「一番難しい台本」脚本家・井上由美子が明かす、『緊急取調室』での3つの決め事
天海祐希演じる叩き上げの取調官・真壁有希子が、警視庁の取り調べ専門チーム「緊急事案対応取調班(通称・キントリ)」のメンバーとともに、数々の凶悪犯と一進一退の心理戦を繰り広げるドラマ『緊急取調室』。
4月から第2シーズンが始まった本作について、脚本を担当している井上由美子氏がその苦労や作品にかける思いについて語った。
◆脚本制作時の苦労とは?
2014年に連続ドラマとして、その翌年にはスペシャルドラマとして放送され好評を博してきた本作。井上氏は、「約25年の脚本家人生で一番難しい台本だった」と話す。
なぜなら、本作は「事件が起こって、犯人を探し、逮捕する」という刑事ドラマの王道ストーリーが使えない。普通の刑事ドラマのゴールである逮捕がスタート地点であり、その先を描くドラマだから。劇中の会話劇では、「被疑者が罪を犯したのか? 犯していないのか?」の1パターンしかない。
そのなかで、いかにストーリーに変化を持たせるか…。この点でとても苦労したのだという。
そこで井上氏は、「犯人のキャラクターや事件の背景を細かく描き、捜査官たちの人生とリンクさせる」という表現をしたそうだ。
たとえば、本作の見所である取り調べシーンでは、主人公の有希子(天海祐希)がよく「丸裸にしてやるわ」という台詞を口にするが、「ときには捜査官自身が“丸裸”になる瞬間をつくることで、被疑者の心を開いていく」という“犯人の人生をあぶり出すような会話”になるよう工夫が施されているのだ。
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また、この脚本を制作するにあたって、3つの“封じ手”を決めていたという。
まず1つ目は、「アクションを入れないこと」。2つ目は、「国家権力や大組織との戦いを入れないこと」。そして3つ目は、「先に話をつくり上げてから出演者たちに読んでもらうこと」。
これらの決め事で脚本作業はより難しくなったとのことだが、「結果的に“話重視”の作品に仕上がったのではないか」と自身でも語った。
◆『緊急取調室』を通して伝えたい思い
今回の第2シーズンでは、「普通の人が一番怖い」というテーマのもとストーリーが進んでいる。
ただし、第1シーズンからずっと根底にあるテーマは、「人とのコミュニケーション」なのだという。
メールやチャット、SNSなどが普及し、直接的なコミュニケーションが少なくなっている昨今だが、机ひとつを挟んで刑事と被疑者が向かい合う“取り調べ”というものを通して「人と人とが向き合って話をすることの大事さを訴えたい」と井上氏は語った。
そして、すでに脚本は書き終えているという井上氏。「今は抜け殻です」と安堵の表情を浮かべており、“脚本家人生で最も難しい台本だった”という言葉の説得力を感じさせた。
これから後半戦となっていく『緊急取調室』。さらなる緊迫の展開から目が離せない。
※番組情報 『緊急取調室』
【毎週木曜】午後9:00~午後9:54放送、テレビ朝日系24局