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モータージャーナリストも驚いた!『夜の巷を徘徊する』の内容とトヨタの懐の広さ

<文/田口浩次(モータージャーナリスト)>

12月28日、テレビ朝日の番組『夜の巷を徘徊する』の特別編で、トヨタ自動車が誇る国内最大級ともいえる静岡県の研究施設「東富士研究所」をタレントのマツコ・デラックスさんが訪れる様子が放送された。敷地内を案内するのはトヨタ自動車社長の豊田章男氏という豪華さだ。

番組内でも話されていたが、敷地内の映像で建物などの背景に富士山が映り込むことでその位置が把握され、どこに何を研究している施設があるのかという情報がわかってしまうため、それを防ぐために映像の背景にもチェックが入ったという。

これだけで、世界一を争う自動車メーカーならではの、研究開発競争の最前線を垣間見ることができる。

まず驚いたのが、マツコさんと豊田社長の仲の良さだ。

以前にもマツコさんは同番組のスペシャルでトヨタ自動車の元町工場を取材したことがあり、そのときに豊田社長と会っている。しかし、約1年ぶりの再会とは思えないほど息がぴったりなのだ。なにより、マツコさんは意外にもレース好きでモータースポーツへの造詣も深く、その点がきっと豊田社長との相性の良さを生み出しているのだろう。

豊田社長と共にマツコさんが敷地内を移動すると、すでにそこには、写してはいけない近い将来登場するような自動車などが普通に走行していると思わせる会話が盛り込まれており、本当に研究施設であることが感じられる。

ちなみに、こうした研究施設(約40棟ほどの建物が敷地内にある)へは、取材するスタッフ含め、携帯電話やカメラの類はすべて持ち込み禁止。とくにセキュリティが高い施設内では、社員も含め、携帯電話などは持ち込めない。

そうした場所に入ってのテレビ取材だけに、本当になんてことない映像がじつは貴重なのだ。また、この研究施設の敷地は約2万平米(東京ドーム約43個分)という広大なもので、以前に訪れている元町工場よりも広い。

まず体験したのは、時速240キロで走行する「オーバル」と呼ばれる楕円形のテストトラックでの同乗走行や、曲がりくねった一般道を模したテストコースでの高速同乗走行。

映像にはモザイク加工が色々と施され、研究施設ならではの映像となっているが、ここでは、運転の上手な人のクルマに乗る同乗走行が、じつは恐怖感よりも楽しさを感じさせる、という事実をマツコさんの反応から感じ取ることができる。

それほど高度な運転技術を持つ人が運転することで、自動車の開発は進められているのだ。

同乗走行後、TOYOTA GAZOO RACINGとしてニュルブルリンク24時間レースに出場している車両や、その整備等を担当する社員などが揃う、凄腕技能養成部を訪れる。

ここで豊田社長は、10年前にニュルブルクリンク24時間レースに出場した当初、社員メカニックに対してプロのドライバーから「自分の命をこんな素人に任せるのか!」と指摘されたことや、命を預かる者として社員に本当に過酷な環境を経験させることで人材育成することの大きな意義を語った。

モータースポーツは究極のチームスポーツ、という認識は、レース関係者の間では常識なのだが、なかなか世間一般で知られることはない。そんななか、豊田社長がそうした意識を持っているということは、TOYOTA GAZOO RACINGが成績に関係なくレース活動を継続し、さらにWRC(世界ラリー選手権)復帰を決めるなど、人材育成の場としてのレースの重要性を自動車メーカーとして認識していることを感じさせる。

その後、トヨタ自動車社内の駅伝大会を説明したり、社員食堂を訪れ社員と交流したりと、企業としての社風が紹介された後、マツコさんたちはトヨタのモータースポーツ開発最前線現場である、モータースポーツユニット開発部を訪れた。

ここでは、ル・マン24時間レースに出場しているレース車両やハイブリッドエンジンの開発現場で、77名のエンジニアが揃っていると紹介されている。ちなみに、F1のトップチームでは、開発現場に100名前後のエンジニアが投入されており、トヨタのル・マン24時間レース車両は、F1に迫る規模のマンパワーが投入されているということだ。

そして最後に登場したのが、フィンランドから持ち込まれた、2017年のWRCに出場するために開発中のヤリスWRC(日本名:ヴィッツ)の実車と、TOYOTA GAZOO RACINGのWRCチームを率いるトミ・マキネン代表だ。

現在開発中の車両を、車内映像も含めてこれほど見せるということは、モータースポーツ関係者の取材ではあり得ないこと。ここから、いかにトヨタがこのWRC参戦を含めてモータースポーツを広く認知してもらうために懐の広さを見せているかがうかがえる。

で、ここで意外な驚きだったのが、豊田社長のドライビングテクニック。

氷上路面を再現したテストコースでドリフト走行を決めるなど、本当にドライビングが好きで、しかもその腕前も素人ではなく、本当にトップカテゴリーのレースに出場できるほどの腕前であることがわかった。

だが、ここで終わりではない。その後にヤリスWRCの運転を担当した元WRC王者でもあるマキネン代表のドライビングは、まさにクルマが生き物かのように走り回っており、究極のドライビングテクニックを持つドライバーの凄さが、テレビ画面を通じても感じられた。

そして、WRC参戦にあたって豊田社長が語っていた、WRCでは自動運転技術のためのデータ収集もするという言葉に重みを感じた。

たしかに、これほど自在に車両をコントロールできるドライバーたちと究極にまで高められたWRC車両から得られるデータは、近い将来登場する自動運転技術において、本当に役立つフィードバックが得られるに違いない。

◇◇◇

今回の『夜の巷を徘徊する』では、モータースポーツ専門誌やジャーナリストではきっと切り取ることができないクルマの魅力やモータースポーツ活動の一面を紹介してもらったと思う。

この先も、きっとWRC活動などを通じてさまざまな形で紹介されていくだろうが、それが今から楽しみで仕方がない。

そして、トヨタのWRC参戦は、年明け2017年1月19日からスタートする。