トヨタ、“三度目の正直”狙う。WRC(世界ラリー選手権)第3戦ラリー・メキシコ開幕
2019年のWRC(FIA世界ラリー選手権)、第3戦のラリー・メキシコが間もなくスタートする。
シーズン第3戦は、これまでのラリー・モンテカルロ、ラリー・スウェーデンというウインターラリーから、一気に気温30度を超える灼熱の大地メキシコへと移動する。
ラリー・メキシコが開催されるのは、首都メキシコシティから北西に約400km程度離れたグアナファト州レオンを中心とした地域。映画『リメンバー・ミー』に登場した主人公が住む街並みや、メキシカンハット、人形の形をしたサボテン、さらには食用にもなる丸いお皿型のサボテンである“ノパル”など、多くの人がイメージするメキシコの姿がそのままあるような街や地域がレオン周辺と言える。
さて、ラリーチームはともかく、今年のラリー・メキシコにおいては、取材する人たちや観戦に来たファンには多少苦労がありそうだ。
というのも、1月12日の時点で、在レオン日本国総領事館から注意喚起のリリースが出ており、グアナファト州の一部地域では、ガソリン供給の停滞が継続していて解決の見通しはたっていないという。
この注意喚起リリースから約2カ月、かなり改善はされただろうが、WRCのように人々が移動でガソリンを利用する大きなイベント時までを賄えるかどうかは不明であり、今年のラリー・メキシコは、そうしたラリー以外の部分にも注意が集まるところだ。
また、ラリー・メキシコは何気に日本人の観戦者を見かけることが多いラリーだという。
というのも、レオンがあるグアナファト州は自動車の生産地域として有名で、日本の自動車メーカーもトヨタ・ホンダ・マツダがグアナファト州に生産工場を持つ。自動車産業は裾野が広いので、当然多くの日系部品メーカーもグアナファト州に進出しており、日本人在住者も多い。というわけで、現地在住日本人のラリー観戦者がいるというわけだ。
肝心のラリー・メキシコだが、シーズン最初の全ステージグラベル(未舗装路)ラリーとなる。
木曜日は顔見世程度にSS1が夜間市街で開催されるが、本番と言える金曜日からは8つのステージがある。この金曜日にもっとも注目されるのが、WRC全14戦中、もっとも高い最高2700mを超える高地を走るSS2とSS5。道は狭く、なにかあれば崖から落ちてしまうようなステージだ。土曜日は9つのステージ、そして日曜日は3つのステージと、合計21のステージで戦う。
◆ラリー・メキシコの難しさ
このラリー・メキシコが難しいのは、2000mを超えるような大地を走るにも関わらず、灼熱であり、さらには走るごとに砂塵が舞うような乾いた土の道であること。クルマはエンジンにガソリンを送り込んで、エンジン内で爆発させ、その爆発力を車軸など回す力に利用している。
そして、ガソリンを爆発させるためには酸素が必要だ。高地になればなるほど酸素が薄くなり、エンジン内の爆発を正確に制御することが難しくなる。また、ガソリンが爆発することで車軸を回す力と一緒に熱を放出する。この熱が厄介者で、うまく冷却させないと、これもまたエンジンが十分にパワーを発揮できない原因となったり、トラブルの引き金になったりする。
さらに、乾いた土の大地は、その細かい土の粒子がクルマの前方にあるラジエターやオイルクーラーといった、クルマを冷やすための機能を持つ部品の細かい隙間に入り込んで、本来必要とする十分な冷却を妨げる。クルマにとって、非常に厳しい条件が揃っているのがラリー・メキシコなのだ。
ここラリー・メキシコで過去2年苦しんできたのがトヨタだ。“三度目の正直”となるべく、準備を怠らない。現在ドライバーズチャンピオンシップトップに立ったオット・タナックも、WRCの公式取材にその意気込みを語った。
「ラリー・スウェーデンでの勝利は素晴らしいものだった。しかし、すぐさまラリー・メキシコに焦点を変更しなくちゃいけない。ラリー・スウェーデンのあと、すぐさまスペインに飛んで、月曜日と火曜日の2日間、グラベル(未舗装路)テストをした。そこで、いくつかの違うことを試し、とにかくやれるだけの準備はしてきた。決して簡単ではないが、昨年も良い結果を残せそうな感触はあった。さて今年はどうなるか」
このように、言葉からは自信が感じられる。
ここラリー・メキシコでは、トヨタのドライバーは全員グラベルを得意としており、3台とも上位進出の可能性は高い。またライバルを見渡すと、ヒュンダイはグラベルを得意とするダニ・ソルドが今回参戦。シトロエンはもともとチーム自体がグラベルに強いことで有名だ。果たしてどんなラリーとなるのか、注目が集まる。
ラリー・メキシコ1日目のSS1は、1.14kmという顔見世コース。夜間のトンネルもステージ内にあるなど、トリッキーなステージだ。現地スタート時間は午後8時8分。日本時間では翌金曜日午前11時8分となる。<文/モータージャーナリスト・田口浩次>