『しあわせな結婚』クライマックスに向け残される“6つの可能性”。「見猿、言わ猿、聞か猿」は暗喩なのか?
<ドラマ『しあわせな結婚』第7話レビュー 文:木俣冬>
【映像】真相に迫る“優しくも残酷な言葉”。度肝ぬかれるラスト139秒
幸太郎(阿部サダヲ)の誕生日にはハンバーグを作ると言っていた考(岡部たかし)だったが、それは実現することはないのだろうか。
15年前の布勢(玉置玲央)を殺したのは自分だと考が自首した。
あの日、クロワッサンを差し入れにアトリエを訪れると、布勢が倒れたネルラ(松たか子)にまたがって首を絞めようとしていたので、思わず燭台で彼の頭を背後から殴ったというのだ。
考は、鈴木家の皆に宛てた手紙を残しており、ネルラたちも当時の考の心境を知ることとなる。
ネルラを殺そうとしていた布勢を殴ったという正当な理由もありながら、ネルラのせいで殺人が行われたとか、犯人が親代わりの考であると知ったら幼いレオ(板垣李光人)のショックはいかばかりかと心配して、事故で済まそうとした。
15年、たったひとりで秘密を抱えてきた考に、想いをいたすネルラたち。彼が独身を貫いたことにも合点がいく。
考の逮捕によって鈴木家の状況はがらりと変わる。身内に殺人事件の容疑者がいるということで、幸太郎もネルラも仕事がなくなった。
容疑者の家族であると情報番組の公平さを守れなくなると、しばらく休んでほしいと幸太郎に要請する編成局長・毛利(新納慎也)に、倉澤プロデューサー(堀内敬子)が毅然と幸太郎をかばう場面にはじんっとなった。倉澤かっこいい(その後の豹変ぶりも含め)。
ヒマになってしまった幸太郎とネルラは新婚旅行に行くことにする。
行先はネルラが行きたかった日光。ネルラは東照宮の「三猿」を見たかった。しかもそれが、第6話で不動産屋・南雲(山内圭哉)が「見猿、言わ猿、聞か猿(見ざる、言わざる、聞かざる)」が不動産屋の鉄則と言ったことが引き金になっていた。
まさか、あの無駄に(失礼)長い尺をとっていた新居探しのエピソードが第7話に影響を及ぼしていたとは。南雲は、回想で出てきたうえに、今度はレオが家を出ようと考えたとき、幸太郎が紹介すると言う(レオは断るが)。1回きりではなく、このドラマの世界に定着してしまった。さすが名優・山内圭哉。
第7話は、ネルラの学校の先生に小手伸也、『ニュースホープ』の幸太郎の代わりのコメンテーターに片桐仁、テレビ局編成局長に新納慎也、国選弁護人に駒木根隆介、画商に森本のぶとキャラの濃い俳優がずらりと出演している。
黒川(杉野遥亮)の上司で刑事部長・笹尾を演じている亀田佳明は、文学座に所属し外部作品に引っ張りだこの実力派。その上司と出世争いをしているらしい警備部長・佐久間を演じる野間口徹は言わずもがなの名バイプレーヤーだ。
ちょっとしか出てこない俳優たちが存分に怪しさを振りまくが、直接事件には関係ない。この豪華・怪優たちの競演はまるで、視聴者が事件の真実に気づかないための目眩ましのようである。
話を戻そう。遅い新婚旅行@日光。
華厳の滝で写真を撮ったり、リッツ・カールトン日光の湖の見える部屋で豪華な朝食をいただいたり(食べたい)、お土産に三猿人形焼買ったり(食べたい)、旅を満喫。これまでに出てきた舞鶴の旅や高級マンション内見などもそうで、あたかもドラマに情報バラエティー番組がプラスされたような構成である。
サスペンスドラマなのにこういうほっこりサービス場面があるのが嬉しい。よくよく考えてみたら、2時間サスペンスなどは旅情が必須であった。どんなに禍々しくても、ドラマにはすてきな風景やおいしそうな食が必要なのだ。
考が不在になった途端、鈴木家の食事はすっかり簡素になってしまった。富裕層だから豪華な食事が当然ではなく、考がいたからこそ可能だったのだ。大切な家族がひとりでも欠けると、家はこんなにも寄る辺ないものになってしまう。
一方、黒川は粛々と捜査を進めている。彼の集中力、生真面目さが功を奏し、布勢の遺作の絵から、ある発見をする。
生前、この絵が完成したらネルラにプロポーズして、しあわせな家庭を築くと前向きに語っていた絵に書かれたアイテムは、アトリエに実際に置かれたものだった。布勢、意外とリアリズム重視。絵に描かれたアイテムをひとつずつチェックしていくと、燭台が現存しない。
考は燭台を凶器にして、川に捨てたと証言していた。黒川が考に燭台の絵を書かせると、布勢の描いたもののと形状が違っていた。考は嘘を言っている?
