日本で韓国ドラマをリメイクする理由。大森南朋主演『サイン』プロデューサーが描きたかった“普遍的なテーマ”
遺体から“真実”をあぶり出す法医学者たちと不都合な“事実”を隠ぺいしようとする巨大権力の熾烈な攻防戦を描く、大森南朋主演ドラマ『サイン―法医学者 柚木貴志の事件―』。
原作は、韓国の大ヒットドラマ『サイン』(2011年)。最高視聴率25.5%を記録し、「大韓民国コンテンツアワード」の放送映像グランプリ分野で大統領賞も受賞している人気作品だ。
最近日本の連続ドラマで増えている韓国ドラマのリメイク作品だが、2019年夏クールは特に多く、他局の作品も含めると3作品の“韓ドラリメイク作”が放送されている。
また同作は、長寿シリーズ『科捜研の女』(テレビ朝日)や話題を呼んだ『アンナチュラル』(TBS)などで扱われていた人気の題材、法医学を扱っているのも特徴のひとつだ。
今回、9月12日(木)の最終話を前に、同作を手掛ける飯田爽プロデューサーにインタビュー。
インタビュー前編ではキャスティングの理由について語ってもらったが、後編では韓国ドラマをリメイクしようと思った理由や作品に込めた思いなど制作の裏側を聞いた。
◆韓ドラリメイクは、「原作がずっと大好きで…」
過去に『民王』や『ホリデイラブ』など話題作を手掛けてきた飯田プロデューサー。今回はなぜ韓国ドラマのリメイク作に挑もうと考えたのか、その真意を聞いた。
―日本で韓国ドラマを原作にしたドラマ作品が増えていますが、飯田プロデューサーが韓国ドラマをリメイクしようと思った理由を教えていただけますか―
飯田爽プロデューサー(以下、飯田P):「たまたま7月クールに韓国ドラマ原作が3本並びましたが、自分としては今、海外ドラマリメイクが流行っているから提案したわけではなく、6年前くらいから『サイン』はずっとやりたいと思って準備していた企画です。
もともと韓国ドラマは好きなんですが、『サイン』は特に好きでした。韓国で初めて法医学というジャンルを取り扱った作品ですが、テレビ朝日の定番ソフトである事件モノ、医療モノの要素を押さえつつ、それでいていわゆる事件モノの枠を越えた新鮮さもあると思い、企画を作って提案しました」
―韓国版『サイン』のどのようなところが気に入ったんですか?―
飯田P:「韓国のドラマ、映画両方に共通して感じるのですが、展開も結末も極端で、『ここまでやるか』ってくらいの思い切ったストーリーが多いように思います。ラストの終わり方も、テーマを表現するためなら後味の悪さは気にしない、といったテイストで作られているなと私は感じました。
韓国映画では『グエムル-漢江の怪物-』『新感染』『チェイサー』などが好きですが、どれもここまでやるか、ってくらいの結末ですよね。
日本のエンタメはそれに比べると、物語をもっと丸く閉じようとしている作品が多く感じます。例えば、殺人犯から逃げ続けた主人公が最後は助かるのが日本、逃げ続けた挙句殺されるかもしれないのが韓国映画。文化の違いかもしれません。
サインも兵藤院長の自殺や主人公の柚木自身の偽証など、ドラマツルギーからすると容赦ない展開ですが、そこも気に入っています。俳優や設定を韓国から日本に置き換えた時、その容赦のなさは新鮮に映るのではないか、と思いました」
◆現代社会では“真実”が負けてしまうことも
韓国版『サイン』の物語のラストをとにかく気に入ってしまったという飯田プロデューサー。そんな飯田プロデューサーが『サイン』を通して描きたかった“普遍的なテーマ”についても教えてくれた。
飯田P:「韓国の方が日本よりずっと権力社会なので異なる部分はありますが、権力を持つ側や声の大きい側の主張が『真実』になるというのは、あらゆる組織や会社や政治の場面で多くみられると思います。特に現代のネット社会では声の大きいものの意見が通ったり、“言ったもの勝ち”みたいなことも多くあります。
どんなに正しくても、その“真実”が負けてしまうことは多くあり、声の小さいものが悔しい思いをすることは普遍的なことですし、現代的なことだとも感じます。『サイン』はそういう点で、共感を呼べる要素を持っているのではないかと思いました」
◆日本版の役名に込めた“サイン”
リメイクをするにあたって、20話ほどの話数を9話にまとめることや物語の設定を日本の社会に置き換えるなど、多くの作業が必要となる。
飯田プロデューサーはドラマを作るにあたり「日本の法医学の現状」について取材したという。
―メインの舞台「日本法医学研究院」は架空の機関ですね。実際の日本では死因を究明するための公的な機関はないのでしょうか?―
飯田P:「原作『サイン』の舞台は国立科学捜査研究院という実在の組織で、2010年に内務省から独立した国家機関です。日本にはこれに該当する組織はなく、解剖をする機関は『監察医務院』と大学の法医学教室となります。
ただし『監察医務院』で行われるのは“行政解剖”と言って、死因究明をする組織ではありません。リメイクする際には大学の法医学教室を舞台にするか、架空の機関を設定するしかありませんでした。法医学の制度は各国によって異なり、それぞれ独自の進化を遂げていることを知りました」
―日本オリジナルの役名に込めた“サイン”はありますか?―
飯田P:「柚木貴志(ゆずき・たかし)は韓国版の主人公、ユン・ジフンに音を近づけた名前にしました。あと3人のプロデューサーの名前からそれぞれ1文字ずつとって名付けた登場人物もいます。
松雪泰子さん演じる和泉千聖の『聖』はエグゼクティブプロデューサーの内山聖子から、また私の飯田爽は、漢字は違うんですけど北見永士のスタイリスト宮島清花(みやじま・さやか)、利重剛さんが演じている捜査一課長の下山益男は下山潤プロデューサーの苗字からとりました」
―最後に、最終話で特に注目してほしい“サイン”を教えてください―
飯田P:「いままで何度も『遺体に残るサイン(=証拠)を見逃すな』といったように“サイン”という言葉が出てきましたが、最終話では柚木が込めた“真のサイン”が出てくることになります。そしてタイトル『サイン』に込めた“本当の意味”も再確認できると思うので、それを踏まえて観てもらえたらと思います。
また、脚本家の羽原さんと相談して韓国版とはラストの描写を少し変えているので、そこにも注目しながら楽しんでいただきたいです!」
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柚木が込めた“真のサイン”とは?そして韓国版と異なるラストとは――? 原作ファンもそうでない人も最後まで目が離せない“号泣必至のラスト”に期待だ。
※番組情報:『サイン―法医学者 柚木貴志の事件―』最終話
2019年9月12日(木)午後9:00~午後10:09(※15分拡大)、テレビ朝日系24局