森田想、話題の映画『辰巳』で“唯一無二のヒロイン”を体現。当時19歳…暴力シーンでは青アザも「あの年の自分にしかできなかった」
初主演映画『アイスと雨音』(松居大悟監督)で注目を集め、映画『タイトル、拒絶』(山田佳奈監督)、映画『放課後ソーダ日和 特別版』(枝優花監督)、映画『レジェンド&バタフライ』(大友啓史監督)、連続テレビ小説『エール』(NHK)、『先生を消す方程式。』(テレビ朝日系)など多くの作品に出演し、圧倒的な存在感を放っている森田想さん。
2023年、映画『わたしの見ている世界が全て』(佐近圭太郎監督)に主演し、マドリード国際映画祭外国映画部門で主演女優賞を受賞。現在公開中の映画『辰巳』(小路紘史監督)では、大胆かつ繊細に唯一無二のヒロインを体現している。
◆ジコチューなキャリアウーマンを体現
2023年、主演映画『わたしの見ている世界が全て』が公開に。森田さん扮する主人公・熊野遥風(はるか)は、ベンチャー企業に勤めるキャリアウーマンで目標のためには手段を選ばないやり手だったが、パワハラを理由に退職することに。自ら事業を立ち上げて見返してやろうと考えた遥風は、母親の訃報を聞いて数年ぶりに帰省。兄、姉、弟を追い出して実家を売却する計画を立てるが…という展開。
「監督がいろんな作品を見てくださったみたいで、お手紙と会いに来てくださってお話をして出演させていただくことになりました」
――仕事ができるバリバリのキャリアウーマンですが、ジコチューで。
「そうですね。会社で働いた経験がないもので、そこのリアリティさはどうしようかと思ったのですが、逆にそういうシーンがないがゆえに良かったのかもしれないと思いました。
それまでそんなにキャリアウーマンという役はなかったので、どうやってやろうかと。キャリアウーマンというよりかは、そういう気の強い自我がものすごく出ている女性の参考にするために、言葉遣いだとか、まばたきだとか服装などは、監督と一緒に資料を見ながら練りました。キャラ作りは、撮影中もいろいろ調整していましたね」
――パワハラの加害者だと言われて会社を辞めて自分で起業しようというやり手。演じられていかがでした?
「『できないやつはどんどん切り捨てていく』とか、ものすごく冷酷なセリフもバンバン言うのでおもしろかったです。気持ち良かった(笑)。そんなことが言えるんだというその潔さが。
私は自分が役を演じるにあたってのテーマとして、本来なら気持ちを一番考えて気にするのですが、遥風は本当に人の気持ちを一切考えない。考えなければ考えないほど、遥風というキャラクターになるので、いつもなら一番気にするべきところを気にしないほうがいいというのがおもしろかったですね」
――劇中お姉さんに、「どうして人の心をそんなに踏みにじれるのか」と言われます。
「そうそう。でも、自分ひとりの力で生きてきたつもりの遥風は、それも言われている意味が全然わからないみたいな感じで。そこが演じている分にはおもしろかったです。実際にあったらイヤですけどね(笑)。いくら話しても論破できないので。非常に正論なんだけど、もうちょっと人って違うでしょう…みたいな感じで人情がない、本当に」
――でも、あれだけ自分中心に考えられるというのは、ある意味すごいですね。
「そうですね、なかなか強い女性でした。すごい生存本能というか、『お母さん死にました。とにかく実家を売って起業するための資金にしよう』みたいな、ものすごくドライな考え方」
――遥風を尊敬し行動をともにするつもりだった後輩・憲太郎は、結局心を病んで会社も辞めてしまいます。
「そう。それが彼女的には、自分の間違いに気づく大きなきっかけだった。自分が信じてやってきたことは本当に正しかったのかと」
――誰を傷つけようが自分の道を行くという感じだったのが、憲太郎のことがあった後の表情がまったく変わっていて印象的でした。
「そこは監督もこだわっていましたね。自分ではわからないんですけど、最初の勢いはなくなっていたから、どうだったんだろうって。自分が良しとしてきたことが根底から崩れたというか、わからなくなってきて…。でも、表情がまったく違うと受け取っていただけたなら良かったです」
――森田さんは、あの作品でマドリード国際映画祭外国映画部門主演女優賞を受賞されました。聞いたときはいかがでした?