ここはまだ、ひと捻り、ふた捻りありそうだ。
1:例えば、やっぱりネルラが犯人で、考がかばっているパターン
2:あとひとり残ったレオが犯人というパターン
3:まったく関係ない別の人の犯行パターン
4:とある有名推理小説のように複数の者の犯行パターン
5:単なる事故だったパターン
6:その他
さて、どれだ?
2の根拠は、考が幸太郎の弁護を拒絶し、国選弁護人を立てていることと、レオがやけにセンシティブに見えること。
4は、三猿。「見猿、言わ猿、聞か猿」で寛(段田安則)と考とレオ、あるいは寛と考とネルラが知らないふりをしているという暗喩ではないか。
1の根拠は、ネルラの態度である。彼女は常にどこか地に足がついてないような雰囲気をしている。
序盤の、所在なさや不安そうな瞳は、15年もの間、殺人事件の秘密を抱えていたからともいえるが、晴れて無罪がわかってからも、例えば、新居探しのときの明るさは、なんだか空元気のようにも見える。あからさまにうなだれたり、芝居がかっていて、不自然ではないか。
演じている松たか子は、これまでコミカルな部分もあるが、たいてい凛として自立し、聡明な役が多かった。それが、今回は芸術的な素養はあるようだが、なんだか掴みどころがない。どこか抜けたところが男性からかわいいと思われる感じもなんだか違和感がある。得意の黒ぐろとした瞳の魔性感も抑えめで、それが逆に気になる。
松たか子の演技の幅が広いだけかもしれないが、もしかして、終盤、大逆転が待っているのではないか。そんな期待もしてしまう。
第7話では、考が出頭したとき、置き手紙のほかに、おにぎりが置かれていた。思い詰めて朝早くに警察に向かいながらも、みんなの朝ご飯を心配していた考に、皆、しんみりし、考の愛情を味わう。
そのとき、大きな瞳に涙をたっぷりたたえているレオを、しかっと抱きしめたネルラの燃える目は、松たか子の真骨頂。凛として強い人物がそこにいた。
第7話の終盤、マンションのなかで火災警報器が轟き、発生源はレオの部屋であることがわかる。レオはベッドで意識を失っていて、それを見たネルラは、レオの表情と布勢の表情を重ね、またひとつ記憶が蘇る。レオと(玉置)玲央、ダジャレか。
「お前はやっていない。いいか、この人を殺したのは俺だ。わかったな」と考が誰かに言い含めている。それはネルラに向かって語りかけたものなのだろうか。
事件は振り出しに戻った。
ところで、この『しあわせな結婚』、登場人物のパジャマ姿のシーンが少なくない。家族だから、パジャマ姿で部屋を行き来しても全然構わないのだ。富裕層だから、上質なパジャマを着用しているのでだらしない感じも一切ない。俳優たちがみんな上品な佇まいをしているからでもある。そこがなんだかいい。
幸太郎とネルラの寝室のシーンも毎回欠かさずある。全然エロティックではないのだが(そうだったらちょっと困る)、阿部と松があまりに自然な距離感で、これぞ家族、これぞ夫婦のドラマだ。
疲れたネルラの腰をベッドで幸太郎がかいがいしくマッサージするシーンが良かった。マッサージまでしてくれるなんてどんだけいい夫なのか。
「俺はホントにちょっと前まで独身主義だったんだろうか」「今や妻だけでなく家族も丸抱えで、その中には殺人犯までいて」というセリフの「丸抱え」というワードが第7話の筆者のお気に入りだ。
「俺を変えた君はスゴイよ」と、幸太郎を虜にしてしまったネルラ。やっぱりもしかしたら魔性かもしれないと、もうしばらく疑い続けてみる。妻も家族も丸抱えでがんばれ幸太郎。
※ドラマ『しあわせな結婚』は、TVerにて無料配信中!(期間限定)
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※番組情報:『しあわせな結婚』
毎週木曜よる9:00~、テレビ朝日系24局