【WRC】撤退を決定したVWが有終の美を飾り、優勝と笑顔でサヨナラ!
2016年シーズン最終戦「ラリー・オーストラリア」は、例年以上の盛り上がりのなか始まった。
その要因は、突如発表されたVWの今シーズン限りのWRC撤退。VWの姿を見ることができるのはこの「ラリー・オーストラリア」が最後とあって、ファンも多く駆けつけたのだ。
注目はなんといっても、昨年も勝利したVWが有終の美を飾るのか、それともライバルたちが一矢報いて餞別として送るのか、というもの。
ただ、「ラリー・オーストラリア」の会場自体は、VWという仲間がいなくなることから、イベント期間を通じてフェアウェルパーティー(送別会)を思わせる、悲しいけれど笑顔で仲間を送り出すかのような雰囲気に包まれていた。
当然、「ラリー・オーストラリア」の注目はVWドライバーたちの来季への去就に集まる。もともとは、来季はワークスチームとして、VW、シトロエン、ヒュンダイはすでに各3台体制が発表されていて、そこにトヨタが新たに加わる予定だった。
それが、突然VWが撤退。チャンピオンチームのトップドライバー3人が丸々ストーブリーグ市場に売りに出されたのだ。言ってみれば、今年野球で活躍した日本ハムや広島の主力選手が突然、移籍金なしのフリーエージェント(FA)市場に出てきたようなもの。関係者が色めき立つのも仕方がない。
王者のセバスチャン・オジェ獲得は、もともとシトロエンに居たこともあって同チームが有利に思えるが、すでにシトロエンの3台のドライバーは決定済み。果たして4台目を準備するのか、という問題を抱えている。
そこで言われているのが、「VWが資金を提供し、1年だけ暫定的にフォードのマシンに乗るのではないか?」ということ。オジェとアンドレアス・ミケルセンはフォードに行く可能性があると現地メディアが伝えた。
そして、ヤリ・マティ・ラトバラに関しては、トヨタへの移籍が強くささやかれている。彼はフィンランド人であり、トヨタチームを率いるのはフィンランド人のトミ・マキネン。さらに、トヨタが発表した最初のドライバーはマシン開発を担当していたユホ・ハンニネンで、彼もフィンランド人だからだ。
ハンニネン35歳、ラトバラは31歳。そして可能性は低いが、もしここで27歳のミケルセンまで獲得できれば、チーム体制としてもトヨタはかなり良いスタートを切られると各メディアは見ている。
そんな周囲の喧騒をよそに、「ラリー・オーストラリア」は始まった。
初日SS1からSS9までを走り、観客が見守る特設コースのSSS(SS10とSS11)2本を終えた時点で15.4秒のリードを築いてトップを獲得したのは、若きVWドライバーのミケルセン。2位にはチームメートのオジェが続いた。
「午前中は少し時間をロスすることがあったのだけど、思ったほどのタイムロスじゃなく、いい走りができた。チームの仕事ぶりは素晴らしいし、マシンの感触は完璧に近い。でも、午後は大変だった。マシンはオーバーステアにアンダーステアにと落ち着かなくて、しかも途中ドリンクボトルを足元に落とした。運よく拾えたけど、あのときは本当に怖い思いをしたよ。明日以降も、勝つためにはさらにプッシュしていかないといけないね」(ミケルセン)
2日目は、SS12からSS16までと、初日と同じくSSS(SS17とSS18)2本を走り、初日に続いてミケルセンがトップに立つも、僅か2秒差で2位につけたのはチームメートのオジェ。さらに10秒差でヒュンダイのヘイデン・パッドンが3位につけ、最終日は激しい優勝争いになることが確実となった。
「オジェはチャンピオンシップ現在3位の僕が2位を取れるようサポートしてくれると言ってたのに、どうやら違うみたいだ(笑) 彼がすごく激しく追い上げてくるからこっちも飛ばす形になって、最後のステージではマシン下に当たった岩でクラッチペダルを傷め、それがブレーキに影響を与える形になってしまった。まあなんにせよ、明日は本当に楽しみだ。明日は勝つためになんでもする。最後のイベントだから失うものもないしね。きっとオジェも同じ気持ちだろう。すごく面白い戦いになるよ」(ミケルセン)
「今日はいい走りができた。2位でイベントを終わろうとは思っていない。明日は勝ちに行くよ」(オジェ)
「明日はプッシュする。オジェにもミケルセンにも手が届くところまで近づいているからね。オジェもミケルセンも明日は失うものなどないと思って飛ばすだろう。僕も同じさ」(パッドン)
ラリー最終日、SS19からSS23のパワーステージまでを走り、2016年シーズン最後を飾ったのは、初日からトップを走り続けたVWのミケルセンだった。
チームメートのオジェとの争いは、オジェがSS20でハーフスピンをしたことで一気にミケルセンがリードを取り、勝負は決着した形となった。終わってみれば、2位に14秒9差をつけての優勝。
ただ、ミケルセンは優勝したものの、3位にチャンピオンシップを争うヒュンダイのティエリー・ヌービルが入り、6ポイント差でヌービルがチャンピオンシップ2位を獲得。ミケルセンは3位でシーズンを終えた。
「最高の気分だ。VW最後のイベントに勝利を捧げることができた。これ以上の栄誉はない。でも、同時にとても悲しい気分だ。この素晴らしいすべてのパッケージがこの日で消え去ってしまうのだから…。この勝利を他の勝利と比較することは難しいけれど、今回は4度のワールドチャンピオンを獲得したドライバーと、互いにトラブルもなく、真剣勝負をして勝った。僕はそれを本当に誇りに思うよ」(ミケルセン)
「このイベントを通じてあらゆる感情がこみ上げてきた。この感情を説明する適切な言葉が見当たらない。最後のサービスを受けるときは、スタッフの誰もが涙を流して仕事していた。僕たち全員が、ここまでどれだけハードな仕事を皆でしてきたことか。結果として大きな成功を手にしたが、それを全員で感じていたと思う。
ミケルセンとの勝負は、簡単に勝てる相手ではないとわかっていたけれど、今回の彼は本当に素晴らしかったよ。スピンしてしまった。シーズンを通じて2回目のスピンがここで出てしまったね。でも、最後のイベントでワンツーフィニッシュを決めたことは、チームをハッピーにできたと思うよ」(オジェ)
「チャンピオンシップ2位を獲得できて嬉しいよ。とにかくミケルセンが速いので、僕も飛ばすしかなかった。チャンピオンシップで2位ということは、残っているのはもうひとつ上のポジションだけ。果たしてそれがいつ叶うのかはわからないけれど、僕は今後も頂点を目指すだけだよ」(ヌービル)
こうして、WRCの2016年シーズンが終了した。
しかし、VW撤退によって、2017年シーズン開幕までWRC周辺のざわつきは収まりそうにない。まずは来月12月13日に予定されている、トヨタのチーム体制発表がどうなるのか、果たして残り2席空いているトヨタのシートに誰が座るのか、さらには王者オジェはどこへ移籍するのか。
多くの話題をストーブリーグに持ち込みながら、WRCは短いオフシーズンを過ごすことになる。2017年シーズンは1月20日、伝統の「ラリー・モンテカルロ」で開幕する。
<文/田口浩次(モータージャーナリスト)>
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