羽生結弦、今季のネイサン・チェンは「こんなものではない…」直接対決で3年ぶりのVへ<GPファイナル展望>
グランプリシリーズでは実力通りの安定した滑りで、ともに連勝してファイナル進出を決めたネイサン・チェン(アメリカ)と羽生結弦。
他の選手を見れば、初戦の「アメリカ大会」6位でファイナルの可能性はほぼ消えたと思われた金博洋(中国)が、地元の「中国大会」の優勝と他の選手の失速で6番目の出場枠を獲得する混戦になった。
現時点でのファイナルの行方を見れば、実力的に抜け出ているチェンと羽生の、19年世界選手権以来の直接対決が最大の見どころになる。
◆今シーズン、好調を維持する羽生
ここまで、安定した力を見せているのは羽生だ。
シーズン初戦のオータムクラシックでは、自らの最大限の構成だという4回転5本の構成を目指すことも口にしていた。
しかし、シリーズ初戦となる「カナダ大会」では、「『アメリカ大会』のネイサン選手の演技を見て、自分が自分で作った彼の幻像と戦っていたなと思った。彼と自分はタイプも違うスケーターだと考えたら、気持も和らいだ」と、自分が持つ武器を意識し、FSでは4回転を3種類4本にして臨んだ。
SPは4回転サルコウに自信がなかったというが、「同じ失敗はしたくない」という思いで跳び、次のトリプルアクセルも完全にハマったというジャンプに。後半の4回転トウループ+3回転トウループは「力を使うしかなかった」と少し不満気だったが、ノーミスの滑りで109・60点を獲得した。
4回転ループには公式練習から苦しむ姿を見せていたが、「エッジ系のジャンプは特に氷との相性があるが、氷にいろいろ聞いてみながらエッジとどうコネクトするのがいいのかを、時間をかけて探していきたい」と、まだループを跳べなかった子どものころにやっていた調整法も試したりしていた。
そしてFS本番では、4回転ループの着氷が乱れて、GOE(出来栄え点)0・15点の減点を取られたものの、その後は世界初の成功となる4回転トウループ+1オイラー+3回転フリップを含むすべてのジャンプをしっかり決め、212・99点を獲得。
合計は昨季の世界選手権でチェンが出した世界最高得点にわずか0・83点足りない322・59点で圧勝した。
羽生はシリーズ2戦目となる「NHK杯」でも、SPで109・34点を獲得して安定感を見せつけ、「一番最初の4回転ループを降りるのと、そのあとの4回転サルコウを決めるのが一番大事だと思っていた」というFSでは、ループで1・65点、サルコウで3・19点の加点を獲得。
後半の4回転トウループが2回転になるミスは出たが、合計305・05点で優勝した。
「ケガ無く終えられたのが一番の収穫かなと思うが、ループはしっかり片足で立って降りれたのでやっとひとつ壁を越えたかなという感じです。ショート、フリーともに満足する演技ではなかったが、これでやっとファイナルで戦える位置まで来たなという風に思っています」と笑顔を見せた。
◆まだ本調子ではないチェン、王者の実力を見せるか
一方のチェンは、初戦の「アメリカ大会」が299・09点、2戦目の「フランス大会」が297・16点と羽生の点数には及ばないものの、SPとFSは2試合とも構成を少し変えていて、まだ全開でないのは明らかだった。
「アメリカ大会」のSPは最初の4回転ルッツが0・82点の加点という出来で、FSは冒頭を3回転ルッツ+3回転トウループにし、後半の4回転トウループもミスをしていた。
そして「フランス大会」では、SPの冒頭を4回転トウループ+3回転トウループにし、「アメリカ大会」のFSで良かった4回転フリップを後半に組み込んだが、前半のトリプルアクセルでミス。
FSも冒頭に予定していた連続ジャンプの4回転ルッツで着氷を乱し、後半の4回転サルコウと4回転トウループも減点される出来で得点を伸ばせなかった。
だがその一方では、羽生が「カナダ大会」で成功した4回転トウループ+1オイラー+3回転フリップを成功させたり、2試合とも後半に昨季の世界選手権では入れていなかった4回転サルコウを入れたりするなど、新しい試みにも挑戦していた。
FSは4回転を4種類5本にしてくる可能性も十分にある状況だ。さらに今季GPシリーズを第3戦までに終わらせてファイナルまで中4週というスケジュールにしたのも、しっかり仕上げて3連覇を狙う戦略的な意識もあるからだと考えられる。
◆王者同士の頂上対決に注目
羽生は「NHK杯」のあとで、「今は世界の誰もが、僕がカナダでの演技を追ってくると思うし、322点を超えるためにといろんなことを考えながら、いろんな練習をしていると思います。
ただ僕自身もそれは一緒で、あの演技を、あの点数を超えようと思っているし、ネイサン選手もこんなものではないというのはすごくわかっている。彼のベストとも戦いたいなという気持では常にいます」と話し、チェンとの戦いに意識を集中していた。
そんな状況だからこそ、ファイナルでは羽生とチェンの本気の戦いを見られるという期待が膨らむ。
他の選手を見れば、自己最高得点はかなり離れている状態でふたりの戦いに割り込んでくるのは厳しそうだ。ただ、「中国大会」で優勝した金博洋は、ルッツを武器にして今の男子の4回転時代を切り開いた功労者のひとり。彼の復活の滑りに期待だ。
また、同時に開催されるジュニアグランプリファイナルも、男子は鍵山優真と佐藤駿が出場する。鍵山はFSに4回転トウループ2本とトリプルアクセル1本を入れ、初戦の「フランス大会」では234・87点で優勝。第5戦の「ポーランド大会」は2位に止まったが、245・35点と得点を伸ばしている。
一方、佐藤も第2戦「アメリカ大会」で優勝して、第6戦「クロアチア大会」は3位。得点はクロアチアで出した219・69点が最高だが、「アメリカ大会」のFSでは4回転サルコウと4回転トウループ2本、トリプルアクセル2本の構成に挑戦している。次代を背負う若い2人の、“攻めのスケート”にも注目したい。<文/折山淑美>
※番組情報:『フィギュアスケートグランプリファイナル2019』
12月6日(金)夜8:00~「男女ショート」 テレビ朝日系列にて放送/AbemaTVにて配信
12月7日(土)夜7:54~「女子ショート・男子フリー」 テレビ朝日系列にて放送/AbemaTVにて配信
12月8日(土)夜9:00~「女子フリー・エキシビジョン」 テレビ朝日系列にて放送/AbemaTVにて配信