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トヨタ、WRC最終戦で復帰2年目での制覇決める エース・代表・豊田章男氏の想い

11月18日、WRC(世界ラリー選手権)最終戦となる第13戦「ラリー・オーストラリア」が終了した。

すでにニュースなどで報道されているように、優勝はトヨタのヤリ‐マティ・ラトバラ。シーズン初優勝という形で有終の美を飾った。また、トヨタは復帰参戦2年目にして通算4度目となるマニュファクチャラータイトルを獲得することとなった。

©TOYOTA GAZOO Racing

ラリー・オーストラリアの最終結果とチャンピオンシップの結果は以下の通り。

※ラリー・オーストラリアの最終結果(上位6位まで)

1位:ヤリ‐マティ・ラトバラ(トヨタ)
2位:ヘイデン・パッドン(ヒュンダイ)<1位から32秒5遅れ>
3位:マッズ・オストベルグ(シトロエン)<同52秒2遅れ>
4位:エサペッカ・ラッピ(トヨタ)<同1分2秒3遅れ>
5位:セバスチャン・オジェ(フォード)<同2分30秒8遅れ>
6位:エルフィン・エバンス(フォード)<同3分5秒1遅れ>

※ドライバーズチャンピオンシップ(上位6位まで)

1位:セバスチャン・オジェ(フォード)<219ポイント>
2位:ティエリー・ヌービル(ヒュンダイ)<201ポイント>
3位:オット・タナック(トヨタ)<181ポイント>
4位:ヤリ‐マティ・ラトバラ(トヨタ)<128ポイント>
5位:エサペッカ・ラッピ(トヨタ)<126ポイント>
6位:アンドレアス・ミケルセン(ヒュンダイ)<84ポイント>

ドライバーズチャンピオンシップでは、オジェが6連覇を飾っている。

※マニュファクチャラーズチャンピオンシップ

1位:トヨタ<368ポイント>
2位:ヒュンダイ<341ポイント>
3位:フォード<324ポイント>
4位:シトロエン<237ポイント>

こちらは、トヨタがWRC復帰参戦2年目にして栄冠を手にした。

◆オジェが6連覇を決めるまで

ラリー・オーストラリア最終日は、予測されていた雨予報がついに現実となり、路面コンディションは前日までとは一変。チャンピオンシップを争うヒュンダイのヌービルは「雨ならチャンスが…」と語っていただけに、最後までどうなるか予測のつかない展開が予想された。

しかし、この雨によって滑りやすくなった路面に足を取られたのは、そのヌービル自身だった。

©WRC

SS22、泥で滑りやすくなったグラベル(未舗装路)、しかも道幅は狭く、周囲が樹々に囲まれた林間コース。ひとつ先のコーナーも状態が予測できないだけに、コースの状態を示したペースノートの重要性はもちろんだが、それでも降雨による路面状況の変化は読めない。それだけに、果敢に攻めることはリスクを格段に上昇させる。

ヌービルは、路面に突然現れたくぼみにタイヤを取られるようにして、左コーナーで大きくマシンをスライドさせてスピン。マシンを樹木にぶつけたうえ、リヤタイヤが外れるという結果になった。

その後も走り続けると、さらにマシンをスリップさせて樹木に当て、もう一方のリヤタイヤも失った。これによりヌービルの挑戦は終わり、SS22途中の安全地帯にマシンを止めるとシートから降りた。

©WRC

これでほぼ6連覇のタイトルを手中にしたフォードのオジェだったが、さらにオジェを後押しする出来事が起きる。

続くSS23では、チャンピオンシップで数字的な可能性を残し、優勝の可能性もあったトヨタのタナックがマシンを止めた。たとえオジェがリタイアしても、チャンピオンシップはオジェの6連覇に決まった瞬間だった。最後のパワーステージを走ることなく、2018年シーズンのドライバーズチャンピオンシップは確定した。

◆トヨタ、エース・ラトバラが決めた栄冠

だが、マニュファクチャラーチャンピオンシップに目を向ければ、最後のパワーステージまで予測がつかない状態となった。

SS23を終えてトヨタのラトバラがトップに立ち、2位にはヒュンダイのパッドン。4位にトヨタのラッピが続いていたが、もしラトバラがリタイアすれば、ヒュンダイ2台目のミケルセンが初日リタイアから入賞圏内まで追い上げており、逆転は十分可能だったのだ。

