ナポレオン生誕の島で開催される伝統ラリー、その見どころ【世界ラリー(WRC)】
◆ターマック(舗装路)に強いドライバーが有利
WRC(FIA世界ラリー選手権)の2017年シーズン、第4戦のラリー・フランスが間もなく開催される(4月6日~9日)。13戦あるシーズンで初のターマック(舗装路)ラリーだ。
ラリー・フランスの開催地は、フランス本土ではなく、地中海に浮かぶフランス領地の島であるコルシカ。コルス島とも呼ばれている。コルシカという呼び名はイタリア語であり、その島の位置もフランスよりイタリア寄り。コルシカ島のすぐ南には、イタリア領のサルディーナ島がある。
また、コルシカ島を有名にしているのは、この島が初代ナポレオン(ナポレオン・ボナパルト/1769年~1821年没)の生誕地であるからだ。
地中海にある大きな島(地中海内では4番目に大きい)という位置関係もあり、歴史的には、古代よりケルト民族、ローマ帝国、イタリア都市国家等々、さまざまな権力者たちによって統治されてきたことから、コルシカ島の文化はフランス本土とは違う独特のものがある。また、夏場は絶好の観光地として人気が高い。
◆直線がほとんどない、コーナーだらけのラリー
じつはラリーの世界においては、この「ラリー・フランス」は伝統のラリーイベントとして非常に有名だ。
ラリーイベント名も、ラリー・フランスではなく「ツール・ド・コルス」という名前のほうがラリーファンの間では定着している。1973年の世界ラリー選手権初年度から開催地として名を連ね、ラリーの初開催は1956年。今年は60回目の記念大会となる。数々の名勝負を生んできた伝統の一戦なのだ。
その特徴はなんといっても、ラリー期間中にドライバーたちは「1万以上のコーナーを駆け抜ける!」とも評されるほど曲がりくねったコースレイアウトだろう。直線が200メートル続くことはなく、ドライバーとコースを指示するコドライバーにとって、ちょっとした指示や判断ミスが大きな事故につながる難しいコースだ。
その大きな理由となっているのが、シーズン初となるターマック(舗装路)ラリーであること。ターマックは当然グラベル(未舗装路)やスノー(雪道)といったラリーよりスピードが出る。スピードが出るなかで細く曲がりくねったコースを走るために、小さなミスも許されないのだ。1985年と1986年には死亡事故も発生している。
そんな「ラリー・フランス」では、ターマック(舗装路)という特性を活かし、あまりドリフトなどをせずフォーミュラカーのようにタイヤの限界ギリギリで走る“グリップ走行”と呼ばれる走り方が得意なドライバーが強い。
なかでもフランス人ドライバーの勝率が高く、王者セバスチャン・オジェ以前に9年連続で王者を獲得したセバスチャン・ローブ(フランス)は4度ここで勝利しており、さらにその昔にディディエ・オリオール(フランス)というドライバーが6度、さらに昔を遡ると、ベルナール・ダルニッシュ(フランス)が同じく6度ここを制している。昨年の優勝ドライバーは、セバスチャン・オジェ(フランス)だ。
そう聞くとオジェが圧倒的有利かと思ってしまうが、じつは現在のWRCドライバーを見渡すと、トヨタのエースであるヤリ‐マティ・ラトバラは2015年に勝利していて、ヒュンダイのティエリー・ヌービルとダニ・ソルドもそれぞれ勝利している(ヌービルとソルドの優勝時はWRCは開催されておらず、IRCというラリー選手権)。
つまり、ここで勝利したドライバーが4人もいるということだ。
ドライバーの腕前としてはほぼ互角の勝負となると、あとはマシンのポテンシャルと、1万も続くコーナーを攻めるためのマシンセッティング、そしてコースを指示するコドライバーとの相性が大事なポイントとなる。
果たして、伝統の一戦を制するのは誰になるか? 地中海に浮かぶコルシカ島の美しい景色とともに、伝統の一戦「ツール・ド・コルス」を楽しんで観たい。
<文/田口浩次(モータージャーナリスト)>