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新人賞総なめ女優・藤野涼子!憧れの俳優が、暴力シーンも「全力で」と助言した理由

©テレビ朝日

2014年、現役中学生の14歳の時に映画『ソロモンの偽証』のオーディションに応募し、約1万人のなかから主役に抜擢(ばってき)され、主人公の名前を芸名にしてデビューした藤野涼子さん。

藤野さんは日本アカデミー賞新人俳優賞をはじめ、数々の映画賞を受賞し、圧倒的な存在感と表現力で一躍注目の的になるが、県立高校普通科に進学。学業を優先しながら芸能活動を続けていたが、今年3月、高校卒業を機に女優として本格始動。主演映画公開も控える藤野さんにインタビュー。

©テレビ朝日

◆マネジャーが「見つけてくれた」デビューのきっかけ

-「ソロモンの偽証」で運命が大きく変わりましたね-
「そうですね。本当に人生の転換期でした。『ソロモンの偽証』があったから、女優としての人生を歩もうという気持ちにもなりました」

-最初から女優志望というわけではなかったそうですね-

「そうです。女優をやりたいと最初から思っていたわけではなくて、最初は父が映画を見ることもテレビを見ることも好きだったので、よく一緒にテレビを見ていることが多くて、テレビっ子でした。

それで『テレビに出てみたいな』という気持ちになっていって、芸能事務所に所属して、養成所で演技やダンス、歌のレッスンをしていたなかで『自分と違う人になるお芝居って楽しいな』と思い始めました。でも、まだそれを自分の仕事にしようとは思っていませんでした」

※映画『ソロモンの偽証』前篇・事件/後篇・裁判
ある雪の日に起きた中学生の飛び降り事件。2年A組の藤野涼子が転落遺体を発見。当初警察は自殺と判断したが、他殺であると記された告発状が届いたことから、クラスメートの中学生たちによる前代未聞の「学校内裁判」が開廷されることに。

藤野さんはクラスメートの遺体の発見者で、死の真相を明らかにするための「学校内裁判」を提案し、検察官(検事)をつとめる主人公・藤野涼子役。

-『ソロモンの偽証』のオーディションに応募することになったのは?-

「事務所で『ソロモンのオーディションがあるから受けてみないか』って言われて。そのときにそれもまた運命だと思いますが、マネジャーが変わった時期で、私にとってそれが初めてのオーディションでした。

だから多分そのマネジャーがソロモンのオーディションを見つけてなかったらオーディションも受けられなかったし、そのあとの映画『クリーピー 偽りの隣人』も、『ひよっこ』(NHK連続テレビ小説)も出られなかったのではないかなぁと…。本当に機会を無駄にしたくないというか、運命って面白いなぁって思います」

原作の『ソロモンの偽証』は作家・宮部みゆきさんが構想15年、執筆に9年かけた集大成ともいえる長編ミステリー。その映画化ということで、日本アカデミー賞で10冠に輝いた『八日目の蝉』(11年)の成島出監督をはじめ、同スタッフが再結集。

中学生キャスト33人は、異例ともいえる半年もの期間をかけて、1万人を超える応募者の中から書類選考、面接、ワークショップまで開催して選抜された。成島監督の演技レッスンは厳しいことで知られているが、あまりの厳しさに藤野さんも泣いた日もあったという。

-集められてワークショップに参加したときには、まだ藤野さんも主人公に決まっていなかったわけですか-

「そうです。3、4回オーディションが行われて、それぞれのオーディションの間にワークショップが必ずありました。ほんとに学校みたいな感じでした。私はほとんど演技の経験がなくて、エキストラしかやったことがありませんでした。しかし、私以外は演技経験のある子ばかりで、落ちてしまうことばかり考えて毎日怖かったです」

-オーディションのたびにふるいにかけられていくわけですか-

「そうです。誰もが役をもらいたいと思っているライバルですけど、半年近く一緒にやってきているので、連帯感も生まれていました。いつ自分が落とされるかわからないという恐怖感はずっとありましたが、自分が落ちたらほかの子たちに頑張って欲しいという応援する気持ちも持っていましたね。

オーディションなので、残念ながら役が取れなかった子もいましたが、今も連絡を取り合っていますし、ソロモンで出会った人たちには特別な思いがあります。やっぱり青春の友達だし、今後様々な道があって、みんなそれぞれ違うことをしていくと思います。それでも1年に1回ぐらいは集まって、大人になったらお酒でも飲めたらいいなあ、そして色々なお話ができたらいいなって今から思っています」

-主役に決まったと知らされたときはどうでした?-

「喜びよりも緊張に見舞われました。演技の経験のない自分にこんな大役が務まるのか不安でしたし、パニックでした」

-撮影はどうでした?-

「監督の思い描く藤野涼子が表現できなくて、怒られて泣きたいときもありましたけど、振り返ると全部楽しかったです。今もあの頃に戻ってまたやりたいと思っています。また成島監督に怒られたいです(笑)」

-具体的にはどんな感じだったんですか-

「監督に『お前は藤野涼子を演じることはできない』と言われたので、とにかく藤野涼子をその場で生きることだけを考えてカメラの前に立っていました。でも、私は本当に藤野涼子を生きているのか、これでいいのか、すごく不安でした」

