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大谷翔平の“54本塁打”はなぜ達成できた?「ストライクゾーンに投げ込める箇所が減った」対戦投手が感じていた変化

大谷翔平の“54本塁打”はなぜ達成できた?「ストライクゾーンに投げ込める箇所が減った」対戦投手が感じていた変化

2024年、野球発祥の地・アメリカで「54本塁打・59盗塁」という前人未到の金字塔を打ち立てた大谷翔平。

テレビ朝日のスポーツ番組『GET SPORTS』では、「大谷翔平の進化」を特集。昨年彼がカメラの前で発した数々の言葉を振り返りながら、ドジャース首脳陣や対戦相手、手術を担当した医師など総勢14名の関係者へ独自取材し、偉業の裏にあった独自の思考と大胆な改革を解き明かした。

テレ朝POSTでは、その内容を全4回に分けて紹介。今回は、大谷の打撃の神髄に迫る。

◆大谷が語った、打つために「一番大事なこと」

2024年、史上初となるリーグをまたいでの2年連続ホームラン王をはじめ、日本人選手初の打点王など、打撃10部門でナショナル・リーグトップに輝く歴史的活躍を見せた大谷。

まさにバッティングで人々を魅了した1年。いったいなぜ、これほどの成績が残せたのか。そのヒントは、大谷がカメラの前で語ったいくつもの言葉の中に隠されていた。

まずは、昨年彼が何度も口にしていた言葉を振り返りたい。

「いい時は必ずストライクゾーンを維持できている」
「シンプルに(ストライク)ゾーンを振る」
「ストライクを振るのが一番のポイントだと思う」

“ストライクゾーンを振る”。そのために必要不可欠なのは、ストライクとボールの見極めであり、もっとも大事にしていることについて次のように語っていた。

同じ位置で同じように構えるというのが、同じようにボールを見ることに対して一番大事なこと。動く前の段階が一番大事かなと思っています

ストライクゾーンの見極めに大事なのは、同じ位置に立ち、同じ構えをすること。まず、同じ位置に立つために、大谷は昨年6月から新たなルーティンを取り入れた。

毎回、バットを使ってホームベースから距離を測り、常に同じ位置に軸となる左足を置く。そのメリットは…。

「球場によってラインの太さとか違ったりするので、多少ずれたりすることがないようにしたいと思っています」(大谷)

メジャーリーグの球場の多くは、バッターボックスのラインの太さとファウルラインの太さがほとんど同じ。しかし、本拠地・ドジャースタジアムのバッターボックスのラインは、ほかの球場よりも細く引かれている。

ラインに合わせて立つと、球場によってわずかにズレが生じてしまう。それを防ぐため、ホームベースを起点に距離を測ることで、常に同じ位置に立てるように調整していた。

◆打率向上に繋がった意外な要因

次に、「同じ構えをする」について。

実は、同じ姿勢で構え続けるのは簡単なことではない。問題となるのは、相手バッテリーとの駆け引きだ。

インサイド・アウトサイド、速い球・遅い球など、さまざまな手段で攻めてくる。これらの違いが構えにどう影響するのか、野球解説者・古田敦也氏は解説する。

「何かを意識させるのが基本的な考え方ですね。緩急、両サイド、高低、これを組み合わせて何かを意識させる。『今度はたぶんこっちに来るよね』と思わせておいて違うことをやる。意識させられることによって、(バッターは)ちょっと体重がかかったりして、うまくバットの芯でミートができなくなる」

相手バッテリーのさまざまな配球により、構えの姿勢が絶妙にズラされてしまうのだ。

それを防ぐために大谷が行っていることを、ドジャースのロバート・バンスコヨック打撃コーチが明かしてくれた。

「大谷は自分の構えが良い位置にあることを確かめたがっている。いつも自分の構えをモニターしているよ。データを確認して体が適切に動いているか、もし違っていたら何が起こっているのか、高めの速球に何球も直面したので姿勢が伸びすぎていないか、いつもより前かがみになっていないか、後ろ向きになっていないか、大谷はそれを把握し、原因を突き止めようとするんだ」

常に同じ姿勢で構えるために、大谷は球場にある最新の機器で一連の動作を骨や関節に至るまで確認。正しい構えができているかをチェックしているという。

さらに大谷の構えについて、動作分析の専門家である筑波大学体育系・川村卓教授は“ある変化”を指摘する。

「(以前は)顎がちょっと下がり気味なのに対して、2024年は少し顎が上がってボールを待っている。そういうところが変化したのかなと思いますね」

着目したのは、構えた時のボールの見方。2023年と2024年の構えを比べてみると、2024年は顎が上がり、自然体な構えになっているという。

川村氏は続ける。

「前はどちらかというとグッとボールを凝視するような感じで見ていましたが、(今は)自然体で全体をボヤッと見ているような形。これは専門的な用語で『周辺視野』と言って、例えば宮本武蔵が書いた『五輪書』の中にも『遠山の目付け』という言葉があるんです。どこから斬りかかってくるかわからない相手に対して、どこかをグッと凝視するのではなく、全体をボヤッと見る。要するに遠くにある山のように見るということ」

