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「めちゃくちゃ強い」氷上の哲学者・町田樹が驚いた“日本女子の新星”「この子強くなる」と松岡修造も衝撃<GPファイナル展望>

名古屋で開催されているフィギュアスケートの世界一決定戦『グランプリファイナル』。本日12月5日(金)からはじまる女子シングルには、坂本花織、千葉百音、中井亜美、渡辺倫果の4人の日本選手が出場する。

今大会は「五輪日本代表選考対象大会」でもあり、男女シングルで上位2位以内に入れば、来年2月のミラノ・コルティナ五輪の代表入りに大きく前進する。五輪代表争いを占ううえで重要な一戦だ。

大会を放送するテレビ朝日では、解説者・町田樹とキャスター・松岡修造のスペシャル対談映像を配信中。大会の見どころについて語っている。

◆トリプルアクセルを持つ者、持たない者

松岡:「女子シングルは坂本選手をはじめとした4人の日本勢に加え、アリサ・リウ選手とアンバー・グレン選手が出場を決めました。五輪代表争いは大変なことになっています」

町田:「激戦ですね。日本にはもう5枠ぐらいほしいですよね」

松岡:「選手としてはどんな気持ちなんですか?」

町田:「私も6強時代と言われ、6人でオリンピックの3枠を競った世代でしたから、選手としては絶対に行きたい。自分と拮抗している選手がたくさんいて、当然ミスは許されないですし、プレッシャーもすごい。心身ともに満身創痍という感じでやっていました」

松岡:「今回、出場する6人の選手は、トリプルアクセルを持っている選手と、持っていないけれど完成度で勝負する選手の2つのタイプに分けられると考えています。坂本選手やリウ選手、千葉選手はトリプルアクセルこそ飛びませんが、演技構成点含めしっかり高い点数を出します。

一方で、中井選手や渡辺選手はトリプルアクセルを武器に今シーズン大きく飛躍しました。グレン選手にいたっては、僕は“ハンドレットパーセント トリプルアクセラー”と呼ばせてもらっているくらい成功率が高い」

◆中井・渡辺が持つ「トリプルアクセルの覚悟」

松岡:「そのなかで衝撃的だったのは最初のフランス大会ですよ。シニアのグランプリシリーズ初参戦の中井選手がトリプルアクセルを跳んで、今季世界最高得点(当時)を出しました」

町田:「爽快でしたよね。スコーンって入りました。あれはインパクト大でした。ほかのジャンプもクオリティが高く、音とスケートがピタリと合っていたので、トータルバランスも良かったです」

写真:スポニチ/アフロ

松岡:「中井選手に話を聞いて『この子強くなるぞ』と思ったのは、『トリプルアクセルで失敗しても、ほかのジャンプは完璧にこなせると思っているから、必ずいい演技ができると思えていた』と言っていたんです。以前はトリプルアクセルを『跳ばなきゃ』と思いすぎて追い詰められていたけれど、トリプルアクセルの後のジャンプをすべて完璧にしようと思ったことで、トリプルアクセルがすごく楽に捉えられるようになったって」

町田:「中井選手、めちゃくちゃ強いですね。トリプルアクセルがどうなったとしても、その後をちゃんとまとめられる自信があるのはすごく大きい。逆に言えば、それくらいの自信がないとトリプルアクセルに挑戦しちゃ駄目だと思います。グレン選手も渡辺選手も中井選手も、全員それくらい自信を持っているんですよ。トリプルアクセルがあろうがなかろうが、たぶんこの3人はファイナリストになれたでしょうね」

松岡:「一方で渡辺選手は、インタビューしていてとにかく意志の強い人だと感じます。『なんでトリプルアクセル跳ぶんですか?』と聞いたら、一言『プライドだ』って言うんですよ。『スケート人生でもしトリプルアクセルを跳ばなかったら、私は後悔する』と。『何回ですか?』と聞いたら、被せ気味で『3回です』って。絶対逃げない。100%、3回。これは気持ちが良かったです」

写真:日刊スポーツ/アフロ

町田:「素晴らしい。女子選手にとってのトリプルアクセルは大技ですよ。失敗したらアドバンテージが逆にネガティブに作用してしまうので、ミスなく決めないと勝ち残れない。とりわけ日本選手は五輪代表枠もかかっているから、ミスしたら選考レースから脱落するわけです。そういうギリギリの状況でも攻められるのは、やっぱりそれだけの覚悟がないと。なぜトリプルアクセルをやるのか、その大義名分を強く持っていないと、チャレンジできない」

松岡:「渡辺選手は一言で言うとかっこいい。シーズン最初のほうは体調が悪かったりして、『私はオリンピックなんて』と言っていたんですよ。でも今回聞いたら完全に覚悟を決めて『行くぞ』って。シリーズを通して大きく変わった1人だなと僕は捉えました」

◆世界女王がトリプルアクセルなしで勝つ哲学

松岡:「つづいては、トリプルアクセルは跳ばないけれど完成度で勝負する選手たち。まずはリウ選手です。彼女はもう不思議でしょうがない選手ですね。昨シーズン復帰し、勝ちを狙わないという新鮮さがありました」

町田:「シリーズ6戦見ていると、全体的に回転不足を取られる選手が多いんです。回転不足がついた時点で出来栄え点(GOE)は絶望的に望めませんし、かなり出遅れてしまいます。でも千葉選手とリウ選手、坂本選手にはそういったことがほとんどない。リウ選手は特にないです。高く跳んで綺麗に回りきって降りてくるジャンプも癖がなく、ルッツやフリップのエッジの使い分けもしっかりできている。癖がない端正なジャンプを跳ぶ選手というイメージがあります」

