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俳優・やべきょうすけ、北野武の“個性認める”一言で「一生役者として食べていく」

©テレビ朝日

丹波哲郎さん主宰の俳優養成所「丹波道場」の門下生となったものの、アルバイトで養成所のレッスンにはあまり行けなかったやべきょうすけさん。しかし、エキストラや端役で撮影現場に行ったときに現場ウケが良かったやべさんは、作品に指名されることも多かったという。

養成所の卒業間近の頃、北野武監督の映画『キッズ・リターン』(1996年)のオーディションに合格。映画デビューを果たす。

©テレビ朝日

◆北野監督に誘われるも、熱湯風呂に入るのがイヤで…

「それまでオーディションに落ちまくっていましたからね。本当にうれしかったです。俺の身長は163cmなんですけど、北野監督が“おいしい個性だ”と言ってくれて…。一生役者として食べていきたいと思うようになりました」

-その時には「丹波道場」に所属されて?-

「それが、ちょうど卒業する頃でした。『丹波道場』の上に当時は『丹波プロダクション』と、ボスと息子の義隆さんがいる『丹波企画』があったんですけど、レッスンをさぼってバイトとかをしていたので、契約をするかどうかでもめてたんですよね。

それで、撮影現場でもそんな話をしたんですかね。オールアップのときに北野監督に『事務所辞めるの?』って聞かれて、『契約してもらえるかどうかわからないんですよね』って言ったら『だったらうちに来る?』って言っていただいて…。その瞬間、当時の森社長たちは『えっ?』ってなってましたけどね(笑)」

-すごいじゃないですか-

「でも、俺は『オフィス北野』のことを知らなかったんですよ。だから『たけし軍団』に入れられると思っちゃって(笑)。『今さら熱湯風呂なんていやだなあ』って思って、『いやぁ、それはどうすかね』なんて言ってたんですよ。寺島進さんもいる事務所だなんて全然知らなくて。

で、結局、今の事務所の社長がそのときのマネジャーだったんですけど、『とりあえず事務所で手に負えないんだったら、俺が個人でやるから。あいつ面白い』って言ってくれて、ボスにうちの社長が『自宅の1部屋を貸してやるから独立する形でやるか』って言われて始めたのが今の事務所。

そのかわり、僕らはボスのお世話をするというか、まあだいたいは飯を食わせてもらうとか、代わりに麻雀を打って、負けると『馬鹿野郎』って怒られたりしてるぐらいだったんですけどね(笑)。

でも、そういうお付き合いがあったので、ボスが亡くなったときに、『丹波道場』は19年やって2000人以上門下生がいるなかで、俺だけがご遺骨を拾わせていただきました」

『キッズ・リターン』ではボクサーになる役。中学時代からキックボクシングをやっていたやべさんだが、ボクシングとは技術的に違うため、監督からボクシングジムに通ってくれと言われ、半年以上通っていたという。

-『キッズ・リタ-ン』出演後はどんな感じでした?-

「あの作品は公開までに1年半から2年近くかかっているんです。撮影が終わって、北野監督からすごく評価してもらっていたようで、『モロ師岡とやべきょうすけってのが面白くてね』という話を監督が方々で取材を受けたときに言ってくれて。

『やべって誰だ?』みたいな感じになって、そのときにうちの今の社長が三池(崇史)監督のビデオ映画『大阪最強伝説 喧嘩の花道』の仕事を持ってきてくれたんです。

それまでエキストラやチンピラAとかBが多かったから、台本のキャスト表を俺はいつも後ろから見る癖がついてたんですよ。それで『喧嘩の花道』(1996年)の台本も後ろからめくっていたら全然なくて、名前もない役なんだと思っていたら1番前にあって主役だったんですよ。

だから社長に『これ主役じゃないですか。ちょっと俺じゃ荷が重いでしょう』って言ったんですよ。そしたら社長が『おかしなやつだなあ』って(笑)」

『大阪最強伝説 喧嘩の花道』はスポーツジャーナリストの二宮清純さんが格闘技などをやっていた人たちの過去を描いた『浪花ヤンキー列伝』がベース。ボクシングは『キッズ・リターン』で経験済み。衣裳や髪形にも積極的にアイデアを出したという。