二刀流のパイオニアであり、江戸時代初期の剣豪・宮本武蔵が著した『五輪書』に残された言葉「遠山の目付け」。一点に集中するのではなく、全体をボヤッと見て周囲の変化に対応することをいう。

「メジャーリーグのピッチャーが投げるボールもすごい速さで来てバッターの手元で変化するので、自然に見ることによって、よりボールを引き付けられるようになる。それが選球眼の良さにつながって、ひいては打率の向上に繋がったんじゃないかなと思います」(川村氏)

◆「シンプルにストライクを振るのが一番のポイント」

大谷が目指す「同じ位置に立ち、同じ構えをする」。そのために取り入れた新たなルーティンと欠かさず行ってきた緻密な確認、そして動作分析が導き出したボールの見方。

これらの結果、ボール球を振った割合は2023年が29.7%に対し、2024年は26.6%。2024年のほうが3%減少している。バットで立つ位置を測るルーティンを取り入れた6月15日以降は、24.2%とより減少していた。(MLB平均28.5%)

このストライクとボールの見極めの重要性を、古田氏は次のように語る。

「1ボール1ストライクで際どい球を見逃すか振るかでカウントが変わるわけですよ。1ボール2ストライクになるとやっぱり追い込まれるので、三振しちゃいけない場面だとフルスイングできない。

逆に2ボール1ストライクになると、バッティングカウントと言われてフルスイングできる。つまり、ホームランを打てる確率は、いかに自分のバッティングカウントに持ち込むかが非常に大事なんです」

古田氏が指摘した「1ボール2ストライク」「2ボール1ストライク」との違い。実際に大谷のカウント別成績を見てみると、「1ボール2ストライク」の場合が打率.197、6本塁打。「2ボール1ストライク」が打率.579、7本塁打。打率・本塁打数ともに顕著に違いが表れている。

「良い構えの結果、ボール球を見送れているので、良い結果に結び付いてる」「シンプルにストライクを振るのが一番のポイントだと思うので、そこさえできていれば、ある程度は良いスイング、良い構えができている証拠じゃないかなとは思います」(大谷)

◆「オオタニは地球上最高の選手」

こうして進化したバッター大谷。そのすごさを、対戦したメジャーのピッチャーたちは口々に称賛する。

「彼がいるのは前人未踏の領域。歴史的としか言いようがない」

そう話すのは、史上最高額の契約金でメジャー入りを果たし2024年の新人王に輝いた怪物ルーキー、ポール・スキーンズ(パイレーツ)。

注目の対戦は、パワーとパワーのぶつかり合い。大谷が捉えた球速は、およそ161キロ。160キロ超えのボールをホームランにするのは自身初だった。

「彼にホームランを打たれたけど、ワンパターンな投球では打ち取れない。大谷に対してゲームプランを立てるのは困難」(スキーンズ)

つづいて証言したのは、オースティン・ゴンバー(ロッキーズ)。彼から放った第20号は、大谷にとって2024年最長飛距離の145メートル弾。打たれた瞬間、ゴンバー自身笑ってしまった衝撃の一打だ。

「ストライクゾーンに投げ込める箇所が減った。初めて彼と対戦したのは確か2021年、エンゼルスにいた時だった。あの時はとにかく外角低めに投げれば大丈夫だと感じていた。今は必ずしもそうとは限らない。以前ほどボール球を追わなくなり、相手が何をしようとしているのか、より理解している。彼をアウトにするためのレシピはわからないし、レシピがあるのかどうかもわからない」(ゴンバー)

さらに、これまで何度も対戦したピッチャーも大谷の変化を感じている。

「大谷との対戦は10回ほどでした。彼から離れられない。私がシアトルにいたとき大谷はアナハイムにいて、トレードされた後も同地区になったよ」

ポール・シーウォルド(ダイヤモンドバックス)は、実に2年ぶりとなった大谷との対戦で、第43号を打たれた。

「(大谷は)キャリア序盤は空振りが多かったけど、以前と比べて空振りも減りました。それはもっともピッチャーが苦労すること。オオタニは地球上最高の選手だよ」(シーウォルド)

大谷翔平特集、次回の記事ではメジャーを席巻したホームランに見るバッティングの進化を徹底解剖する。

番組情報:『GET SPORTS

毎週日曜 深夜1:55より放送中、テレビ朝日系(※一部地域を除く)

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