©WRC

そして迎えた最終パワーステージ。

トヨタのエース、ラトバラにとって、自身のシーズン初優勝とトヨタのチャンピオンシップ確定というプレッシャーがその双肩に掛かる。しかし、危なげない走りで、ステージ全体でも5位というタイムで最後のゴールラインを越えた。

その瞬間、自身の優勝とトヨタの栄冠が決まった。車内カメラに映し出されたラトバラは、ずっと笑顔のままマシンを表彰台エリアにまで走らせていた。

◆ラトバラ「自分自身は勝利を諦めていた」

ラリー後の公式会見で、ラトバラ、そしてチーム代表のトミ・マキネンがその気分を語った。全文は以下の通り。

©TOYOTA GAZOO Racing

※ヤリ‐マティ・ラトバラ コメント

─―おめでとうございます。2017年シーズンのラリー・スウェーデン(第2戦)以来、(勝利を)待ち続けていたわけですが、気分はいかがですか?

「実を言うと、自分自身は(勝利を)諦めていた。僕にとって、フォードで初のフル参戦した2007年以来のシーズン未勝利となるものだと考えていた。それにラリーが始まる前から、多くのジャーナリストにも、『2008年から続いていたシーズン勝利が途切れますね』と聞かれ、その度に『そうだね。わかっている。でもいいんだ。僕がシーズン未勝利でも、マニュファクチャラータイトル獲得は、勝利に等しいものだから』と答えていた。

さて、僕たちはシーズン後半戦をすごく良い状態で戦えた。そして、僕はここで勝利できたことを本当に嬉しく思っている。どんなにハードに仕事をしていても、結果がついてこないと、モチベーションを持続することが難しく徐々にダウンしていく。だから、この勝利はすごく重要だったと思う。ただ、それ以上にマニュファクチャラーズチャンピオンシップが大切だったのは本当だ」

─―今日の路面コンディションは本当にタフだったのではないでしょうか。

「間違いなく、そうだね。すでに木曜日の天気予報で僕たちは金曜日か土曜日に雨が降りそうだと情報は得ていた。しかし、実際には金曜日は雨が降らず、土曜日は最後のSSだけ降られた。僕たちは自分たちが用意していたソフトタイヤを残していて雨を迎えた。

だから、僕のなかでは、とにかくフォードのヘイデン(パッドン)との差を広げることだけに集中していた。勝利なんてこれっぽっちも考えていなかったよ。しかし、その後雨によって路面コンディションが僕の得意とする状態になっていった。この路面コンディションの変化が、僕にアタックするチャンスを与えてくれた。

ただ、この状態は、上手くまとめられればタイムも出るが、もしミスや間違いを犯すと最悪の結果を招く。今日の早い段階では良い結果を残せたので、その後は少し落ち着くようにと襟を正した。それからオット(タナック)が少し遅れ、昼食時にチーム代表のトミ(マキネン)と話したんだ。

僕が彼に言ったのは、『このままドライビングをコントロールした状態で残りもこなすべきだ。リスクを取るべきではない。僕たちに必要なのはマシンをゴールさせること。僕は午後に集中するけれど、もし110%集中するつもりでなければ、ミスは簡単に起こり得る。コースのいくつかの箇所はさらに滑りやすく、簡単にリタイアさせることになる』とね」

─―(あなた自身が)トヨタへ戴冠させたことで誇らしい気分になりましたか。

「最後のパワーステージをスタートしたときから、ステージを走りきればヒーローに、リタイアしたらすべてを失いゼロになることはわかっていた。だから、ゼロだけは嫌だったね。というのも昨シーズン、僕はここでサスペンションを壊した(総合2番手走行中だった)。

昨年はチャンピオンシップに影響しなかったから問題ない。でも、今年は違う。僕自身がタイトルを決めるチャンスを与えられた。僕自身も今年のこのチャンスを失うわけにはいかないと分かっていた。悲しいクリスマスは迎えたくなかったからね。僕は最高に楽しいクリスマスを迎えたかった!」

─―(無事走りきったことは)昨年のリタイアによる気分を補いましたか?

