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ドラマ『Destiny』刺激に満ちた第1話。奏(石原さとみ)と真樹(亀梨和也)、“偶然のペアコーデ”に感じる2人の運命

<ドラマ『Destiny』第1話レビュー 文:木俣冬>

「あなたは、この愛を裁けますか」――。石原さとみの抑えめの低いトーンの声が胸に響いた。

石原演じる主人公・西村奏は検事で、取調室で向かい合うのは彼女が愛した人・野木真樹(亀梨和也)。初っ端から緊張感漂う場面になった。

罪と愛、どちらが海よりも深いだろうか。4月9日(火)よりスタートしたドラマ『Destiny』は、人類はじまって以来、ギリシャ悲劇級の難問に挑む。

2010年と2024年、長野と横浜。時間と場所、ラブパートとミステリー(リーガル)パートを絶え間なく行き来する野心的でスケールの大きな、そして心情描写は繊細なドラマである。

第1話は、2024年、奏と真樹の皮肉めいた運命の再会からはじまって、2010年、ふたりの出逢いに遡る――。奏の人生に多大な影響を及ぼす、過去のふたつの事件を一気に描いた濃密なプロローグだ。

15歳のとき、奏を“カナカナ”と呼びかわいがってくれた父・英介(佐々木蔵之介)が自殺。以後、心を閉ざしてひっそり地味に生きてきた奏が、信濃の大学の法学部で出会った真樹、森知美(宮澤エマ)、梅田祐希(矢本悠馬)、及川カオリ(田中みな実)と友情を育み、次第に明るさを取り戻していくが……。

第1話の見どころを4つあげて深堀りしてみよう。

◯見どころ1:恋愛パートとリーガルパートの絡み合い
◯見どころ2:田中みな実の、いい意味での“暴走”
◯見どころ3:主題歌の入り方が斬新
◯見どころ4:現代社会の問題も

(※以下ネタバレあり)

◆見どころ1:奏と真樹の恋愛パートにリアリティとドラマ性のミックス

奏と真樹の出会いは“カンニングの共犯”だった。

2010年、大学2年の夏。試験中、奏に真樹がカンニングを頼みこむ。

生真面目な奏はとんでもないと拒むが、調子のいい真樹に乗せられてしぶしぶながら引き受けてしまう。

「これが最初の犯罪」と位置づける奏。ふたりの恋愛と罪が最初から重なり合っているのが不謹慎ながらドラマティックだ。さらに、この恋の進展が罪になっていくことの暗示でもある。

奏と真樹がカンニング試験以来、再会したとき、お互い白のトップスとカーキのボトムスを着用していた。たまたまペアコーデになっているところが、このふたりの運命的なものを感じさせる。

ふたりはどんどん惹かれ合っていき、2年後、ある大雨の日にドライブ……。

このとき、真樹にとっての“鉄板コース”につれていき、車のなかでちょっとずつ近寄っていって……みたいな展開が恋愛初期あるあるで、そこから仲良くなって真樹の家に入り浸るようになったときの雰囲気にもリアリティがあった。

絶対に離れない手のつなぎ方を、奏にしてみせる真樹。それは母との記憶であり、母はあるときふいにいなくなった。彼もまた親を失っていたのだ。

大切な人がいないもの同士はさらに求めあっていく。

カンニング、友達関係を裏切っての恋愛、ささやかな罪を重ねていくごとに親密になっていく奏と真樹。でも、その罪はもっと巨大なものとなりそうで……。シャボン玉のように、幸福の泡は儚く消えていく。

真樹との出会いがきっかけでできあがった男女5人の麗しい友情を、ふたりの恋愛が壊し、青春は苦い終わりを迎えるのだ。

出会った頃、5人はキャンプに出かけ、このうえもなく美しい夕日を一緒に見て「私達ずーっと友達でいようね」と誓い合った。にもかかわらず、「裏切った」のは、この友情に一番救われたはずの奏という皮肉。

甘・辛、甘・辛と、恋の甘さと罪の辛さが交互にきて、刺激が止まらない。

◆見どころ2:田中みな実、圧巻の表情

「いっつも私は一番ほしいものが手に入らない」が口癖の、田中みな実演じるカオリ。奏と真樹にまず立ちはだかる障害が彼女である。

奏が現れる前は、どうやら真樹とカオリはとても仲良かった。奏と真樹が再会したときのペアコーデふうのボトムスの色はくすんだカーキで、カオリの好物のメロンソーダは鮮やかなグリーン。カオリの色は真樹と交わらないという暗喩のようである。

