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自分が“鉄拳”であることを父に隠した6年間。しかし、父は全て知り応援していた

©テレビ朝日

漫画家、プロレスラーになるという夢に挫折して人気お笑い芸人になったものの、ブームが去り、一時は芸人を辞める決意までした鉄拳さんだが、テレビ番組の企画で作ったパラパラ漫画『振り子』で海外からも注目されるパラパラアニメ・アーティストに。『振り子』は自身初の実写映画化となり、周囲の状況も激変したという。

©テレビ朝日

◆映画化された『振り子』に鉄拳が泣いた

パラパラ漫画の『振り子』はテレビ番組の企画で3分の短編として作成され、イギリスの人気ロックバンドMuseの楽曲『エクソジェネシス(脱出創世記):交響曲第3部(あがない)』をBGMにして放送された。その後、YouTubeにもアップされ動画の再生回数は驚異の300万回超にも達する。

さらに、Museからのオファーで同曲の公式ビデオクリップの映像として採用され、世界各国に配信された。鉄拳さんのパラパラ漫画の勢いはとどまることを知らず、NHK連続テレビ小説『あまちゃん』やディズニー映画『ベイマックス』公式PVにも登場!

※パラパラ漫画『振り子』
10代で出会い、学校を卒業後に一緒に生活をするようになった男女。やがて娘もできるが仕事がうまくいかなくなった男性は、酒と女に溺れ、家庭を顧みなくなるが、ある日、女性が病に倒れてしまう。男性は改心して必死に働き、彼女のためにウェディングベールを買うが…。

-『振り子』で大ブレークとなりましたが、いかがでした?-

「不思議な感じでした。『振り子』がMuseの公式ミュージックビデオになるなんて、とんでもないことじゃないですか。もともとMuseさんの曲が好きだったので、勝手に『振り子』のBGMに使っていたんですよ。だからレコード会社の人から話が来たって聞いたときには怒られると思って焦りました。それが公式として使いたいと言われたときには『ドッキリ』じゃないかと思いました。

ずっと地味におうちでやっていた絵を描く作業が急に新聞やテレビで取り上げられたり…。急に『朝ドラやりませんか』とか『ディズニーやりませんか』とかいろいろなお話が来て…。よくわからなかったですね。みんなおかしくなってるんじゃないかなって思いました。マジで思いました。『みんな、それ勘違いですよ』って(笑)」

『振り子』は中村獅童、小西真奈美の主演で実写映画化(2015年公開)。
2014年 第6回沖縄国際映画祭「TV DIRECTOR’S MOVIE」部門で初上映され、同部門で主演男優賞と主演女優賞を受賞。2015年「Japan Film Festival LA」(ロサンゼルス日本映画祭)コンぺティション作品部門選出、優秀監督賞受賞した。

-そして『振り子』は実写映画に。そんなことは考えてらっしゃいましたか-

「全然想像してなかったです」

-実写映画化されて公開されましたが、どんな感じでした?-

「なんかすごく不思議な感じでした。ここまできちゃって、自分は巨匠なんじゃないかって思うぐらい勘違いしてしまって、なんか感覚的に変な感じがしていましたね」

-実際にパラパラ漫画の巨匠として認知されているのでは?-

「いやぁ、全然そんなことないです。パラパラ漫画なんて誰でも描けますし、学校で描いていたことの延長なので。年に何本か仕事が来ればいいです。のんびりやりたいのが一番なので(笑)」

-手書きですし、作業はかなり大変なのでは?―

「そうですね。でも、慣れちゃったので、それが普通だと思っています。1日に最低30枚書かないと締め切りに間に合わないというふうに自分で設定していて、それでスケジュールを組んでいるんです。時間はバラバラなんですけど、大体10時間ぐらい。

前は普通に作品を作りながら別のスポンサーの作品を作り、それ以外に『あまちゃん』とかがあったりして、仕事もいろんなことをやっていたので、結構ハードでした。あの頃に比べたら、今は自分のことを考えることもできるし、結構生活リズムもうまくできている感じです」