「間違いないよ、間違いない!」

◆マキネン代表「来年についても十分な自信を持っている」

©TOYOTA GAZOO Racing

※トミ・マキネン代表 コメント

─―トミ、なんて素晴らしいラリー・イベントだったでしょう。ラトバラが勝ち、トヨタはマニュファクチャラータイトルを獲得しました。誇らしい気分ですか。

「もちろんだよ。たった3年半前にスタートした僕たちのプロジェクトが、今日この場にいる。僕たちの戦略は、当初考えていたよりもずっと早く実現している。2016年と2017年は学びの年で、数々のアイテムの違いを分析したり、2018年に向けたマシン開発に没頭していた。

そして22018年シーズンの後半に、僕たちは多くの分野で大きな性能向上を実現することができた。間違いなく自分たち(チームとその関係者)を誇らしく思うし、すべてのチームがこの栄冠を得るためにどれだけのリソースを投入しているかを考えれば、これが最高の栄冠であることは間違いない」

─―これは本当にチームの努力を称賛する栄冠ですね。

「その通りだ。チームだけで150名からのスタッフがいて、その一人ひとりすべてが重要な役割を担っている。僕たちの次の目標は、この位置をキープできるための挑戦だ。それこそが、僕たち関係者全員のモチベーションを継続させる源であり、この栄冠こそが、来年その先へと、人々のモチベーションを高く保つための力となるはずだ」

─―途中、タナックがリタイアしたのはどう見ていましたか。

「こうしたことは起こり得ることを理解している。僕自身もそうだったからね。ものすごく残念なことは確かだ。わずかでもタイトル争いが掛かっていただけに尚更ね。でも、すでにタイトルはほぼセバスチャン(オジェ)の手中にあった。それでも残念だったのは確かだ。

とはいえ、今日の路面コンディションが、この週末を通じていちばんエキサイトさせることに繋がった。僕自身も経験あるが、これほどに滑りやすい路面コンディションで、樹木に囲まれた状態では、次のコーナーの先にある路面がどんな状態かは知る由もない。ラリーでもっとも難しい状況だったと思う」

─―来年はクリス・ミークがチームに加入します。どのようなチームになるのでしょう。

「これまで最高に良いチームワークを発揮してきた。ドライバーたちもお互いに良い関係で仕事をしてきた。来年もそうであることを願うよ。私はクリス(ミーク)を知っているが、彼は良いチームプレーヤーであり、フレンドリーな男だ。もちろん、エサペッカ(ラッピ)の離脱は残念でならない。彼もまた良いチームプレーヤーでありドライバーだったからね。

ただ、これがラリーの世界だ。スタッフが移籍し、ドライバーも違うチームに移籍するものなんだ。さて、我々はどうなるか。少なくとも来年についても十分な自信を持っているよ」

◆豊田章男氏も歓喜のコメント

そして、このトヨタの2人と同等、いや、それ以上に嬉しい気持ちを爆発させている人物がいる。それこそ、このWRCプロジェクト実行を決断した、“モリゾウ”ことトヨタ自動車社長の豊田章男氏だ。

早速、チームに対してトヨタ自動車を通じてコメントを出した。その全文は以下の通り。

※豊田章男氏(チーム総代表)コメント

「ラトバラ選手、アンティラ選手、ラリー・オーストラリア優勝おめでとう! 苦しんだ今シーズン、最後にポディウムの頂点に立つ姿を見ることができて、本当に嬉しかった。そして、その勝利でTOYOTA GAZOO Racing WRTのマニュファクチャラーズタイトルが決まりました。

FIA世界ラリー選手権へ18年ぶりに復帰し、2年目の挑戦にしてこんなにも素晴らしい結果を得られたこと、チームの総代表として最高の気持ちです! この栄冠を勝ち取るためにヤリスを強くし続けてきたトミ・マキネンと、彼を支えてきた全てのチームメンバー、そして、そのヤリスを何があってもゴールまで走らせ続けてくれた6人のドライバー、コ・ドライバー達に感謝の気持ちでいっぱいです。本当にありがとう!そして、おめでとう!

