テレビ朝日新人シナリオ大賞、29歳ネイリストが大賞受賞「もう脚本をやめようと…」
「テレビ朝日新人シナリオ大賞」(主催・テレビ朝日、後援・朝日新聞社、BS朝日、東映、幻冬舎)の第19回受賞者が決定し、先日、東京・港区六本木のテレビ朝日本社内で決定発表記者会見と授賞式が行なわれた。
2000年7月に創設して以来、数多くのシナリオライターを輩出してきた「テレビ朝日新人シナリオ大賞」。
第2回大賞受賞者、古沢良太(こさわ・りょうた)氏は、『動物のお医者さん』(2003年テレビ朝日)を皮切りに『ALWAYS 三丁目の夕日』や『探偵はBARにいる』シリーズ(テレビ朝日出資作品)、近年では『リーガルハイ』『コンフィデンスマンJP』(いずれもフジテレビ)などのヒットドラマ、『コンフィデンスマンJP -ロマンス編-』(2019年5月公開)などの映画で知られる人気脚本家だ。
また、第6回優秀賞受賞者の坂口理子(さかぐち・りこ)氏は、2013年公開のスタジオジブリ製作のアニメーション映画『かぐや姫の物語』の脚本を担当、朝の連続テレビ小説『マッサン』(NHK)にも脚本協力として参加。最近では、映画『恋は雨上がりのように』(2018年)、『フォルトゥナの瞳』(2019年2月公開)の脚本も手がけている。
◆応募総数1236篇、大賞と優秀賞2篇が決定
第19回は作品のテーマを「初恋」「最後の恋」「初恋&最後の恋」のいずれかとし、<テレビドラマ部門><オリジナル配信ドラマ部門>の計2部門で募集。
2018年11月22日(木)の締め切りまでに計1236篇の応募があり、第1次選考は日本脚本家連盟に所属する脚本家によって行われ、200篇が通過した。
第2次、第3次選考は、テレビ朝日のプロデューサー、ディレクターなどで構成された社内選考委員会によって審査が行なわれ、選考委員の井上由美子・岡田惠和・両沢和幸の3氏による最終選考会で大賞および優秀賞、計3作品が決定となった。
大賞に輝いたのは、東京都在住の29歳ネイリスト、宮原久実(みやはら・くみ)氏の『狂いゆく美』(テレビドラマ部門)。また、優秀賞には大阪府在住の48歳ウェブデザイナー、栄弥生(さかえ・やよい)氏の『腸弱男の恋』(オリジナル配信ドラマ部門)、東京都在住の24歳フリーター、山崎陽平(やまざき・ようへい)氏の『両手で、そっと』(オリジナル配信ドラマ部門)選ばれた。
◆「長年書いてきて報われたことがなく…」大賞・宮原氏、涙
授賞式で選考委員の岡田氏から大賞が発表されると、宮原氏は涙を浮かべ、「まさか大賞をいただけると思っていなかったので実感がないのですが、とてもうれしいです」と感激の面持ちで挨拶。
「今まで長年書いてきて報われたことが一度もなく、もう脚本をやめようと思っていたところでした。この世界は厳しく、報われることの方が少ないと思うのですが、たくさん勉強して、たくさん書いていきたいと思います」と、これからも書き続ける決意を語った。
大賞受賞作は、忌まわしい伝統がつきまとう陶芸家に嫁いだ病弱な女性の愛と死を描いたもの。
選考委員は「これまでの受賞作とは毛色が違う」(井上氏)、「何回選考を重ねても残ってくる作品」(岡田氏)、「“こういうものが書きたい!”という思いが見えてくる作品」(両沢氏)と独特の世界観を絶賛。
さらに井上氏は、「“報われることはほとんどないかもしれない”というお話がありましたが、“百回に1回くらいは報われますよ(笑)。勇気をもって頑張っていただきたい」とエールを送った。
◆受賞者コメント
【大賞】
※宮原久実(みやはら・くみ)氏/『狂いゆく美』(テレビドラマ部門)
「今回は素晴らしい賞をいただき、ありがとうございます。まさか大賞をいただけると思っていなかったので実感がないのですが、とてもうれしいです。
今まで長年書いてきて報われたことが一度もなく、書き続けることに悩んでいて、もうやめようと思っていたところでこの賞をいただきました。この世界は厳しく、報われることの方が少ないと思うのですが、たくさん勉強してたくさん書いていきたいと思います。
人の一生や最期を書きたいという思いがあり、ちょうど自分が書きたかったものとテーマがマッチしました。実は、中学生の頃に身近な人を亡くし、ずっと消化しきれないものが自分のなかにあり、それを脚本で書くことで消化できるような気がしていたんです。
例えば、病気で亡くなってしまった方はまわりから見るとかわいそうだと思われますが、必ず幸せだった部分があると思います。他人から不幸だと思われたとしても、本人が幸せだったといえる人生を書きたいと考えました」
――大賞受賞の喜びを誰に伝えたい?