-インスタにもステキなイラストをアップされていますが、時間にするとどのくらいかけているのですか-

「1枚描くのに大体1時間位ですかね。パラパラ漫画作画の休憩を1時間とってあるんですけど、インスタにあげるイラストはそのときにいつも書いています。

パラパラ漫画を描いてるときに、『きょうは何を書こうかなぁ』って思って、バーッて描いて写真を撮るんですけど、僕は文字がだめなんですよ。なんて書けばいいかがわからなくて休憩しながらずっと『これなんて書こうかなぁ』って考えているうちに1時間経っちゃいますね。それで、どうにかアップするという感じ。だから休憩になってないですね(笑)」

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◆自身の経験を基にしたパラパラ漫画が実写映画に!

鉄拳さんの地元、長野の新聞社「信濃毎日新聞」が「信濃毎日新聞140周年記念」として、2014年に発表したパラパラ漫画『家族のはなし』が実写映画に。リンゴ農園を営む両親が、人生でつまずく息子の成長を温かく見守る姿を描いた家族の物語。

※映画『家族のはなし』
長野でリンゴ農園を営む両親(時任三郎・財前直見)の一人息子・拓也(岡田将生)は、幼少期から天才ランナーとして期待されていたが、ケガで断念。上京して大学に通いながらバンド活動を続けていたが、またもや挫折。夢破れて久しぶりに里帰りするが、リンゴを育てることにすべてを注ぐ父親を疎ましく思い、八つ当たりをしてばかり。父はそんな息子を何も言わず温かく受け止める。ある日、拓也は“父親が大好きだった頃の自分”と出会い…。

-『家族のはなし』も実写映画になりました-

「ほかの作品は『振り子』ほど話題になっていなかったので、映画になるというのは想像もしてませんでした。『振り子』が映画になっただけでも僕の人生の中では最高得点というか、『いい人生だったな』と思うぐらいだったので、『家族のはなし』も映画になるって聞いたときには、『嘘でしょう?』って、ちょっと半信半疑でしたね。だから『やっぱりだめでした』って言われても、がっかりしないようにしておこうかなっていう感じでした」

-それが実際に映画化となってキャストの方もすごいですね-

「キャストを聞いたときにびびりましたね。岡田将生さんが主役だって聞いたときに『えーっ、岡田さん?』って(笑)」

-鉄拳さんご自身が投影されている役で-

「そうです。とんでもないことになったなと思って、『乗っかれー』と思いました(笑)。もうその気になって、『アートディレクターをやってくれないか』って言われて『やりますよ』って言って、すぐ家に帰って嫁に言いました。『主役は岡田将生さんだってよ』って。嫁もビックリしてましたけど、すごく喜んでくれました」

-お父様の役が時任三郎さんで-

「かっこよすぎますね。オヤジには映画化が決まってもすぐには話しませんでした。撮り終わって公開されるのが決まってから言ったんですよ。『今度映画になるんだよ』って。そしたらすごく驚いて、『ポスターを持ってきたよ』って渡したらめっちゃ喜んで、すぐ近所にポスターを配りに行ってました(笑)」

-劇中の父子関係は、ご自身の経験ですか-

「そうですね。結構オヤジは僕が東京に出てきてからも電話をしてくれたり、りんごを送ってくれたり、手紙とか入ってたんですけど、全く僕は返事してなくて…。

僕は東京に来て、そのときはまだ20代だったので、オヤジがいろいろやってくることがすごくウザくて全然返事してなかったですね。田舎にもなかなか帰ってなかったし、電話もしてなくて、よく怒られてました。『なんで電話しないんだ』って」

お笑い嫌いの父親に芸人であることを6年ぐらい内緒にしていたという鉄拳さん。相撲とプロ野球ぐらいしかテレビを見ない父は、息子が鉄拳であることを知らないはずだった。

しかし、あるテレビ番組の企画で、父親の前に鉄拳のメークで現れてネタをやった後、自分が鉄拳であることをバラしたところ、父はすべて知っていたという。

「オヤジが知っているとは思いませんでした。実家にたまに帰っても、まったくそんな話は出なかったし、あまり話もしませんでしたから。でも、応援してくれていることを知って、そこからよくしゃべるようになりましたし、仲良くなりました」