真樹とつきあった奏が、うちに秘めた欲望が解き放たれたかのように、どんどんきれいになっていく様子がカオリには面白くない。

男女の友情に恋愛が介入すると、大抵いいことはないもので。もともと真樹が好きだったカオリは、就職がうまくいかないことも手伝って苛立ちを募らせていく。

とはいえ、カオリはただの“主人公の恋路を邪魔する意地悪キャラ”ではけっしてない。彼女は彼女で、奏と真樹の恋に立ちはだかる洒落にならない大問題を知り、彼女なりに心配するのである。

その心配の仕方がかなり“やばく”(それだけ就職で追い詰められていたのかも)、真っ赤な愛車に真樹を乗せて、「一緒に死なない?」と無理心中を強要し、スピードをぐんぐん上げていく。

「真樹と奏はつきあったりしたらダメなんだよ」と言ったときの田中みな実のひきつった表情は圧巻だった。

とてつもなく重大な秘密を真樹に語ったまま、カオリは死んでしまう。“え、これで退場?”とびっくりした。が、カオリは死してなお、奏と真樹の運命に関わってくる。

「奏のパパは自殺じゃない。殺されたんだよ」というカオリの爆弾発言。殺されたとしたら誰に? それが真樹にとって耳を塞ぎたくなる秘密なのだろう。

ちなみに、カオリがある決意をするとき、セミの声がひぐらし(カナカナ)の鳴き声に変わるところも劇的だった。

◆見どころ3:終盤の急展開、椎名林檎による主題歌

辛くも生き残った真樹は、カオリの葬儀にふらりと現れたものの、そのまま奏の前から姿を消す。

亀梨和也はややチャラ男の演技が新鮮ではあったが、影のある役割を演じさせると右に出るものはいないほど、なんともいえない哀しみをその切れ長の瞳に滲ませる。

悲しい青春の終わりから12年が過ぎ、奏は横浜地方検察庁中央支部の検事になっていた。

昔と違い、ずいぶんしっかり自信を持って生きているように見える奏は、高級マンションで、医師・奥田貴志(安藤政信)と同居している。

でもまだ結婚してないようだとわかるのは、それぞれに届いた郵便物の宛名から。その郵便物にカオリの13回忌の案内があった。

見どころはこのあとである。

忙しい貴志が病院に詰めて4日も経過し、スマホのトークアプリで「売店の弁当全制覇」と送ってきた直後、音楽が鳴り始める。

椎名林檎による主題歌『人間として』のイントロで、その歌に乗って、奏がお弁当をつくりはじめる。

真っ白で広くきれいなキッチンで料理。…ん? なにか別のドラマがはじまったのかと思い、このまま石原さとみが歌い踊り出してもおかしくないような気さえしたが、それはなく、奏は貴志の勤務する病院へお弁当を届けに向かう。そこですれ違ったストレッチャーに乗っていたのが――。

あまりに運命的過ぎる展開。でも、このシアトリカルな主題歌のかかり方が、これは劇的なドラマです。だから思いきり、運命のいたずらの物語に浸っていいのです。と誘ってくれるようだ。

ナチュラルかつ丁寧な心情描写と、フィクションならではの盛り上げ方のバランスが良くて、時代や場所やジャンルがいろいろ盛り込まれても、とっちらかることなく、しっかりと鮮やかにまとまっている。

ヒューマンな『Dr.コトー診療所』を手掛けた吉田紀子氏の脚本と、『君の手がささやいている』シリーズなどを手掛けた新城毅彦氏の演出には信頼しかない。

◆見どころ4:現代の若者の惑いにも寄り添う

奏たちは、もうひとつの就職氷河期世代。リーマンショック後、日本が貧しくなったうえに2011年に東日本大震災もあって、未来に不安を抱えている。

カオリは就職が決まらないし、知美は卒論にも追われ、心に余裕がなくなっている。ところが真樹は就職を真剣に考えていないし、奏とのこれからにも答えを出そうとしなかった。

「いまの世の中どうなの? 就職とかふつうにしていいのかな」と、就職や結婚などという社会のレールに乗っかっても「レール自体がボロボロだったら?」「そんなの破滅じゃん」と疑問を口にする。

そのとき、奏は父の人生のレールが破滅したことを思い出す。社会に対する漠然とした不安をもった世代の彷徨う物語でもありそうだ。

真樹は社会に対しては用心していたのに、カオリの車に乗せられてレールを外れてしまった。

奏は真樹と再会しその罪に向き合ったとき、自分がこの12年着実に歩んで来たレールを外れることになったとしたらどうするのだろう。

あくまでフィクションだけれど、背景にリアリティのある悩みがあることで、登場人物たちに親近感を持って見ることができそうだ。

真樹の罪も気になるし、真樹と再会してしまったら貴志との関係もどうなるのか、気になる。

※番組情報:『Destiny
毎週火曜よる9:00~9:54、テレビ朝日系24局

※『Destiny』は、TVerにて無料配信中!

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