ドラマ『ヒモメン』、すべてのダメ男好きに贈られた佐藤仁美の“魂の叫び”
7月にスタートし、8月25日(土)までに第1~5話が放送された土曜ナイトドラマ『ヒモメン』(テレビ朝日系、毎週土曜日23時15分~)。
主人公“翔ちゃん”こと碑文谷翔が厳しい労働に勤しむことになった第5話について、小劇場特化型メディア「ゲキオシ!」編集長で、ブログでの独自のドラマレビューも人気を集めるライター・横川良明さんに寄稿してもらいました。
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いやあ、労働っていいよね。流れる汗。膨らむ筋肉。浮き出る血管。細いけど引き締まった翔ちゃん(窪田正孝)の腕がいつも以上に艶っぽく輝いていて、しょっぱなから「ごっつぁんです!」って感じだ。肉体労働バンザイ。
そんなこんなで第5話。
今回は、1000万円の借金を背負った恋人・ゆり子(川口春奈)に代わり、翔ちゃんがついに働きはじめた。しかし、これにはウラがあって、1000万円の借金もすべて嘘。何とか翔ちゃんを更正させたいゆり子が、先輩看護師の聡子(佐藤仁美)から紹介してもらった“ヒモ更生プログラム”の一環らしい。
この“ヒモ更生プログラム”を実施しているのが、聡子の恋人で脱ヒモのプロ・稔(音尾琢真)。
一見立派な実業家だが、実は彼もまたかつては正真正銘のヒモだったのだ。聡子への愛から立派な真人間に更正した稔。ふたりの愛の力に感動したゆり子は、翔ちゃんにも愛の奇跡が起きることを願うが……というのが今回のストーリー。
◆ヒモ更正なるか? ヒモキングVS脱ヒモのプロ!
まずは物語冒頭、借金のカタにゆり子をさらおうとする一味を、翔ちゃんが勇ましい声で制止する。
「彼女を連れて行かれたら僕は困るんです」(金銭的に)
「彼女なしでは僕は生きていけない!」(経済的に)
文字だけならカッコいいように見える決め台詞も、翔ちゃんが口にすると、ついそんな注釈を入れたくなる。テレビの前で全員がキートン山田(※本作ナレーション担当)状態である。
そのあとのお会計シーンでも、「もう少々」ってつぶやくウエイターに「僕、翔ちゃん」って返すとか、可愛いすぎるだろ窪田正孝。
何気に窪田正孝、細かいところでいろいろやっている。ゆり子が姉・桜子(片瀬那奈)に電話しているバックで、猫のぽんたとイチャコラしてたり、ちょっと目を離した隙に可愛いを放出する貪欲さ(いいぞもっとやれ)。
妄想の中でゆり子にほっぺにチュウされて片目だけ瞑るところとか、ループ再生するしかない。
◆窪田正孝も川口春奈も、渾身の顔芸連発!
今回はレストランのシーンが多く、いろんなファッションの翔ちゃんが楽しめるのもポイント。
冒頭のレストランデートではビシッとスーツスタイルだけど、足元はスニーカー&九分丈でくるぶしが覗いているところとか、抜け感があって翔ちゃんらしい。袖に入ったラインもスポーティブな印象で、このカッコした窪田正孝と渋谷のハチ公前で待ち合わせしたい。どれだけ人が多くても秒で見つけます。
桜子の昇進お祝いランチでは、紺のサマージャケットに白シャツで清潔感の権化。どれだけクズを演じても、ひそかににじみ出る品とマイナスイオン。ゲーム機も食洗機もいらないから、窪田正孝が当たるくじ引き大会はどこの商店街でやっていますか。
でも何だかんだいちばんしっくり来るのが、デカデカと「常識人」とプリントされたTシャツ姿というあたり、僕の感覚は相当狂わされているのかもしれない。
誰だよ、あのTシャツ着せたの。今いちばん「常識人」からかけ離れたポジションにいる人間じゃないか。衣装スタッフの遊び心に「ツッコんだら負け」と思いつつツッコまずにはいられない。
車の窓ガラスに顔をくっつけてパチンコ屋をガン見したり、稔に「労災ちょうだい♪」と甘えた声でおねだりしながら最後に豚っ鼻鳴らしたり。回を重ねるごとに窪田正孝の演技もノリにノッてきて、もうこの人、自分の顔の美しさを忘れてるな。
川口春奈も、翔ちゃんが残した書き置きに舌打ち1発、目をひんむいて怒りに震える姿が、金剛力士像と完全一致。と思ったら、セミナーで並み居るヒモたちを相手に「彼女のことを愛していないのか!」と吠える翔ちゃんに感動の涙を流していてピュアすぎるだろ。その透明さ、大和川に分けてほしい。
池目先生(勝地涼)に至っては、もはや顔芸だけでは飽き足らず、「乗ってく?」も「バレちゃい」もどっから出してんだっていう声。出てくるだけで何をしてくれるのか楽しみになってきた。
どこからどう見てもゲスなのに、翔ちゃんを通勤先まで送ったり、スピードクジ大会のチラシをあげたり、相変わらず表面上はただの親切キャラに見えるところがいとおしすぎる。
今回から婦長の尾島和子(YOU)も池目先生に絡み出して、このゲスキャラ2トップがどんなコンビネーションを見せるのか、最終章に向けての見どころも増えた。
◆最強ダメ男好き女優? 佐藤仁美の魂の叫びを聞け!
が、何と言っても、今回最も強烈だったのは、聡子だろう。
今、「ヒモが大好きなのーーー!!!」と叫ばせて日本一説得力がある女優は、佐藤仁美を置いて他にいない(断言)。
それでいて、その後の「もう自分自身を誤魔化すのはたくさん」から続く本音は、笑えながらもちょっとグッと来るものがあって、女優としての底力を見せつけた。
このドラマが最終的に伝えたいのは、ヒモがどうこうということではなく、世間体を気にして自分を装うのではなく、素直に、自分の好きなように生きていけばいい、という自然体なメッセージなんじゃないだろうか。そう感じさせてくれる、清々しい演技だった。
「人を見下すあなたより、見下されてるあなたの方が好き」
聡子が稔に向けた一言は、なかなかのパワーワードだけど、つい気持ちがささくれ立って、他人に優劣をつけたり攻撃したりしたくなる現代人にとって、目からウロコな一言かもしれない。
ということで、完全にヒモ更正という本来の方向性が覆され、ヒモはヒモでいいじゃんという肯定がなされた(?)今回。
これからクライマックスに向けてどう話を展開させるのかと危ぶんだら、次回予告を見ると、ゆり子以上に経済力を持ったライバル(高岡早紀)が登場するようで、なるほどと膝を打った。
より自分を甘やかして贅沢させてくれる女性が登場したとき、ヒモはどちらを選ぶのか。た……頼むぞ翔ちゃん!<文/横川良明>
※番組情報:『ヒモメン』第6話
2018年9月1日(土)午後11:15~深夜0:05、テレビ朝日系24局