(C)『家族のはなし』製作委員会

◆素顔にニット帽、撮影現場で誰にも気づいてもらえず

-鉄拳さんは映画の撮影現場にも行かれたそうですね-

「行きました。普通の格好で。この格好(メーク)で行ったら撮影に迷惑がかかっちゃうので、そこはやっぱり普通の格好で、ニット帽かぶっていきました。

現場では監督さんやスタッフさんは僕のことを知っているので、みんな僕にあいさつするんですよ。だけど出演者の方たちはわからないから、『みんなあいさつしてるけど、あの人誰だ?』って見ていて。なんか汚い格好してリュックサックでニット帽かぶって、ボケ-ッと見ていたので、『なんだろうあの人』って感じでした(笑)」

-名乗らなかったんですか-

「撮影中だったので黙ってました。で、撮影終了後に名乗ったら、みんな『えーっ?』って、びっくりしてました(笑)。僕はとにかく岡田さんにお礼を言いました。『家族のはなし』で僕が描いた主人公と岡田さんが本当にマッチしていたので、『岡田さん引き受けて下さって本当にありがとうございました』とお礼を言いました」

-岡田さんはミュージシャン役ということで、ギターの練習をかなりされたとか-

「はい。ギターの練習をしてくれたらしくて、そのバンドのシーンも見に行かせてもらいました。すごく良かったです。雰囲気が。本当にバンドの人がやっているみたいでお客さんたちも拍手してくれて。バンドやってる姿もカッチョ良いんですもん」

-鉄拳さんのパラパラ漫画と実写映像が見事に融合していますね-

「いいですよね。僕の中ではあんな風には全然想像がつかないので。監督さんや脚本家の方とかスタッフさんのアイデアでしょうね。すごいなぁと思いました。すごく素晴らしいものができたなぁって思って。なんかパラパラ漫画よりもキャラクターが多いし、サイドストーリーも多いし、内容も深くなっているなあって。原作よりも良い作品になっていたので、うれしい反面悔しいなぁって思いました(笑)」

-すごいですね。すでにご自身の作品が2本も映画化になって-

「僕は全然すごくないです。スタッフさんとかみなさんのおかげで。僕は普通に描いただけなんですけど、本当にうれしいです。派手な映画ではないですけど、自分ひとりだけで生きているわけではないので、親のこととか、故郷のことを思い出してくれれば良いなと思います」

-今後はどのように?-

「のんびりしたいですね。なんかもう残りの人生はほんとにのんびりしたいなぁって(笑)。慌ててパラパラ漫画描かなくても、年に2本ぐらい描いてのんびり生活できたらいいなと思っています」

-お笑い芸人さんとパラパラ漫画の比重は?-

「お笑いもオファーがきたらやりますけど、自分の負担にならない感じのものを(笑)。結構ビビリで、最近お笑いの番組とかを見るだけでも緊張するんですよ。ドキドキして。

なので、今はライブとかできないかもしれないですね、緊張して。緊張すごいですよ。『M-1グランプリ』(テレビ朝日系)とか、僕は全然関係ないんですけど、見ているだけで緊張しますもん。ドキドキして見てられないです(笑)」

人柄の良さが伝わってくる。手描きにこだわるのが信条。パラパラ漫画のベタ塗りは奥様と後輩の芸人さんが手伝ってくれているという。

鉄拳さんの額には「家族のはなし」と書いてしっかりアピール。宣伝になるように、タクシーの中でも歩いている人たちに見えるようにしていたそう。鉄拳さんならではの心がホッコリする作品。(津島令子)

©テレビ朝日

※映画『家族のはなし』
11月23日(金・祝)よりイオンシネマにてロードショー!(一部劇場を除く)
原作:鉄拳 監督:山本剛義 出演:岡田将生 成海璃子 財前直見 時任三郎