写真:Imagn/ロイター/アフロ

松岡:「昨シーズン、彼女の武器はフレッシュさでした。フィギュアを楽しむという感情が全員に伝わりました。今シーズンはどう捉えますか?」

町田:「昨シーズンは6分間練習でもお客さんに手を振っていましたからね。マジかと僕も思いながら見ていました(笑)。でも、そういう気の持ち方がリウ選手らしいし、去年のノリでいくことが一番重要なんじゃないかな。彼女は金メダルがどうのというよりも、プログラムに没入してスケートを楽しんだり、お客さんとのインタラクティブなやり取りを楽しんだり、成績とは別のところにフォーカスを当てたほうが伸び伸びできる気がします」

◆千葉百音の覚悟「自分は人間をやめる」

松岡:「そんなリウ選手とは正反対の選手が千葉選手です」

町田:「ストイックですよね」

松岡:「この前フィンランド大会で、千葉選手に言いました。『試合前怖いですよね』って。それぐらいすべてを懸けている。彼女が言ったのは『もう自分は人間をやめる覚悟でいる』と。そういう捉え方をしているんです。それぐらいの覚悟で準備から臨んでいるから、最後演技が終わったとき、初めて(感情が)出てくる。このギャップがすごいんですよ」

写真:松尾/アフロスポーツ

町田:「そういう意味では千葉選手にちょっとシンパシーを感じます。僕も全部緻密にやりたいタイプだから、気持ちわからなくもないです」

松岡:「僕が千葉選手から学びたいなと思ったところは、対相手じゃない。完全対自分。僕から見るとノーミスでも彼女は違うんです。完璧を目指しているから、成功の中にも伸びしろある。町田さんと同じで、自分を研究するのが大好きなんですよ。その伸びしろを一つひとつクリアして、自分と戦うことに、このスポーツの魅力を感じている選手なんです」

◆坂本花織が経験した「価値ある負け」

松岡:「そして、僕が一番思い入れを持ってしまうのは、最後のシーズンを戦っている坂本選手です」

町田:「フランス大会では惜しくも中井選手に敗れましたが、坂本選手も非常に良い演技でほとんどミスがありませんでした。これからどう上がっていくか楽しみですね」

松岡:「パンっと意識を変えてくれた人が中井選手だったんです。いきなりあの若さでトリプルアクセルを目の前でやられて、抜かれたわけですから。でも彼女は『2位には必ず意味がある』と言うんですよ。ものすごくポジティブに捉えている。大きなパワーをもらったような気がします」

写真:アフロスポーツ

町田:「坂本選手は、ここ数年絶対女王として常にトップに君臨していましたから、いわばフランス杯で平手打ちされたわけですよね。でも坂本選手がそう思っているのであれば、価値ある負けだったんでしょう。

彼女はもともとロシア勢に勝てない中で苦悩してきた選手。振付師のブノワ・リショーさんと出会い、『あなたの強みは、4回転やトリプルアクセルではなく、持っているジャンプを音楽にバチンと当てはめてクオリティ高く仕上げることだ』と言われたことで、今のスタイルが花開きました。失敗や敗北から、自分の真の強みは何なのかを反省し、次に活かす経験は、彼女にとって非常に有意義な時間なんでしょうね」

松岡:「彼女自身も『チャレンジャーでいたほうが自分らしくできる』と語っています。そして、最後のシーズンで何を残したいかと聞いたら、『トリプルアクセルや4回転を跳べなくても女王になれる。こういうスケーターもいるんだぞということを残したい』と」

町田:「今シーズンの坂本選手のフリーはエディット・ピアフメドレーで非常に格式の高いプログラムを本当に素晴らしく演じています。エディット・ピアフという人は、フランスの国民的歌手でスターだったわけですけれど、彼女にも氷上の舞台に立つ主役としての強いオーラみたいなものが表出していて、NHK杯は鳥肌が立ちました。

大技はないと言いますけれど、NHK杯であの出来栄え点。フリーだけだったら積算して14点くらい獲得しているんですよ。14点って4回転アクセルよりも高い点数なんです。出来栄え点だけでそれだけ価値のあるポイントを得られるのは大きな武器ですよ」

松岡:「ファイナルへ向けて女子の見どころはたくさんありますね。最後に、この中で勝つためには、何が一番大きなポイントになりそうですか?」

町田:「自分の強み、良さみたいなものをしっかりと認識して、それを出し切ろうとする選手は強いですよね。どうしてもライバルに囲まれると、『勝ちたい』『失敗したら負ける』とか、いろいろな計算が入ってきかねない。そういう中でも『自分の強みはこれだから、これはしっかりと出し切る』と、自分に集中できた選手は強いでしょう」

松岡:「このファイナルに関しては、対自分。自分とのサバイバルにどう勝っていくか、それができた人が優勝するんだということがよくわかりました」

※番組情報:『グランプリファイナル
◆テレビ朝日系列地上波
12月5日(金)よる11:15~ 女子ショート・ペアフリー
12月6日(土)よる8:00~ 男女フリー
12月7日(日)よる11:15~ エキシビション

◆BS朝日
12月5日(金)午後4:25~ ジュニア男女フリー・ペアフリー・女子ショート
12月6日(土)午後5:30~ アイスダンスフリー

◆テレ朝動画
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