「まずは父に伝えたいと思います。私がシナリオスクールに通うといった際に『何をバカなこと言っているんだ!』と猛反対されて、『わかりました、シナリオをやめます』と言って以来、ひそかに通っていたので今日、やっと報告できるなと思います(笑)」
――賞金の使い道は?
「自営業なのですが、なるべく仕事の量を減らして脚本の勉強の時間を増やしたいと思います。あとは、父に何か贈ります」
【優秀賞】
※栄弥生(さかえ・やよい)氏/『腸弱男の恋』(オリジナル配信ドラマ部門)
「今日は大賞をいただくつもりでコメントを考えてきたので、何を言ってよいかわからないのですが…(笑)。実は、今回は絶対に賞がほしかったので2作品、応募しておりました。
もう1作品のほうに自信があってそちらで大賞を狙っていたのですが、二次で落選してしまい、まったく期待していなかった方の作品がここまで健闘してこの場に立つことができました。受賞作はタイトルを先に思いつき、そこから逆算してできた作品です」
――賞金の使い道は?
「脚本家としては地方在住で仕事をいただきづらいかなと思うので、これを機に上京しようと考えております。引っ越し費用に充てたいと思います」
【優秀賞】
※山崎陽平(やまざき・ようへい)氏/『両手で、そっと』(オリジナル配信ドラマ部門)
「テレビを見ていたら、山羊座のA型の運勢が最下位だったので、大賞は無理だろうなと思っていました。でも、賞をいただけてうれしいです。僕には映画を作っている友達がいるのですが、『山崎は絶対、恋をテーマにした作品なんて書けないよ』と言われていたので、今回は頑張って書きました」
――賞金の使い道は?
「実家がリフォームして和室が洋室になったのですが、部屋のサイズに合うじゅうたんがないと半年ぐらい言っているので、それを買いたいなと思います」
◆選考委員の講評(五十音順)
※井上由美子氏
「今年は例年より接戦で、何度か投票を繰り返しました。実は、私は山崎陽平さんの作品『両手で、そっと』が好きで、最初は推していました。ただ、宮原さんの『狂いゆく美』だけは、どういう結果になるとしても、3作のなかに残したいと思いました。審査員で討議を重ねるうちに、この作品のすごさが徐々にクローズアップされ、大賞にふさわしいという結論に至りました。これまでの受賞作とは毛色が違うので、その点にも期待しています。
今年は、バラエティーに富んだ作品が集まりました。その理由は、“恋”というお題を与えたからではないかと思います。
自由に書いていいと言われると、流行にのったものを書いてしまい、似てきてしまうものです。でも例えば、高校生が決められた制服のなかで個性を表現するように、このお題のなかで何が表現できるか、応募者のみなさんが頑張ってチャレンジしてくれたのではないでしょうか。
ラブストーリーなんて書きたくないという人にも、このお題によって、ラブストーリーの面白さに気づいていただければという願いもありました。私自身、シナリオを勉強していた頃はホームドラマが書きたくて、人が死ぬ話は書きたくないと思っていましたが、今は『緊急取調室』で、毎回、楽しく殺人事件を書いています(笑)。いろんなジャンルに挑戦する楽しさを、応募者の方々に知っていただければと思っています。
毎年、こういった工夫を重ねながら、テレビ朝日さんと新しい才能に出会えることを今後も楽しみにしています」
※岡田惠和氏
「同じ“脚本を書いている者”として人の審査をするという行為は、自分の発言がブーメランになって返ってくる感覚もあり、身を切られる思いをすることもあります。