「マドリードには行けなかったんですよね。実感が本当になくて、いつの間にか獲っていたみたいな感じで。すごくありがたいんですけど、自分的には国内の賞をいただいてからだと実感が湧くのかなって。
でも、賞をいただいたことで、いろいろなところで紹介してもらえることにもなったのでうれしかったです。確実に上映の機会が増えていったので。励みにもなりましたし、トロフィーは実家に飾ってあります」
◆キャスト全員がすごくて…
2023年、『レジェンド&バタフライ』(大友啓史監督)に出演。この作品は、織田信長(木村拓哉)と正室・濃姫(綾瀬はるか)の知られざる物語を描いたもの。タイトルの“レジェンド”は織田信長のことで、“バタフライ”は帰蝶という呼び名があった濃姫のこと。森田さんは、濃姫の侍女・すみ役を演じた。
――主演の木村拓哉さんをはじめ、そうそうたるキャストでしたね。
「本当にすごいですよ。どっちを見ても本当にすごかったです。息が抜けない方々ばかりで。私は大友(啓史)さんが大好きだったので、オーディション会場に大友さんがいたのにまずびっくりしちゃって(笑)。
でも、私は茶道とお琴を習っていたので、オーディションにも結構自信を持っていて。和室の作法とかあるので、架空の場面ですけど、そこはしっかり自信を持ってやりました。『受かる!受かれ!』と思って(笑)。
実際に役をいただけてうれしかったのと、京都で撮影をするというのも、京都のスタッフと大友組のスタッフというのはすごいなあって思いました。
それにキャストが全員すごくて息抜きができない方々だったのでどうしようと思って。本当に贅沢で光栄なことだし、自分もオーディションで受かっているんだから、しっかり自信を持ってやろうということで、作品の邪魔にならないように尽くしたという感じでした。スケールも全部大きかったから、本当にいい経験でした」
――それまでと全然違いましたか?
「全然違いました。京都のスタッフの皆さんも、こちらがまじめに真っ当に自分の仕事をしっかりやれば優しく教えてくださるし、とても良い方たちでした。京都ならでは、東映ならではの礼儀とかも教えていただきました」
――茶道をはじめられたのは?
「小学校のクラブ活動っていうのかな。放課後活動がある地域で、小学校に和室があったので、そこで茶道とお琴を習っていました。生け花もやりたかったんですけど、茶道とかのほうが好きだったので。でも、どこかの機会で習い直したほうがいいなとは思っています」
――完成した作品をご覧になっていかがでした?
「本当に参加できたことが光栄でしかなかったですし、カメラワークがこうなって、あの美術がこうなるんだとか、発見がいっぱいありました。あと、たとえば木村(拓哉)さんのお背中しか見えないシーンとかあって。侍女で立場が低いのでお顔を見られないときのシーンとかを見るのも楽しかったですね。本当に勉強になりました」
――休憩時間などは、綾瀬はるかさんとか中谷美紀(濃姫の筆頭侍女・各務野役)さんとご一緒に?
「そうですね。一緒にいなきゃいけない役だったので、お話をさせていただいたりしていました。美紀さんは差し入れをすごくたくさんしてくださる方なので、お返しにお菓子をプレゼントしたらまたくださって、またお返ししてみたいな感じでした(笑)。とてもいい現場で楽しかったです」
※映画『辰巳』
渋谷ユーロスペースにて公開中
配給:インターフィルム
監督・脚本:小路紘史
出演:遠藤雄弥 森田想 後藤剛範 佐藤五郎 倉本朋幸 松本亮 亀田七海 藤原季節
◆19歳の自分だったからできた作品
現在、ヒロインを務めた映画『辰巳』が渋谷ユーロスペースにて公開中。この作品は、アウトローの辰巳(遠藤雄弥)と復讐を誓う少女・葵(森田想)の運命を描いたもの。裏稼業で働く孤独な辰巳は、元恋人・京子(亀田七海)の殺害現場に遭遇し、京子の妹・葵とともに逃げる。最愛の姉を失った葵は復讐を誓い殺害犯人を追うことに。葵の復讐の旅に辰巳は同行することになる…という展開。
――この作品もオーディションですか?
「はい、オーディションです。最初は辰巳の妹役で受けて、2回目に呼んでいただいたときは、オーディション用の脚本が葵ちゃんになった状態で。小路さんが書き換えてくださったと聞きました」
――ヒロイン役に決まったと聞いたときはいかがでした?
「思わぬうれしさというか。小路さんの映画作品に出られると思ってオーディションを受けて、いい役をいただいて、それも自分に合った役だったのでうれしかったです」
――撮影が2019年、公開が2024年ということはご存じだったのですか?
