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「30km以上は走らない」常識破りのマラソン異端児、設楽悠太【福岡国際マラソン2018File】

ホンダの高級車「レジェンド」に乗るこの男。今年2月、東京マラソンで16年ぶりに男子マラソン日本記録を塗り替えた設楽悠太だ。

©Get Sports

日本実業団陸上連合から送られた報奨金1億円を手にし、一躍時の人となった。

その実、彼がなぜ歴史を変えることが出来たのか、本人も含めそこに言及できるものがいないというから不思議だ。

結果を出したということは、当然何か理由があるはず…と考えてしまうのが世の常だが、結論から言えば、彼はこれまでのマラソン界では考えられない“常識破りな挑戦”をしている。だから本人にも誰にも説明がつかない、ということに尽きる。

日本陸連マラソン強化・戦略プロジェクトリーダーの瀬古利彦氏は、彼のことをこう評する。

「常識にとらわれない。僕は彼が何を考えているのかよく分からない。我々がこうやって欲しいっていうのは通用しないタイプですね。それが彼の魅力でもあるし、宇宙人」

マラソン界のレジェンドも宇宙人と言わざるを得ない、まさに未確認だらけのアスリート。どの業界においても「異端児」が天才と称され、時を経て「常識」となるまでには時間がかかるものなのだ。

◆野菜は食べない、30km以上は走らない

なにせ、彼は私生活からトップアスリートとは思えない暮らしを送っている。

所属するホンダの寮の冷蔵庫は、コーラとビールで溢れていた。また、食事では大嫌いな野菜をほとんど摂らないという。食生活にはあまり気を遣わずに自分の食べたいものを食べている。

©Get Sports

さらに驚きは、そのトレーニングだ。

「40km走を取り入れたら体も持たない。30km以上は走らない。マラソン練習に答えはないというか、自分に合った練習が見つかった」(設楽)

マラソンに挑む多くのランナーは、練習の根幹ともいえる40km走はもちろんのこと、多いときには月1000km以上もの走り込みを行っているものだ。

しかし、なんと設楽の場合は普段の練習の距離は“30kmまで”しか走ることはないというのだ。だからといって特別に変わった練習もなければ、筋トレもしない

指導する小川智コーチにとっても、「練習量は他の選手より少ないと思っています。1回1回の練習の質が高いというか、もともと持っている能力が高いからあのレベルまでいけるのかもしれないですけど…」と、ここまで練習量が少ない選手は経験がないという。

◆質の高いレースを数多くこなすことで磨いてきた“試合勘”

それでも結果を出せている理由に、ひとつだけヒントがあるとすれば、それは「質の高いレースを数多くこなしている」ということかもしれない。

「試合が大好きです。たくさん出ているから川内優輝さんの真似をしてるとか言われるけど、別に真似してるわけじゃないです。どのレースでも全力で走ることですね。負けなきゃ自然に日本代表になれると思っているので。本当に自分の力がどれだけあるのか自分でもわからないぐらい試合で発揮しちゃうので」

設楽はその言葉通り、日本記録を更新した2月の東京マラソン前には、2か月で4本ものレースに出場し、その全てで日本人トップの成績を残していた。通常、マラソンの本番前に出場するレースは調整の意味合いが大きいが、設楽は調整ではなく全力で勝負に挑むことで試合勘を磨いてきていたのだ。

◆双子の兄と一緒に、東京五輪へ

©Get Sports

さらに設楽には、マラソンに挑む原動力がある。それが双子の兄、啓太の存在だ。

一緒に陸上を始め、大学まで同じチームで切磋琢磨してきた2人。東洋大学を箱根駅伝で2度の優勝に導くなど、共に栄光の時代を築いてきた。

だが卒業後、別々の実業団に入ると明暗が分かれた。10000mでリオオリンピックに出場し、マラソン日本記録まで打ち立てた弟・悠太に対し、兄・啓太はケガや体調不良に苦しむ日々を送っていたのだ。しかしいまは、それが兄弟にとっての原動力となっている。

啓太:「悠太があれだけ頑張っているからこそ、僕の中でもすごくいい刺激をもらっている。社会人になってからは越されてばかりですけど、いつかは絶対に勝ちたいと思っているので、悠太の存在は僕の中で非常に大きいものです」

悠太:「兄貴と一緒に日本代表のユニフォームを着て、オリンピックで2人一緒に出たいという気持ちが大きい。あいつが100%準備出来たら、日本記録を更新できるのは僕かあいつか大迫選手、その3人しかいないと思っている」

設楽の打ち立てた日本記録は、その7ヶ月後に塗り替えられた。同い年の大迫傑がシカゴマラソンで21秒更新し、日本人初の2時間5分台の記録をマークしたのだ。

それでも悠太は、「2020年までに2時間4分台を目標にする」とさらに先を見据えている。様々な常識破りを実行する男の脳には、限界という文字はない。

©Get Sports

最後に、福岡国際マラソンへの意気込みを聞いたところ、宇宙人・設楽悠太ならではの答えが帰ってきたので紹介したい。

「マラソンは1本の映画だと思ってます。映画は予告とかもあって、だいたい展開とか読めるじゃないですか。でもマラソンは予告もなく、何があるか分からないんで、公開日だけ分かっていて。その映画のために今は準備している途中です。本当に誰も予想しない映画にしたいので、僕にしか作れない最高の映画にしたいと思っています」

12月2日、主演・設楽悠太が織りなす2時間のシナリオをぜひ鑑賞して欲しい。<制作:Get Sports>

※番組情報:『Get Sports』
毎週日曜日夜25時10分より放送中、テレビ朝日系(※一部地域を除く)

※番組情報:『福岡国際マラソン』
12月2日(日)12時00分より、テレビ朝日系列地上波にて放送