「俺はもう迷わず、三池監督に『髪はパンチですね。70年代と言ったらもうリーゼントとかダサイでしょ。クルクルのパンチで鬼ゾリですよ。ビジュアルのかっこよさじゃなくて。

『眉毛も剃りましょうか』って言って、テンションもバリバリでいったら、三池さんが面白いと思ってくれたみたいです。Vシネ界では『誰だ?こいつ。役者?ヤンキー?どっちだ』って言われてたみたいですけど、『面白いから』って使われていた感じです」

-色々な現場を経験されていかがでした-

「哀川翔さん、小沢仁志さん、竹内力さん、遠藤憲一さん、光石研さん、大杉蓮さん…名バイプレーヤーと言われるような方々とずっと一緒で、もう『好きにやっていいよ。遠慮するな。どんとこい!』というような方々とお仕事をさせてもらいました。

俺はやっぱりVシネの世界でずっと生きてきたので、『そこの上にいるこの人たちをある意味倒して行かないと飯食われへん』というのがあって。

だから『兄貴』とかみんな言われてますけど、どこかで、『そこの下に行ったら絶対あかん。芝居でいったんねん』というのがあって、思いっきりぶつかっていくんですけど返り討ちにあって(笑)。『やっぱりスゲェなぁ』って。その芝居の迫力ですよね。俺がどんなやり方をしたって叶わない。そこから学んできたものは大きいです」

©テレビ朝日

◆映画『クローズZERO』で世界が変わった

2007年に公開された映画『クローズZERO』でやべさんは、主人公・源治(小栗旬)を県内随一の不良校・鈴蘭のトップ(全校をまとめあげる番長)にするために協力するチンピラ・片桐拳役で出演。

小柄で腕力も弱いが男気あふれる憎めないキャラを緩急自在に熱演。演技力が高く評価され、第17回日本映画批評家大賞助演男優賞を受賞。原作の漫画家・高橋ヒロシ氏が『喧嘩の花道』を見てやべさんのファンになったことで2人の交流が始まり、片桐拳役に抜擢されたという。

-『クローズZERO』で周囲の状況も大きく変わったのでは?-

「そうですね。それで多くの人に知ってもらうことになりましたし、後輩の俳優たちも見てくれているというのは大きかったですね。主役でもないのに代表作のような形で、ああいう風に評価されるというのは役者冥利に尽きます。

三池監督とは出会って10年目でしたが、『この先10年、クローズの人だと言われる覚悟はありますか。それぐらいの作品になりますよ。ただ、その10年、やべきょうすけ=片桐拳というイメージで見られる呪縛のなかで賞賛もされ、新たな作品と出会うことにもなると思いますが』って言われたことをよくおぼえています」

-三池監督のおっしゃった通りになりましたね-

「そうですね。その4年後『闇金ウシジマくん』という作品に出会うんですけど、まさかの、それもまた主役じゃない位置でありながら、代表作のように皆さんに見てもらえることになって。

その作品の与える影響のすごさと、役者をやっていて、これだけの作品に代表作として名前が出るのが、2つあるんだということは、非常にうれしくもあり、今後自分がそれを越えて行かないといけないんだろうなぁというプレッシャーもあります」

-すごいキャストでしたね-

「そうですね。あれだけの演者ですからね。相当な刺激はありました。小栗(旬)君や山田(孝之)君をはじめ、他の作品で一緒になったりもするんですけど、特に言われるのが『クローズZEROII』の金子ノブアキ君。

彼はロックバンド・RIZEのメンバーとしての活動が本業だというのがあったので、バランスが非常に難しかったらしくて、役者はもうやめようかと思っていたらしいんですよ。それがあの作品で役者としても高く評価されましたからね。

ひとつの作品で人生が変わるというのは、俺も『クローズZERO』で経験したんですけど、自分たちが参加している作品で、多くの人たちが人生を変えていったりとかするものなんだなぁって改めて思いました」

(C)2018映画「あいあい傘」製作委員会

◆家族の愛の物語で新たなキャラに挑戦!