声援を送り続けてくださったファンの方々、心ひとつに戦ってきてくださったパートナーの皆様ともこの喜びを分かち合えたこと、本当に嬉しく思います。支えていただき、ありがとうございました。

この挑戦が始まる時、トミやメンバー達と“約束”したのは『自分たちは“負け嫌い”だ。一緒に勝利を手にしよう!』『そのために、常に“今のヤリス”が一番強くなっているようにしよう!』ということだけでした。走りきれなかった道、苦しめられた道を、もっと気持ち良く走るためにはどうしたらいいか? チームは常に、これを考え、日々改善を続けてくれました。

そうして“昨日のヤリスより今日のヤリスがもっといいクルマになる”ということを実践してくれたからこそ、今回の結果が得られたのだと思います。そして、このトミ達との“約束”は、今回の勝利で終わるものではありません。

『もっと乗り続けていたい』『もっと攻めてみたい』と世界各地の道で、ドライバー達にそう言ってもらえるヤリスになるようこれからもチーム全員で学び続けて参ります。そして、トヨタ自動車は、ここで得た学びをお客様にいち早くお届けできるよう、努力して参ります。

皆さま、来シーズンも引き続き、応援よろしくお願いいたします。」

◆王者オジェ、移籍する想いを語る

こうして、ドライバーズチャンピオンシップはセバスチャン・オジェが6連覇。そしてマニュファクチャラーズチャンピオンシップはトヨタの戴冠で、WRC2018シーズンを終えた。

しかし、トヨタにドライバー変更があったように、来年も大きくWRCを取り巻く情勢は変わりそうだ。その最大の要因は、フォードからシトロエンに移籍する王者オジェの存在だろう。ラリー後の記者会見でも、6連覇とともに、チーム離脱についてオジェは語っていた。

©WRC

※セバスチャン・オジェ コメント

─―セバスチャン、この場には3人の人物が来る可能性がありましたが、最終的にあなたがそのチケットを手にし、6度目のタイトルを獲得しました。気分はいかがですか?

「そうだな。僕が思うに、あなた方はチャンピオンシップ獲得で僕が超ハッピーだと答えると思っているんだろう? 今年はとにかく厳しいシーズンだった。ほぼ、最後のステージでやっと勝利が決まるというものだった。もちろん、それについては最高に気分を高揚させるものだったと思う。

しかし、いまの気分はちょっと変な気分というのが正直なところだ。オット(タナック)がロードセクションでマシンを止め、それが結果を決めることになった。ただ、これまで僕たちが戦い抜いた厳しいシーズンを考えれば、そうした決まり方でも気分は救済されたし、(栄冠獲得が)最高の気分なことは間違いない」

─―冷静な自分を保ち続けましたね。どんな週末でしたか。

「僕が思うに、この週末すべてを通じて僕たちはノーミスで走りきり、彼らは僅かなミスを犯したことでリタイアを喫し、結果僕たちにはチャンピオンシップの栄冠が転がり込んできた。

シーズンをこのような形で締めくくったことで、チームとも最高の形で別れを告げることになる。この2年間、僕はフォードでタイトルのためにハードに働き、自分のキャリアにも、チームにも結果をコミットメントできた。

そんなチームに対して、チームを離れると伝えることはとても言い難いことだ。まるで好きな女性との別れのようだ。『なぜ別れなくちゃいけないの?なぜ今なの?これまで素晴らしい2年間を過ごしてきたのに…』という感じにね。

でもその一方で、次に待っているアドベンチャーに心を踊らせている自分がいる。だから、最大の勝利を得てサヨナラを言うのは、ひとつの最良の形じゃないかと思う」

◆来シーズンの各チームの状況は…

©WRC

2019年シーズン、トヨタではラッピがシトロエンに移籍し、新たに英国人ドライバーのクリス・ミークが加入。また王者オジェもシトロエンに加入することで、シトロエンはかなり強力な布陣へと生まれ変わる。

一方、ヒュンダイもヌービルとミケルセンという若く実力ある2人が残留するので、強力なチーム体制に変わりはない。唯一、フォードはオジェの離脱によってその穴を埋めることができるのか、まだ不透明といったところだ。

日本でもWRCの知名度が再び上がってきて、いよいよ2020年ラリー・ジャパン開催実現に向けて動き出している。

2018年シーズンは終了したが、このあと各種MVPやシーズンを最も盛り上げた走り、ドライバーなど、さまざまな表彰が12月に予定されている。そして1月には、2019年シーズンがスタート。つまり、WRCに休む間などはない。

短いクリスマス休暇以外は、常にニュースが続くモータースポーツなのだ。<文/モータージャーナリスト・田口浩次>