-成島監督とはかなり話し合ったんでしょうね-

「そうですね。ワークショップで『お前はまだ殻を破ってない』と言われたのが悔しくて、『やってやろうじゃないか』という気持ちでやっていました。そうしているうちに演技をすることの楽しさを改めて感じました。

そして、それと同時に難しさも痛感しました。監督にはイメージがしっかり出来上がっているので、それにどれだけ近づけるのかが問題で…。頭のなかではわかっているけど、なかなかそれを表現することができなくて…。そんな自分がもどかしくて悔しくて泣いてしまったこともありました」

-一緒に苦労した共演者の皆さんもいろいろと活躍されていますね-

「そうですね。石井杏奈(E-girls)ちゃん、板垣瑞生君、清水尋也君、前田航基(まえだまえだ)君とか、ソロモンのときに共演していた人がどんどんどんどん活躍し始めていて、基本的には負けず嫌いなので、『悔しいなぁ』とか、『もっともっと頑張らなきゃ』という気にもなるけど、頑張っている姿を見ると、ただ負けたくないという気持ちより、お互いに切磋琢磨(せっさたくま)して、また共演したときに『成長したね』って言い合うことができたらいいなと思っています」

※藤野涼子プロフィル
2000年2月2日生まれ。神奈川県出身。2014年、映画『ソロモンの偽証』で主演デビュー。日本アカデミー賞新人俳優賞など数多くの賞を受賞。NHK連続テレビ小説『ひよっこ』(2017年)、映画『クリーピー 偽りの隣人』(16年)に出演。12月15日(土)には主演映画『輪違屋糸里 京女たちの幕末』の公開が控え、正月時代劇『家康、江戸を建てる-水を制す-』(NHK)にも出演。

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◆映画新人賞を総ナメするも学業を優先

『ソロモンの偽証 前篇・事件/後篇・裁判』に出演後、県立高校の普通科に進学し、しばらくは学業優先の生活を送ることにした藤野さん。芸能学校に行くという選択肢もあったが、あえて普通の高校で普通のクラブに入ることを選んだという。

-映画が公開されたあとですし、周囲の皆さんの反応はいかがでした?-

「最初に入学したときには驚かれたりもしましたけど、2年生3年生になったら、もうみんな普通に接してくれていました。

それで『ひよっこ』とか『クリーピー 偽りの隣人』のときには、『見たよ』って言ってくれて…。すごく軽く言ってくれる関係が保てていたので、両立するのは大変でしたが、私生活も学生生活も楽しめて良い思い出になりました」

-学生時代にしか経験できないことや得られない経験もありますしね-

「高校に行って仲の良い女の子のグループができました。友達とカラオケに行ったり、帰り道に遊んだり、そういう学生ならではということがすごく楽しかったです」

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◆憧れの西島秀俊さん、香川照之さんと

高校在学中には黒沢清監督の映画『クリーピー 偽りの隣人』に出演。
※映画『クリーピー 偽りの隣人』
ある夫婦(西島秀俊・竹内結子)が引っ越した新居の隣人はどこか奇妙な家族だった。主の西野(香川照之)も中学生の娘・澪(藤野涼子)の様子も謎めいている。そして次々と不可思議な出来事が…。猟奇殺人事件の真相に迫る衝撃のサスペンス・スリラー。

「『ソロモンの偽証』ではセリフも多く、たくさん発言する優等生の役を演じたのですが、澪はセリフが少なくてそれ以外での心情表現をしなければいけませんでした。何を考えているのか、どういう存在なのか、謎めいた部分も多かったですし、サスペンス・スリラーだから結果(オチ)がわかってはいけない。それを出さないようにする工夫も必要で色々考えさせられました」

-以前から好きな俳優だとおっしゃっていた西島秀俊さん、香川照之さんとの共演でしたが-

「おふたりの作品をよく見ていて大好きな俳優さんだったので、共演させていただくことが決まったときはすごくうれしかったです。それで、実際に演技を見させていただいて、やっぱりストイックにやる方ってすごいなって思いました。

自分の芝居のためにすべての時間を費やしている、そのストイックな姿を実際に見ることができて、自分も演技者としても人間としてもそうありたいと強く思いました」

-香川さんとはかなりシリアスなシーンもありましたね-

「色々とアドバイスもしていただきました。『手加減することで演技の質が落ちてしまったらいけないから、暴力シーンで手加減はしない。相手と自分の間に起こる衝撃が弱まってしまったら、お客さんの楽しみが減ってしまう。だからリハーサルでも本番でも全力でやりなさい』と言っていただいて、本当にその通りだなあと思いました」

『ソロモンの偽証』、『クリーピー 偽りの隣人』を通して演じることの難しさ、大変さを痛感した上で、改めて女優としてやっていく決意を固めたという。成島監督に『彼女のなかに見たのは限りない可能性。そして彼女は“映画女優”の顔をしていた』と言わしめた藤野さん。

次回後編では高校卒業を機に挑戦した海外での生活、花魁(おいらん)姿も披露している主演映画『輪違屋糸里 京女たちの幕末』の撮影裏話も紹介。(津島令子)