佐々木麟太郎、屈指の名門スタンフォード大で過ごした特別な1年。米国にはすでに多くのファン「彼は日本のベーブ・ルース」
今年も大きな盛り上がりを見せた夏の高校野球。その歴史の中で、高校通算140本という最多本塁打を記録したのが、佐々木麟太郎だ。
卒業後はアメリカの名門・スタンフォード大学に入学し、チーム初の日本人選手として奮闘している。
テレビ朝日のスポーツ番組『GET SPORTS』では、高校時代から取材を続ける長島三奈が、佐々木の成長と苦悩の1年に迫った。その内容を前後編で紹介する(※本記事は前編)
◆花巻東からアメリカへ 選んだ新たな主戦場
5月上旬。長島はアメリカ・スタンフォード大学に通う佐々木を訪ねた。アメリカでは多くの大学が9月に新学期を迎えるため、この時期はちょうど1年生の終わり頃だった。
長島:「私、スタンフォード大学を今初めて歩いてるんですけど…ここ街じゃないんですか? 本当に大学ですか?」
佐々木:「街じゃないです(笑)。大学ですね」
長島:「すごく素敵な建物が並んでますね」
佐々木:「あれは“フーバータワー”って言って、うちの大学のシンボルみたいなタワーです。このあたりを見ると、私もスタンフォードにいるんだなってすごく感じますね」
佐々木が高校時代の3年間を過ごしたのは、岩手の強豪・花巻東高校。
先輩には、エンゼルス・菊池雄星、ドジャース・大谷翔平という偉大なメジャーリーガーがいる。2人はともに高校卒業後、日本のプロ野球を経てアメリカへと渡った。
佐々木も2年前、ドラフト1位候補として大きな注目を浴びていたが、アメリカの大学からメジャーリーグを目指すという、異例の決断で周囲を驚かせた。
そして選んだのが、世界屈指の名門・スタンフォード大学。
創部130年以上の歴史をもつ野球部は、過去2度の全米チャンピオンにも輝いた名門チームだ。現在ドジャースで活躍するトミー・エドマンなど、これまで100人以上のメジャーリーガーを輩出してきた。
佐々木:「ここが野球場、ベースボールフィールドです。試合も練習も全部ここでやっています」
グラウンドには、360度を網羅する多数のカメラが設置され、フォームをチェックするための動作解析や、リアルタイムでさまざまなデータを収集できる計測器など、成長を後押しする設備が完備されている。
ここが、佐々木が選んだ新たな主戦場だ。
◆「すでに多くのファンがついています」
レギュラーシーズンが幕を開けたのは、今年2月。毎週、金・土・日の3連戦を基本に、51試合を戦う。
その開幕戦。佐々木は1年生ながら3番ファーストでスタメンの座をつかみ、3月には待望の初ホームランを放った。しかも、1試合で2本という強烈なインパクトで実力を示す。
現地の解説者たちは、佐々木について次のように話している。
「日本から来てこのリーグで活躍するというのは、ほとんど誰も歩んだことのない道。まさに先駆的な状況です」(テレビ中継解説者トロイ・クラーディ氏)
「彼にはとてつもない能力があるだけでなく、すでに多くのファンがついています」(ラジオ解説者カーソン・トレイル氏)
試合後、現地の子どもたちが真っ先に駆け寄るのが佐々木だという。
地元のファンからはこんな声も聞かれた。
「彼がホームランを打った試合はほとんど見ています。とてもエキサイティングな選手です」
「私たちは彼を“日本のベーブ・ルース”と呼んでいます。大柄で打つのが大好きだからね」
「彼のことが好き。だって彼はホームランバッターだから」
◆「笑顔で人を惹きつけ、謙虚にグループに溶け込もうとする」
実は佐々木、アメリカへの進学を検討するなかで、30近い大学からオファーをもらっていたという。
長島:「スタンフォード大学に決めた、いちばんの理由は何でしょうか?」
佐々木:「自分としては野球と学業の両方ができる環境を考えていたなかで、スタンフォード大学から素晴らしいオファーをいただきました。自分の可能性がいちばん広がる環境だと思ったのが決め手でした」
佐々木は、学費や生活費などすべてを大学が負担する奨学金「フルスカラシップ」で入学。すべての学生の中でもほんの一握りだけが手にできる特別な制度だ。
そこまで惹きつける彼の魅力とは、何だったのだろうか。野球部のデイビッド・エスカー監督はこう語る。
「パワーです。彼の力強い打撃能力が最初に目につきました。そして彼の第一印象は、カリスマ性があることです。笑顔で人を惹きつけ、謙虚にグループに溶け込もうとする姿勢。違う国から私たちの文化の中心に飛び込む勇気は本当に素晴らしいです」
学業でも世界トップクラスのスタンフォード。常に一定の成績を収めなければ、練習に参加することすら許されない。究極の文武両道だ。
佐々木はこの日も、朝からウエイトトレーニングで1時間汗を流すと、すぐさま授業へ向かった。授業が終わるとグラウンドで試合の準備へ。ナイトゲームの日は、試合を終え寮に着くのが23時を過ぎるという。
試合がない平日は、朝からみっちり授業が続き、練習を終えてからも夜遅くまで課題と向き合う。そんな多忙な日々を送っている。
◆「ここに来ていちばん良かったと思うのは…」
そして、気になるのは英語でのコミュニケーション。チームメイトとのランチや練習の合間、地元のインタビューにも、佐々木は流ちょうな英語で話していた。
長島:「どうやって英語を上達していったんですか?」
佐々木:「分かる限りでとにかくどんどん喋るようにしました。チームメイトも聞こうとしてくれますし、喋る時もすごく助けてくれます。そういう仲間がいてくれたおかげで、怖がらずに積極的に喋れたというのが、本当に大きかったと思います」
チームの中心である4年生のチャーリー・サウムに、佐々木と出会った当時を聞いてみた。
「彼はまだ英語を勉強中だったので、僕たちはGoogle翻訳を使い、スマホを渡し合って会話していました。あれは本当に楽しかったし、時間をかけて少しずつ英語を学んだんだ」
今ではいちばんの仲良しという2年生のルーク・ラヴィンは…。
「2週間に1回くらい焼肉の食べ放題へ一緒に行って、3時間かけてどれだけ食べられるか挑戦するんだ。(初めは)明らかにまだ慣れていないように見えた。故郷から離れて何もかも新しく、言葉も通じない状態だったからね。僕がここで経験したものを彼にも体験してほしかったんだ」
支えてくれるチームメイトたちの存在が、英語を習得できた大きな要因だった。
佐々木:「ここに来ていちばん良かったと思うのは、本当に人に恵まれたということ。最初何もできない状態の時に、チームメイトも含めて野球部のコーチ陣やスタッフとか、みんながすごく助けてくれたんです。それが自分にとっていちばんの財産。人の繋がりの世界なので、それがいちばん嬉しいことですね」
スタンフォード大学野球部の長い歴史の中で初めての日本人選手である佐々木を、家族のように受け入れ、支えてくれたチームメイトたち。
彼らと笑顔で過ごす佐々木の姿は、異国の地で確かな絆を築きながら成長していることを物語っていた。
後篇の記事では、そんな佐々木にさらなる成長のきっかけを与えた、ドジャース・ロバーツ監督の金言を紹介する。
※番組情報:『GET SPORTS』
毎週日曜 深夜1:55より放送中、テレビ朝日系(※一部地域を除く)