「心が折れそうになる場面が何回も…」代表引退の桃田賢斗、栄光と苦悩の10年。ラストマッチで“幸せな最後”
今年5月、中国の成都で行われた世界バドミントン国別対抗戦「トマス杯」。
この大会を最後に、数々の金字塔を打ち立てたひとりの選手が日本代表を引退した。
桃田賢斗(29歳)。
「とても充実した代表人生だったなと思います」(桃田)
日の丸を背負う日本のエースとして、駆け抜けた波乱万丈の10年。最後の戦いを終えたとき、何を思ったのか――。
テレビ朝日のスポーツ番組『GET SPORTS』では、バドミントン界を牽引してきた29歳の決断に迫った。
◆「勝っても祝福してもらえないんじゃないか」
「トマス杯」での戦いを終えた2日後、桃田は中国のファンたちと交流した。
「プレーも人格も好き。プレーするときの彼はとても謙虚、真面目にプレーしている」
「勇気があって、諦めない。その信念が一番好きです」
集まったファンからはそんな声が聞こえてくる。
これまで輝かしい歴史を刻んできた。
日本男子史上初となる世界バドミントン連覇。2019年には国際大会11勝の最多勝記録をつくり、ギネス世界記録にも認定された。
さらに3年以上にわたり世界ランク1位に君臨。長きに渡り日本バドミントン界を牽引した。
そんな桃田にとって忘れられない大会がある。
桃田:「2018年ジャパンオープンで初優勝したときはすごく印象に残っていますね。2016年に違法賭博で無期限の出場停止。復帰して、日本で開催される国際大会、勝っても祝福してもらえないんじゃないかなとか、まだ僕のことを認めない人、冷たい目で見てくる人もいるんじゃないかとか…」
日本で行われた国際大会は不安のなかでの戦いだった。
それでも優勝を決めた瞬間、観客からは祝福の拍手が。
桃田:「いろいろ考えながら試合をしているなかで、優勝したときに観客の人たちが拍手を送ってくれたのが今でも結構覚えていて」
この大会をきっかけに桃田の快進撃がはじまった。
◆突然訪れた選手生命の危機
しかし、東京オリンピック前の2020年1月、バドミントン人生を揺るがす大きな出来事が起こる。
マレーシアでの大会を終えた翌朝。交通事故に遭い、右眼窩底(がんかてい)を骨折。この大怪我が選手生命に影響を及ぼした。
桃田:「自分が完璧に捉えたと思った球がちょっとずれてミスショットにつながったり、そういうのが続くと心が折れそうになる場面が何回もありましたね。『金メダルを目指して頑張ります』と口にはしていたんですけど、正直厳しいだろうなと思っている自分もいて」
この大怪我が最後まで大きく響いた。
思うようなプレーができず、東京オリンピックでは予選リーグ敗退。
その後、およそ2年間国際大会では勝利を挙げられず、パリオリンピック出場も逃すこととなった。
そして今年、世界バドミントン国別対抗戦「トマス杯」をもって日本代表を引退することを発表した。
桃田の日本代表引退のニュースは瞬く間に世界を駆け抜け、海外の記者たちも口々に引退を惜しんだ。
マレーシア記者:「稀にみる才能の持ち主だったと思います。引退を知って悲しかったし、寂しくなりますね」
インドネシア記者:「もう日本代表の桃田を見ることはできません。とても悲しいですが、彼の決断を尊重したいと思います」
世界でしのぎを削ったライバルたちは…。
ビクター・アクセルセン(デンマーク):「桃田が引退するのは悲しいと思う。でも彼の決断も理解できます。彼の将来がベストであるように願いますし、彼とコートで戦えたことは本当に楽しかったです」
アンソニー・シニスカ・ギンティン(インドネシア):「引退するというのは少しショックでした。桃田とまたプレーする機会があると思っていました」
◆ラストマッチは団体戦
世界中がその引退を惜しむなか、桃田が最後の舞台に選んだのは団体戦だった。
桃田:「僕自身団体戦がすごく好きで…。また頑張ろうって思えたのも今のメンバーがいたからだと思っているので、そういったメンバーに少しでも力になれればと思い、個人戦ではなく団体戦を選びました」
中国で開催されたラストマッチは、異様な熱気に包まれていた。
日本の初戦、会場に桃田が登場すると、「モモタ」「モモタ」と大きな声援が起こる。
スマッシュを打てば「モモタ アイラブユー」と声が飛び、絶妙なヘアピンを打てば割れんばかりの拍手が響き渡る。
会場全体と桃田がひとつになっていた。
迎えた準々決勝。勝てばメダルとなる大一番。
日本は強豪マレーシアと対戦し、1対3の敗戦。
桃田は試合をすることなく、代表最後の大会が終わった。
◆「すごく幸せな最後の国際大会でした」
試合後、ともに戦ってきた仲間たちは、こんな言葉を残している。
保木卓朗:「涙が出そうだったというのが本当に一番ですね。試合後に『お疲れ様でした』と言ったら、『ありがとう』みたいな感じで言ってくれたので、本当に寂しい気持ちでいっぱいです」
小林優吾:「桃田選手はやはりみんなで戦うとかそういうのが非常に好きな人なので、個人戦を選ぶより団体戦を選んだのは本当にあの人らしいなと思っています」
西本拳太:「最後(桃田選手に)試合をして終わらせてあげたかったんですけど、そこは悔しい気持ち。彼もそうだと思いますし、みんながそういう気持ちだなと思います」
そして桃田は、最後の戦いを振り返り次のように語った。
桃田:「今まで一緒に頑張ってきた仲間たちに応援されながら試合できたことは、すごく幸せな最後の国際大会でした」
日本代表は引退するものの、すでに次への挑戦を見据えている。
桃田:「ジュニアの選手たちともっと羽を打ちたい。いろんな子どもたちと触れ合いたい。バドミントンでもちろん真剣勝負もしたいですし、スポーツ全般として体を動かす楽しさをいろんな人に感じてもらいたい」
桃田賢斗、29歳。新たな道を歩み始める。
※番組情報:『GET SPORTS』
毎週日曜 深夜1:40より放送中、テレビ朝日系(※一部地域を除く)