審査員を務めてきた19年間、僕はテレビ朝日さんで連続ドラマを書いていなかったのでブーメランはわりとゆるく受け止めていたのですが、今年は連ドラをやらせていただいております。しかもシナリオ大賞の担当とドラマのプロデューサーが同じという…(笑)。
『岡田さん、あのとき、ああいう風に言いましたよね』なんていう、重いブーメランを受けながら、今回の選考に臨んでいました(笑)。
宮原久実さんの『狂いゆく美』は、ちょっと褒め過ぎかもしれませんが、谷崎潤一郎の作品のようであり、昭和40年代、若尾文子さん主演で映画化されそうなタイプの作品だと思いました。ちょっと毛色が変わっていて、だけれども作家が作品を愛して書いている感じが面白く、何回選考を重ねても残ってくる作品でした。
栄弥生さんの作品『腸弱男の恋』はストーリーもよく考えられていて、構成もしっかりしていました。“腸弱”ということで、若干“下ネタ風”なので映像化のときはどうするんだろうなんて考えましたが(笑)、とてもポテンシャルの高い作家さんだなと思いました。
山崎陽平さんの『両手で、そっと』は、老人を描いた作品が多い傾向にあった今年の応募作のなかで、ぶっちぎりでよい作品だったと思います。セリフが生きていて、読んでいて人物が好きになれる作品でした。3人とも作風はバラバラでしたが、素晴らしい作品が多く、勉強になりました。これからも一緒に頑張っていきましょう」
※両沢和幸氏
「応募作は前年話題になったドラマに影響を受けた作品が多いものですが、宮原久実さんの『狂いゆく美』は、耽美的な作品で映画になりそうな題材だと思いました。“こういうドラマがウケるんじゃないか”ということより、“こういうものが書きたい!”という思いが見えてくる作品ですね。それは、モノを書く人間には最も重要なことで、そういう思いがある人が上っていくんだと改めて思いました。
山崎陽平さんの作品『両手で、そっと』は会話のテンポがよく、読みものとして面白く読めたのですが、実際映像化されたときに会話の面白さがどの程度残るかということが気になります。今後もし映像化される作品を書く機会があったら、改めて完成された自分の作品を見てほしいですね。そこから学ぶことがたくさんあると思います。
栄弥生さんの『腸弱男の恋』は構成がよくできていて、僕はいちばん高い点数をつけました。キャラクターの書き分けもうまくできていて、もう少し整理すれば放送できるほどの完成度だったと思います。今回、『狂いゆく美』が大賞に輝いたのは、この3本以外も含めて、ほかにはない独自の世界観、美学を感じられたということが大きいのではないかと思います。
最初、このコンクールは『21世紀新人シナリオ大賞』という名称でして、“21世紀”という文字に新しい時代がはじまるなぁと期待に胸を膨らませていました。今、21世紀に入ってずいぶん経ちますが、とても難しい時代になったと思います。特にドラマは、僕らが書きはじめたころに比べると、作り方も視聴者のありようも変わり、新しいメディアも出てきて、コンプライアンス的な問題も含めて書きづらい部分もたくさん出てきています。
しかし、今の時代に生まれた人は、それが当たり前だと思って育っているのですから、今後、僕らが想像もしないような新しい切り口のドラマが生まれてくるんじゃないかなとひそかに期待しています。そういう才能が、この3人のなかから出てくることを期待しております」
なお、次回第20回の募集については、近日に公式HPにて発表が予定されている。