「撮ってから公開までが長いということは聞いていました。小路さんの特性として前回の『ケンとカズ』も公開まで長かったと聞いていたので、そんなにすぐに公開するようなことにはならないだろうなと思っていたんですけど、こんなにかかるとは思ってなかったです(笑)」
――結果的に森田さんの認知度も広がってから公開ということになりました。
「ありがたいです。今年公開で本当にありがたいんですけど、ずっと近日公開的な立ち位置で止まっていたので、周りの方にも『やっと公開するんだね』って言われました。コロナの影響もちょっとあったということは、最近監督が言っていました
でも、小路さんの性格というか、こだわるところが多いから、私が最後に見た試写からまた変わっているらしいです。どんどんブラッシュアップするのは小路さんのいいところなので、そこにみんな喜んで付き合って、楽しんでやっていました」
――誰彼構わず攻撃的で…難しい役どころでしたね。
「自分では難しいと思っていないので、やるのが楽しみだなと思いました。おもしろい作品ですけど、日常にない出来事ではあるので、想像力が追いつかないというか。実際現場に入ってどんな怖い人が来るのかとか、どういうアクションになるかで全然違うなと思っていたので、しっかりセリフだけ覚えて、あとは現場に行って現場で構築するというスタイルでした」
――周りがみんな怖い雰囲気の方たちばかりで迫力がありました。
「一見コワモテですが、本当はすごく優しいんですよ、みんな(笑)」
――劇中のやり取りは結構壮絶で、人の顔に唾を吐くことなんてないのが普通なのに、よくやっていましたよね。
「そうなんですよ。最初は人の顔にやっていいのだろうかっていう感じだったんですけど、唾が後藤(剛範)さんの目に入ってしまって。それは本当に申し訳なかったのですが、小路さんがそこでと言ったのでいいやって(笑)」
――葵ちゃんは、それこそ悪いことも平気でさまざまなトラブルを起こしてしまいますが、それでも自分が正しいみたいな感じで主張できるのはすごいなと思いました。
「自分は普通に受け入れてやっちゃっていたので、それこそ今いろんな感想をもらって、たしかになあとは思うんですよ。葵ちゃんがどういう背景であそこまで突き進んでいて、どう考えていたのかって。
映画っていろんな人の人生の一部分を切り取るものだと思っているので、それで言うと、そこだけを見て楽しむのも良しだし、そうやって考えるのも楽しいことだし…受け取り方で変わるなと思って」
――葵ちゃんは怒りの塊みたいな感じで、この怒りはどこから来るのか。まるでむき出しの刀みたいだと思いました。
「そうでしたよね。ただでさえ鬱憤も溜まっていたのに、最愛のお姉ちゃんを殺されて復讐することに。よほどお姉ちゃんが好きだったんでしょうね」
――圧倒的な存在感でした。撮影時にまだ19歳だったと知って驚きました。
「ありがとうございます。あの年の自分にしかできなかったなと、今は思っています。今だったらできないです」
――殴られたり突き飛ばされたり…という暴力的なシーンも結構ありましたね。
「痛かったです(笑)。痛かったけど、アドレナリンもすごく出ているから、別にそこは何も気にならなかったです。お風呂に入ったときに、あちこちが青くなっていることに気づくという感じで(笑)。でも、ケガをするようなアクションではなくて、しっかり考えたアクションをしていたので、自分がやりすぎて暴れすぎたのかなって(笑)」
――葵ちゃんのイメージを伝えるときに、監督はクリステン・スチュワートの写真を森田さんに見せたとか。
「そうそう、私はクリステン・スチュワートが、この世で一番本当に大好きなんです。私は『辰巳』のために髪を切っているんですけど、小路さんがその髪と衣装のアイデアとして、見せてくれた中にクリステンの写真があって。
それがショートヘアのクリステンが緑色のニットを着てしゃがんでいる写真で、私も持っている好きな写真だったんです。『私もそれならあります!』って言って小路さんとハイタッチしました(笑)。それでイメージがつかめたなって。
私はやっぱり外見、衣装と髪型とかっって、すごく大きく作用しちゃうので、そこはありがたかったですね。実際にアウトローな世界に身を置いているわけではないので、違和感のないようにはしたいなと思っていました」
――東京国際映画祭のときに監督が外国人の審査員の方から「女性に対する暴力が許せない」と言われたので、一生懸命傷つけないように撮っていたと説明したと聞きました。
「シンプルに暴力が嫌いな人はそうでしょうね。でも、映画祭のアフターパーティーでニューヨーク映画祭の人としゃべっていたのですが、『おもしろかった』と言ってくれて、めちゃくちゃ興奮していました。
独特のジャパニーズ・ノワールというか、世界観があるから、それはそれで外国人でも好きな人はたまらなく好きだろうなあって思いました」
――森田さんは、英語も韓国語もものすごく堪能だと聞きました。どのようにして習得されたのですか?
「韓国語は全然、日常会話というか、旅行ぐらいのレベルなんですけど、英語も韓国語もドラマと映画からだけですね。あと、英語は学校で習うので英検を受けたりしていました。学校の英語の授業が本当に得意で、スピーキングの授業のときに、課題文、英文があって、誰が一番早いかというのは絶対に1位でした(笑)」
――いずれ海外の作品ということも?
「簡単なことではないですし、まずは日本での知名度を上げたいので、今はまだ海外の作品のことは考えてないです。タイミングがあったときにという感じです」
作品ごとにまったく違う顔を見せる森田さん。華奢で無邪気な姿からは想像できないほど圧倒的な存在感とパワーがスクリーンに漲る。近年の活躍ぶりは目を見張るものがあるが、本人はまだまだ足りないと意欲満々。勢いが止まらない。(津島令子)
ヘアメイク:齋藤美幸
スタイリスト:入山浩章