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豊田社長もすぐに惚れこんだ。トヨタ愛にあふれるWRCドライバーの人柄

2月2日、東京・お台場にあるメガウェブにて、トヨタ自動車が「TOYOTA GAZOO Racing」の2017年活動計画を発表した。

驚いたのは、トヨタのWRC(FIA 世界ラリー選手権)への力の入れようだ。

今年、国内外で9つのモータースポーツカテゴリーに挑戦することを発表したのち、1月に行われたラリー・モンテカルロにおいて18年ぶりの参戦で開幕戦2位を獲得したWRCチームのチーム代表を務めるトミ・マキネン代表と、エースドライバーのヤリ‐マティ・ラトバラ選手がテストの合間を縫って来日。

トークセッションを行ったのだが、その時間がじつに全体制発表に予定された時間の約半分! さらに、報道関係者に配られていた進行表には記載されず、マキネン代表とラトバラ選手にも秘密のまま、豊田章男社長がサプライズで登壇。

それだけではなく、ラトバラ選手によるデモランでは、コドライバーとして助手席に豊田社長が座り、豊田社長によるデモランまで行われるなど、まさにWRCラリーは別格の扱いだった。

なかでも盛りあがったのが、常々豊田社長が語っていた「トヨタは負け嫌い」という言葉について。この言葉にはラトバラ選手も同意し、「私もI hate to lose(負け嫌い)なタイプです」と返した。

さらにラトバラ選手は、自身がラリーを競技として開始したとき、初めて乗ったマシンがトヨタのAE86(日本ではカローラ・レビン)であったこと、そして、WRCに初参戦したときは1999年型のカローラWRCであったことを明かして、今回のトヨタチームへの加入は「まるで故郷に戻ってきたかのような気持ちだ」とそのトヨタ愛を語っていた。

 

この“トヨタ愛”が嘘じゃないんだなと判明したのは、発表会や個別インタビューをすべて終えた夕方。

トヨタの車両などがたくさん展示されているメガウェブ内には、ヒストリーガレージと呼ばれる過去の名車などを展示するスペースがあり、ここの「モータースポーツヘリテージ」では現在、トヨタのラリー活動を支えたマシンを紹介しているのだが、ここに大いに反応したのがラトバラ選手だった。

当時のセリカGT‐FOURの車体下にまで潜り込んで写真を撮影するなど、当時自分が憧れていたトヨタのマシンを目の前にして、ひとりのラリーファンに戻っていたのだ。

そうして、トヨタのスタッフや豊田社長をはじめ、チームに加入してわずか1カ月半にして誰もがラトバラ選手に惚れこんでしまったのは、ラトバラ選手の性格がとても日本人と相性が良いからではないかと思えてきた。

というのも、ラトバラ選手はWRCドライバーとして現在16勝をあげているトップドライバーのひとりで、経験も豊富。ベテランの域に入ってきている。そんなトップドライバーでありながら、とても礼儀正しく、スタッフやメディアに対しても非常に対応が優しいのだ。

今回のインタビュー時、たまたまラリー・モンテカルロにも取材に行ったスタッフが再会の挨拶を交わし、テストの合間を縫って2泊3日で体制発表会に来た雑談をするなか、「どんな日本食を楽しんだか」と聞いたところ、ラトバラ選手は昨晩食べた日本食がとても美味しかったそうで、その料理と順番をひとつひとつ説明し始めた。

また、インタビュー後に記念撮影などを行うときも満面の笑顔。タイトなスケジュールで時差ぼけがあることも認めつつ、「これが仕事だからね」と笑顔で答えるあたり、その人となりが知られていくと、間違いなく日本でも大いにファンを掴みそうな人格者であった。

しかし、ただ人が良いだけでは世界最高峰のモータースポーツであるラリーで16勝もあげられるはずがない。そこはやはり、ラリーを語る際には、トップドライバーとしての強い意志向けられた。

トヨタはWRCと並び、WEC(世界耐久選手権)にも挑戦しているが、ここではマシン開発を主導するTMG(ドイツ)、レース運営をするオレカ(フランス)、パワーユニット開発する東富士研究所(日本)と3つの文化が一緒になってレースを戦っている。

しかし、目指すゴールは同じだが、そのルート選択で文化的な差や考え方の差があり、ドライバーの中嶋一貴や元ドライバーのアレキサンダー・ウルツによれば、本当に真のひとつのチームとなるには「3年ほど時間が必要だった」と語られていた。

そのことをラトバラ選手に伝え、マシン開発をするTMR(フィンランド)、エンジン開発をするTMG(ドイツ)、開発全般をサポートする東富士研究所(日本)という3つの異なる文化を持つ体制がひとつとなってチャンピオンを狙うにはどの程度時間が必要かを聞いたところ、

「ひとつのになるのに3年か…。僕はラリーにおいては、そこまで時間はかからないと思う。すでにそれは証明されていて、トヨタは18年振りのWRC参戦にも関わらず、マシンのポテンシャルは、長年ラリーを継続していた他メーカーと対等に争えるレベルで開幕戦を迎えることができた。これは、いかにチームがハードな仕事をこなし、すばらしい能力をもっているかの証拠だ。一定の速さがあることはとても大事なことだ。この先が楽しみだよ。でも、何事も一足飛びにはいかない。一歩一歩進めていくことが必要だ。次のラリー・スウェーデンでは5位以内を狙っていくよ」

と、トヨタに加入しての挑戦に、その目標は高いまま、冷静に先を見据えている姿勢が感じられた。

このラトバラ選手の姿勢をチームの進化につなげたいと、チーム代表のマキネン氏も期待する。

「ラトバラ選手は、VWというトップチームに在籍し、その前もフォードで活躍した。本当に経験豊富なトップドライバーだ。こうしたトップドライバーの経験はマシン開発においてとても重要なんだ。僕が彼に期待しているのは、ドライバーとして結果を残すことももちろんだけど、彼のフィードバックによってチーム全体が底上げされていくこと。そうした、チームを引っ張る力が彼にはあるんだ」

このように、ラトバラ選手を起用した理由を語った。

会社組織などでもそうだが、非常に高い目標を掲げつつも、夢物語で言うのではなく、具体的にその目標に向けたロードマップを語り周囲に伝えることができる人には、多くの人が集まりその活動を支持するもの。

マキネン代表やラトバラ選手はまさにそうした人物であり、トヨタのスタッフや豊田社長が惚れこんだ理由が理解できた気がする。

<文/田口浩次(モータージャーナリスト)>

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