育”では、自らが試行錯誤して創造していくのだ。

「“STEAM”で一番大事なのは、実は自分たちが未来をつくれる、未来に関われるんだというワクワク感だと思います。これまでの教育(高校生まで)は、“先人や偉い人が発見してくれたことを学びましょう”という姿勢でしたが、そうではないといいたい。

発明家や発見者たちは天才と言われるけど、私たちと同じ人間です。芸術家や研究者たちは、できる・できないや上手い・下手ではなくて、つくる喜びを求めて活動している。“STEAM”を通して、人間が本来持っている創造性やつくる喜びを発揮できるようにしたいです」

近年は日本政府もSTEAM教育に本腰を入れ始めている。その普及に向けて、全国を飛び回っている中島氏。彼女が携わる現場のひとつ、徳島商業高校では、プログラミングを学んでメディアアートをつくり、地元企業と組んでオンラインストアを開設している。

「まず自分が描きたいものを考えてもらって、それを数理、計算、数学、プログラミングを通して、Web上に描く。さらにそれを動かすこともできる。Web上で何かを動かすことは一見なかなか難しいですが、実はそこまで難しくありません。図画工作に近くて、自分なりの作品をつくり始めると、やっぱりみんな嬉しく語り始めるわけです。

一人ひとりにとって、自分なりにできるものを考えて、そのやりたいことに向けて試行錯誤する喜び。それはきっと伝わっていると思うし、どんどん育まれているのではないかと感じます」

◆万物に命の輝きと創造性が秘められている

1979年に大阪府で生まれた中島氏は、4歳からピアノと作曲に没頭。14歳からは数学に熱中し、高2で国際数学オリンピック金メダル、翌年には銀メダルを獲得。東京大学進学後には数学の研究に勤しんだ。

次世代の教育を実践する中島氏のルーツは、幼少期から常に好きなことを突き詰めてきた体験にある。多彩な活動をするなかで、なぜSTEAM教育に携わることになったのか。

「私の場合、音楽と歌、数学という好きなものに出会えて、自分なりの音楽、自分なりの数学の世界を追求していきました。でも、娘が生まれて、改めて社会と向き合ってきたときに、自分が好きなものに出会えたのは当たり前じゃなかったと気付いたんです。

こういう変な生き方をしている自分が社会と関わって、みんなと一緒につくれる新しいものがある。そう思ったときに、STEAMという言葉が非常にしっくりきた。そこからSTEAM教育を始めました」

そんな彼女が忙しい合間をぬって訪れる場所がある。およそ600年前に建立された、京都の妙心寺退蔵院(みょうしんじ・たいぞういん)だ。この場所が、彼女にとって創造性の源になっているという。

「常緑の数百年変わらない場所がある一方で、四季を感じられる場所は少しずつ変わっている。万物に命あり、と感じる場所ですね。一人ひとりの中に、一つひとつ命みたいなものがある。これを何らかの形で表現して、伝えたい衝動は誰にもある気がしていて、そういう意味では私の中でジャズも数学もSTEAM教育も、そして万博もつながっている。

私は万物の中に創造性があると信じていて、それをいかに引き出すか、いかに火をつけられるのかと考え続けています」

紅葉した落葉樹のさやめきや、水のさえずり…。あらゆる命の声を聞き、ともに思考を紡ぐ。たとえば「果物と野菜のシンフォニー」では、野菜に触れると音が出て、色が変わる仕掛けにも取り組んでいる。万物に創造性があることを示しているのだ。

「動物も植物も、この椅子のように一見無機物と思われているようなもの、服だって、もしかしたら数とか音、それこそAIや新しいロボットにも、全てに命があると思っていて、人間とそれ以外という壁はないと思うんですよね。

自分たちが信じている、正しいと思い込んでいる価値観が実はもっと多様だということ。そこから学べるものはたくさんあって、みんなが生きているからこそ面白い。そういう一つひとつに命の輝きという宇宙の神秘をリスペクトしながら、一緒に未来を創っていけたらと思います」

万物に命と創造性が宿ると信じる、中島氏が見る未来とは――。

「私は21世紀を“創造性の民主化時代”と呼んでいます。“自分には創造性がないんじゃないか”、“創るのは怖い”と思ってなかなか動けない人も多いと思うんですけど、それぞれが命の力や生きる炎を持っていて、21世紀はそれを表しやすくなっている時代だと思います。

大衆の一人ひとりが個性を発信できる時代になって、自分なりの多様な感覚に価値がある時代。ひとりじゃなくて、コ・クリエーション(Co-Creation=共創)、いろんなものの掛け算によって生まれるものがあるはず」

家事や日常の細かい業務などの大変なことは徐々にAIがやってくれる時代が訪れるが、人間こそがやるべき領域はまだ存在すると、中島氏は語る。

「人間が次なる時代に求められているのは、“本当にこれで良いのか”、“喜びとはなんだろう”といった、人間なりの新しい発想。あるいは、人間が他のものの気持ちを想像してわかること。ここは、まだ人間がやるべきことだと思います。

みんなが心を若くして、子どもみたいに何かを生み出していく。新しいことを考えたり、深堀りしてみたり。決められた答えのない新しいことを、遊びながら、自分を拡張していく。そうすることで、社会(に生きる他の人々)にとっても、喜びとなるなにかを生み出していけるんだと思います」

<構成:森ユースケ>

※関連情報:『未来をここからプロジェクト

※『未来をここからプロジェクト WEEK
2021年1月11日(月)~1月17日(日)

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