現在公開中の映画『あいあい傘』(宅間孝行監督)に出演中。幼い頃に離れ離れになった親子が25年ぶりに再会する姿を通して、家族の絆や夫婦の愛を温かい目線で描いたこの作品で、やべさんは恋人のデコ(高橋メアリージュン)とともに祭りの時期にやって来るテキ屋の竹内力也役。

一見軽く見えるが心のなかではデコとの将来を真剣に考えつつ、周囲の人間を思いやる力也を味わい深い演技で体現している。

※映画『あいあい傘』
恋園神社のある小さな田舎町に、さつき(倉科カナ)は25年前に姿を消した父の六郎(立川談春)を探しにやって来る。偶然、父のことを知るテキ屋の清太郎(市原隼人)と出会い、さつきは素性を隠し、町案内をしてもらうことに。父には玉枝(原田知世)と、彼女の娘(入山杏奈)という新しい家族が。お互いを想いながらも一緒に暮らすことができなかった、さつきと六郎の葛藤、そして彼らを支える人々の姿を描く。

-主演の倉科さんが、ご自身の境遇と劇中のさつきが似ているとお話されていましたね-

「カナちゃん自身もさつきと似たような境遇であったということで、シンクロするところがあったみたいで…。『お話をいただいたとき、この役は絶対に自分がやりたいと思った』と言っていました」

-市原隼人さんとは初めてですか-

「初めてでした。真面目で熱い男だということは聞いてましたけど、僕はちょっと想像できなかったんですよ。あれだけハイテンションで猪突猛進というか、ああいう感じの芝居でやってくるというのがね。

もともと役作りに関しては、徹底する役者さんではあったんですけれども、『おお、そう来るのか』って…。圧巻というか、すごかったです。さすがだなって思いました」

-市原さんは撮影初日にハチに刺されるというアクシデントもあったと聞きました-

「ビックリしました。ハチに刺されたんだけれども、それが本当に刺されているのか、アドリブの芝居でやっているのか、現場が一瞬わからなかったという話を聞いた瞬間に、さすがだなって思ったんですよ。

そのままやり切って、監督でさえ、『どっちなんだ?』って思わせるほどで、それがすごいなぁと思って。そんなまっすぐな清太郎を最初の段階で見せてくれたのはすごくうれしかったですね。それで、俺の中ではもう『清太郎すごい好き』っていう感じで、ずっと一緒にやっている仲間という気持ちになっていました(笑)」

-一番印象に残っているシーンは?-

「さつきが胸の内を吐き出すところですね。6分半という長回しだったんですけど、カナちゃんがあれだけの感情の起伏の激しいことをするのに、市原君、メアリー、俺たち3人が芝居の邪魔になってはいけないけれども何もしないわけにもいかない。

タバコを吸ったり消したりするタイミングも決まっていたので、どうしようと思ったんですけど、本番になったら、もう本当にさつきの言葉に聞き入っていて無意識にやっていましたね。

倉科カナという女優がさつきのキャラクターできてくれたから、俺たちも役のままでいられたんだと思います。タバコのタイミングもバッチリ合っていたと聞いてホッとしました(笑)」

-あのシーンは絶妙でしたね-

「本番はあっという間でした。実際にあるお店を借りて撮影をしていたんですけど、早めに終わったんで、開店前から4人で飲み始めて。メアリーは仕事で早めに出たんですけど、俺たちは結局閉店まで7時間くらい飲んでましたね」

-どんなお話をされていたんですか-

「カナちゃんと市原君が絶好調で。カナちゃんは、大変なシーンをやり切ったというのもあるし、市原君はコミュニケーションを取ったりするのが好きなので、むちゃくちゃ楽しくて、ゲラゲラ笑ってました(笑)。僕は本当はしゃべるタイプなんですけれども、そのときには結構聞き役でしたね」

劇中のシーンとオーバーラップする。これまでのコワモテのイメージとは全く違う明るい笑顔が新鮮。サービス精神も旺盛。基本的にケンカ=祭りだそう。なぜか事件に遭遇することが多く、ビデオ店でひったくり犯を捕まえたり、酔っ払いのケンカの仲裁や痴漢を捕まえたこともあったという。

正義感の強さも魅力。自分が求められる仕事には常に120%でいける準備はしておくという真摯な姿勢がすてき。(津島令子)

(C)2018映画「あいあい傘」製作委員会

※『あいあい傘』公開中
監督:宅間孝行 出演:倉科カナ 市原隼人 入山杏奈 高橋メアリージュン やべきょうすけ トミーズ雅 立川談春 原田知世